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連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。

現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

過去の所信表明





2025年4月

所長の季節の所信表明

4月も早,中旬を越しました.

皆様いかがお過ごしでしょうか.

弊社のある名古屋市緑区の扇川の土手は,住民のための遊歩道として整備されていますが,そこには樹齢30年の染井吉野の並木になっていて,絶好の花見場所でもあります.今年の満開はやや遅く,4月の第1週でした.今週は,近くにある街路樹の八重桜が満開です.

拙宅の庭には,春の味覚を伝える2種類の庭木があります.一つ目は苦心して育てようやく付き背丈前伸びた山椒.もう一つは『五加木』,これは米沢藩上杉鷹山で有名ですが,信州でも春先に食されており,実家から移植したものです.我が家ではこれらを食して春を実感する習わしでいます.今年も例年通り家族で食し,春を実感いたしました.

穏やかな身の回りから目を外にやると,地球規模の大混乱が渦巻いています.

『ロシアによるウクライナ侵攻』,『イスラエルによるパレスチナ攻撃』等に代表される武力衝突.異常気象に起因する食糧危機等々,枚挙に暇がありません.

しかしなんといっても我々の生活に直結する『トランプ関税』こそが一番の問題だと思います.

今月は,トランプ関税問題のうち,筆者が体験した『日米自動車戦争の歴史』をお伝えします.

有名な『孫子の兵法』には,
勝兵は 先ず勝ちて しかるのちに戦いを求め,
敗兵は 先ず戦いて しかるのちに勝ちを求もとむ.

というのがあります.

今回のトランプ関税は,高らかに関税額を歌い上げましたが,株価の下落や 国債の利回りの高騰を見て『朝礼暮改』をしています.孫子から見ますとこれは負け戦です.

日本側の関税交渉団の活躍で勝機を勝ち取ってもらいたいものです.

とは言うものの,いよいよ4月から輸入完成車に25%は4月3日から,輸入自動車部品には5月3日から課税される事になっています.各メーカーとも数カ月分の在庫を抱えていますので,市中の販売価格に変化が現れるのは,在庫が切れてからと言われています.輸入車がどのような価格で市中に出回るか注目です.

TOYOTA在籍中に日米自動車戦争を2回経験していますので,その概要と,それを通じって米国市場でTOYOTAはどのように進化していったのか概要を説明したうえで,今回のトランプ関税に如何に取り組むかをOBとして説明したいと思います.

(1) 第1次日米自動車戦争 1980年〜

  1. 1973年のオイルショック以降,燃費が良く,品質の高い日本の小型車がアメリカ市場で急速にシェアを拡大して行きました.
  2. 一方,アメリカの自動車メーカーは,大型で燃費の悪い車が中心であり,品質面でも日本のメーカーに劣るという状況でした.そのため,日本車の攻勢により,アメリカの自動車メーカーの販売台数は減少し,業績が悪化しました.
  3. アメリカの自動車産業の労働組合(全米自動車労働組合,UAW)や議会を中心に,日本からの自動車輸入の急増に対する不満が高まり,「雇用が奪われている」という声が強くなりました.
  4. 1980年共和党のレーガン大統領が就任
    自由貿易を謳う共和党としては輸入制限を掛けるわけに行かないので,アメリカ政府は日本政府に対して自動車輸出の自主規制を強く求めるようになりました.
  5. 日本の自主規制:
    アメリカ政府の強い圧力に対し,日本政府は1981年5月,対米自動車輸出の自主規制措置を導入しました.当初は年間168万台を上限とするもので,その後数年間継続されました.高品質・低燃費の日本車は市中では引っ張りだこで,プレミア付きでの取引きが出るほどでした.
  6. 米国政府の意向を汲んで,日本のHONDAはオハイオ州,NISSANもテネシー州に生産工場を進出させました.アメリカ国内での現地生産を本格化させ,貿易摩擦の緩和を図りました.
  7. TOYOTAは,GMとNUMMIという合弁会社を設立(1983年)しました.これは,『トヨタ生産方式』を学びたいというGMのスミス会長と,北米の自動車部品の『Supplierの実態と,物流業者の使い方』などを知りたいTOYOTAの豐田英二会長とが意気投合してできた会社でした.
    GMから派遣されたNUMMI準備要員と親工場になる高岡工場で合宿し,高岡工場の現場管理資料を精査し英文化していきました.仲間内で育ててきたTOYOTAの現場管理Systemが,GM選りすぐりの優秀な人材と共に逐一英文化する中で,理路整然とした管理体制に再構築されて行ったのです.一番勉強になったのがTOYOTA自身だったと思います.その一つが『改善』という概念は『improvement』では表現できない,欧米にはない文化で『KAIZEN』とすべきだ,と米人に教わりました.1985年に本格稼働開始したこの工場の活躍ぶりは『NUMMIの奇蹟』とネットで検索できます.
    話はわき道にそれますが,NUMMI自体は2010年GMの倒産とともに一旦解散しますが,同年テスラ社と業務提携し,此のNUMMI工場は言わば『居抜き』の形でテスラ社に譲渡されます.
    『UAW』の影響下には在りますが,北米1番と言われた品質と生産性を持った活きた工場を,テスラは手に入れたのでした.従業員を温存すれば,素晴らしい工場になると誰もが思いましたし,初期のテスラの品質問題は耳にしません.
    一方,中国等で,『家電メーカー製のEVが爆売れ』という報道が在りますが,かつてTOYOTAで各工場から人を集め新工場を立ち上げ,新型車ソアラを生産した経験を持つ筆者には,他業種から参入し,爆発的数量を販売しているというMakerの品質保証に疑問を抱いております.暴走・車両火災・再始動不能等々の事故が起きないことを祈るのみです.
  8. 話を元に戻しますが,NUMMIで学んだことをベースに,TOYOTA自力でケンタッキー州にTMMK工場を建設し,同年カナダ オンタリオ州にTMMC工場を建設しました.1986年でした.これにより100万台/年の設備能力を確保したのでした.

日本の自動車メーカーがアメリカ国内で生産を始めることで,アメリカ国内での雇用創出にも貢献しましたが,同時にアメリカメーカーとの競争はより激化しました.GM・FORD ・CHRYSLERのいわゆるBIG3は,強力な労働組合『UAW』の抵抗,旧態依然とした企業風土に阻まれ,軽量化,低燃費化が進みませんでした.

1989年『The Machine That Change The World』発刊

1985年レーガン大統領は,『40年前に焼け野原した日本が,なぜ戦勝国の米国を凌ぐような自動車を作るに至ったのか調査せよ』とMIT(マサチュセッツ工大)の研究グループ『IMVP (International Moter Vehicle Program)』に命じたのでした.

1989年に調査結果が報告され,以下の(A)(B)(C)が日本の飛躍の元であるとされました.

