株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。

現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

過去の所信表明





2024年1月

2024年 所長の年頭ご挨拶

皆様 明けましておめでとうございます.

長期低迷を打破するために,官民挙げて物価上昇を超える賃上げの必要性が謳われ,年末の株価は34年振りの高値を付け,2024年度の成長を予感させています.

どうやら永年続いた異次元の金融緩和の呪縛から外れ,金利のある世界へ戻ろうとしている実感があります.経営体質の変革を成し遂げた会社に取っては,希望に満ちた新年でしょう.旧態然のまま,金利と賃金の上昇を迎える会社との差が益々大きくなりつつあります.

貴社は当然,なすべき社内改革をやり遂げ,次なる高みを目指して龍の如く駆け上がる準備は完了していると思います.益々の御発展を祈るばかりです.


日本は農業国で,豊かな自然に恵まれ,春夏秋冬季節の変化がハッキリしており,時には地震や噴火,台風,干魃もありますがすぐに平常に戻っていました.

そこで日本には『明けない夜はない』とか,『待てば海路の日和あり』といった諺が大手を振って闊歩していて,災害に遭っても壊れた部分を修理さえしておけば,後はかっての日常に戻ることが出来る……という潜在意識が強いのも事実です.

1990年以降の日本の長期凋落の原因はそこにあるという指摘もあります.

弊社は弊社なりに世界情勢を俯瞰して洞察を重ねた結論として,『ガザ空爆攻撃以降,世界は『未知の・経済大混乱』に向けて突入し始めた』という結論に達しました.

以下その理由【A】,【B】,【C】,【D】,【E】を申し述べます.

【A】昨年から始まったウクライナ戦争,ロシアが勝利する?

世界の世論は『正義は勝つ』と信じ,ロシアがウクライナから撤退すると考えてきましたが,米国・EUの支援疲れで,いずれウクライナはロシア領になる公算が大きくなりました.その戦果として黒海の制海権・ウクライナの農業・工業を手中に収める.その勢いでモルドバ・ルーマニア・ブルガリア・ハンガリーを勢力圏に組み込む.そして,全世界を『エネリギーと食料を餌にして人口増で悩むこの地球を支配していく…….プーチンが大統領に再選されその任期2030年までにその形ができていく……というシナリオが現実味を帯びてきました.

【B】今起きているイスラエルのガザ攻撃で世界が変わった

この攻撃では既に2万人余の子供を含めた一般市民を犠牲にしているとされ,その映像が全世界に配信されています.1970年代の第T次中東戦争では,石油ショックを引き起こし,世界経済に激震が走りました.今回のガザ攻撃は,イスラエルのパレスチナ殲滅作戦ではとも受け止められ,パレスチナと同じ宗教である全世界のイスラム教徒(世界人口の23%)の強い反感を買っています.

一方,ユダヤ人1400万人の内イスラエルに630万人,米国に570万人居るとされていますが,彼等は米国の政界に食い入り強い影響力を発揮しているとされています.一方,旧約聖書(ユダヤ教の聖書)と新約聖書を信仰の源とする米国福音派は,全米の25%を占める巨大組織で,ユダヤ教と近しい関係にあるとされ,この関係が,国連安全保障理事会で,停戦案にひとり米国のみが拒否権発動となったと言われます.

このような背後関係で,ガザ攻撃が続くほど,世界のLeaderとして君臨してきた米国の権威が失墜していく事になるのです.言い換えれば,日本経済が恩恵を受けてきた米国の自由主義経済圏の勢力が衰え,中国のような権威主義経済圏が力を増して来るという事です.

【C】異常気象が急速に拡大している事実

マスコミでは『地球温暖化が進んでいる,阻止する為には炭酸ガスの排出を○○まで減らさなければいけない』という単純な話になっていますが,これは世界の金融機関が投資を引き出すための戦略であると考えた方が良く,地球の気象というのはそんな生易しいものではありません.

メートル法は地球の北極から赤道までの距離を1万kmとして導かれて居ますから,1周4万km,従って地球の半径は6,366kmとなります.一方,地球を取り巻く大気の厚みは地表から100kmとされています.しかし地表から約10kmまでが,地表の蒸気で雲ができたり,それが雨になったり雪になったりするいわゆる『対流圏』で,その上空には『地表の天候』には余り関与しない成層圏があります.

地球の天候とは半径6,366kmの地球,表面が8,000mを越えるヒマラヤ山脈や,4,000越の南極大陸の山,巨大な太平洋とその沿岸にそそり立つロッキー山脈やアンデス山脈等々で,流れを妨げられながら,地表から10kmの厚みの空気が地表の回転と共に半日は太陽の光を受けながら,どのような挙動をするかが,その複雑な空気の流れを解明するのが『地球気象学』です.

数多くのスーパーコンピューターを組み合わせることによって地球全体の気象変化をシュミレーションできると信じながら世界中の科学者が挑戦していて,そのコンピューターのことを『地球シミュレーター』と呼んでいます.

残念ながら,未だに解き明かしたという情報は聞いておりせん.例えばアマゾンの熱帯雨林百ヘクタールを牧畜業の草原に変えたとします.その土地から発する熱量・水分量・空気抵抗等が変わります.この変化は全地球の厚さ10kmの対流圏内の今までの空気の流れそのものを変えてしまいます.今年,霧雨しか降らなかったイギリスに豪雨があり,鉄道のトンネルが水没したとか,オーストラリやの草原が大洪水で湖と化し,カンガルーが溺死した等のニュースが飛び込んできますが,現在の地球シミュレーターでは何が原因かを特定できるところまで行っていないので,野放しになって居るのが現状です.やったモノ勝ちで,森林破壊は毎日進行しています.

【D】世界人口の爆発

『ヒトはこうして増えてきた−20万年の人口変遷史』(大塚隆太郎/新潮社)をもとに,田中の知見を加え,更に主な宗教の教祖の年代を加味しますと新しい発見があります.

  1. ヒトが誕生の地アフリカ大陸から世界に旅だった1万年前頃は,マンモスが闊歩する氷河期で,狩猟採取生活の限界近く,世界人口は高々800万人だったと推定される.
  2. やがて地球はドンドン温暖化し,現代より高い気温になり,海面は上昇してきて(日本では縄文海進として,その海岸線は把握されて居る).ヒトは定住するようになり,浜辺で漁労採取が始まり,内陸部では農耕が始まりました.約5千年前に大河の河畔にエジプト・メソポタミア・インダス・中国の古代文明が誕生します.推定世界人口は約1千万人とされています.
    ちなみに紀元前17世紀,遊牧民であったユダヤ人の族長アブラハムが,『神』の声を伝える形で『ユダヤ教』が始まりました.やがてその教えは『モーゼの十戒を守れば神から守られた民になる』という選民思想になり,他の宗教から疎まれる存在になって行くのでした.
    それから約千年後の紀元前6世紀にインドシャカ族の王子が仏教を始めました.王子であるから何一つ不自由しないはずなのに,ヒトには誰も『愛する人を失うなど8つの苦しみがある』として,それを乗り越えていく方法を説いたのでした.
  3. 今から約2千年前,ローマ帝国が隆盛を極め,シーザーやクレオパトラが活躍した時代(BC30年頃)からキリスト処刑(AD30年頃)の頃の世界人口は約3億人と言われています.
    ユダヤ教では,やがて神の使いである救世主があらわれ,救ってくれると信じられてきましたが,ユダヤ教徒であるキリストが,自らを神の子と称しながら,新しい解釈を広めていったので,怒ったユダヤ教徒が,ローマに対する反逆罪で告発し,ローマ政府に磔の刑をさせたとされ,弟子達がキリストの新しい解釈を集め『新約聖書』とし,キリスト教として広めました.キリスト教徒に中では,死に追い遣ったユダヤ教に反感を持つ人も多いといいます.
  4. その後,天候不順が引き金とされていますが民族の大移動が顕著になります.これによりローマ帝国は東西に分裂し,東ローマ帝国が欧州のLeader Shipを握ります.この頃,マホメットによりイスラム教が開始されます.中国には巨大な国際国家『唐』が台頭します.世界人口は横ばいだったとされています.
  5. 中世になると,鉄製の農機具が普及し,農業も進歩し多くの人を養えるようになっていきます.その一方でペストが流行ったり,数多くの戦争を行われるようになり,世界人口は穏やかな成長といったところでした.
  6. 16世紀になると,米大陸の発見,トマト・ポテト・トウモロコシ等が新大陸からもたらされ,食料として直接口に入れるもの,家畜の飼料として活用し,乳製品や肉類として食するものなどヨーロッパにおいては食生活に大変革をもたらしました.そしてその文化は全世界に広がっていきました.新天地を求めて米大陸に移住するものを増え,世界の人口は順調に増えてきました.18世紀中頃で推定人口7.2億人とされています.
  7. 産業革命が起こり,家内制工業が工場制工業になり,労働生産性は飛躍的に伸びました.1914年から始まった第一次世界大戦で,男性が戦場に取られる中,残された女性だけで武器弾薬を含む生産現場を守ったことから,女性の産業界進出が進み,産業構造が一変しました.大戦後,『ロシア帝国』が革命でソビエト連邦になり,『ドイツ帝国』『トルコ帝国』『オーストリー・ハンガリー帝国』は解体し数多くの共和国になりました.第T次世界大戦の戦場に武器弾薬を売り付けた米国は巨万の富を手に入れ,驚異的な発展を遂げ,世界経済の中心に躍り出ることになります.
    1939年から始まった第U次世界大戦では,戦場は欧州大陸,イギリス,アフリカの植民地,アジアの植民地,太平洋の植民地等全世界に拡大され,日本本土も焼け野原になりました.戦争による死者数は5千万人とも言われます.1950年は第U次世界大戦の戦後処理が終わった時期でもありますが,この時の世界人口は25億人で,国連加盟数は60カ国でした.
  8. 世界人口が倍の50億人に達したのは1987年で,この年までの旧植民地が次々と独立し,連加盟国数は159カ国でした.言い換えれば欧米の植民地支配で抑えられてきた国力が,独立することによって解き放たれ,一気に人口増加に繋がったともいえます.
  9. 2022年11月世界の人口は80億人を超えました.その一方で,健康的な食事に手が届かない人々の数は2020年で約31億人に達すると言います.

