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株式会社 Jコスト研究所

J-Cost Research Center 代表:田中正知 元東京大学大学院経済学研究科MMRC 特任研究員 ものつくり大学 名誉教授 元トヨタ自動車物流管理部長

連載コラム 『Jコスト改革の考え方』目次はこちら

2017年1月より、『Jコスト改革の考え方』というコラムを月に一度の頻度で更新していきます。

多忙のため、次回の更新は7月の予定です。

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季節のご挨拶NEW

先月のある夕方,新幹線で名古屋に帰ろうと京都駅に着いたとき,駅の中に大勢の高校生と思われる生徒達が床に座っていました。床に直に尻を付けて座るという経験を持たない私には,その姿に強烈な印象を受けて,本職である「生産」「物流」に関しての思いがこみ上げてきました。

[1]団体客を運ぶ事の難しさ

数百人単位の生徒達を引率することは大変なことですから,分単位で運行する新幹線にJust In Timeで対応することは大変なので,早めに来て待たせるしかないことは理解出来ました。引率する先生方のご苦労が偲ばれます。

受け入れる新幹線側も大変で,ほぼ満席に近い状態で,厳しい定時運行している新幹線に,いきなり1列車に数百人の団体客を乗せたらダイヤも乱れ苦情が殺到するでしょう。常連の客には迷惑を掛けないように時刻表には書いていない団体専用列車を仕立て,定期列車の合間を縫って運行している様子に,流石と思いました。

トヨタ生産方式の立場で説明しますと,新幹線の通常運行は,老若男女分け隔て無く席を準備し,乗車券は1人単位で販売しています。これはトヨタ生産方式が目指す究極の姿,即ち平準化しての『1個流し』に他なりません。その結果顧客は待たずに乗りたい列車の席を確保出来るのです。工場でも,市場の要求し即時に対応出来るのです。

逆に『平準化』『1個流し』が出来ている工場では,大ロットの注文は折角の『平準化』を 崩してしまうので困るのです。

現に私が現役でトヨタのSupplier改善をしていたとき,アンチトヨタ式の自動車工場から突発的に大ロットの注文が飛び込み,その自動車会社の分は在庫を抱えて対応せざるを得なかった苦い思い出があります。

そのことがあったので,修学旅行客の扱いに感心したのでした。

そして営業関係の方に申し上げたいのは,大量に受注するのは結構なのですが,納品は是非『平準化』して自社の生産を乱さないようにしてほしいものです。

[2]昔の渡し舟は・・・・

現在の列車は「定時不定量」輸送で,客を待たせない運航ですが,昔の渡し舟では,専用の舟があり,専任の船頭さんが居たのに平気で客を待たせ運行回数を任意に減らして,あたかも「定量不定期」的運用していたようです。

因みにトヨタ生産方式では,運搬の改善とは,1番は橋を架けて運搬を無くすことであり,2番は最大限多頻度で運ぶ事を教えています。この渡し舟で言えば,船頭さんが居て,日当を支払っているのであれば,その船頭さんに目一杯働いていただき,客が一人でも居たならその客を向こう岸に運べ・・・

つまり,客の待ち時間を最小にする事を考えよと教えています。

実際は「舟宿」という言葉が残っているように,渡し場には宿屋や茶屋があり,旅人はしばし休憩を取った後で舟に乗り川を渡った・・・とされています。

その実態は上方落語に,客が舟宿に入って飲食を注文し代金を払い終わった頃を見計らって「舟が出るぞ~」という呼び声を出させ,飲食を出さずに客を舟に送り,儲けている悪徳舟宿の話がありますが,顧客第1に考えLead-Time短縮居に努力したとは言いがたい時代だったのでしょう。

舟宿を倉庫,渡し舟をトラック業界に置き換えれば現代でも思い当たることがあるような気もします。

[3]生産計画に新幹線方式を採ったら・・・・

毎年,盆・暮れ・5月連休には新幹線の混み具合がニュースになります。時刻表を調べるとそれ以外の季節でもこまめに臨時列車を走らせているのが分かります。多分前年度までの実績をもとに運行ダイヤ(生産計画に相当?)を決め,「切符と言う商品」を売り出して居て,各所にある自動販売機で購入できるような短いOrder-to-Delivery-Lead-Timeで売っている事が理解出来ます。

一般企業で,この新幹線の切符と同じ方式で生産したらどうなるでしょうか?

例えば,1日千台という需要予測に基づいて月間の生産計画を立て,生産の構え(列車のダイヤに相当)を行います。顧客からのオーダーは,何日の何時の列車の指定席といった具合に生産計画を決め,かち会ったら次の列車をお薦めして決めていきます。

これによって顧客に画期的に短いOrder-to-Delivery-Lead-Timeを提供でき,更にこれによって顧客に到着時刻を告げるように,完成時刻をお知らせできます。

一般に予算原価法を採用している会社では,空席があるとその分が赤字になる設定をしますから,顧客のLead-Time要求よりも自社の見かけの利益を追求し,常に満席になるようにダイヤを組もうとします。これが多在庫を抱え資金繰りに苦しむ経営を迫っている元凶です。

新幹線の席のように,工場のコンベア上に例え空席があっても,常にLead-Time最短を目指し顧客の満足を得て市場を掴み高収益で成長する企業を目指すべきだ・・・・イレギュラーな大口商談には,それなりの事前交渉を持ち,修学旅行のように特別列車を仕立てるとか,乗客の絶対量が違うJR東海とJR西日本との間では乗客の利便性(Lead-Time)確保する為に,乗り継ぎ地点では頻度は確保した上で,16両連結を8両連結や4両連結など車両数を減らし収益性を確保している等々,学ぶべき点が多い。

これから「ものづくり経営」は顧客への利便性の向上が必須と思われるが,新幹線が色々示唆を与えてくれる。もっとしっかり勉強しようと車中で考えながら帰途に就きました。

2017年6月1日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知