  1. 米国Deming博士の提唱する『TQC』を真面目に展開している.
    その一環として製造現場では『QCサークル活動』が盛んで,現場の作業員が,自分達の職場の課題を見つけ,自分達で改善していく中で,品質向上や生産性苦情を成し遂げるだけで無く,その活動の中に自分たちのやりがいを見つけている…….
  2. 『TWI (Training Within Industry)』を米国から導入して活用している.
    日本の製造業は此のTWI を使って優秀な工員を養成し,安価で高品質の商品を生産していたのでした.
    註;『TWI (Training Within Industry) 米国で実施された,第二次世界大戦中の招集された工員に代わって動員された主婦などの未経験者を,一刻も早く一人前の工員として働いてもらえるように指導する現場監督者のための教育プログラム』
  3. MITの経済学者がつぶさに,NUMMI (GMとTOYOTAの合弁会社),日本側の親工場,高岡工場を徹底して調査した結果,驚くべき発見をしました.
    全世界がBestと考えていたFord 氏やThrone氏が造り上げた大量生産方式とは全く異なったConceptの『トヨタ生産方式』で,Supplierを含めグループ全体が動いていることが発見されたのでした.
    Essenceを紹介すれば,10個の部品から成り立つ工業製品を,10頁の会議資料に例えれば,それを100冊作るのに,『大量生産方式』では,先ず各頁100枚連続コピーし,全部揃ったところで10枚ずつセットして完成させます.『トヨタ生産方式』では1〜10頁分をコピー機に覚えさせ,1部ずつ印刷していく方法を採ります.紙が半分しか間に合わなくても,半分の資料が完成するのです.このようにギリギリの材料で,ギリギリのTimingでも,間に合った分だけの完成品ができる生産方式でした.

米国としての対応は

(A)のTQCについて

米国の現場はHispanicに代表されるように,米語を満足に話せない移民などが多く,日本のようなQCサークル活動は無理であるが,日本の管理者は『問題解決』は現場任せで,上司のご機嫌取りでゴルフ・カラオケ・麻雀に現を抜かせている現状に把握していて,この日本に勝つためには管理者・経営者を対象にした『経営品質』に焦点を絞り,『TQM (Total Quality Management)』と言う手法を編み出して,全米国に展開をした.更にそれを使って成果を上げた企業には『Malcolm Baldrige National Quality Award (マルコム・ボルドリッジ賞)』を国として授与する仕組みを作ったのです.

1990年以降,日本でもお馴染みの米国大企業が受賞しています.(GM・IBM・FedEx・AT&T・Texas Instruments ・Ritz-Carlton Hotel・Kodak・3M・Boeing Airlift・……)

この頃,東芝がLap Top型パソコン,次いでNote型パソコンを発売し,やがて『Windows 95』が普及し,これが米国のOfficeを劇的に変えました.事務処理が標準化され,電子化され,それが大型電算機のERPに繋がり,全社的統合Systemとして完成して行くのでした.

具体例を紹介しますと,1995年,アーカンソー州にある米国の巨大スーパー『ウォルマート・ストアーズ』の本社を訪問したとき,北米全店舗の約10万点の商品の今日一日の売れたDETAと仕入れたDATA等を,自前の衛星通信で本社が把握して,分析すると言います.

北米大陸が広いので,春は南から北へ登って行き,冬は北から南へ降りてきます.

従来の販売実績をもとにして,どこどこの店舗では明日はどの品がどのくらい売れるか.現在の在庫量がわかってますから,明日の午前中に何をどれだけ補充すればよいのか,計算できます.これに基づいてセンターデポから各店舗への配送計画ができ,最小の在庫で最大の効果を上げることができる…….ということでした.

会社としての商品の売れ残りは3%以下に抑えることができ,これがアメリカで一番安い店と言われる所以でもありました.

そのために,ありのままの市場の動向が必要で,販売イベントは一切やらず,『Everyday Low Price 』の方針を貫いているといいます.

『ウォルマートl』自体は日次運営体制になっていましたが,Supplierが週次でしか対応してくれないので,毎週需要予測をSupplierと協議して決め,売れ残りのロスはサプライヤーと折半するというルールで運用していると教えてくれました.

1995年当時最先端はそこまで進んでいたのでした.

一方,当時の日本では,戦後の復興時に先輩たちが自前で作り上げた各社各様の『経営管理体制』で1980年代までの急成長を成し遂げましたが,それを自社の『経営管理』が優れているからと勘違いして『Japan As No.1』の自己陶酔に掛かり,欧米の,事業のGlobal化に対応できる『経営管理System』を学ばずにいました.

1990年代に入ると,日本では,眼前に突然1/30の賃金で働く中国の巨大労働市場が開け,世界規模で見れば資本主義は共産主義勝ったということになり急遽グローバル経済が進んでいきます.全地球規模の市場競争が激しさを増し,経営管理体制の不備から日本がズルズルと遅れをとってしまいました.

(B)のTWIについて

各社は大戦中に実施していたため,米国政府は特に対策を取りませんでした.後日,次の『Lean生産方式』とセットにして一部企業で復活しました.

(C)経済学者と『トヨタ生産方式』との出会い

調査に当たったMITの経済学者達は,『トヨタ生産方式』のConceptに驚きました.しかし,その中には欧米の企業では受け入れにくい要素も多々ありました.そこで彼等は,現在の欧米企業が取り入れ磨きを掛ければTOYOTAに追い付き,追い越せる項目に限って編纂した,ガイド本を発行しました.それが『The Machine That Change The World』(1989年)でした.著者のウォマック博士は,自ら会社を発ち上げ,実践を通して実務編として『Lean Thinking』を上梓しました.これらの本は,米国大手製造会社のTOPに読まれ,特に『Just In Time』は各社に導入されていきました.GE社,ボーイング社などは有名です.

(2) 第2次日米自動車戦争 1993年〜

クリントン大統領(民主党)時代の日米自動車摩擦(1993年〜1995年)が再燃しました.その背景として,1980年代後半から,アメリカの自動車産業は自ら痛みを伴う改革をしなかったため日本の北米生産車においても,価格と品質でお後れを取り,市場シェアを大きく失いました.

BIG3の経営陣は,自社の改革よりもロビー活動に力を入れ,日本の市場が閉鎖的であり,アメリカ製品の輸入を阻んでいるのが自動車貿易の不均衡のもとと主張しました.特に自動車分野において,アメリカは日本に対し,部品の輸入拡大やディーラー網の開放を求めました.

主な出来事

1993年

クリントン大統領は,日本に対し,自動車部品の輸入目標を設定するよう求めました.日本は,目標設定は市場原理に反するとして拒否しました.

1994年

日米包括経済協議が開始されましたが,自動車分野での合意は得られませんでした.