【E】『異常気象』と『世界人口の増加』と『宗教』の関係

誰も触れたがらぬ『人口増』と異常気象の関係についてお話ししましょう.

野生動物は同じ場所に長時間滞在すると天敵に狙われやすいので,草原では大きく育った草を要領よく食べて,次の餌場に移っていきます.だから草原と草食動物は共存共栄できるのです.

一方家畜は,移動が制限された中での食事ですので,根こそぎ食べてしまい,豊かな草原は不毛の砂漠と化してしまいます.砂漠が拡大すると天候そのものがわってしまい,雨が降らなくなり,ますます砂漠化がんでいきます.これが今アフリカ大陸で起きている砂漠化の現象です.人口増が原因です.


次に,宗教と人口増の関係を調べてみましょう.以下の文章は旧約聖書の創世記の一部をネットから引用したものです.

神はノアとその息子たちを祝福して言われた.

「産めよ,増えよ,地に満ちよ.あらゆる地の獣,あらゆる空の鳥,あらゆる地を這うもの,あらゆる海の魚はあなたがたを恐れ,おののき,あなたがたの手に委ねられる.命のある動き回るものはすべて,あなたがたの食物となる.あなたがたに与えた青草と同じように,私はこれらすべてをあなたがたに与えた.ただ,肉はその命である血と一緒に食べてはならない.また,私はあなたがたの命である血が流された場合,その血の償いを求める.あらゆる獣に償いを求める.人に,その兄弟に,命の償いを求める.人の血を流す者は人によってその血を流される.神は人を神のかたちに造られたからである.あなたがたは,産めよ,増えよ.地に群がり,地に増えよ.」

神はノアと,彼と共にいる息子たちに言われた.

「私は今,あなたがたと,その後に続く子孫と契約を立てる.また,あなたがたと共にいるすべての生き物,すなわち,あなたがたと共にいる鳥,家畜,地のすべての獣と契約を立てる.箱舟を出たすべてのもの,地のすべての獣とである.私はあなたがたと契約を立てる.すべての肉なるものが大洪水によって滅ぼされることはもはやない.洪水が地を滅ぼすことはもはやない.」

さらに神は言われた.「あなたがた,および,あなたがたと共にいるすべての生き物と,代々とこしえに私が立てる契約のしるしはこれである.私は雲の中に私の虹を置いた.これが私と地との契約のしるしとなる.私が地の上に雲を起こすとき,雲に虹が現れる.その時,私は,あなたがたと,またすべての肉なる生き物と立てた契約を思い起こす.大洪水がすべての肉なるものを滅ぼすことはもはやない.雲に虹が現れるとき,私はそれを見て,神と地上のすべての肉なるあらゆる生き物との永遠の契約を思い起こす.」神はノアに言われた.「これが,私と地上のすべての肉なるものとの間に立てた契約のしるしである.」


(創世記 9:1-17)『聖書 聖書協会共同訳』より引用

この言葉にあるように,一神教では神はヒトを創り,ヒトのために大自然を創ったとなります.だからヒトは大自然を思う存分活用してよい,生き物は殺して喰ってよい,という解釈になります.

『産めよ 増やせよ 地に満ちよ』というのは,神の命で夫婦は子づくりに努めなければならない.妊娠するか否かは神の意志であり,人間が介在してはいけない……とう事を意味し,ユダヤ教,キリスト教,イスラム教共に避妊は禁じられています.米国の人工妊娠中絶反対運動はここから来ています.ちなみにイスラエルの女性の出生率は2.90人/人で,先進国ではTOP(カナダ1.4,米1.64)になっています.

『私はあなたがたの命である血が流された場合,その血の償いを求める.あらゆる獣に償いを求める.人に,その兄弟に,命の償いを求める.人の血を流す者は,によってその血を流される.神は人を神のかたちに造られたからである.』というのは,『神は自分の姿に似せてヒトを創った,そのヒトの血を流させた相手は,獣だろうが,人だろうがその兄弟を含め命の償いを求める』と理解出来,ハマスの攻撃を受けたイスラエルが,パレスチナ人の子どもや市民を2万人余殺害しても平然と攻撃をやめずに居る,その根拠はこの聖書の言葉に従っているからだ,と理解出来ます.


【A】,【B】,【C】,【D】,裏側に【E】で述べた一神教があり,その一神教の信者は地球人口80億人の55%にも達しています.肝心の『国際連合』は何の力を持たない事が分かった現在,我々民間企業は,これから益々激しくなる『異常気象』と,『人口増』による『飢餓,国境紛争,大量の難民』という嵐をどう生き延びるか……がこれからの課題になります.

旧約聖書によれば,神の啓示によってノアは巨大な方舟を造り,その中に残すべき大切なモノを積み込んで洪水を乗り切り,子孫を増やしたとありますが,我々世俗人ができるのは,自社のみを洪水から守る,『小舟』しかできません.


次回は来る混迷を乗り切る為の方策『ノアの小舟』について考えましょう.


2024年1月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2023年1月

2023年 所長の年頭ご挨拶

あけましておめでとうございます.

世界が大きく揺れ動くことが予想される2023年,日本経済もその大混乱に巻き込まれる事は間違いありません.

旧態然の形のまま沈んでいく会社が多数あるでしょう.その一方で,激動の波に乗り急成長する会社もある事でしょう.貴社が後者である事を祈るばかりです.

[1] 昨年を振り返る

2022年5月,このコラムでこれからの日本経済に以下の【A】,【B】,【C】,【D】の大変化の大波が押し寄せると書きました.今年の年初で振り返りますと

  1. コロナ禍による生活環境の変容
    サービス業,アパレル業界は大打撃を受けました.
  2. 急激な経済回復に伴うインフレ懸念と,それに伴う金利上昇,円安
    世界中で金利が上がり,日本のみ据え置きのゼロ金利の為,恐れていたように一時期150円台まで円安になり,年末に130円台まで戻しましたが,赤字国債1066兆円の内536兆円日銀が保有している…と言う事は,536兆円余分にお札を印刷した事と同じで,江戸時代の小判の改鋳と同じで,やがて世界市場における『円』の価値を下げる事になります.2023年度又150円台になってもおかしくありません.心配です.
  3. ロシアによるウクライナ侵攻
    食料とエネルギー源の供給源で価格高騰…ヨーロッパは直撃しましたが,日本にも遅れて大きな影響が打ち寄せはじめました.
  4. 中国のゼロコロナ政策によるロックダウン
    心配していた通り,12月まで中国はゼロコロナ政策を推し進め,工場封鎖,コンテナ船の大渋滞を引き起こし,世界のSupply-Chainを毀損しました.結果として,iPhoneやテスラを始め,多くの製品が減産を余儀なくされ,水面下では中国離れが進行しているとされています.12月に入り,中国政府は『コロナ対策・ゼロ』に方針変更,現在人口の半数が感染しているとか言う話が伝わっていますが,市民の活気は戻ったようです.活気は戻っても,ゼロコロナで 懐具合が悪くなった 一般市民にとっては,不動産に投資する余裕は無く,不動産バブル の崩壊が噂に登り始めました.もしバブルの崩壊がはじまれば,その影響は全世界に伝播することでしょう….

総括すれば,2022年は5月にこのコラムで予想したように悪い結果で暮れました.皆様の会社の状況はいかがでしょうか?

そして皆様の取り組まれた社内改革は,昨年度は順調にお進みでしょうか?

[2] 2023年度はどうするべきか

昨年後半,いくつかの会場で多くの会社の改善事例発表を拝見する機会がありました.弊社の立場で評論すれば,新商品の開発については各社それぞれご苦労されていて,その企画が成功することを祈るばかりです.

その新商品のSupply-Chain即ち構成部品の調達・生産・在庫管理・物流計画等につきましては,取り組みの甘さが気になりました.

2023年度,全世界企業の改善テーマの一つは,従来の世界の工場とされた中国にべったり依存していたSupply-Chainを,いわゆる地産地消型…消費地の近いところで生産し危険分散を図る事があります.

日本国内を活躍の場としている企業においても,購入品は,極力日本国内のSupplierから調達し,日本国内工場で生産することへの転換が必要だ,と言う事です.

その理由は,以下のような事実に基づいています.

  1. 世界各国の政治・経済体制が非常に不安定になって居てその地政学的リスクから逃れるため
  2. 全世界規模で,船腹数が不足し,運賃,Lead-Timeが不安定化していること
  3. 『Jコスト論』から見ると,輸出入に伴うLead-Timeが長く,結果としてSupply-Chain上の在庫が,運転資金の負担になり尚かつ,市場の変化に追従することの妨げになって居る事等にあります.

