株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム『Jコスト改革の考え方』 第12回目

受注即出荷体制を維持しつつ安全在庫を低減させる

昨年7月に第11回をリリースしてから半年間,連載コラムをお休みしてしまいご迷惑をお掛けしました。暫く間が空いてしまったので先ず,今までの改善を振り返ってみましょう。

12.1.改善の推移を振り返る

第12-1図は,今までの改善によって削減してきた在庫日数を表しています。

これを見ながら,どんな活動をしてきたのか振り返ってみます。もちろん,この欄の過去の記載を遡ってお読み頂いた方が良いのですが・・・・

第12-1表 第11回の改善までの在庫日数
改善の推移 在庫日数(稼働日)
(1)原材料 (2)仕掛かり (3)安全 (4)完成品 合計
@ 改善前の状態     7.0 3.0 12.0 20.0 42.0
A 第8回の最終改善状態 1.0 5.0 5.0 3.0 14.0
B 第9回の改善結果   1.0 3.0 5.0 3.0 12.0
C 第10回の改善結果  1.0 3.0 5.0 0.0 9.0
D 第11回の改善結果  1.0 0.6 ? 0.0 ??

詳しすぎて,かえって分かり難くなるということもありますので,ここで要約してお話しします。


【@ 改善前の状態】

得意先からのN月分の注文M個というのは,N-3月20日に内示を受けN-2月20日にM個という確定注文を受け,それを下に仕入れ先に材料の確定発注し,N-1月末にM個分一括納入させて居ました。自社の生産はN-1月1日から生産開始し,総生産量だけ現場に提示してあっただけなので,現場は早く作るのに精を出し,3週間未満でM個生産した時点で生産停止し,1週間余の開店休業という状態でした。そして月末にM個得意先に出庫し,翌月分は1日から生産開始する・・・・の繰り返しになっていました。

その理由は,当初35個/日(昼勤のみ)生産という前提で立ち上げた工場でしたが,生産開始から暫く経つので今では20個/日程度しか注文が来ないのに,生産体制はそのまま放置していた為なのでした。

その結果が第12-1表の『@改善前の状態』(参照;第8回目,第1-1図の矢印A)となって居るのです。


【A 第8回の最終改善状態】

予約と確定の期日は従来通りとしますが,得意先のホームセンターは,土日が書き入れ時とは言うものの,1ヶ月分を1度に入れてもらっても置き場に困るだけで何のメリットもありません。自社においても,1ヶ月分まとめて置いても在庫日数が増えるだけですから,納品を週単位に変える事に話が纏まりました。更に話が進み,1ヶ月と言っていた期間は4週間に変え,月単位の稼働日数のバラツキを無くす話が纏まりました。

又,自社の中も平準化生産に徹し,仕掛かりの中味は「材料取り」「外形仕上げ」「塗装T」「塗装U」「検査梱包」の5工程を5日間掛けて完成させていく形になりました。毎日同じような数の生産になった事で,仕入れ先の材料生産も安定し,毎日搬入が可能になりました。

個の関係をブロック型ダイヤグラムで表したのが,第8回目の第4-2図にある矢印Aの形なのでした。


【B 第9回の改善結果】

各工程に1日20個ずつ作って次に送れというルールだったので,5工程を通過するのに5日間かかっていました。実態を調査しますと,材料取り工程は20個ロットで作業し,塗装工程は10個ロットで生産していましたが,他の工程は5台ロットで生産していました。制約条件を詳しく調べると,材料取り工程も,塗装工程も5個を2時間で作る事が可能と分かりましたので,各工程間に1時間のクッション代を設定して,全工程を連結することに踏み切りました。

その状況を表したのが,第9回目の第11図 納品1サイクル分の生産ダイヤグラムです。この結果,工程内在庫は5日分から3日分まで減らす事が出来たのでした。


【C 第10回の改善結果】

得意先のホームセンターへは1週間分ずつ纏めて納入していましたが,実態を調査するとホームセンターの店頭ではこの品物は18kgもあり重いので,買った御客様は自分で持ち帰らず,自宅に送り届けてもらうケースが大半であることが分かりました。ということは,自社工場から直接お客様のご自宅へ送り届けた方が,時間と空間の節約になるという事が分かり,改善を実施しました。

