連載コラム『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』 第 4回目
<本文は学術論文風に,登場人物の敬称は省略させていただいております>
西国立志伝に感化され,資源の無い日本のお役に立ちたいと思い立った豐田佐吉が,苦心惨憺して織機を発明する様を紹介しまし,次は彼の長男の喜一郎が自動車をはじめるお話しの予定でした.
そこに,突然湧いたホンダと日産との経営統合の話とその破断!
更にトランプの25%関税!
これらの動きを追っかけて自動車業界への影響を調べ,皆様にお伝えすることに時間を取られ,肝心の喜一郎のお話はお休みを頂いて来ました.
件の関税問題は2025年7月23日,トランプ大統領と石破総理との間で次のように最終決着したと報道されています.
- 自動車:15%(従来の2.5%+新規12.5%)
- 一般品目:15%
現在1$=147円ですが,15%の関税は1$=128円に相当し,2020〜2021年のコロナ禍で,ウクライナ侵攻が起きる前には1$≒110円時代があったと思えば,十分対応可能と考えられます.
これに関する話は詳しい感想は『所長の季節の御挨拶』のコラムでお伝えする事にし,『豐田喜一郎』についてお話ししたいと思います.
[4] 豐田喜一郎が『トヨタ自動車』を創業する
豐田喜一郎の功績を,トヨタの元社員として以下の5章に分けて紹介します.
- 参考文献-1 第1次世界大戦までの米国の歴史
- 1-1 はじめに
- 1-2 独立後,瞬く間に列強入りした米国
- 1-3 アメリカの宗教事情
- 1-4 第1次世界大戦で無傷の米国が世界を取る
- 参考文献-2 1930年代の日本と世界の当時の自動車生産状況
- 豐田喜一郎の生涯
- 豐田喜一郎の業績
- 孫の豊田章男が受け継いだ思い
1. 参考文献-1 第1次世界大戦までの米国の歴史
1-1. はじめに
日本の歴史教育は,いつの頃からか大学受験のために,古代から近世までが主体で,精々日露戦争まで授業があると言われ,日常生活に関係の深い今から百余年前,即ち第1次世界大戦以降が疎いといわれます.
本稿『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』では,自動車王国アメリカが深く関わってきます.筆者は,大学受験の社会科目を『日本史』と『世界史』を選択して,猛勉強したはずでしたが,アメリカの歴史は,『独立戦争』と『南北戦争』,『太平洋戦争』ぐらいしか知識がありませんでした.
おそらく読者諸氏も,そのような状態ではないかと拝察しますが,その状態では,会社経営者である豐田喜一郎が,何を考え,どんな準備と覚悟で,1937年自動車製造業に参入していったのかが理解できないと思いますので,敢えて紙面を割いて米国の近代史と,と根底にある米国の特異な宗教的環境について,私説を御説明いたします.
筆者は1941年生まれです.先輩たちは『鬼畜米英』を刷り込まれたようですが,私たちの世代以降は食料不足の中,脱脂粉乳とコッペパンの学校給食をありがたく頂戴して育ちました.例えば,かくれんぼで1から10まで数えるのに『だるまさんが転んだ』が使われるのですが代わりに『マッカーサーはエラい』と称えて遊んでいたくらいでした.
それくらい私たちの世代は,アメリカとは素晴らしい国で世界のリーダーであると信じて育ってきたのでした.
トヨタに入社してカローラの生産現場で働いていましたが,1980年代になって,突然日米自動車戦争が始まりました.筆者のアメリカ感はガラリと変わりました.弱小国日本のうちは親切ですが,肩を並べるように育ってくると,ライバルとして攻撃してくることが分かりました.
1980年代も後半になると,米国はもっと露骨になりました.
その一つに坂村教授の提唱する『TORNプロジェクト』があります.その一環として,パソコン用の基本ソフトを開発するプロジェクトがありましたが,米国政府の干渉で中止され,数年後Microsoftの『Windows』が,全世界に売り出されました.
1990年に入ると,東芝が世界で初めてnote型パソコン『Dynabook』を発売しました.筆者は感激し,自分自身と当時大学生だった2人の息子用に3台買い求め,ボーナスを使い果たした記憶があります.その『東芝』が,同社の精密工作機械がCOCOM違反であると米国に訴えられました.更にフロッピーディスクに不具合があるとして集団訴訟が起き,東芝はダメージを受けましたが,当時誰もが米国の『虎の尾』を踏んでしまった結果であると思いました.当時カローラなどが如何に好評でも米国市場ではこの国の象徴であるGMを超えてはいけないと思ったのでした.その伝統はしばらく続きました.