1995年

アメリカは,日本車の高級車(レクサス)に対する100%の関税を課すと発表しました.当時のレクサスの革シートは,テキサス産の牛革を使っていましたので,牛革の販売維持を名目にレクサス100%輸入課税の反対運動を起こしてくれました

州民にとってはTOYOTAという名の『我がテキサスの会社』になっていたのでした.他社のように,減産になって 業員はLay offせず,地域行事に積極的に参加することで,地域住民に受け容れられたのでした.

テキサス州民たちの反対運動がどれだけ利いたかわかりませんが,レクサスの100%関税な取りやめになりました.

アメリカの乗用車を日本で売る

その代わり,米国から一定額の部品を購入することと,米国車『シボレーキャバリエ』を日本仕様に改造し『トヨタキャバリエ』としてTOYOTAのディーラーで販売することで完成車の案件は収まりました.(1996年〜2000年)

トヨタ キャバリエ (トヨタ HPより引用)

「キャバリエ」は,ゼネラルモーターズ(GM)の小型4ドアセダンである.スポーツカーと大衆車を中心とした銘柄のシボレー製で,初代は1982年に誕生した.

アメリカ車を日本でより多く販売するため,トヨタがGM車を売ることになり,1996年から,3代目のキャバリエの4ドアセダンと2ドアクーペを国内販売したのである.キャバリエは,元気に走るクルマだった.しかし,エンジン騒音はそれなりに大きく,運転操作に対する走行感覚も荒々しい面があった.1989年に国内の自動車税制が改定になり,3ナンバー車への税額が排気量3.0リッター以下は軽減された.とはいえ,キャバリエ自体の質感で,3ナンバー車の税制や経費を自己負担するのは消費者にとってむずかしかった.日米という二国間の経済的均衡を保つことは,クルマにおいてはむずかしく,今日なお解決されずにいる課題のひとつといえるだろう.なぜなら,アメリカ人にとって小さなクルマは興味の対象ではなく,逆に日本では大きすぎるクルマは手に余るからだ.さらに上級車種ならまだしも,廉価な実用車で大きいクルマは一部の関心しか得にくい.<原文抜粋>

CMをバンバン流し,販売店も頑張ったのですが,思うようには売れませんでした.今回のトランプUの場合は,どんな車を売れというのでしょうか……?

アメリカ製自動車部品を日本の工場で使う

一定量買わされた米国産自動車用部品については,トヨタとしては重大な問題がありました.『トヨタ生産方式』では『自働化』という概念から,品質問題は工程内で全て解決し,工程を出たモノは全て合格品になるように工程設計します.言い換えると,万一不良品が発生しても,その工程内で対処し,合格品のみが次の工程に行くようにしてあります.

乗用車の組立ラインでは,1,500〜2,000点/台の部品を組み付けて完成車にします.各部品に0.1%の不良品が混在しても,完成車ベースでは合格車が1台も無いことになります.

ところが,当時のアメリカの経済学には『適性品質』『過剰品質』という概念があり,不良率を0.1%⇒0.01%と下げていくと,製造コストが幾何級数的に増えてくるとし,上限でも3σ(0.3%)位の不良率がコストミニマムであるとされていました.

一方,TOYOTAの現場では,装置産業化されているので,初期設定で不良ゼロにすれば,以下同じ精度で製造できるので,不良率ゼロを追求することが,一番利益になると経験でも実証されていました.

いざ,米国から部品を輸入して見ると,本当に数パーセントの不良品が混じってました.このレベルでは到底トヨタのラインに直接投入できないので,一旦全数検査する工場に送り,そこから組み立て工場に搬入することにしました.

従来のトヨタのサプライヤーからの部品代に比べて,大変高いものになりました.

その後,全米にトヨタ生産方式(Lean生産方式)が行き渡るとともに,自動車業界では,やり取りする部品はあくまでも100%合格品が常識になりました.


以上が第1次・第2次日米自動車戦争の筆者から見たいきさつです.

1997年以降,更に数多くの工場を建設するなど,米国に溶け込むための施策を打っていますが,それは次回をお楽しみにして下さい.

報道機関では,歴史を遡らず,今日のことのみの情報をうわべのみ報道しているのが残念です.

この記事が皆さまの参考になれば幸いです.

尚,連載しています『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』は今回お休みを頂きました.


2025年4月21日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2025年3月

所長の季節のご挨拶

3月になり,日差しが暖かくなってきました.

目をやると,拙宅のさくらんぼが満開になっていました.

春が来た!という感じです.

ふと,高校時代に習った唐の詩人,劉希夷の漢詩を思い起こしました.

『年年歳歳花相似 歳歳年年人不同……』

人間世界はどうなっているか,

目を凝らすと,世の中は新しい方向に動いているようです.

今回はその中から次の2項目を取り上げ,所信を述べたいと思います.

  1. 初任給が30万円を超えた?
  2. 米大統領トランプUがとんでもないことを始めた

先回予告しました『広域(流域)下水道の問題点』は,紙面の都合で来月お話しします.

(1) 初任給が30万円を超えた?

テレビでは,春闘は満額回答が多く,『物価を追い越す賃上げ』に沸いています.

大卒初任給は下図のように1990年頃から20万円が通り相場で,30年あまりのあいだ煙が漂うが如く一定でしたが,今年になって30万円台が続々と現れるようになりました.芝居の文句言えば『こいつは春から縁起がええわい』といったところですが,喜んでばかりはいられません.

停滞していた初任給が急に上がると言うことは,Paradigm Changeが起きたとみるべきです.従来の『年功序列型賃金制度』(勤続年数によって,悪く言えば『休まず・遅れず・仕事せず(敵を作らず)』のまま長居すれば,エスカレーター式に賃金が上がっていく方式)から,『職能給制度』または『職務給』(仕事振りによって昇格し,能力に見合ったまたは役職に見合った給与をもらう一方で,じっとしているだけでは昇給のチャンスはない……という方式)に移っていく事を暗示しています.

新規学卒者初任給(男性,1976〜2019年) (労働政策研究・研修機構(JILPT) HPより引用)

従来の『年功序列型』では,会社は,『大学卒=潜在能力のある人』と考え,現在の個々の能力と関係無く『人材』として一括して採用し,新入社員研修中に人事部が本人の潜在能力を見極め,会社都合で配属を決め,業務をさせながら,OJT教育をして,当時の第一戦で戦えるまでに育て上げていました.この頃は,大学進学率10〜20%しかなく,潜在能力の高い人が多かったこともあり,このやり方で戦後,1960年代から1980年代にかけて日本は驚異的な発展を遂げてきたのでした.

ご存知のように1990年から今日まで30余年間日本は長期低迷に瀕しております.この理由は,会社が闘う相手のレベルが格段に上がった事があり,従来の方式が通用し無くなったことにあります.

