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株式会社 Jコスト研究所

J-Cost Research Center 代表:田中正知 元東京大学大学院経済学研究科MMRC 特任研究員 ものつくり大学 名誉教授 元トヨタ自動車物流管理部長

連載コラム 『Jコスト改革の考え方』目次はこちら

2017年1月より、『Jコスト改革の考え方』というコラムを月に一度の頻度で更新していきます。

第6回目の公開は都合により8月初旬になります。

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季節のご挨拶NEW 2017年7月1日更新

今こそ『現地現物』に立ち返るべし

今,日本国中が将棋界の奇跡,藤井聡太4段の快進撃に沸き返っています。

29連勝と言う空前の記録を作り,7月2日には30連勝なるか・・・・将棋ファンのみならず全国民が固唾を呑んで見守って居ます。これを受けてテレビ各局は競って藤井四段のこれまで成長してきた経緯や,日常の努力などの話題を取り上げ,将棋界を代表するような皆様が解説しています。私も引き込まれて見ていました。

テレビを見ながら私は知人から聞いた『人類は【A】,【B】の二つの能力を身につけることで今日の繁栄を手に入れた』と言う知人の話を思い出しました。以下その受け売りを含めて,今,日本で起きている事への私の懸念をお話ししたいと思います。

【A】人間と人間を繋ぐ能力

先ずその一つであるCommunicationについては,数十万年前の旧石器時代迄遡ります。 この頃人類は幾つかの家族同居の形で洞窟に住んでいた事が分かっています。群れをなして生活し,自分達より強い獲物を狩るためにはかなり高度な意思伝達が必要になります。当時は乏しい語彙と,顔の表情や身振り手振りでお互いの気持や考えを伝え合っていたと考えられています。この状態が数十万年続いたので,表情やしぐさで相手の気持ちを推し測ると言う人類共有の能力を身につけたのでした。

その後各地に散り,独自の言語や風習を身につけていき,集落から国家という大規模な集団を営むようになって行きますが,祖先から引き継いだこの能力があるので,言葉の壁を越えて,演劇が鑑賞され,外国映画が上映されるのだと言います・・・・・・・・・。 

【B】人間と自然界を繋ぐ能力

自然界を観察し,獲物を見つける能力,食べ頃の果実を探し当てる能力などを指し,この能力のお陰で人類は生存し続けました。更に進んで動物を飼い慣らして家畜とし,稔っても種子を飛び散らさない植物を発見し,それを栽培する事で大量の穀物を手に入れ,更に布を織り,衣服を作り,家屋を作りました。

やがて太陽や星の動きから曆を作り,曆に合わせて集落全員で農作業をすることで効率を上げドンドン豊になって行き,人類は文明を作り上げて来たのでした。

この【A】,【B】の能力は誰もが持っていますが,社会の進化に伴い分業化されていき,【A】の優れた人は人々を束ねる仕事である『士』『商』に就き,【B】に秀でた人は自然界の恵を人々が必要とする商品に変えて提供する,『農』『工』を担うようになって行きました。

この分担が定着し,更に細分化・専門化が進むと【A】と【B】の気質も以下のように分かれていきました。

【A】を得意とする人間群(社会科学的)の特徴

会社勤めの殆どの人がこの分類に入りますが,眼前にある『情報』や『学説』の正否よりも,回りの人間関係に一番の関心を持ち,中に溶け込み,同質化することに腐心します。更に能力のある人達は,その人間関係の中でLeader Shipを握るようになり,更にその人間関係を操る事に喜びを感じるようになります。

結果,自社を如何に成長させるかと言ったことより,社内の人間関係に強い関心を持ち,どの派閥に属していた方が有利か,誰のいう事を聞くべきかなどを嗅ぎ分ける事に腐心します。能力のある人は社内に然るべき人脈を構築します。

特に長けた人は社外にも太い人脈を作り上げて居ます。そして一旦社内で解決すべき課題が発生したときには,その人脈を活かして素速く解決してしまいます。それが社内で揺るぎない評価を得,出世街道を上り詰めやがてTopになる場合が多いようです。客観的にも現状維持にはこれは必要なことです。

しかし,その解決法は『既存の自社の枠組み』の中で行われることなので,市場とのズレから来る問題には,逆に,事態を悪化させてしまいます。

一刻を争う応急処置は『既存の自社の枠組み』の中で行うとしても,本対策案作成時には『現地現物』に徹して【B】の人間を使って自社の仕事の進め方と現状の市場との関係を厳しく点検し,半歩先んじて市場をリードできているか否かを確認するところから始めなければ成りません。

この点検を怠ると会社はガラパゴス化されていきます。

【B】を得意とする人間群(自然科学的)の特徴

人間関係よりも自然現象に強い関心を持ち,眼前にある『情報』や『定説』の正否を気にします。それを確かめようとして一人で観察したり,考え込んだりする性癖があり,これを『変人』とか『奇人』として軽蔑されたりします。

又『他人の心』や『その場の雰囲気』を察することが苦手なので『KY(空気が読めない)』として馬鹿にされたりします。しかし自然現象に対する感性は鋭く,会社において異常を発見して事故を未然に防いだり,品質不良の真因を解明したりするのはこの人達なのです。