その内容は,ホームセンターの店舗にはサンプルを展示しておき,購入した客は代金を店舗に払い,宛先を伝えます。その情報をもらって,自社工場から輸送業者に出荷し,輸送業者が自宅に届けるようになります。自社からホームセンターから各店舗までのLead-Timeと運賃が不要になりますが,そこは自社と,得意先とで山分けしました。(ややこしくなるので,運賃効果は省略します…)

この時の完成品在庫については,第10回の説明では不十分な部分があったので,此処で詳しく説明します。

自社は,この時点においても,得意先のホームセンターからの受注生産の形を継続しています。最初の月1回納入が週1回納入になり,今回は週5日納入に形になり,注文を受けた生産分は,合格となり次第,自社の一角の得意先部品置き場に移され,得意先に納品されたモノとして所有権が得意先に移管されます。得意先からお買い上げ頂いた御客様に発送するのは,得意先籍に移されたものの中から所定の運送業者宛に出荷するのです。それ故,自社籍の完成品在庫はゼロでよくなるのです。

安全在庫は,得意先からの急な増産依頼があったときは,原材料1日,仕掛かり在庫分3日の,合計4日後にしか増産できません,自工程の設備故障等にも特段の手当もないので,従来通り5日分のままでいるのでした。因みにここまでの改善は,自社製品の『洒落た木製机(B)』に限っての改善活動だったのでした。


【D 第11回の改善結果】

洒落た木製机は(A)(B)(C)の順に開発発売され,夫々35個/日の生産能力を持つ専用ラインで生産されてきました。加工工程は技術進歩によって,(A)生産ラインは(A)のみ生産出来ます。

別の場所の(B)生産ラインは(A)と(B)が短時間の段替えで可能になっていました。最後に作った(C)ラインは,短時間の段替えで(A)(B)(C)どれも生産出来るのでした。

工業製品と言うものは,発売から時間が経過するに従って売れ行きが鈍化していきます。自社の洒落た木製机もその例外にならず,一番古い(A)は10個/日,次の(B)は20個/日,最新の(C)は 30個/日のベースで注文が来る状態になって居ました。

今後も,長い目で見れば注文は減り続けて行くのは予想できるのに,広い工場のその時々の空いていた場所に工程を設置していったので,いわゆる離れ小島として点在する工程になってしまっていて,減産したからと言っても,作業者は横持ちし難い状況で,当初の配員のままで今日まで来ていました。

  1. 一番古い(A)専用ラインは凍結し,(B)ラインで(A)も混流という形で生産する。

  2. (C)ラインは(B)ラインが何らかの原因でショートが発生した時には,木机(B)を生産することでリリーフする。

  3. (A)ラインで働いていた人は,運搬と段替え要員として配置転換し,加工工程以降を1個流し生産に挑戦させる。

  4. 材料取り工程は,最大・最小を決めて置いて,在庫後補充生産とする。使用した材料の量は仕入れ先に連絡が行き,1回/日の頻度で納入される。

という仕組みに挑戦しました。

その実施状況の一例が,第11回の第11-6図です。生産量は原則として日々変わりますし,昼休み等で塗装の乾燥炉内でOverBakeになら無いように適時,塗装ラインへの稼働をControlするために,生産のペースには揺らめきが生じます。そこで色々な場合を想定して,Lead-Time(又は工程内在庫量)を査定することが必要になります。ここでは0.6日(稼働日)分としました。


12.2 安全在庫はどれだけ要るのか

いよいよ今回のテーマである『安全在庫』はどれだけ必要か…?

について考えてみましょう。

ここで例に取り上げた木製机というのは,耐久消費財のカテゴリーに入り,少ない人は生涯に1回も買わずにいますし,多い人でも数回買う程度の希な行為ですが,人口が多いのである頻度で売れていくものなのです。それ故,売れる量は日々変化します。

この変化に対応するためには,販売用の在庫を持って対応しなければなりません。問題はその在庫を,製造業が持つか,販売業が持つかにあります。

『Jコスト論』の中に『基礎収益力分析』と言う手法があります。その手法で分析すると明らかになりますが,それは後日詳しくお話します。

一般には,製造業は新製品開発のための研究開発費や高額の生産設備,製造のための多くの従業員を抱えているで,在庫を抱えるゆとりはないとされていて,自動車業界を例に取れば,メーカーの棚卸資産回転数は20回転から30回転ありますが,中古車販売店では4〜10回転と言われ,その違いを理解して頂けると思います。