1990年代,ある著名な経済学者が,『1980年代までの企業間競争は,スポーツ競技で言ってみれば県大会のレベルであったが,グローバル化された1990年代以降のビジネスの世界はTOP数社のみが覇権を握って商売できると言う,オリンピック大会のような厳しい競争の世界になってしまっていて,メダルを取れなかった企業は退場するしかない厳しい競争になった……』まさにその通りです.

今年は,メジャーリーグの開幕戦が日本で行われることで盛り上がっていますが,その『野球』を例にとれば,どの球団も『年功序列型』のように,『野球の履歴』を問わず新入社員として広く公募して採用しておいて,その中から選手を育てることはしていません.

選手になりたい子供は,小学時代から野球に勤しみ,全身全霊で野球に打ち込み,高校もしくは大学で優秀な成績を修めます.その実力を評価してPro野球球団に採用しています.

ここ10年ほど筆者は中国でコンサル業をしてきましたが,改善の窓口になってくれた部長の経歴を訊くと,大学では名のある先生に師事して学び,学位論文を持って狙いをつけた会社に入社,そこで実績を積むと,次の会社に転職,これを数回繰り返して今の会社の部長職をやっているとか…,複数の会社で様々な体験をしているので,彼等はまさにプロでした.英語はペラペラで,英語を使って世界情勢を把握していますし,ネット上で大変な数の私的な知人を持っていて,そのネットから市場の裏事情を知り,転職の機会を得ている様子でした.

その会社の事務所の壁には個人名が張り出され,週単位の成果が記入されていました.まさに『常在戦場』の厳しい毎日と理解できます.

彼等の通勤に使っているのは,アウディのSUVでサンルーフ付きでした.日本ではおよそ一千万円余します.どれ位の給料をもらっているか想像がつくと思います.

その一方で,その意欲のない人たちは,一生平社員として雑務をこなしています.

そして,毎年,AIを搭載した事務機器が次々と発表されており,凡庸なサラリーマンの居場所は,事務所の中には年々なくなる…というのが,筆者が中国で改革の指導をしていた一流企業の『職能給』の姿でした.

初任給30万円突破という事は,この職能給の世界が日本にも押し寄せてきている…という事です.

『職能給』の世界では,『昔一流大学を出た』は意味が無く『何の資格を持ち,今どんな仕事ができるのか』が問われる時代になったと言う事です.

言い換えれば,お金がありガツガツ稼ぐ必要のない人は,教養を深め,心豊かに生きるために,卒業しても何の資格も得られない『文学部』や『経済学部』に行くのも良いでしょう.ガツガツ稼ぐ必要があれば,専門学校に行き,資格を取って海外で稼ぐのも良いでしょう.因みに,筆者が入試に失敗したらなろうとした『寿司職人』は,今,海外では即月収70万円は固いそうです.

身内に受験生をお持ちの皆さま,先月『豊田佐吉』のお話しの中で,『目的は何か』についてお話ししましたが,『大学進学の目的は何か』に受験生とともにお話しする事をお薦め致します.

(2) 米大統領トランプUがとんでもないことを始めた

先月このコラムで,『心配していました『トランプU』は,大統領選で称えた公約の手前,関税を発表しましたが,具体的には実害を最小限に留める内容のようです.『石破vsトランプ会談』も実現しました.少し安堵しています.』と書きましたが,これは筆者の早とちりでした.

なんと3月になると,カナダ,メキシコ,EUに対し25%の輸入関税を課したのでした.『メキシコの反応は・・・』Copilot(AI)に尋ねると以下の回答がありました.

  1. 報復関税の導入; メキシコは,アメリカからの輸入品に対して報復関税を課すことを発表しました.これにより,アメリカの関税政策に対抗しつつ,自国の経済を守る姿勢を示しています.
  2. 対話の継続 ; メキシコ政府は,アメリカとの対話を重視し,関税問題の解決を目指しています.特に,両国間の協力を強調し,貿易摩擦を最小限に抑える努力を続けています.
  3. 国内政策の強化; メキシコは,麻薬密輸や組織犯罪への取り締まりを強化し,アメリカ側の懸念に対応することで,関税回避の可能性を模索しています.
  4. 経済的影響の緩和策; メキシコ国内の企業や産業に対して,関税の影響を緩和するための支援策を検討しています.これには,サプライチェーンの調整や生産拠点の見直しが含まれます.

メキシコの対応は,冷静さと戦略性を兼ね備えたものとなっており,国際的な協力と自国の利益を両立させることを目指しています.どの側面についてさらに詳しく知りたいですか? それとも別の話題に移りますか?

Copilotはまだまだ使い物にはなりそうもありません.

肝心な報復処置の一部が抜けていました.それは,メキシコが逆に『自動車部品の輸出を停止する』という事です.米国内の工場で生産している自動車は,売値3万ドルの自動車であれば,Supplierからの購入部品は2万ドル近いと言いますが,全世界の自動車産業は今や『Just In Time』調達になって居てSupply・Chain上に余分な在庫は持っていません.米国の自動車工場も例外ではないのです.

最近日本で自動車用ばねメーカーの『中央発條』で爆発事故が起きたため,トヨタとスズキの組立ラインがある期間停まったニュースがありました.このように,Keyとなる部品が1点でも欠品になれば自動車の組立ラインは停めざるを得ないのです.

メキシコ政府は悪知恵を働かせ,国内法に基づいて,自国の保安部品の工程監査を名目でSupplier工場の生産を止めて監査していけば,その部品が例え1ドルでも代替え部品が無ければ,その部品を使うアメリカの組立ラインが停まり,1台3万ドルの自動車が生産できなくなるのです.どうやらメキシコ政府はこの事をワシントンにちらつかせている様子です.これは,自動車会社には堪えます.

カナダは,もっと激しい反応を起こしています.『カナダは米国の51番目の州になるべき』と言う発言がカナダ国民を『反米』に駆り立て,米国製品のボイコットを始め,米国観光まで減少させました.米国で使う石油・ウラン・肥料に輸出関税を掛け,場合によっては供給停止もちらつかせています.決め手は,

  1. 米国のニューヨーク州・ミネソタ州・ミシガン州の家庭と企業はカナダの電力に依存しているといい,25%の上乗せ料金を課し,場合によっては供給停止もありうる.
  2. 米国本土とアラスカ州への物流はカナダ国内の陸路を経由していて,カナダがアラスカの首根っこを握っている状態です.今は通行税増額をちらつかせています.

トランプ大統領は,ウクライナのゼレンスキー大統領を和平交渉の席に着かせるために,Dealとして『軍事情報の遮断』と『武器援助を即刻』停止しました.

トランプがカナダのTopであればDealとして『電力遮断』や『道路封鎖』もあり得ます.と言う事は,追い詰められればカナダの新首相もやりかねず,一触即発の緊張状態が今現在カナダ政府VSワシントンの両国の関税問題の状況になっています.

そして,テスラ株は暴落し,米国株は下落しつつあります.