[2-1] SCMにどう取り組むべきか

長年にわたって弊社ホームページのコラム『Jコスト改革の考え方』『所信表明』で詳しく述べているので,此処では要点を箇条書きで説明します.

2-1-1 改革の目的を明らかにする

お客様にお買い上げいただいて初めて利益が上がり,会社が存続できる…従って
『市場で他社製品を押しのけ自社製品を選んでもらう事』
が改善の目的になります.

水平展開の進んだ現代社会においては,構成部品はどの会社でも市場から入手できます.従業員の賃金も各社大差ありません.従って『価格』『品質』ともに差を付けられないと考えた方が良いのです.

差が付くのは,従業員全員が知恵を絞ってつくり上げたSupply-Chainによって作り上げた,『Order-to-Delivery-Lead-Timeの短さ』が改革の第1目標になります.第1目標を達成した後,そのレベルを維持した上で,『Total-Lead-Timeの短縮』が改革の第2目標になります.

2-1-2 まずOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮に取り組む

  1. 販売店頭で,実態調査
    同業他社と徹底比較し,自社の実力を知る事が第一歩です.その結果,いつまでにどの程度まで改善すべきかの目標が設定出来ます.
  2. 自社のOrder-to-Delivery-Lead-Timeは,どのような業務展開の結果なのか
    今の業務のやり方を,業務分掌や担当者から聞き出し,まず『ValueStreamMap(モノと情報の流れ図)』を作成します.
  3. 『モノと情報の流れ図』を基に現場の実態を『立ちんぼ調査*』する
    註;トヨタ生産方式の導入教育の中に『立ちんぼ』と言われる調査があります.ある製品に着目し,材料搬入から加工され他の部品と組付けられ,完成品になり倉庫に入り客先に発送されるまでを,じっと監視し続け,その実態を調査するのです.トラックで運ぶときは運転席に便乗させてもらうし,荷役作業も観察し続ける…これによってLead-Timeという概念を新人は叩き込まれます.具体的には,1個の部品に着目することで,
     生産;@生産頻度(工程待ち)A生産ロットサイズ(ロット待ち)
     運搬;@通い箱の収容数,B運搬頻度
     事務;@書類箱の上から処理(先入れ後出し)A即刻処理
    等々,業務の進め方でLead-Timeは大きく変動する事を体感できるのです.
  4. 実態調査した結果,多くの会社では,作業の順番を事務員任せにするところが多く,これが一番Lead-Timeを長くしていたと言う例もあります.
  5. 生産量の多い製品から取り組み,『モノと情報の流れ図』を検討し
    • 生産の頻度を増やし,運搬との整合性をとり在庫を減らす
    • 工程の流れに沿って通い箱の収容数の整合性をとり滞留を無くす
    等,全体を見ながら滞留を無くす(Lead-Time短縮)理詰めで解決案を練ることが大事です.

2-1-3 次にTotal-Lead-Time短縮に取り組む

改革されたOrder-to-Delivery-Lead-Timeを維持しながら,Total Lead-Time,即ち原材料仕入れから完成品在庫から納品までのLead-Time短縮,言い換えれば『棚卸資産の圧縮に改革』の矛先を変え,BSをよくしていきます.これによって,最終的な企業の収益性評価ROAを向上させていきます.

2-1-4 会社業務を時間軸で点検する事で指導者成を!

通常は自社の縦割り組織の業務の展開状況は,費用(金銭)と言う尺度で常に点検し修正していました.

Order-to-Delivery-Lead-TimeやTotalLead-Timeの短縮活動は,言い換えれば直接測定出来,人為操作の効かない時間という単位で自社の業務を点検・測定していくことになります.言い換えれば,『会社の縦割り組織に,時間軸という横串を入れ案件ごとの業務処理時間を測定し,内部に潜む経営課題をあぶり出し,俊敏に対応する組織に作り変える』ということです.これには以下のような大きな二つの目論みがあります.

当ホームページの『季節の御挨拶…2016年4月』に書いたようにOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮を狙った業務の進め方は中国料理で発達し現在では世界中,どの分野でも展開されています.

  1. 『飲茶方式』完成品在庫を即引き当て,売れた分を後補充生産
    \begin{equation} \text{Order-to-Delivery-Lead-Time} \fallingdotseq ゼロ + 物流時間 \end{equation}
  2. 『一般受注料理方式』部品,半完成品在庫を持ち,即生産し(中国料理では数分以内)客に引き渡す.使った分は即後補充手配
    \begin{equation} \text{Order-to-Delivery-Lead-Time} = 数日以内 + 物流時間 \end{equation}
  3. 『特別注文料理方式』受注してから材料等を発注,到着を待って生産して引き当て
    \begin{equation} \text{Order-to-Delivery-Lead-Time} = 数ヶ月以内 + 物流時間 \end{equation}

このような3種類の業務形態が並行する中で,受注から納品,代金回収までの実務は,『営業部門』『生産・輸送部門』『品質保証部門』『製造部門』『調達部門』と言った機能別に縦割組織を通じて行われていますので,業務の進行を時間測定し,列車の運行ダイヤのように,時間と空間を一枚の図表で表現しないと,実態がつかみきれない事にあります.

この活動では,縦軸に工程(含一時置場)をとり,横軸に時刻をとって描いた図を『生産ダイヤグラム』と言いますが,これを描くことで,工場全体で,時々刻々何処で何をしているのか… 全社でみれば,今,A案件は甲部門で,B案件とC案件は乙部門で処理中である事が,管理者がネットで確認できるようになるのです.このような管理することが今もてはやされているDXの一つの局面であると考えています.これが第1の目論みです.

現在日本の会社では,大学出ただけの全くの素人を受け入れ部門単位で社内で育成し(最近の社内教育はかなり怪しいですが・・・)成績のよいものが役員になり,やがて代表取締役になり会社を運営することになります.

しかし見方を変えれば,会社役員も社長も一つの部門で育った悪く言えば専門バカで,大会社のさまざまな業務に精通しているとはとても言えない状況です.更に言えば,創業後しばらくの時間をたった会社では,社内の業務全般にわたって管理のできるレベルに精通し,Topを補佐できる人材は皆無ではないか?と危惧しています.

そのため,役員会は『群盲象を撫ぜる』状態になり,大きな決断がでず,30年間業務改革できずに,世界から周回遅れになっているのだと推測しています.

今回紹介した『会社業務を時間軸で点検するプロジェクト』に,将来の幹部候補生を参画させることで,自社の全容が把握出来,これ以上ないOJTになると思います.これが第2の目論みです.

[3] パーキンソンの法則の本質を悟る

私事ですが,四半世紀前,2世帯住宅を建て息子夫婦と住んでいますが,門扉から玄関までの通路の一辺4m足らず,面積にして約14uの庭を造ることが出来ました.角地だったので,庭師の薦めで道路に接する面はL字型に山茶花の生け垣にしましたが,当初,幹の太さは親指程度,透け透けで早く大きく育てと願って居ました.

庭の中央には孫が小さい時は1.5m角の砂場を作り,その跡が花壇となりました.昨年,コロナで家に籠もり,関心が庭に向き,花壇の手入れを始めてみますと昔と比べ庭が狭く感じ,巻尺で調べると,庭師は上面と道路面のみ刈り込みをしたいたため,生け垣が内側に伸びてきて,当初20cm程度だった厚みが,今では80cmを超えるまでになってしまっていたのです.庭の内側の空き寸法は4m弱から3m余になり,面積は約14uから9uに減ってしまっていたのでした.

この事実から,有名な『パーキンソンの法則』を思い出し,その意味するところを悟りました.外側と上側の制限を受けた生け垣は,制限のない内側に勢力を伸ばして来たのでした.

写真-1 庭の生け垣の本体

思い切って庭の内側から,生け垣の枝を切り落としていくと,写真-1のように,幹は人間の足首より太く逞しく育ち,上の方の枝は過密状態に重なり合い,弱い枝は,窒息状態で枯れていました.垣根の隠蔽性を確保出来るギリギリまで枝葉を取り除いたのがこの写真です.

生け垣でさえ,内側の枝振りを整理せずにいると,窒息して枯れるほど過密に枝葉が入り組み,生け垣そのものが大変なことになるだけでなく,中庭への日当たりを悪くし,風通しも悪くし,貴重な庭の面積さえも奪ってしまっている…状態になってしまっていたのです.

生け垣でさえこのように放置すれば悪影響を及ぼす…ということは生身の人間組織では,上司・部下,先輩・後輩というFactorが加わり,放置すれば『伏魔殿』になっていくのでは…危惧しながら庭作業を進めていました.同時に,パーキンソンの法則の意味を悟った気になりました.

生け垣の改造計画は,生け垣の内側から枝を払い,横方向には生かす枝と剪定する枝を峻別し,日当たりと風通しを良くしながら,生け垣の厚みを半減させる.出来た空間に棚を作り,そこに様々な植木鉢を並べ,庭を楽しむ…と言うものです.言わば,庭の立体活用です.第1期工事が写真-2になります.