更に能力に長けた人は市場の変化をCatchして、『新商品』を産み出したり,自社の業績を観察して『経営課題』を顕在化させるなど,会社存続のための最も大切な部分を担う人材として必要な人材なのです。

人物像が想像出来ない方はテレビドラマの『相棒』の杉下右京や,『科捜研の女』の榊マリコをご覧ください。両名がそのキャラを良く表現しています。

ここからは,この文脈上で,企業の改革・改善業務に携わっている専門家としての立場から,ここ4~5年ものづくり現場で私が感じ始めた心配事を御説明します。

【A】が最近抱え込んだ問題

少子化の為,子供達が群れになって遊ぶ中での下級生へのいたわりや,LeaderShipを発揮しての競い合うのを磨く場がなくなり,面と向かって議論し言い負かす機会も消えました。

更にスマホの普及で,隣り合って座っても共にスマホをのぞき込み,ゲームをするか,遠くの同年のメル友と絵文字の通信をする・・・という生活になってしまっています。顔を合わせて交わす会話は「えっ!うそ!ほんと!すげ~!」で代表されるような語彙の少ない会話。これが10余年前大学で教員をしていた頃の学生達のコミュニケションに対する実感でした。

この学生達の世代が今,会社の実務を担う30代として働いているのです。

【B】が最近抱え込んだ問題

自然界との接点を担う【B】は,もっと大変な事になっています。子育て中の世代は都会暮らしのため,その子供達が大自然を自分の五感で感じる機会が少なくなってしまいました。学校教材の文章や画像で学ぶしかありません。

1990年代になるとインターネットが普及し,検索すればどのような情報も入手出来,項目数は膨大になりましたが,内容は文字と画像には変わりなく,拙いことに誰でも投稿出来るため,『群盲象を評す』と言う印度の寓話通りの情報が溢れているのも事実です。

その一方で,Computerのいわゆる2000年問題が顕在化し,これを乗り越えるために各企業は社内の基幹システムを更新したと言われています。その結果,会社内では営業からの注文情報を入力さえすれば,Computerが「材料発注」「生産指示」「納品指示」等迄やってくれるので,『現地現物』による確認は全く不要で,各部書はその「指示」に従って作業すれば良い・・・という状況が20年近く続いていると言う事になります。

社員の年齢から見ると,課長層の中堅以下新入社員に至るまで,入社以来,Display上のComputerからの指示を見て,Keyboardを叩いて回答するという作業しか教えられず,どんなLogicで動いているのか,現場がどうなって居るのか,どんな時間差なのか『現地現物』で確認できないまま作業している・・・と言う実態があるのです。

以上が,かねてから抱いていた私の懸念です。

最近,この「懸念」が現実となってきました。

マスコミ報道を私流に解釈すれば, 東芝がおかしくなったのは,米国の原発建設会社の『現地現物』による調査をせず, Display(Computerが出した結論)で判断して買収し,その後もDisplayとKey-boardで対応してきたためで,もっと言えば【A】の人材ばかりで『現地現物』の出来る【B】の人材がいなかった為と理解出来ます。

タカタの倒産も同様で,ワンマン経営だったと聞いていますが,真因追求し,市場の動きを見極め,場合によってはクビを覚悟で社長を説得する【B】の人材がいなかった為であると言えます。

三菱のMRJの開発遅れも,開発現場で真摯「妙手」を追い求める【B】の人材の絶対量が不足しているためと聞いています。

そんな懸念を抱いていたときに見たのが,

中学生である藤井四段の目を見張る活躍でした!

将棋の世界は,抽象化されて独自のルールがあるモノの,一種の数学であり,正に【B】の世界です。この活躍に刺激されて,小中学生が挑戦し始めたと言います。大変嬉しいいことです。

卓球の世界でも同じく中学生の張本選手が世界の強豪を相手に大活躍をしている様子です。卓球は相手の動きを瞬時に読み,数手先の体勢の乱れを誘う知的スポーツで在ると聞きました。

正に【B】の世界です。彼等が刺激になって【B】の人材が輩出することを願うばかりです。

最後に皆さまにお願いしたいこと・・・

小中学生の諸君は,

人間関係を気にせず,藤井四段や張本選手が頑張っているように, どんな分野でも良いから『成りたい自分の未来像』を目指してがんばってください。

それが自分を変え,周りを変えていくし,社会が求める人材になって行けます。

何よりもその過程が,皆さんの『充実した人生』そのものなのです。

現に会社に勤めていて,私の懸念に同感する皆様は,

Displayから離れて現場に行き,関わっている製品を手に取って先ずその質感を味わってください。

次に,Key-boardを叩いて出した現場への指示は,何処に出され,実際にはどんな作業が始まり,どう終わり,終わったらどんな形でそれがSystemに入力されるのか,『現地現物』で調べ,自社に中で御自分が何をやっているのか・・・を確認して下さい。

それが終わったら,このホームページに連載されている『Jコスト改革の考え方』シリーズをお読み下さい。読み終わると,あなたに『生き甲斐,働き甲斐』を与えてくれる道が見えてくることでしょう。

2017年7月1日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知