EUとの駆け引きは省略しますが,トランプが仕掛けた関税戦争を白紙撤回しない限り,全世界はリーマンShock以上の大不況がくると専門家は警鐘を鳴らしています.

筆者が言いたいことは,以下の二件です.

  1. 1971年に『ニクソンショック』として有名ですが,米ドルが兌換機能を停止し,以来1ドル=360円の固定相場制が崩れ,変動相場制になりました.

    今回の『トランプショック』は輸入関税を25%上げると言う暴力?で,相手を脅し,譲歩を引き出そうというモノです.

    今回トランプ大統領が仕掛けた関税戦争は,リーマンショック級の悪影響を全世界に及ぼすと言われています.御社はその準備があるでしょうか.日本への自動車の輸入関税は……?その他の産品に関する関税は……

    それに対する御社の備えはいかがでしょうか?

  2. 3月1日の米国トランプ大統領の突然の25%の輸入関税宣言に対して,メキシコでは2024年10月初の女性大統領として当選したシェインバウム氏が早急に国内世論をまとめ,対抗策を決定し,毅然とした態度でトランプ大統領に対峙したことです.この行いに対して,国民の86%の圧倒的支持を得たと言います.

一方のカナダは,当選したばかりのカーニー新首相が国内世論をまとめ上げ,毅然とした対応策を数日でまとめ上げ,トランプに迫った.同時に,EUと連携を取り,互いの交易により対米依存度を減らす協議を開始したという.

一国のTopとしてLeader-Shipに感服する次第である.

そこで我が国のLeaderに目をやると,関税戦争はどこへやら,10万円の商品券で大もめに揉めている次第.我が国を支えている乗用車の対米輸出に25%の関税を言い出されたらどうするのか,どんな影響があるのか……??

国会もマスコミもただ見守って居るだけに見えます.

万一に備えて事前に国内法を整備する必要があるのに……

静かな事が返って恐ろしいと思って居ます.

どうか日本政府も,密かに準備室を設けて水面下で策を練り,交渉を重ねていて,万一,米国トランプUから関税の宣言が出たら直ちに,カナダやメキシコに劣らぬ,毅然とした回答をし,行動を起こして頂きたいと念じています.

日本国の存亡が掛かっていますから…….

〜以上〜


2025年3月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2025年2月

所長の季節のご挨拶

心配していました『トランプU』は,大統領選で称えた公約の手前,関税を発表しましたが,具体的には実害を最小限に留める内容のようです.『石破vsトランプ会談』も実現しました.少し安堵しています.

この冬一番の寒波が来てる中,その寒さの中で昨日,拙宅の小さな菜園で『菜花』が見つかりました.

青菜は日照時間の変化を読み,菜の花の開花の準備を始めています.この開花に合わせて蝶が蛹から羽化して現れ,花の蜜を吸いながら受粉を助け,葉っぱに卵を産み付けます.産み付けられた卵は孵化して青虫になり次の植物の葉っぱを食べて成長し蛹を経て蝶になることを,春から秋にかけて4〜5回繰り返して蛹で越冬します.一方菜の花は受粉出来たお陰で菜種を実らせ,地中に蒔いて生涯を終えます.

誰が仕組んだかは知りませんが,寿命が1年未満のこの蝶と青菜の2種類の生命体の織りなす現象は,毎年毎年正確に繰り返され,実にめでたいことです.

人間世界では,1月28日に埼玉県八潮市で道路が陥没し,そこにトラックが落下した事故が起きました.関係部署の懸命な努力にもかかわらず,未だに運転席の救出ができずにいます.マスコミではそれを毎日放送していますが,『何故このような事故が起きたのか』『諸外国ではこのようなことは起きているのか』『再発を防ぐにはどうすべきか』と言った建設的な……行政を見直すような報道はなく,『大変だ』『可哀想』『住民の困惑』のみを伝えております.これでは文字通り『埒が開きません』

4半世紀前になりますが,現役の管理職であった頃は,様々な体験をしてきました.TOYOTAの社内では,問題が発見されると必ず『何故・ナゼ・なぜ・Why……』と,その原因を遡り『真因』を徹底的に追求し,その『真因』に対して再発を防ぐための『本対策』考え,実施しておりました.

通常『本対策』は時間が掛かるので,実現するまでの間は,『暫定対策』を行います.

現場に任せ切りにすると,忙しい現場は日常業務に追われ,『暫定対策のレベルでも良いのではないか……』と易きに移り,多くの場合本対策には届きません.そうしている内に『再発』させてしまうのが常です.責任者が強い意志を持って『決めたことを成し遂げていく事』が大事なのです.責任者というのはそのためにいるのです.

よく『安全第一』とか『品質第一』と言われますが,『安全』『品質』は数値化が難しいので,具体的なレベルは経営Topが決めなければいけない」という意味が込められています.

付け加えますと,決めただけでは駄目で,『安全』『品質』の具体的レベルは,トップ自らがある頻度で確認する必要があります.業務監査という行事はその一つです.

因みに今のTOYOTAの車両品質は,章男会長が自ら『マスタードライバー』の任に就き,自社の試作車を自ら運転し,品質と安全を確認して『GO!』サインを出し,時には抜き取り検査的に自社製品に乗っている……と言います.それ故,普段はレクサスやクラウンのような高級車に乗っていては評価の軸が崩れるとして,他社製の軽四や大衆車にも乗って,今の市場の動向を掴んだ上で,自社製品を評価していると聞いています.TOYOTAの哲学『現地現物』の極みと言えます.

このような『トヨタ流ものの見方・考え方』から今回の道路陥没事故を,『そもそも論』から考えて見ましょう.

各家庭には一般的には下記のように8種類のライフラインが接続されています.

  1. *電線 (100V,200V)
  2. *通信線 (光ファイバー)
  3. ガス管 (燃料用都市ガス,プロパンガス)
  4. 上水道管 (飲料水)
  5. 下水道管 (生活排水,汚水)
  6. 雨水管 (雨水)
  7. *電話線 (銅線)
  8. *その他 (ケーブルテレビ等)

各々の所轄官庁が違うこともあり,各ライフラインが個別に国交省管轄の道路に許可を受け,各々が勝手に埋設しています.

*印は電柱等を経て空中で分配している場合が多いのですが,10年前まで住んでいた駒込駅付近では写真のようになっていました.

右側の写真は,電線・電話線・光ファイバー線が入り乱れて居る状況の例,家が建ったり,新規設備を導入したりするたびに請け負った業者がそれぞれの方法で配線したために,このような複雑な形になってるのだと思います.

もし地震で電柱が倒れたら,どのような手順でどのように配線していったらいいのか誰も説明できない状態になっているのだと思われます.

左側の写真は,民家の頭上に6,600Vの高圧送電線と,110V家庭用送電線が張り巡らされていて,細い電柱の上の大きな変圧器で6,600Vから110Vに降圧している状態を撮影したものです.