一般的に,販売業が持つ在庫は,DC(Delivery Center)に一旦置かれ,スペースに限りがある各店舗には,DCから多頻度で補充する方式をとりますが,販売量の変動を見越して,品切れで御客様に迷惑を掛けないように,かなりの数量を確保しています。これが『販売用在庫』になります。

一方,製造工場では,設備故障や品質不良は付き物で,計画よりも遅れることが多々あります。どんな時でも得意先の約束通りに出荷できるように『完成品安全在庫』を確保しているのが実情です。

数量を放置すれば,担当者は『安心』の為,『完成品在庫』『販売用在庫』は,ドンドン増えていき経営を圧迫するようになりますし,現場は惰性に落ち込みます。

昔中国で,韓信という将軍が,数倍の敵に勝つ為にわざと河岸の前に陣を張り,兵が逃げられないようにした。逃げ場のなくなった兵は,生き延びるためには眼先の敵を倒すしかなくなり,士気が上がり戦に勝ったと言う・・・・。

この話は『背水の陣』として有名ですが,『本流トヨタ方式』では,『安全在庫の量』が背後の河まで距離に相当すると考えます。

今回の洒落た木製机(A)(B)(C)は,各得意先ホームセンターのPrivate Brandで売り出したものを,自社がOEM生産している形になりますから,受注した分だけ生産し,期日に納めれば代金は頂ける契約です。


【C 第10回の改善結果】では,ホームセンターのDCに送るのをやめ,自社の倉庫の一角に各ホームセンターの『販売用在庫』置き場を作って,そこから直接,お買い上げ頂いた御客様の自宅宛に発送すると言う改革をしましたが,平日は毎日各ホ−ムセンターへ自社の『完成品安全在庫』から約束通りの期日・数量を自社内の『販売用在庫置き場』へ出荷することになります。

そして自社は生産計画に従って生産し,『完成品安全置き場』に入れます。

今回の改革で,2時間で5個という同一TACTTimeで全工程を連結した事になるので,慣れるまでギクシャクと問題が起こるといけないので,敢えて減らさずにいたのでした。


一方,販売量変動に備えての『販売用在庫』は,ホームセンター側の責任で確保することになります。

得意先のホームセンターから見れば,在庫が減ったとして補充注文したとき,1ヶ月間掛かるのであれば,平均で数ヶ月分の在庫を持たないと心配になります。1週間掛かるのであれば数週間分の在庫が必要と考えます。

現に,今回の改善に入る前には,自社は前月20日受注,当月末に納入というように,Order-to-Delivery-Lead-Timeが40日間(暦日)も掛かっていましたから,各店舗とDCを合わせると,おそらく平均100日分ぐらいの在庫を持った運営になって居たでしょう。

その後の【B 第9回の改善】で自社への発注は40日前のままですが,自社からの納入は,1ヶ月(30日分)から1週間(7日)分単位で納入されるように変わりました。納入量を平均在庫に換算すると15日分が4日分に変わることになりこれだけで平均で10日分余の在庫低減が出来ます。この状態へ変えていく為には,自社の生産をその分(10日分余)停止してする必要があります。

ここから先は自社の営業部門の活躍の場ですが,得意先は『販売用在庫』を10日分余減らして,財務的に助けた分のなにがしかを,仕切り価格の値上げとして自社に回収出来るのです。

10日分減らすということは,自社の生産を10日間停めることになります。

この考え方ですが,全ての製品には,市場に於ける寿命があり,月日とともに売れなくなり,最後に残った『安全在庫』と『販売用在庫』はともに,最後には廃棄処分になります。いずれ減らさなければいけない在庫なので,意味ある減らし方が大事なのです。この在庫を減らすためのライン停止期間を使って,【D 第11回の改善】をやったのでした。ここでは,原材料は使った分を翌日に納入してもらう後補充方式にして,加工から後ろは1個流し化に成功し,着工から0.6日で完成できる体制が出来ました。その中で,(A)(B)(C)とも,35個/日の生産設備は更の使い易く改良したものを温存していますし,要員も減らしていません。この事から,当月の販売計画台数の+−10%の変動であれば,ホームセンター(休日に大きな売上)と工場(平日生産)の違いがあるので,デイリーOrderには出来ませんが,自社側では週単位の注文に対応出来るようになります。そうすれば,『販売在庫』は最大で10日分くらいあれば充分廻ると考えられます。