写真-2 生け垣の内側の枝を払い,植木鉢棚を設置立体活用

【まとめ】

第2章で2023年に取り組むべきテーマは,地産地消に向けたSCMの再構築ですが,『会社の縦割り組織に,時間軸という横串を入れ案件ごとの業務処理時間を測定し,内部に潜む経営課題をあぶり出し,俊敏に対応する組織に作り変える事を提案しました.

提案のように今までになかったやり方と視点で業務を見直すと,拙宅の庭で私が経験した以上の,今まで気がつかなかった課題や,問題点が貴社の中で発見され,今までになかった解決の発想が生まれ,それが引き金となって,貴社の本格的DXの第一歩が踏み出されることを期待しています.

そして読者の皆さまにとっても,今年が飛躍の第一歩であることを祈念致します.


2023年1月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2022年10月

季節のご挨拶

〜 仮説;クリミア橋爆破はプーチンの『苦肉の計』 〜

読者の皆様に謹んで10月のご挨拶を申し上げます.

しばらくお休みを頂いていましたが,先回(5月)この欄で以下の四項目が,年末までに日本を襲うことが予想されるので改革を急がねばならない…と書きました.

  • 【A】コロナ禍による生活環境の変容(売れ筋が変わる)
  • 【B】急激な経済回復に伴うインフレ懸念と,それに伴う金利上昇,円安
  • 【C】ウクライナ侵攻による食料とエネルギー危機
  • 【D】中国のゼロコロナ政策で,地球規模のSupply Chain毀損,中国の景気後退で不動産バブル崩壊⇒地球規模の大不況

5ヶ月経った今日,上記の四項目は,恐れていた最悪の方向に推移しています.中国は5年に一度の共産党大会を前にして緊張状態にありますが,経済はかなり悪化している様子で,不動産バブル崩壊は現実味を増してきたといいます.

この辺の話は次回に回すとして,今日皆さまにご呈示するお話しは,表題のように,皆さまと同じマスコミ報道を手にしながら,幾ばくかの工学的知見と,トヨタ生産方式のツールとして有名な『何故なぜ分析』を使って真因の探究をしていくと,マスコミ報道の主流のウクライナ犯行説とは真反対の仮説『〜 仮説;クリミア橋爆破はプーチンの苦肉の計〜』が導き出される事についてお話ししたいと思います.

ウクライナ侵攻を憂いている皆さまは勿論のこと,戦争に関心の無い方でも,この仮説を導き出したプロセスは,現場で起きた事象の真因の探求にも役立ちますので丁寧に文章にまとめました.

きっとお役に立つと思いますので 最後までお読みください.


[1] 報道機関の取り扱い

10月7日はプーチンの70歳の誕生日だったので,その一日遅れで『クリミア大橋の襲撃』という大変なプレゼント渡された…報道されて,それ以降,誰かは分からないけれど,反ロシア系の犯行という論調で推移しています.

10日からのロシアによるウクライナ全土に向けての,主に電力インフラを狙った大量のミサイル攻撃に対して『ロシアの反撃』というサブタイトルで報道されています.

一部のコメンテーターが,爆破の48時間後に一斉にミサイル攻撃をするのは準備が良すぎる.米軍でさえ手続きに72時間かかる…橋爆破とは関係なしに,事前に準備されたもと思われる…という説明もありました.

今日まで,橋を爆破されてプーチンは怒り心頭に達している…,次々と反撃を繰り出すであろう…という論調に収斂しつつあります.


[2] 三国志由来の『苦肉の計』とプーチンの前科

苦肉の計

兵法三十六計の第三十四計にあたる戦術.

人間というものは自分を傷つけることはない,と思い込む心理を利用して敵を騙す計略である.日本では苦肉の策(くにくのさく),苦肉の計(くにくのけい),苦肉の謀(くにくのはかりごと)ともいう.

(Wikipedia)

歴史を紐解けば三国志が起源とされますが,近代では
1937年;盧溝橋事件から日中戦争が始まり
1964年;トンキン湾事件で米軍の北ベトナム爆撃が始まりました.

ロシアでは,
1999年;エリツィン大統領が汚職事件で起訴されかけた時,当時の首相だったプーチンがKGBに命じ高層アパートを次々と5回爆破させ,
この甚大な被害をもたらしたのは,『チェチェンのテロによるものだ』として国論を統一し第二次チェチェン紛争起こし,チェチェンを支配下に置くと同時に,エリツィン大統領を苦境から救い出すことに成功したとされ,その功績で,プーチンが大統領になった…のが公然の秘密とされています.


以下の文章で,1999年の成功体験から,今回のクリミア大橋は,プーチンの苦肉計(自作自演)という仮説が導き出せます.


[3] クリミア大橋爆破に『何故なぜ分析』を試みる

以下, 報道から拾い集めた大括りの事実を【エビデンス】とし,個々の事象から導いた結論を<考察>として,工学的知見と,トヨタ生産方式の『何故なぜ分析』手法を使って紐解いていきます.

【エビデンス-1】

クリミア半島の空軍基地の爆発の時は,現場写真は遠方からの煙だけ写ったモノでした.ロシアは『事故だ』と言い張っていましたが,西側報道は,衛星写真から被害が解明し,ニュースにしていました.

一方,今回のクリミア大橋の件は素敵なアングルで動画が撮られ,ネットで即時公開されています.事前に計算したアングルで撮影準備し,撮影後の仕上がりを確認して配信…疑われるほど迫力ある映像が配信され,ロシア側が積極的に関与した,としか考えられません.

【エビデンス-2】

下の写真のように爆破されたのは道路橋だけでなく,となりの鉄道橋を走っていた貨物列車にも爆破の影響で引火し炎上すると言う被害に遭った…,と言う状況を映し出した写真として各局で放映されています.

それではこの写真を詳細に検討してみましょう.



<考察-1>

走っていたとされる貨物列車が映像では停車状態で炎上します.

一般に貨物列車は急停止が不得手で,日本の法律では制動距離は600m以下と規制されています.大型貨車でも1車両20m以下ですから,急ブレーキをかけたとしてもその瞬間から停止まで25両分くらいは移動してしまうはずで工学的に説明がつきません.

さらに,運転士の立場で考えると,走行中に後方で大音響がしても『何が起きたのか?』『 何をすべきか?』咄嗟の判断はできないはずです.

通常は,おかしいと思ったら緊急停止する事になっていると思いますが,列車の特性として,橋の上やトンネル内で停車すると二次災害が起きやすく,又,復旧工事が厄介なので,平地までは強引に走行した後停止して点検するのが普通です.

特に鉄橋は高熱に弱いので,燃えている貨車を動かし続けて,鉄橋を熱被害から守るマニュアルがあると思います.

従って,走行中に火災に遭ったときは,発火地点からかなり離れた場所に貨車は停止しているはずです.

<考察-2>

停止している理由として,走行中の貨物列車が,爆発に遭遇した結果,衝撃で脱線して急停止した事が考えられますが,この場合は,脱線した貨車の後続の貨車は追突状態になり,折り重なった状態に脱線します.鉄橋から落下もあり得ます.<福知山線事故参照>

ところが,写真では全部の貨車は整然と並んで停車しています.脱線した様子はありません.


結論として,走行中の貨物列車が爆破で脱線もせずその場で即停止するということはありえません.

この写真が実写であるとすれば,貨物列車を停めておいてそので道路橋を爆発させたことになり,ロシア当局が関与せずにできるはずがありません.

まさにプーチン得意の『苦肉の計』つまり,自慢にしていたクリミア橋をプーチン自らが壊すとは誰も考えないので,敢えてそれを実行し,ウクライナの犯行と思い込ませ国論を統一して攻め込む……仮説が成立するのです.

【エビデンス-3】

クリミア大橋爆破がロシア側の苦肉の計(自作自演)とすれば,写真から得られる疑問点がすべて合理的な説明かできます.

<考察-3>

燃えているタンク車の間に,3〜5両の燃えていない貨車があります.

『鉄橋に傷を残さず派手に燃えさかる貨車を演出せよ』と命じられたら,工学技術者は以下のような計画をすることでしょう.

派手な煙を出すが高温にならない油を仕掛けた燃やすタンク車と,その前後に冷却材(水等)を積んだ冷やすタンク車,消化剤を積んだ消すタンク車を巧に配置し,燃やしながらゆっくり移動させ,冷やすタンク車から水を噴霧して鉄橋を冷やし,消化剤で火勢をControlすれば,派手な炎の割には被害は最少で済みます.駐車場の鉄骨のように,鉄橋の内側に事前に耐熱材を吹き付けておけば,準備は完璧でしょう.

<考察-4>

更に燃えている貨車の風下には石炭用の貨車があります.風上側にはタンク車が並んでいます.最小限の被害で貨車の燃えている写真を撮ろうと思えば,長い貨物列車の中で此処しかない場所が燃えています.

<考察-5>

爆破写真撮影後の鉄道橋の復旧はどうだったのでしょうか?事件発生は10月8日午前6時7分とされていますが,『列車は予定通り,現地時間8日17時10分にクリミア半島のシンフェロポリを出発した.』と報道されています.

鉄道はたった10時間で平常運転に戻っている事になります.

鉄橋の弱点である高熱被害は皆無だった.脱線もなかった.後始末をし,安全確認した後,定常運行に戻った,と解釈できます.

【エビデンス-4】

道路橋はどうだったのか…

<考察-6>

走行する自動車の運転手にとっては,道路橋を延々10km余走り,いよいよクリミアと言うところで橋桁が落下した事になります.