地震で電柱が倒れて民家の上に覆いかぶさると,この変圧器が民家に落下することになります.変圧器の重さと6,600Vの送電線が,住民の上に覆い被さりますから,タダで済むはずがありません.想像するだけで恐ろしくなります.

それで私は10年前名古屋市の丘陵地帯の現住所に引っ越しました.

これらライフラインは,諸外国ではどうなっているのでしょうか?

米国,西洋諸国には電柱が無いのは常識です.中国は北京・上海は大都会だから電柱は無いと予想できますが,地方都市はどうかとお思いでしょう?

次の写真は,2024年6月の河南省新郷市の風景です.写真に写っている2輪車,3輪車,小型の4輪車は,ポンコツ再生の鉛バッテリー式のEVです.いわゆるゴルフカートで,安くて通勤用には便利なので,都市交通の庶民の足になって居ます.

中国のEVの躍進が話題になっていますが,その原点は,これらのゴルフカートまがいの小型車にあると思います.

話を道路に戻しますと,車はゴミゴミしていますが,道路はすっきりしています.電柱は一切ありません.道路環境は欧米先進国と同じです.東京とは違います.

下図は横浜市のHPからの引用ですが,左が現状の電柱と『個別地中埋設型』のライフラインを,右側は道路に大きなトンネル『共同溝』を設け,その中に各ライフライン(1)〜(8)を整然と並べ,常時点検と修理できるようにしたものです.

共同溝のイメージ (横浜市HPより引用)

共同溝には,道路両側の雨水溝を大きくして活用するタイプもあり,現場の状況によって様々なバリエーションがあるようです.

従来の『個別埋設方式』は,3月末日の年度末にあわせて,個別のライフラインが点検周期毎に道路を掘り返し,埋め戻しております.(1)〜(8)のライフラインは監督官庁が違うので協力体制が組みにくく,共同溝方式が望ましいことは分かっていても,船頭が多くて未だ一部地域しか実現してないようです.

毎年,『国土強靱化予算』が総額で5兆円ほど計上されています.てっきりライフラインの共同溝化が大きな柱になっていると思いましたが,調べてみますと,議員さんが地元の要求で勝ち取る予算のことのようで,肝心のライフラインの共同溝化は入っていませんでした.

東南海地震,首都直下型地震等々が迫ってきているという中で,今年もあちこちの道路を掘り起こし,ライフラインの点検修理を行っています.平均寿命が80歳を超えた日本の社会で,菜の花と蝶のように毎年同じ事の繰り返しでは能がありません.日本も諸外国のように,ライフラインの共同溝化に向けて歩み出すときと思います.

マスコミは,本来の『ジャーナリズム魂』を呼び起こし,道路陥没事故を,『日本国の国土強靱化のメインテーマの一つ』として取り上げ,国家として何時までに,何処まで共同溝化していくか』をフォローしてほしいものです.

2024年度の訪日観光客は3千万人を超えるとか……と言う事は,林立する電柱と,蜘蛛の巣のような電線,毎年掘り起こす道路を,珍しい景色として彼等に自慢して見せるのか,恥ずかしいこととして一刻も早く直すのか,その決断を世界が見ていると考えなければなりません.

次回は,バブル時代に論争になった『浄化槽方式』『広域下水同方式』の違いを『本流トヨタ方式』で論じます.

最後に,不明になっている運転席の一刻も早い回収を念じております.


2025年2月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2025年1月

2025年 所長の年頭ご挨拶

皆様 あけましておめでとうございます.

OneDriveにメモリーをかき回され対応に多忙を極め,年始のご挨拶が遅れてしまいました.まずお詫び申し上げます.

昨年の年頭挨拶で下記の【A】〜【E】までをお話ししました.

  • 【A】昨年から始まったウクライナ戦争,ロシアが勝利する?
  • 【B】今起きているイスラエルのガザ攻撃で世界が変わった
  • 【C】異常気象が急速に拡大している事実
  • 【D】世界人口の爆発
  • 【E】『異常気象』と『世界人口の増加』と『宗教』の関係

『異常気象』は人為的に作り出されたと言う風潮ですが,1万年前の氷河期では人類はマンモス狩りをし,数千年前の温暖な縄文時代の三内丸山遺跡では,海面は現在よりも19m高かった(縄文海進)と言います.これは厳然たる事実です.そもそも,46億年の地球の歴史を見たとき,高温で植物が繁茂した時代もあれば,地表が氷で覆われる氷河期を繰り返しています.その激変の中で,30億年前単細胞だった『生命』は自らを進化させることで生き延び,今日に至っているのです.

一方,ヒトに着目しますと,直接の祖先は約20年万年前にアフリカに誕生したと言われ,その後全世界に広がり,近場で言えば1950年25億人だったものが,2000年では61億人,2024年では80億人を突破し,今なお増加しています.地球上の人口急増こそが,すべての根底にある問題点で,なおかつ地球上の人類自身の手で解決できる問題なのです.

ところが,『妊娠は神の意志』と信じる一神教信者が全人口の6割を超えていて,当面は解決しない問題であろうと想像がつきます.そうであれば,この厳しい状況の中で我が社だけでも,我が地方だけでも救うことができる,ノアの方舟ならぬ小舟というものを考えてみたい……と話をしました.

2024年元旦に能登大地震が発生,防災体制の不備が一挙に露呈しました.と言うのは,29年前の1995年田中は物流管理部長の職あって体験した,『阪神淡路大震災』と,全く同じ事が繰り返されていたのです.この驚きと怒りで田中にとって『ノアの小舟』どころではなくなったのでした.

1995年阪神淡路大震災で田中が体験した事を以下申し上げます.

火災現場に向かう消防車が,道路に落下した障害物で進行を妨げられ場合,その道路の両側は私有地なので,道路を開けるために障害物をその私有地にずらすことも,障害物を避けるために私有地にはみ出して運転することも禁止されていました.消防車や救急車は,道路のみで行ける道を懸命に探しながら救援にあたってました.

29年経った後の今回の能登でも全く同じで,不通箇所の開通には,両側の私有地に乗り入れができないことがNeckとなったようです.また,公団道路・国道・県道・市町村道・林道・農道・港湾道路と管理者が違い,更に道路信号は公安委員会と8機関に分かれていて合意が無いと新しい救援ルートは開通できないのです.

一方で,30年前トヨタの中はどのような対応をしていたかというと,震災発生の当日,『現場改善指導』の為に出張していた主査から,神戸『富士通テン』のラジオ,大坂『住友電工』の配線の生産ラインが,壊滅的被害を受けている旨の報告が,生産担当副社長のところに入りました.