1991年ソ連邦の崩壊し,米国を中心とした自由主義経済が正しいのだという風潮が一気に働き,米国勢は各国にモノだけでなく『資本の自由化』を訴えて,各国に『門戸開放』迫り,いわゆるグローバル化が一気に進みました.
米国内でも景気が過熱しして行き,とうとうリーマンショックという経済破綻を迎えるのでした.
この時なんと,トヨタとGMが熾烈な販売合戦を行ない,トヨタは完成車在庫を積み上げ,いわゆるトヨタショックを起こし赤字決算になってしまいます.
GMは2009年破産し国有化されました.それ以降GM(Government Motor)と皮肉られるようになりました.
同時に『プリウスの暴走事件』が全米で大騒ぎになり,数多くの訴訟事件が起き,とうとう就任早々の章男社長が米国議会の聴聞会に出席するという事態になりました.
後日,当局からは『プリウスには欠陥はなかった』と正式に公表されましたが,筆者には,これは,今のMAGA (Make America Great Again)と同じ根っこから来ていて,かつての『東芝』と同じであると心底思うようになりました.
このような事実を目の当たりにしますと,先にお話しした学校給食のコッペパンは,筆者の世代が今日現在『朝飯はパン食』という人が多いことを見ると,日本人を米食からパン食に餌付けをして,将来米国小麦を売り付ける『深慮遠謀』だった事と,それが大成功であった事がわかります.
日本で味を占めた米国は,食料援助として貧困国に小麦をばら撒き,ますます地球規模で販路拡大を図っています.
因みに,中国のホテルでは,朝食の主食は『粥』,『麺類』,『点心』,『蒸かした芋類』等が主食で,それに肉や野菜をおかずとして,実にバラエティーに富んでいて,宿泊する度に朝食を楽しみますが,欧米人は毎日毎日,トーストとベーコンエッグ,コーヒーで済ましています.東西の食生活の差として中国出張の度に観察しました.
最近になって若い中国人にパン食が増え,驚いています.
先の章男社長の公聴会の件で,もう一つ米国を知る出来事があります.
それは章男社長が議会の聴聞会で『いじめられる…』と知ったTOYOTAのケンタッキー工場の工員達が,自腹でワシントンまでやってきて,聴聞会で汗かいてきた章男社長を取り囲み,口々に励ました事です.
TOYOTAが現地生産のために1986年建設したケンタッキー工場は,稼働約20年になりますが,その間1人も解雇せず,現場では従業員に次々と新しい仕事に挑戦させ,スキルアップすることで自分の成長を実感し,TOYOTAで働くことの誇りを植え込んできました.
工場は積極的に地域にも溶け込み,ケンタッキーの人々が,トヨタの工場を我が州の工場と感じ,誇りに思う程,地域に溶け込んで行ったのでした.
その成果として,遠路ケンタッキーからワシントンまで出向いてきて,励ましてくれた工員達の心意気に,章男社長は思わず涙したのでした.
後日,その時のことを章男社長は『全世界のトヨタグループの社員30万人余を守らなければならないと歯を食いしばって聴聞会に臨んだが,それを終わってからケンタッキーの人たちに囲まれ,逆に全世界の社員から社長自身が守られているのだと知った.その嬉しさに思わず涙がこぼれた…….』と明かしていました.
1-2. 英国から独立後,瞬く間に列強入りした米国
以下,米国を『領土の拡大』という切り口で整理します.
1783年北アメリカ大陸の東部13州の独立で始まった『アメリカ合衆国』が,75年後の1848年西海岸のカルフォルニアまで領土を増やし,125年後の1898年,何と太平洋のハワイやグアム島から西の果てのフィリピンまでを手中に収めてしまったのです.最終的には太平洋の独立国ハワイ王国を1959年50番目の州にしたのでした.
『世界の覇権争い』の切り口で米国の歴史を整理しますと,
16世紀の帝国主義が『スペイン・ポルトガル主導』で中南米を植民地化し,
17世紀からは『英・仏・蘭主導』に勢力が移り,東南アジア,アフリカを植民地化,
18世紀末になると,英国の植民地から独立した米国がスペインにとどめをさし,
カリブ海の国家とフィリピンを手中に入れた最後の帝国主義国家になっていたのでした.
『ハワイ王国』を最終的に米国50番根の州にした経緯
- 1893年:太平洋の中央に位置するハワイ王国を凋落し滅亡させ,ハワイ共和国樹立
- 1900年:米国の準州に……軍事的には太平洋の要衝
- 1959年:ハワイは米国の50番目の州として,米国に吸収される
2025年になって,トランプ大統領が『カナダは米国の51番目の州になるべきだ!』と言った台詞は,カナダの国民にとってどれほど強烈なインパクトがある言葉か,推察できます.