欧米の橋げた落下事故のニュースでは,ブレーキが間に合わず自動車が川に墜落した映像がよく放映されています.

今回は 爆発したトラックについてのみ報道がありますが,後続車については不思議と何の報道もありません.爆発の瞬間の写真には,行く方向に2台,来る方向に2台映っている事から,走行中車両の平均車間距離100mと仮定すれば,事故の起きたクリミア行きは入口から15kmとして橋の上を走行していた車だけでおおよそ150台の車両が事故現場付近に渋滞するはずです.

事故後30分で道路橋の入口を封鎖しても,橋の上には数百台,数kmの渋滞車両が,事故現場近くに並ぶはずで,しっかりした中央分離帯があるので,Uターンもできず,絶好の報道のネタになるはずですが,不思議なことに,そのような映像もアナウンスもありませんでした.

当局が事故を仕込んだのであれば,事前に通行量を絞る事も可能で,納得できます.

<考察-7>

橋桁は容易に交換できます.

ご承知のように,橋は『橋桁』と『橋脚』からできています.

『橋桁』は消耗品で,自動車で言ったらタイヤのように,不具合の生じた橋桁は交換されます.

全長何kmもある橋でも,現地工事は『橋脚』だけで,『橋桁』は数種類で済むように最初から設計されていて,近くの陸上の工場で効率よく大量生産され,でき上がった『橋桁』は大きなクレーン船で『橋脚』の間に設置されていきます.これだけの大きな橋であれば,予備の『橋桁』は準備されていると思われます.

従って,当面,一車線通行で凌ぎ,ウクライナが酷いことをしたと国民に印象付けた後,数週間で新しい『橋桁』を取り付け完全復旧すると思います.

現に,ニュースに依れば,当日夜から, 一車線通行で再開したと報じられています.

【エビデンス-5】

爆破事件後のプーチンの行動

クリミアの空軍基地の件では,ロシア当局は事故と言い張り襲撃されたと白状するまで数週間かかりました.プーチンは何も言っていなかったと記憶しています.

<考察-8>

クリミア大橋の件は,道路橋の爆発の瞬間映像,燃えさかる貨物列車の映像を当局が事前準備しなければ撮れないような素晴らしいアングルで撮影し,大々的に全世界に公開しました.

『捜査結果をプーチンに報告するシーン』まで撮影し放送しています.その後『プーチン自ら,これはウクライナのテロであると明言し必ず報復するというまでのシーン』を撮影させ,全世界に発信しています.

通常の常識では,誰もがウクライナが狙っていると思われる大橋に,見事に攻撃されたら,国家治安体制の大恥で,まず責任者の処分が話題になり,被害状況を世間に大々的に報道するものではありません.

プーチンの『苦肉の計』であれば納得できます.

<考察-9>

下記写真のように破壊された橋と燃え盛る貨物列車を背景にしてプーチン自ら壇上に立ち『ウクライナのテロに対して断固として闘う!』と言う大演説が配信されました.



そして皮肉なことに,プーチンの演説の背景の画面こそ,プーチンが欲しがった映像と思いますが,実写であるとすれば,工学的に見て停止している貨物列車ので道路橋を爆破させたという,ロシア当局の関与の証拠写真そのものなのです.

プーチンは,自分が命じて撮影させた映像の前に立って,ウクライナへの反撃の檄を飛ばしているのです.もしこの写真のタイトルを付けるとすれば『プーチンの苦肉の計』が相応しいと言わざるを得ません.

<考察-10>

事件発生から48時間以内でウクライナ全土に無差別攻撃を開始!

この攻撃の真の目的は,専門家によると,全土の電力施設を狙い撃ちし,冬に向かってウクライナ国民を凍えさせると同時に,ウクライナからNATO諸国へ電力輸出を止めさせ,ガスだけでは不足しているエネルギー供給制限の仕上げをしようというものだとされています.

クリミア橋の爆破劇は,この攻撃を報復と名付け,正当化を計る為でもあったのです.


[4] 『何故なぜ分析』のまとめ

ウクライナ戦争の話から 現場改善の話に移りましょう.

『何故なぜ分析』は思考実験の一種で,現地現物を細かく観察し,その原因は何であるか仮説を立てます.その仮説で説明できない事象が一つでもあれば,その仮説は正しくないのです.『何故なぜ分析』を途中でやめてしまうと,とんでもない結論に達してしまいます.

『本流トヨタ方式』では,『神は細部に宿る』という言葉でこれを戒めています.心構えだけではダメで,日常のトレーニングが大切になります.

ニュースを聞くときも,起きた現象とその原因を報道されますが,起きた現象はそのまま鵜呑みにするしかありませんが,原因はぜひご自分の頭で考えるトレーニングをしてください.

以前に「『大学』と『大学校』の違いはなにか?」という話をしました.『大学校』というのはある教材を効率よくマスターさせるための学校である,『大学』は無から有を生み出す研究機関で,五里霧中の中から正しい答えを導き出す方法論を学ぶところであると,その中身をマスターした方は理解していただいていると思います.

誰もが起きている事象の原因は自分の頭で考えることが民主主義国家では求められていますが,特に国家の税金を使って,大学で学位を取得した人たちは,矜持として,起きている現象は鵜呑みにせざるを得ませんが,その原因の推測は自らの頭で考え出さねばならないのです.そしてその考えを社会に広め,互いにディスカッションすることで一歩一歩社会を向上させていくことになるのです.

コロナ禍で顕在化してきた1990年代からの日本の衰退はこの矜持が衰えてきたことにあると警鐘を鳴らしてきましたが,クリミア大橋事件の報道が,プーチンの苦肉の計にハマっている事を見ますと世界中にその傾向があり,民主国家の基盤が緩んでいることを気付かされた次第です.


次回は,1ドル150円時代に,製造業は何をすべきかを考えてみたいと思います.


2022年10月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2022年5月

季節のご挨拶

者の皆さまに謹んで5月のご挨拶を申し上げます.

新入学生の諸君は,先月の『大学と大学校の違い』の真意を理解して,自分の個性に磨きを掛け,未知を既知にするノウハウを身につけて,Only Oneの自分を作り上げ,社会に出てのご活躍を祈っております.

新入社員の 皆様には『5月病』のお話しをさせてください.

今までの大学生活までは,学生が授業料という代金を払う客で,教授陣はその代金で雇われている人達でした.学生には支払った授業料に見合うサービスを受ける権利がありました.

ところが,会社に入ると立場は一変します.新入社員の皆さまはある給料で会社に雇われているので,当然会社からは支払う給与に見合うだけの『仕事(Output)』が求められます.

学生時代のメモやノート,報告書は,自分が客ですから,どんなに乱雑でもOKでしたが,会社生活でのメモや報告書は,頂く給与に見合う会社へのOutputですので,会社の求めたレベルに達していなければ給料泥棒になります.

この『自分の食い扶持を自分で稼ぐ=自立』の厳しさを自覚せずに入社すると,会社から自分に向けられたメッセージの意味が理解できず,いわゆる『5月病』に掛かり,退社してしまうことになり兼ねません.

私はトヨタ時代5月病で退社を希望する新入社員(Aさん)と面接するときは(トヨタの場合数ヶ月間の導入教育がありますが,この間は学校生活の延長ですので退社希望は出ません.職場配属になって1ヶ月目を5月病としていました)以下のようなことで諭しました.

Aさん,あなたの人生を1冊の自叙伝に例えると,誕生から学校生活まで充実した人生体験が一杯書かれていると思いますが,今あなたは社会生活編の第1頁に居ます.この頁を会社の仕事や人間関係が気に入らないとして逃げた頁にするか,1年とか2年とか仕事・人間関係とがっぷりと向かい合い,得るものを得た上で異動とか退社をする…勝った頁にするかで,Aさんの人生がまるで違うものになってしまいます.

人生の先輩としては,勝ったと言う頁にすることを薦めます.

大阪と京都出身者は,三河地方の飯が塩辛くて口に合わないとして数名退社したのが記憶に残っています.

5月以降の日本が直面する経済状況について

1. 従来からお伝えしていたコロナ対応

2020年2月3日感染の疑いのある乗客を乗せた大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号を,横浜港に入港させ日本政府の管轄下に置いたことが,事の始まりと記憶しています.

この3年間色々ありましたが,2022年の5月連休は,3回目のワクチン接種の効果もあり,緊急事態宣言もまん延防止も無い中で迎えることができ,各行楽地は大賑わいであったとか…その後も患者数は減少傾向にあると聞きます.

医学的には,今後とも続々と変異株が発生し続けてコロナ禍は続くとされていますが,医療関係者の努力で,特効薬のない中で診療技術の向上と治療方法の改善で重症化を防ぎ,死亡率を低減させてきました.新しいワクチンと有力な治療薬も見つかりつつあり,今後は落ち着いていくと期待されています.

欧米や日本などの医療体制の進んだ国は,過剰な恐怖心は取り除かれ,感染者が急拡大して医療崩壊に至らないように注意しながら,『withコロナ』と言う形で経済活動はコロナ前と同程度に戻る事が期待されるようになりました.

当コラムでは以前から,コロナ禍からの回復時には下記の【A】,【B】のような市場の変化があるので,各社は完成品在庫を削減することは勿論のこと,少ない仕掛かり在庫で生産できる仕組み(生産のLead-Time短縮)に挑戦し,市場の変化に即応できる仕組み作りが急務であると訴えてきました.