副社長は直ちに対策本部を立ち上げ,事務局を生産管理部長に任命しました.事務局からトヨタ系の全工場に向けて,直ちに全生産ラインを停め,棚卸を実施し,本部に報告させました.ここにトヨタ生産方式の本領が発揮されるわけですが,細部は後日報告しますが,とりあえず一週間の全ライン停止が決定されました.

この,異常があったら直ちに生産ラインを止め,実態を把握し原因を対策しあと,ラインを再稼働する……というのがトヨタの大鉄則で,これが実施されたのでした.

ラインを止めることによって,日頃できなかった安全教育や技能訓練,設備改造等々が出来るのです.トヨタの管理会計制度としては,他責によるライン停止は自工程の製造工数には計上されませんので,現場の管理者としては『無料で現場の工数を使い』自職場の運営体制の補強が実現できるわけですから,願ってもないチャンスなのです.

この辺のトヨタ独自のやり方については,今年から始める新シリーズ『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』で詳しく説明していく予定でいます.

話を阪神淡路大震災に戻しますと,トヨタの全工場が1週間停止することになれば,物流管理部の管轄している3隻のRORO船が暇になります.当局から許可をいただいている航路は,豊橋港⇔名古屋港⇔博多港ですが,『救援物資を乗せたトラックを神戸港までお届けしましょうか』と当局に提案しましたところ,新しい港への寄港申請は二ヶ月前に届け出ることと言って断られてしまいました.

これと対照となるのが米国政府の動きです.日本から米国に向けて完成車を輸出するために特殊な形状の自動車運搬船を多数使っていますが,ある日米国政府からの申し出があって,有事の際,米国の軍事物資を運ぶ契約を結んでくれれば,日常の航行に関して米国軍部からなにがしかの補助金を出すという提案がありました.有事というものに対する発想の違いをひしひしと感じたのでした.

小型漁船は,陸揚げして船底塗装し直せるように出来ていますので,岸壁が破損しても砂浜であれば容易に荷卸しが出来ますが,管轄が水産庁ですので水産物しか運べません.一般貨物を運ぶためには,陸運局の事前の許可を得る必要があります.これが救援を遅らせた一因と思うと残念です.

部長の役職定年者四名で漁船を買い,毎週のように三河湾で釣りをしていた頃

災害は,能登半島のあと,東南海地震,東京直下型地震,富士山の爆発等,かなりの確率で予想され,石破内閣が『防災庁』を設置するとか言われています.期待して見守っています.

12月になって,突然天下のNISSANがHONDAの軍門に降ると受け取れるような発表がありました.田中がトヨタ内で改革をすすめる折りも,NISSANを意識し,ものつくり大学教授として教鞭を執るときも,トヨタ生産方式のアンチテーゼとしてNISSAN生産方式を挙げ,2004年から2023年までの東大MMRCでも,トヨタとNISSANを対比して論じてきました.田中にとって重大な研究テーマでもあったわけです.

それで2025年は,連載講座として『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』をテーマにしていきたいと考えています.どうぞご期待ください.


2025年1月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2024年1月

2024年 所長の年頭ご挨拶

皆様 明けましておめでとうございます.

長期低迷を打破するために,官民挙げて物価上昇を超える賃上げの必要性が謳われ,年末の株価は34年振りの高値を付け,2024年度の成長を予感させています.

どうやら永年続いた異次元の金融緩和の呪縛から外れ,金利のある世界へ戻ろうとしている実感があります.経営体質の変革を成し遂げた会社に取っては,希望に満ちた新年でしょう.旧態然のまま,金利と賃金の上昇を迎える会社との差が益々大きくなりつつあります.

貴社は当然,なすべき社内改革をやり遂げ,次なる高みを目指して龍の如く駆け上がる準備は完了していると思います.益々の御発展を祈るばかりです.


日本は農業国で,豊かな自然に恵まれ,春夏秋冬季節の変化がハッキリしており,時には地震や噴火,台風,干魃もありますがすぐに平常に戻っていました.

そこで日本には『明けない夜はない』とか,『待てば海路の日和あり』といった諺が大手を振って闊歩していて,災害に遭っても壊れた部分を修理さえしておけば,後はかっての日常に戻ることが出来る……という潜在意識が強いのも事実です.

1990年以降の日本の長期凋落の原因はそこにあるという指摘もあります.

弊社は弊社なりに世界情勢を俯瞰して洞察を重ねた結論として,『ガザ空爆攻撃以降,世界は『未知の・経済大混乱』に向けて突入し始めた』という結論に達しました.

以下その理由【A】,【B】,【C】,【D】,【E】を申し述べます.

【A】昨年から始まったウクライナ戦争,ロシアが勝利する?

世界の世論は『正義は勝つ』と信じ,ロシアがウクライナから撤退すると考えてきましたが,米国・EUの支援疲れで,いずれウクライナはロシア領になる公算が大きくなりました.その戦果として黒海の制海権・ウクライナの農業・工業を手中に収める.その勢いでモルドバ・ルーマニア・ブルガリア・ハンガリーを勢力圏に組み込む.そして,全世界を『エネリギーと食料を餌にして人口増で悩むこの地球を支配していく…….プーチンが大統領に再選されその任期2030年までにその形ができていく……というシナリオが現実味を帯びてきました.

【B】今起きているイスラエルのガザ攻撃で世界が変わった

この攻撃では既に2万人余の子供を含めた一般市民を犠牲にしているとされ,その映像が全世界に配信されています.1970年代の第T次中東戦争では,石油ショックを引き起こし,世界経済に激震が走りました.今回のガザ攻撃は,イスラエルのパレスチナ殲滅作戦ではとも受け止められ,パレスチナと同じ宗教である全世界のイスラム教徒(世界人口の23%)の強い反感を買っています.

一方,ユダヤ人1400万人の内イスラエルに630万人,米国に570万人居るとされていますが,彼等は米国の政界に食い入り強い影響力を発揮しているとされています.一方,旧約聖書(ユダヤ教の聖書)と新約聖書を信仰の源とする米国福音派は,全米の25%を占める巨大組織で,ユダヤ教と近しい関係にあるとされ,この関係が,国連安全保障理事会で,停戦案にひとり米国のみが拒否権発動となったと言われます.

このような背後関係で,ガザ攻撃が続くほど,世界のLeaderとして君臨してきた米国の権威が失墜していく事になるのです.言い換えれば,日本経済が恩恵を受けてきた米国の自由主義経済圏の勢力が衰え,中国のような権威主義経済圏が力を増して来るという事です.

【C】異常気象が急速に拡大している事実

マスコミでは『地球温暖化が進んでいる,阻止する為には炭酸ガスの排出を○○まで減らさなければいけない』という単純な話になっていますが,これは世界の金融機関が投資を引き出すための戦略であると考えた方が良く,地球の気象というのはそんな生易しいものではありません.