障害はホームセンター側の発注Systemにあります。1万点規模の商品を扱っている為,需要予測・発注業務・検収・在庫管理・代金決済等々の事務はコンピューター化されていて,現在の月度方式から週次方式への変更は容易ではありません。かといって,販売業の週次化は避けて通れない改革です。遅れた方が他社との競争に負けます。

ここから先は『自社営業部門』の頑張りに期待するしかありませんが,得意先ホームセンターに,『週次化を先導するSupplier』としての役割を売り込み,現状の月次注文による『100日分レベルの販売用在庫』を週次化注文にして『10日分レベルの販売用在庫』に変える活動の先導役に名乗りを上げ,販売用在庫負担を軽減させる代わりに,仕切り価格の値上げを交渉すべきです。

この時参考にすべきは,『Jコスト論』のKPI に使う

  • 基礎収益力≡粗利/棚卸資産 ・・・・・・・   (12-1)
  • 銘柄別収益力≡銘柄別粗利/銘柄別棚卸資産・・・・  (12-2)

ホームセンターにとっては銘柄別棚卸資産は『自社の木製机の販売用在庫金額』に他なりませんから,(12-2)式に改善前と改善後の数値を入れ,効果を計算し,得意先の購買を説得し,仕切り価格の値上げに結びつけて頂きたい。得意先が仕切り価格値上げに同意してくれたときには,日々減産していき,最終的には,ホームセンターは土日がよく売れるので,平均で7日分程度の『販売用在庫』にして,自社の生産異常用の『安全在庫』は2日程度とするのが一つの答になります。

得意先が,値上げに協力的でなければ,『販売用在庫』は10日程度にして,緊急時には自宅への発送時刻は厳守する中で緊急時には販売用在庫への出荷が遅れる場合もある…として自社用の『安全在庫』は当座は切りのよい0.4日分として運用する事になります。

洒落た木製机(B)の在庫日数は,改善とともにドンドン減っていき最終的には下記の第12−2表のように42日分あったものが何と2日分になりました。比率にすると20分の1になります。在庫量で表現すれば40日分が消えたことになるのです。

第12-2表 第12回の改善までの在庫日数
改善の推移 在庫日数(稼働日)
(1)原材料 (2)仕掛かり (3)安全 (4)完成品 合計
@ 改善前の状態        7.0 3.0 12.0 20.0 42.0
A 第8回の最終改善状態    1.0 5.0 5.0 3.0 14.0
B 第9回の改善結果      1.0 3.0 5.0 3.0 12.0
C 第10回の改善結果     1.0 3.0 5.0 0.0 9.0
D 第11回の改善結果     1.0 0.6 ? 0.0 ??
E 第12回 安全在庫を決める 1.0 0.6 0.4 0.0 2.0

上記の数字は,毎日減産をしていって達成させるものですが,40日休むわけに引きませんので,80%操業にして200日も掛かる事になります。

財務会計では,売上がその間減って赤字になり場合がありますが,キャッシュフロー計算書を横に置いてみますと,在庫減がキャッシュとして浮いてきます。

工場内を見ますと,在庫の減った分のスペースが余ってきます。

在庫を持ち廻す手間がなくなり,人手の余っていることが顕在化してきます。

この余った経営資源を,増産に向けて売上増に繋げるか・・・?

新製品開発に繋げるか・・・?経営手腕が問われるのです。


市場上層が激化し,製品寿命が短くなってきている今日,過剰在庫は命取りである・・・と言われています。

ここまでの,洒落た木製机のものづくり改革の例を参考にして,御社の生産計画,購買計画,物流計画を見直してください。ものづくりの善し悪しは,実は本社部門の計画の善し悪しが原因だという事に気がつかれると思います。

悪いと分かったら何時から改革を始めるのですか・・・?

それは『今でしょ!』

次回は,財務会計から見た改善・改革活動に就いて話します・・・


2019年1月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知