【A】コロナ禍による生活環境の変容

数年間 続いた コロナ禍で 市場のトレンドが変わってしまい,コロナ前の商品はコロナ後の市場では通用しないと考えた方が良いと警告してきました.

例えば飲食店,仕事帰りのちょい飲みから,家族と一緒にご馳走を楽しむようになるとか,リモ−トワークが増える事でビジネスウエアー販売が激減するなどです.

現に 自動車業界では 脱炭素化に向けて 大きくトレンドが変わってしまっています….

【B】急激な経済回復に伴うインフレ懸念と,其れに伴う金利上昇,円安

現に米国ではコロナの一段落で市場が活発化し,それに伴って物価上昇の波に晒され,米当局は政策金利を上昇させました.結果として円相場は130円台まで下落,これから先も円安が続き,自給率の低いエネルギー・食料関係は益々値上がりし,国内企業利益を圧迫し続けると恐れが大きくなりました.

2. 2022年2月以降発生した重大事件

【C】ロシアによるウクライナ侵攻

事もあろうに常任理事国のロシアが『特別軍事作戦』と称して武力をもって隣国ウクライナに侵攻しました.この無法行為を傍観すれば,世界秩序が乱れるとして,民主主義を標榜する先進国は団結して対ロシア経済制裁に打って出ました.

この経済制裁によってロシア産の稀少金属や石炭・原油・天然ガスの流通量が減るという事は,国際市場での価格が高騰するという事です.加えてウクライナとロシアは世界の小麦粉等の食料輸出国で,侵攻が始まる前は黒海に面した港からウクライナで生産されて食料(4億人分以上)が世界に向けて出荷されていましたが,今は侵攻によって黒海を封鎖されて出荷できずに居るとのことです.

このまま行けば世界が深刻な食糧危機を迎えることになると警告が発せられています.

専門家の見方は,帝政ロシア⇒ソ連⇒ロシアと続き,近代的な言論の自由を味わってこなかったロシア国民に世論として政府を動かす力は期待できず,むしろ民意に従う民主主義の先進国の方が,ロシアの情報操作に扇動され,物価上昇に我慢しきれずに妥協し,停戦に至るとされています.その期間は,早くて年内,最悪は10年余とされています.

その結果として我々日本企業に働く者は,どんな局面に遭遇するのでしょうか?

自分の身の回りを考えますと,毎日確実に消費する食料とエネルギー,これが品不足で高騰しますと,衣料,住居,娯楽などの出費を抑えざるを得ません.そのため 国内の消費市場が間違いなく縮小していきます.輸入原材料値上げ,円安による原価高の中での売上減ですので,キャッシュが不足し倒産も増えることでしょう.

発展途上国ではどうでしょうか? 一人当たりのGDPで見ますと,日本は28位で年間39千ドルとなっていますが,153位のハイチは2千ドル未満で,191位以下のソマリア,南スーダン,ブルンジは5百ドルを切ります.

これらの国々にも,コロナ禍と,更には食料とエネルギー価格の高騰は押し寄せていきます.これが2022年5月以降の世界になります.

長引けば,途上国から国家経済が破綻して行くことが目に見えています.


日本のみならず,どの国の企業を取っても,裏手から原材料の突然の高騰高,表からは納入代金の回収困難及び市場の縮小の挟み撃ちに合えば,ドミノ倒し的に倒産が広がっていく可能性が高いのです.

その後,更なる課題【D】が生じました.

【D】中国のゼロコロナ政策によるロックダウン
  • 長期化すれば…
  • ⇒地球規模のSupply-Chain毀損で世界経済が急停止
  • ⇒中国の不動産バブル崩壊のおそれ

世界の製造工場とまでいわれている中国で,先月から上海が感染対策としてロックダウンが実施され,一部の製品が世界規模でSupply-Chainが寸断されて製品が出荷できない状態にあります.其れが他の都市に広がっていき,今北京がロックダウンしようとしています.中国各地に及べば,生産されない部品が増え,影響は益々拡大されていきます.

思い返せば,世界で最初にCOVID-19が集団発生したのが武漢市でしたが,中国政府は武漢市を完全封鎖し,見事に沈静化させました.又,世界に先駈けてワクチンを開発しましたが(シノバック製)其れは従来型の不活性化したウイルスを基にして生成したモノで,当時は効果ありとして多くの途上国にも支給しました.

結果として中国は約半年間でコロナを征圧した事になり,習近平体制の優位性を世界に知らしめると同時に,コロナで苦しむ諸外国を尻目に,外国からの感染防止を続けながら経済成長を遂げたのでした.

冬季オリンピックを無観客ではあったモノの期日通り開催し,面目躍如で習近平体制で今年秋には異例の三期目に突入というお膳立てでした….

という局面での,コロナの感染再拡大です.


ここで困ったことに,中国国内で使われているワクチンは,欧米のメッセンジャ(m)RNA型のワクチンとは本質的に異なっています.香港大学の研究では,中国のシノバック製ワクチンはオミクロン等の新型株には効果が無い恐れがあると発表しています.

ロックダウンを緩めれば,中国国民はワクチンの効かない状態で感染力がますます強くなったオミクロン株とさらにはその上を行く複合株との戦いになり,感染爆発⇒医療崩壊の恐れがあります.

中国製のワクチンの優位性を散々宣伝した後なので,今更欧米にmRNA型ワクチンを送って欲しいとは言えないので,2020年武漢での成功体験である完全封鎖の『ゼロ-コロナ政策』で押し通すしかないと習近平政権は決断した模様です.

ゼロ-コロナ政策を取れば,中国政府の面子は立ちますが,その間中国の生産工場は停止し,全世界に向けての部品の出荷は滞ることになります.

【C】の影響によるのエネルギー,食料品は充分に代替えが効きますから,やり繰りで凌ぐことができます.しかし,ここで論じている中国工場で作っている部品は殆どがボルトやクリップのような汎用品ではなく,専用品であると推定されます.専用品であれば代替品の生産には通常数ヶ月を要します.その間全世界に点在する中国製の部品を使う製造工場が,一斉に部品欠で稼働停止に陥ります.つまり全世界の市場に急ブレーキがかかるということです.

この影響は如何ほどのものかは,第三者には推測できませんが,世界経済に甚大な被害を及ぼすことだけは確かなようです.


3年間続いたコロナ禍で各国は現状の産業体制を維持し,労働者を守る為に,市中に多大な現金をばらまいた形になっています.それを頼りに生産活動を本格化しようとする矢先の全世界同時の急ブレーキは,1929年の世界大恐慌と同様の大混乱を招いたとしてもおかしくありません.


中国経済には大きな懸念材料があります.それは不動産バブルです.

例えば昼間の上海は 高層Mansionが立ち並び 繁栄そのものに見えますが,夜になると,その高層マンションには 灯りが点在するだけの薄暗い高層ビルになります.住むためではなく投機のためのMansionなのです.

Mansionの価格は需要と供給の関係で決まりますから,Mansionが儲かるという噂で買い手が殺到し益々値が上がっていきます.勇気ある人達は,手持のMansionを抵当にお金を借り新しいMansionを購入して行きます.経済成長率が約10%,住宅ローンが数%と言う社会状態が引き起こしたバブルなのです.

この話には裏があります.2008年のリーマンショック時に中国も大打撃を受けましたが,輸出を中心とした成長戦略から,内需拡大戦略に切り替えました.本来共産主義の中国では土地は国家のもので 自由の売買はできませんでした.それをある期間に限って個人や企業に貸し与えるいわゆる借地権を設定し,その借地権の売買を広く国民に与えたのでした.ここに市場が生まれ,取引が活発になる事でリーマンショックの影響を軽微に済ませ,以後中国経済を牽引していったのでした.

今進めているゼロ-コロナ政策が長引けば,中国自体の景気が後退し,住宅価格上昇が鈍化した時,一気に不動産バブルの崩壊が始まり,中国経済は危機に直面することになります.


繰り返しますと,今中国で展開しているゼロ-コロナ政策は

  • [1] 中国国内生産に大ダメージを与え,更に全世界規模の製造業にSupply-Chainの毀損による生産に急停止を発生させ,大恐慌の引き金になる
  • [2] 不動産バブル崩壊の起点になると,リーマンショックの再来になる

ウクライナ侵攻に端を発したエネルギー・食料の高騰になかで今,習近平政権は上記[1],[2]にいたる極めて際どいことをやっているのです.

2022年5月,日本では初夏の心地よい日が続いていますが,背後にはそんな危険性が忍び寄っているのです.

こんな状況下では,弊社がお勧めしている『Jコスト改革』ができているか否かが企業の生死を分けると考えております.すなわち,以下が弊社のお勧めですが,御社は大丈夫なのでしょうか?

  • Order-to-Delivery-Lead-Time:1週間以内
  • Total Lead-Time⇒棚卸資産回転数(連結)10回/年以上
  • \begin{equation} 基礎収益力 = \frac{粗利}{棚卸資産} \ge 1.0 \end{equation}

今,株主総会の季節です.財務諸表を紐解いて計算してみてください.何をすべきかは,『Jコスト改革の考え方』のコラムを参考にして下さい.

万一の場合も,御社が生き残ることを願っております.


2022年5月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知


追伸 『大学と大学校の違い』の続きは次回に致します



2022年4月

季節のご挨拶

昨年末から急速に増えたオミクロン株は減り始め,3月22日には蔓延防止法の適用が全国的に解除されました.