1-3. アメリカの宗教事情
下図はGeminiに描いてもらった『清教徒がメイフラワー号でアメリカに上陸のした時の絵』です.

ローマカソリック,ギリシャ正教,ロシア正教等は,長い間政治権力と融合していたので各国の風土の様に人々の生活に溶け込んでいました.
ところが宗教改革によって,既存の宗教的ヒエラルキーに帰属せず,聖書のみが唯一絶対に正しいとする宗教集団が現れました.自分達の解釈が絶対に正しいとして排他的になっていき,地域社会の人々と軋轢を生むようになってしまうのでした.
その人たちは,アメリカという新天地で,自分たちの信仰を全うしようと考え,世界各地から続々と集まっていったと言われております.
そこで,AIの『Gemini』の助けを借りてアメリカの宗教事情について調べて要約しました.
アメリカの主要な宗教と信者数(概算)とその実態
Geminiに尋ねた結果を要約しますと以下の様になります.
- キリスト教: 全体の約64%
- 内プロテスタント: 約41% Pで分類
- カトリック: 約21〜22%(約7,000万人)
『P1 福音派 (Evangelical)』は,全人口の約4分の1を占める.
- 聖書の一字一句を神からの言葉として,そのまま受け入れます.
- イエス・キリストの死が人類の罪を償うものと信じています
- 他者に対して積極的にキリストの教えを広めることを重視します.
- 人工妊娠中絶や同性婚に反対する傾向があります.進化論を認めない傾向があります.
- 社会の保守化を目指して共和党を支持することが多いです.
- 終末論的な信仰から,イスラエルを支持する傾向が強いです.
『P2 南部バプテスト連盟』:約1,614万人(2012年の報告書より)
- アメリカ合衆国最大のプロテスタント教派.
- 1845年に,奴隷制度に関する意見の対立から,米国北部のバプテスト派から分裂
- 聖書の一字一句を神の言葉として,信じる「聖書無誤説」を強く支持しています.
- 個人の「回心体験」(ボーン・アゲイン)を重視し,積極的に福音を伝道する.
- 信仰者のバプテスマ: 幼児洗礼ではなく,信仰を告白した成人に対してのみ洗礼.
- 各個の教会が自主・独立しており,民主的な運営(会衆政治)が行われます.
- 牧師と信徒の間に身分的な上下関係はなく,教会の意思決定は信徒総会.
- 信徒一人ひとりが直接神と向き合い,福音宣教の働きを担うという「万人祭司」
- 保守的傾向: 神学的・政治的に非常に保守的であり,(宗教右派)の代表.
- 人工妊娠中絶,同性婚,聖書の教えに基づき反対の立場をとることが多いです.
『P3 ユナイテッドメソジスト教会』:約768万人
- ジョン・ウェスレーが創始: によって始められた宗教運動がルーツです.
- メソジストという名称は,日課を区切った規則正しい生活方法(メソッド)を重視.
- ルター派に近い信条を持ち,悔い改めによる救済を強調します.
- 教育,医療,社会福祉事業など,社会奉仕活動に積極的に取り組む.
- 信徒一人ひとりが直接神と向き合い,福音宣教の働きを担うという万人祭司 の思想.
- 幼児洗礼を認めています.
- ユナイテッドメソジスト教会は,同性婚を認め,LGBTQ+の人々も聖職者になれる方向に大きく舵を切ったことになります.
『カトリック』: 約21〜22%(約7,000万人)
- 米国のカトリック教会は,アイルランド系,イタリア系,ポーランド系,ドイツ系などのヨーロッパからの移民,そして近年ではメキシコをはじめとするラテンアメリカ系(ヒスパニック系)移民によって大きく成長してきました.このため,信徒の民族的背景が非常に多様です.特にヒスパニック系の増加は,米国カトリック教会の信徒数の維持・増加に貢献しています.
- プロテスタントが優勢な米国社会において,カトリック信者はかつて差別や偏見に直面しました.しかし,長年の努力と信徒数の増加により,社会における地位を向上させ,ジョン・F・ケネディが初の大統領となるなど,重要な役割を果たすようになりました.
- ローマ教皇への忠誠: カトリック教会は全世界共通の組織であり,各個教会が独立しているプロテスタント教派とは大きく異なります.
- 米国カトリック信者は,政治的には必ずしも一枚岩ではありません.
