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株式会社 Jコスト研究所

J-Cost Research Center 代表:田中正知 元東京大学大学院経済学研究科MMRC 特任研究員 ものつくり大学 名誉教授 元トヨタ自動車物流管理部長

連載コラム 『Jコスト改革の考え方』目次はこちら

2017年1月より、『Jコスト改革の考え方』というコラムを月に一度の頻度で更新していきます。

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季節のご挨拶

信州の山里で育った私は,登山と言えば野良仕事の延長でしかありませんでした。

あこがれは海であり,船でした。仲間とディンギー(小型ヨット)を製作したり,クルーザー(大形ヨット)にクルーとして参加し,外洋レースに参加して事もありました

足腰が弱くなった最近は,客船に乗ってのクルージングに関心が移り,夫婦で楽しんでいます。そんな関係で,今回は,乗船したクルージング船のお話をお伝えします。

巨大クルージング船は自工程完結の塊だった

この6月『東地中海クルーズ』に参加しました。船はMSC社の『ポエジア』(写真①)9.2万トン,乗客定員3,223人,乗組員1,039人でした。

9万トン余のポエジア
写真① 9万トン余のポエジア

全長294㍍,全幅32.2㍍という巨大船なのに,回転,横移動が自在で,自力で接岸・離岸して居ました。船が大きすぎてタグボートの馬力では役に立たないとかで,近くで監視するのみでした。航行は正に『自工程完結』でした。

世間一般の旅客列車も旅客機も往復した後,車庫に入るなどして清掃・設備点検しますが,この客船は数年間に亘って港から港へと航行を続けていて,清掃・設備点検は航行しながら自力で行うとのことです。

一般的に遠洋航海する船は,漁船から超大型船にいたるまで,洋上で自力で修理する力を持っていなければならないとされ,故障すればエンジンのピストン交換まで出来る能力を持っていると云います。

しかし貨物船と違って この巨大な客船は安全に航行させるだけでは駄目で,1,600余の客室を持ち,3,200人余の乗客の満足を得ながら航行しなくてはなりません。

毎日乗客の使ったシーツやタオルの取り換え・洗濯,客室の清掃,食事の準備,客を飽きさせないための芸人達のエンターテイメント等々に,1,000人余の乗組員が24時間体制で臨んでおりました。

彼等の仕事振りの一端は,全長何千メートルもある木製の手摺りに見て取れました。写真②にあるすべすべの美しい木目を持った手摺りは,甲板に立って美しい景色を見る時に誰もが手に触れるのですが,船の何処でもその美しさは変わりませんでした。

写真② 手入れされた手摺り
写真② 手入れされた手摺り

その秘密は,毎日毎日数十メートルずつサンドペパーを掛け,塗り直し,写真③にあるように養生をして『ペンキ塗り立て』の表示をしていたのでした。その気になってみると,床も,壁も,毎日少しずつ絶え間なく塗り替えていました。

写真③ ペンキ塗り立ての手摺り
写真③ ペンキ塗り立ての手摺り

ある日,港に停泊中写真④にあるように救命艇を海上に降ろし試運転していました。翌日,大型船が接岸できない観光地なので,自船の救命艇をテンダー(通い船)に使っていました。

万一の場合の救命艇を日常的に使うことで,乗客には安心感を与え,経費節減と一石二鳥の運用に感心しました。

写真④ 救命艇の定期点検
写真④ 救命艇の定期点検

このように,この巨大船の運用は外部に頼ることなく,あらゆる事を日常スケジュールに入れ込み,自分達だけで成し遂げているように見えました。正に『自工程完結』の塊でした。

この船の『自工程完結』を工場管理に置き換えて見ると示唆するモノが多くあります。

自動車メーカーは,1月,5月,8月にある約10日間の休みを使って外部メーカーを入れ,新型車立ち上げのための設備改装を行っていました。其れが定例化すると,本来は日常でやるべき設備点検や炉の清掃,床の改修なども,自分たちでやると労務費として計上されるので,見かけの生産性向上を狙って外註に出し,経費として計上するようになっていきました。

一般に 町工場などでは,工具を整備し,材料を準備し,正否安全の要領書を工場側で準備して,アルバイトを頼みます。工場側で準備する部分にものづくりのノウハウがあり,この状態でアルバイトを何年やってもノウハウはほとんど伝わりません。

先に自動車会社の例を挙げましたが,1990年頃のいわゆるバブルの崩壊と言われた頃からこの傾向が顕著になり,爾来約20余年,現在の大企業のほとんどの工場では,町工場側で準備している項目を外註に出し,アルバイトにやらせている単純作業を正社員にやらせてしまっています。その結果,アルバイト的な仕事しか出来ない社員が大半になり,御社のものづくりのノウハウを継承していて,外註のやった仕事に駄目出しできる人材は,定年間際の一部の人達の中にしかいなくなっている恐れがあります。

御社の工場では如何でしょうか?

ここでお話しした,この船の『自工程完結』ぶりは参考になると思います。

2017年9月1日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知