いよいよ桜の開花とともにアフターコロナに向けてアクセル全開,という矢先にロシアによるウクライナ侵攻が始まりました.

武力をもって他国の領土に攻め込むなどとは言語道断と,西側諸国は経済封鎖に踏み切りました.この経済封鎖によって半年も経てばロシア経済はガタガタになり,戦争遂行は不可能になると報じられていますが,規制する側にもエネルギーや鉱物資源が市場から減ることによって成長が鈍化し,物価が急上昇するとされています.

このように世界中の企業は今,

  1. コロナからの復帰と,
  2. ノンカーボン化に加え,
  3. ロシア経済制裁による世界市場の激変

に対応すべく,2022年は大変革を迫られています.

その中にあって日本はどうすべきか……今から30年前,バブル崩壊前の日本の企業であれば,欧米諸国に負けないように頑張りましょう!でことは済んだと思いますが,コロナ対応で明らかになってきたように,1990年以降の日本経済・社会はズルズルと世界の趨勢から置いてきぼりにされ,かつては『危機の円買い』とも言われていましたが,今回のウクライナ危機に関しては,逆に円が売られ,ズルズルと安くなって来ていて,不気味です.

バブル崩壊の1990年はソ連崩壊の年でもありました.ソ連は解体され15カ国の共和国に分かれ,計画経済から市場経済に大変換しました.日本の明治維新に相当するほどの変化であったと想像できます.その中の優等生は,バルト三国の北の端の人口130万人の小国エストニアで,いち早く電子立国を目指し,行政改革を断行して電子化し,サーバーを海外の数か所に分散して持ち,NATOに加盟した上で,海外のIT企業を誘致し,『昔シリコンバレー今エストニア』と言われる程になったと言います.

大きくて豊かだったウクライナは,地方豪族の内輪もめと汚職が蔓延しているところロシアに攻め込まれ,クリミア半島を失いました.そこで目を覚まし,エストニアを見習って電子立国を目指して改革を進めて行きました.そしてNATO加盟も目指したところ,プーチンの逆鱗に触れ,それが今のロシアの侵攻に繋がったとされています.

ウクライナのデジタル担当大臣が,イーロンマスク氏が準備していた衛星通信サービスを使わして欲しい頼み込み,3月10日にトラックいっぱいの通信機と蓄電池が届けられ,ロシアによって破壊された中で唯一の生き残った通信網として大活躍しているという話も伝わってきています.

今まで見ることができなかった戦争の惨状が,これを通じて全世界に伝わり,世界の世論を動かしているということを知りました.

3日で陥落するとみられていたウクライナが,しぶとく抵抗し,一部で反転攻勢に出ているのは,電子立国を目指して整備されたインフラが,たとえ建物が爆破されても,機能していて,ウクライナ全土でスクラムを組んで頑強に抵抗しているのだと推察されます.


振り返って我々の国,日本を見たとき,他国の侵攻だけで無く,首都直下型地震,東南海地震による津波,富士山の噴火等,30年以内に高い確率で起きることが予言されています.ウクライナの惨状を見ながらも,明日は我が身と思って,個人としても,国家としても,身の回りを見直し,備えていく必要があると痛感しました.

窓の外に目をやれば,のどかな日差しの下で桜が満開です.物事をスタートする4月がきました.諸官庁は年度変わりですし,民間会社の多くは期の始めです.千里の道も一歩からと申します.気持ちを新たにして業務に取り組み『危機』を『飛躍の機会』に変えるご活躍を期待しております.

若い世代にとってみれば4月といえば入学式であり,入社式であると思います.そこで以下のようなテーマで数回に亘ってお話ししたいと思います.

大学大学校はどう違うのか

目次

次回の目次

  • [3] 日本と正反対のドイツの大学
  • [4] ここまでの仮説で自分自身の生涯を振り返ると
  • [5] 焼け跡から奇跡的復興の日本がこの30年間,なぜ取り残されたか?
  • [6] 今後どうすべきか

[0] はじめに

事の始まりは,本コラムで紹介している『Jコスト論』が何故拡がらないのか?という疑問からでした.

『Jコスト論』をお話しすれば誰もが納得してくれます.今のやり方は時間概念が抜けて居ると賛同してくれます.

でも,これを自社に展開しようとする人はなかなか現われませんでした.現れたとしても展開して行く途中で頑強な抵抗に遭います.

ところが先々回からこのコラムで御紹介しましたように,2019年,自ら進んで『Jコスト論』を展開したいと申し出る会社が中国に現れました.実際の現地指導はコロナ禍のために四ヶ月で中断しましたが,連絡が途絶えた後も自力で展開していき,1年間で見事な成果を上げました.そのやり方も今までにないもので,総経理が先頭に立ち,経理部が事務局になり,『社内業務の進め方改革』から『社内教育資料』までの改革を進めたのでした.


振り返れば,『Jコスト論』の論文発表は2003年.2005年から始まった東大MMRCインストラクタースクールでは『ものづくり会計学』として講義し,2009年『トヨタ式カイゼンの会計学』上梓(1万部余販売)しています.出版と共に講演依頼も来て,毎年20回程講演して廻りました.

縁あって5社ほど導入に取り組みましたが工場敷地内の改革に終わりました.もっとも大々的に取り組んだのが2015年からのK社で,かなりの成果を上げましたが,経理部門は参加せず工場改革の規模となっています.


中国では,2015年に『トヨタ式カイゼンの会計学』中国語版出版を機に現地コンサルタントと契約し,多くは講演会でしたが,5社の改革の手伝いをしました.著書出版から数えて日本では10年経っても現れなかったのに,なぜ中国では,3年目に,総経理が手をあげて導入を求める会社が現れたのか?これが疑問でした.


広く世界に目を転じると,2020年のはじめから全世界にコロナパンデミックが始まり,各国の政府が『コロナ対策』という同じ問題に同時に対峙し,その対応と結果には,大きな差が白日のもとに晒されることになりました.全世界の行政が共通一次試験を受けて,その結果が発表されたようなものでした.75年前まで同じ国だった韓国と台湾は,IT技術を駆使して日本よりも遙か先を走っていました.韓国は民度の違いか?ここ数か月は日本より多い感染者を出していますが,台湾は依然としてトップランナーを維持しています.欧米諸国では,日本に比べて桁違いの感染者数を出しましたが,政府の対応策は理路整然としていて,理系の私には納得できるものでした.

一方で,日本の官僚機構は太平洋戦争直後の混乱からの奇跡的な回復成し遂げたとして高い評価でしたが,今回のコロナ禍では『アベノマスク』で代表される体たらく,例えばPCR検査の母数を数えず,陽性者数のみまちまちの時間にFaxで送り,そのFaxの山を暇な時に手入力で集計し,本日の感染者数として発表,それをベースに政策立案をしていました.すべてが出たとこ勝負,行き当たりばったり……に見えていました.

トヨタ式の『何故・なぜ・ナゼ…』を繰り返して行きますと,本来大学で学ぶべき『未知なるものへの取り組み方』,『科学的アプローチ』が,日本社会から抜け落ちているという疑いが出てきました.

これを突き詰めて,私なりに立てた仮説が今回のテーマなのです.

『大学』と『大学校』はどう違うのか

この発想の原点は,たまたま社命で『ものつくり大学』準備段階から出向し,どんな大学にすべきか侃侃諤諤と議論し,大学を『教授』としてゼロから作り上げるという極めて稀な経験をしたことにあります.

[1] Technologistとはどんな人?

『ものつくり大学』設立の根拠となる『ものづくり基本法』では,ドラッカーの説に従って,これからの社会に必要なテクノロジストを育てるためにものつくり大学を設置するとありました.しからば,テクノロジストとはどのような要件を備えた人間なのか?準備委員会のメンバーでありドラッカーの翻訳の大家上田敦生先生に講義して頂きましたが,要約すれば以下のようなことでした.

“極めて多くの知的労働者が,知的労働と肉体労働の両方を行う.そのような人たちをテクノロジストと呼ぶ.テクノロジストこそ先進国における唯一の競争力要因である”

多くの人は,知的労働と言うと事務所,肉体労働というと現場作業を連想すると思いますが,ここでは違う定義と考えて下さい.料理人を例にとりましょう.決められた通りのレシピで料理を作り続けるのが肉体労働です.

一方で,客の好みと体調を見極め,手元の材料の状態からレシピを変え,客に喜んでもらえる味の料理を作る時,その料理人は知的労働と肉体労働の両方を同時にしたと考えるのです.事務所でもルーチン通りの業務を進め続ければそれは肉体労働で,状況に応じて業務の進め方を変えれば,それは知的労働と肉体労働の両方を同時にやったテクノロジストの仕事になるわけです.

ものづくり大学においてはテクノロジストの定義を医学知識を身につけた上で,自らメスを持って手術をする外科医のように,工学の知識を身につけた上で,みずからの手でモノが作れる万能エンジニアと定義し,開設準備を進めました.

[2] "大学"と"大学校"とは何が違うのか

ものつくり大学設立委員会の我々にとっての当面の課題は,厚労省所管の『能開大(職業能力開発大学校)』(K系)に対して,文科省・厚労省が共同で経営する『ものつくり大学』(D系)は,どう違う機軸を生み出して運営するかでした.我々が出した結論は以下の通りでした.