- 人工妊娠中絶や同性婚に反対するなど保守的な側面と,貧困層への支援や移民問題への関与など,社会正義を重視するリベラルな側面も持ち合わせている
- カトリック教会は,多数の学校(幼稚園から大学まで)や病院を運営
- カトリック教会では,日曜の「ミサ」が重要な宗教儀式として位置づけ
『モルモン教』: 約1%(約616万人)
- 家族の価値を重視し,禁酒・禁煙など厳格な生活規範を持つことで知られる.
- 特にユタ州では人口の大部分を占めています.
『クエーカー教(フレンド派)』について米国で12万人
- 聖書や聖職者よりも,一人ひとりの心の中にある神の導きを重視します.
- 戦争や軍事行動への参加を拒否し,平和主義を貫きます.
- すべての人間は神の前に平等であると考える
- 質素な生活を送り,贅沢を避ける傾向があります.
- 定型的な儀式や説教よりも,神との対話を求める「沈黙の礼拝」を重視します.
『その他のキリスト教』: 約1%以下
-
『無宗教者』: 約28%
「信仰する宗教はない」と回答する人々が増加傾向にあり,特に若年層で顕著です.不可知論者(6%)や無神論者(5%)も含まれます. -
『その他の宗教』: 全体の約7%にとどまります.
内訳(ユダヤ教: 約2%,イスラム教: 約1%,仏教: 約1%,ヒンドゥー教: 約1%その他: 約3%)
米国では,これらの主要な宗教以外にも,多様な新興宗教や信仰が存在し,宗教は人々の生活や政治に大きな影響を与え続けています.特に,キリスト教福音派は政治的な影響力が非常に大きいことで知られています.
上記の『Gemini』の教える『米国の宗教事情』は,筆者にとっては衝撃でした.
ヨーロッパで宗教的迫害を受けた宗教団体が,自由な信仰を求めて新大陸に渡った事は何の不思議もありません.それは今から400年前の1620年のことですから……,この化学技術は未発達でしたから,聖書の中にと何の矛盾もなかったのです.
世界の科学史を紐解けば,万有引力を発見し,宇宙の星々が,その万有引力で引っ張り合うことで空間に浮いて存在し,地球は太陽のまわりを回り,その太陽系も銀河系の中を廻っている事,即ち『地動説』を説いたニュートンは,メイフラワー号の20年後の1640年に生まれているからです.
その後科学技術はどんどん発達し,米国自体も1969年アポロ号で月面着陸を果たしました.21世紀の今日,スマホで世界中と顔を見ながら話が出来るまでになりました.
それなのに,イエス・キリストが2000年前に,読み書きの出来ない弟子達に音声で伝えた文章を,読み書きのでる孫弟子に伝え,その孫弟子たちの文書を編集したのが『新約聖書』と筆者は思っています.
1970年頃,大野耐一が工場に来て,職制に『作りすぎの無駄』を説きました.
工場現場では,作業員が遊んでいるのが無駄で,なにか仕事をさせなければいけないと思い込んでいる監督者に対して,作りすぎはいかに会社に損害をもたらすか,いろいろ例をあげて説明していました.下駄は大きさも同じで左右がないので,多少過ぎても,優れてしまうからダメージが少ない.足袋は,左右が違うのはもちろんのこと,大きさもいろいろあるので,余分に作ったものが不良在庫になってしまう…….と話しました.すると現場監督者たちは,下駄は作れ!足袋は作るなと受け止め,現場に下駄の山が出来ました.
院卒で新入社員だった筆者は,大野耐一の真意を事細かに議事録として文書化し,翌日配布した覚えがあります.
言葉というのはペットボトルに水を飲む音を出して,同じレベルであれば水は直ぐ飲めますが,落差のある場合はなかなかうまく飲めません.
言葉による意思伝達も同様です.同じレベルの者同士では,ツーカーで伝わりますが,大人と子供,教師と生徒のようにレベル差が大きいほど物事は伝わりません.
発した言葉の一字一句ではなくて,その真意を噛み砕いて伝えることが大事だと思います.
今のトランプ政権の輸入関税の話ですが,どう考えても輸入関税を高くすれば,それを買う国民が困るのに,『トランプは国民のことを考えて輸入関税を高くしてくれている』と受け止める……その下地は,聖書の一字一句をそのまま信じる事と無関係ではないと思います.
次回は,第一次世界大戦で戦場になったヨーロッパの没落し,武器弾薬を売って巨額の富を得た米国は世界に君臨し始め,その中でGMはトップ企業に成長していく様を時間説明します.
その世界情勢の中で,豊田喜一郎が経営者としてどのような判断をして自動車産業に参入したのか一緒に考えていきたいと思います.
2025年8月2日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知