(2-1) 大学(D系)は学問(真理の研究)を行う場である

大学(D系)は,学問の自由が保証され,多くの研究者(教授等)が自分の研究室を持ち,そこで様々なテーマの研究を行っています.教授たちの評価は,いかに優れた研究をし論文を発表したかにかかっています.そのために国庫から研究費が出ており,テーマによっては年間数億円というのもあります.研究とは未知なるものを手の内に入れ形式知化することを言います.

もう一つの業務は,自分のゼミナールを持ち,後継の研究者を育成することです.教授は,学生に見せながら自分の研究することで必要な技術・手法を学ばせ,ディスカッションすることでものの見方考え方を鍛えます.学生を育てるためには手間が掛かりますから,一人当たり何がしかの手当が付きますが,何人の学生を育てようが,学者としての業績にはなりません.

大学は学生から見れば大規模な屋台村に似ています.それぞれの屋台(研究室)では世界最先端の美味しそうな研究をして居ます.どの屋台に立ち寄り,どの研究をかじるかは学生の自由です.席には限りがありますから先手必勝です.ぼんやりしているとろくな食事も取れず,終わってしまうこともありえます.

文部科学省の目線で見れば,いつかは世のため人のためになる研究をさせるために,一流の学者を集め研究させているのが大学であると同時に,今の学者より優秀な学者を育てて次世代に備えるのも,その大学の任務としているのです.

このことを言いかえれば,大学内では教授は真理の探究が仕事であり,学生はそれを見習うのが仕事であると言えます.裏を返せば,実社会に出た後の『食い扶持を稼ぐ能力』は大学には期待されていませんから,ぼんやりと大学を卒業し,食うに困るか否かは本人の心掛け次第ということになります.

後から説明しますが,食い扶持に困らない技能技術を身に着けるのは専門学校の役目だということです.

大学の歴史を紐解けば,中世ヨーロッパで始まり神学・法学・医学が主体で,牧師,弁護士・裁判官・検事,医者,等の職に就く事になっていました.現在の大学では理系3/文系7で圧倒的に文系が多いのですが,文学部と経済学部は実業界からかけ離れた学問となっているので,会社に入っても直接役に立つモノは無いと考えた方が良いのです.例えば,英文学を専攻したから通訳ができると考えたらとんでもなく甘いと言わざるを得ません.ビジネスの会話は,社運をかけた駆け引きの場ですから,英国とビジネスをするのであれば,会社としては英国のことを知り尽くした有能な英国人を社員として雇って責任ある地位につけるのが一番なのです.経営学を学んで実社会に出るのであれば,中小企業診断士の資格を取得する事をお勧めします.この資格を持っていれば,会社のどの部署に行っても即戦力として働ける知識があるからです.

(2-2) 大学校(K系)は技能技術者を育てる機関である

学校の『校』の訓読みは『かせ』で,拘束する意味も含まれていて,『学校』は学ぶ建物という意味の他に,目的に合わせて既存の学問体系から必要な部分を切り出してきて,それのみを学ばせ,目的とする人材を育てる機関という意味も持っています.

教える人は教授ではなく『教諭』と呼ばれ,その分野の名人・達人が当りますが,彼には研究活動は期待されて居ません.学ぶ人の学習目標は教師のレベルに近づくことであり,教師のレベルを超えることは期待されていません.新技術を開発することも期待されていません.

教育する対象者は,小学校では児童,中学校・高等学校は生徒と呼ばれます.高校を出た者が学ぶ学校は,多くは『○○専門学校』と呼ばれますが,『○○大学校』と名乗る学校もあります.『大学校』には法的な制約は薄く,自由に設置でき,現に企業内研修施設で大学校を名乗っているところもあります.公的には『防衛大学校』『気象大学校』等が有名です.高校を得てから学ぶ大学校や専門学校の卒業生は,研究者では無いので『学位』は与えられませんが,社会に出て直ちに役に立つ『資格』を得る事ができます.会社にとっては即戦力となる貴重な人材になります.

言い換えると,『大学校』卒業生は,即戦力になるので会社では,現状の業務をテキパキと効率良くこなすことを期待されますが,時代に合わせてより効率的な仕組みに再構築することは,彼らには期待されていません.それゆえ彼らだけの会社になると,日常活動は支障が無い安心しているうちに,世間の進歩からは置いてきぼりになる恐れがあります.

このように,『大学校』は実務のプロを育成する機関であり,『大学』は,真理を探求する研究者を育てる機関である.大学卒業生は会社で採用しても即戦力にはならないが,社内で再教育することによって先を読み,現状を変えていく人材,即ち管理職から経営陣となる人材になる事が期待できるのです.

(2-3) 大学受験勉強とは何か

2-3-1. 共通一次試験で満点でもクイズ番組でしか役に立ちません

本稿のテーマでもあるので繰り返し述べますが,お受験と称し,幼稚園から高校まで進学に有利な学校を出て一流大学に入学しようと猛勉強する風潮があります.しかし,大学入学試験は,広い学問体系の中から文部科学省が選定した『高校教育課程』の中で,採点しやすい問題しか出題されません.私の頃は『傾向と対策』という言葉が流行って居ました.しっかりと日日の授業を受けて勉強すれば,文部科学省が期待したような立派な社会人としての『歴史認識』や『人生観』と言った教養を身につけることができます.

しかし受験勉強としていかに効率よく良い点を取るかという姿勢で勉強したときは,試験に出るところだけを重点に勉強することになり,単なる暗記作業になってしまいます.このようにして学んだ学問は,たとえ共通一次試験で満点を取っても,断片知識の寄せ集めに過ぎず,テレビのクイズ番組で賞金稼ぎするぐらいしか役に立たないのです.

因みに,1970年代のトヨタでは商業卒は事務員,工業卒は技術員として配属されましたが,普通高校卒は,教養は高いのですが,会社で即戦力となる特技がないので,適性検査と訓練を受け現場作業員として配属されました.能力のある人間はたちまち現場で頭角を現し,教養の高さを活かしてリーダーから職長に,更に製造課長に出世しましたが,事務・技術員から課長になるのは稀でした.普通高校で教養を身に付けただけではダメで,その後の努力が大事だということが言いたいのです.

2-3-2. 大学は自ら学ぶ場所,ぼんやりしていると何も身につかない

ここからはこの4月から大学に入った新入学生の目線で説明します.

小学校から高等学校までの先生は『教諭』と言い,教育心理学などの専門知識を学んだ上,教育実習をして教職免許を取得したその任に当たっています.教えることだけが仕事ですから落ちこぼれを出さないように生徒たちに手取り足取り教え込みます.

ところが大学教授は,教職免許は全く関係なく,立派な論文を書き学位を取った人がなるのです.つまり教える技術はどうでもいいということです.そして学ぶ方は『学生』と呼ばれ,自立したオトナであるという意味が隠されているのです.

入学したての教養課程では,教室での講義はありますが,1時間の講義を受けたということは,予習に1時間,復習に1時間合計3時間勉強したとみなしているのです.

講義の内容は担当する教授が自ら選んだ時代の最先端をゆく理論であるのが普通です.筆者の思い出では,理系の数学の初日,高等学校でやってきたことは初等数学と一言で片付けられ,学部の研究に耐えるように高等数学の基礎知識を学びますが,必死に食らい着きましたが全部は理解できませんでした.

高等学校までは先生は教えるだけが仕事ですから生徒の理解度を確認しながら授業を進めていきますが,大学の先生は自らの研究を進めることが第一の仕事で,教える事は二の次ですし,教えたい事が沢山あるので,個々の学生の理解度を確認している暇がありません.期末テストは,成績の差を作るだけですが,講義が理解できてない学生は単位を与えません.単位が欲しければ来年再度授業を受ければよいのです.

大学運営と言う観点から見れば,費用は授業料だけど賄えないので,多額の入学金を徴収しています.そのため留年する学生は経常上不利になるので,よほどのことがない限り卒業させてしまいます.

巷の噂では,懸命に受験勉強した学生ほど入学すると安心してしまって勉強しなくなると言いますが,先に言いましたように共通一次試験百点満点でもその中身は『高校課程』のつまみ食いに過ぎませんから,実社会で稼げるのは,クイズ番組の回答者になるしかありません.

更に,先にお話ししましたが『大学』とは,学問すなわち真理の探求の場であり,次世代の研究者を育成する場所でもあります.何をどれだけ研究しても自由です.学生たちは,ここで研究している教授等のもとで,学問の方法学び,自らの力で師である教授を超える新しい分野を開拓し,その証の学位論文(学士・修士・博士)を提出,認められると学位を授かりますが,一般には実務に直結するモノではないので『大学』や『研究所』以外では,学位では飯が食えません.

法学部卒は司法試験,医学部卒は医師免許,教育学部卒は教員免状と言うように,資格を持っていないと,ICTが発達し,AIの活用が本格化した今日,希望する職種への就職はきわめて困難になっています.

学生諸君は,卒業後の人生に比べて,大学在学期間は時間にゆとりがあります.大学での高邁な真理の追求を通じて『未知のものを形式知化する』ノウハウを身につけ,将来の会社幹部としての素養を得た上で,将来やりたい仕事の近くにある『資格』を大学在学中に取得しておく事が,肝要です.

今年めでたく大学入学を果たした学生諸君は,このことを念頭に勉学に励んでいただきたいと願う次第です.


2022年4月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知