メートル法は地球の北極から赤道までの距離を1万kmとして導かれて居ますから,1周4万km,従って地球の半径は6,366kmとなります.一方,地球を取り巻く大気の厚みは地表から100kmとされています.しかし地表から約10kmまでが,地表の蒸気で雲ができたり,それが雨になったり雪になったりするいわゆる『対流圏』で,その上空には『地表の天候』には余り関与しない成層圏があります.

地球の天候とは半径6,366kmの地球,表面が8,000mを越えるヒマラヤ山脈や,4,000越の南極大陸の山,巨大な太平洋とその沿岸にそそり立つロッキー山脈やアンデス山脈等々で,流れを妨げられながら,地表から10kmの厚みの空気が地表の回転と共に半日は太陽の光を受けながら,どのような挙動をするかが,その複雑な空気の流れを解明するのが『地球気象学』です.

数多くのスーパーコンピューターを組み合わせることによって地球全体の気象変化をシュミレーションできると信じながら世界中の科学者が挑戦していて,そのコンピューターのことを『地球シミュレーター』と呼んでいます.

残念ながら,未だに解き明かしたという情報は聞いておりせん.例えばアマゾンの熱帯雨林百ヘクタールを牧畜業の草原に変えたとします.その土地から発する熱量・水分量・空気抵抗等が変わります.この変化は全地球の厚さ10kmの対流圏内の今までの空気の流れそのものを変えてしまいます.今年,霧雨しか降らなかったイギリスに豪雨があり,鉄道のトンネルが水没したとか,オーストラリやの草原が大洪水で湖と化し,カンガルーが溺死した等のニュースが飛び込んできますが,現在の地球シミュレーターでは何が原因かを特定できるところまで行っていないので,野放しになって居るのが現状です.やったモノ勝ちで,森林破壊は毎日進行しています.

【D】世界人口の爆発

『ヒトはこうして増えてきた−20万年の人口変遷史』(大塚隆太郎/新潮社)をもとに,田中の知見を加え,更に主な宗教の教祖の年代を加味しますと新しい発見があります.

  1. ヒトが誕生の地アフリカ大陸から世界に旅だった1万年前頃は,マンモスが闊歩する氷河期で,狩猟採取生活の限界近く,世界人口は高々800万人だったと推定される.
  2. やがて地球はドンドン温暖化し,現代より高い気温になり,海面は上昇してきて(日本では縄文海進として,その海岸線は把握されて居る).ヒトは定住するようになり,浜辺で漁労採取が始まり,内陸部では農耕が始まりました.約5千年前に大河の河畔にエジプト・メソポタミア・インダス・中国の古代文明が誕生します.推定世界人口は約1千万人とされています.
    ちなみに紀元前17世紀,遊牧民であったユダヤ人の族長アブラハムが,『神』の声を伝える形で『ユダヤ教』が始まりました.やがてその教えは『モーゼの十戒を守れば神から守られた民になる』という選民思想になり,他の宗教から疎まれる存在になって行くのでした.
    それから約千年後の紀元前6世紀にインドシャカ族の王子が仏教を始めました.王子であるから何一つ不自由しないはずなのに,ヒトには誰も『愛する人を失うなど8つの苦しみがある』として,それを乗り越えていく方法を説いたのでした.
  3. 今から約2千年前,ローマ帝国が隆盛を極め,シーザーやクレオパトラが活躍した時代(BC30年頃)からキリスト処刑(AD30年頃)の頃の世界人口は約3億人と言われています.
    ユダヤ教では,やがて神の使いである救世主があらわれ,救ってくれると信じられてきましたが,ユダヤ教徒であるキリストが,自らを神の子と称しながら,新しい解釈を広めていったので,怒ったユダヤ教徒が,ローマに対する反逆罪で告発し,ローマ政府に磔の刑をさせたとされ,弟子達がキリストの新しい解釈を集め『新約聖書』とし,キリスト教として広めました.キリスト教徒に中では,死に追い遣ったユダヤ教に反感を持つ人も多いといいます.
  4. その後,天候不順が引き金とされていますが民族の大移動が顕著になります.これによりローマ帝国は東西に分裂し,東ローマ帝国が欧州のLeader Shipを握ります.この頃,マホメットによりイスラム教が開始されます.中国には巨大な国際国家『唐』が台頭します.世界人口は横ばいだったとされています.
  5. 中世になると,鉄製の農機具が普及し,農業も進歩し多くの人を養えるようになっていきます.その一方でペストが流行ったり,数多くの戦争を行われるようになり,世界人口は穏やかな成長といったところでした.
  6. 16世紀になると,米大陸の発見,トマト・ポテト・トウモロコシ等が新大陸からもたらされ,食料として直接口に入れるもの,家畜の飼料として活用し,乳製品や肉類として食するものなどヨーロッパにおいては食生活に大変革をもたらしました.そしてその文化は全世界に広がっていきました.新天地を求めて米大陸に移住するものを増え,世界の人口は順調に増えてきました.18世紀中頃で推定人口7.2億人とされています.
  7. 産業革命が起こり,家内制工業が工場制工業になり,労働生産性は飛躍的に伸びました.1914年から始まった第一次世界大戦で,男性が戦場に取られる中,残された女性だけで武器弾薬を含む生産現場を守ったことから,女性の産業界進出が進み,産業構造が一変しました.大戦後,『ロシア帝国』が革命でソビエト連邦になり,『ドイツ帝国』『トルコ帝国』『オーストリー・ハンガリー帝国』は解体し数多くの共和国になりました.第T次世界大戦の戦場に武器弾薬を売り付けた米国は巨万の富を手に入れ,驚異的な発展を遂げ,世界経済の中心に躍り出ることになります.
    1939年から始まった第U次世界大戦では,戦場は欧州大陸,イギリス,アフリカの植民地,アジアの植民地,太平洋の植民地等全世界に拡大され,日本本土も焼け野原になりました.戦争による死者数は5千万人とも言われます.1950年は第U次世界大戦の戦後処理が終わった時期でもありますが,この時の世界人口は25億人で,国連加盟数は60カ国でした.
  8. 世界人口が倍の50億人に達したのは1987年で,この年までの旧植民地が次々と独立し,連加盟国数は159カ国でした.言い換えれば欧米の植民地支配で抑えられてきた国力が,独立することによって解き放たれ,一気に人口増加に繋がったともいえます.
  9. 2022年11月世界の人口は80億人を超えました.その一方で,健康的な食事に手が届かない人々の数は2020年で約31億人に達すると言います.

【E】『異常気象』と『世界人口の増加』と『宗教』の関係

誰も触れたがらぬ『人口増』と異常気象の関係についてお話ししましょう.

野生動物は同じ場所に長時間滞在すると天敵に狙われやすいので,草原では大きく育った草を要領よく食べて,次の餌場に移っていきます.だから草原と草食動物は共存共栄できるのです.

一方家畜は,移動が制限された中での食事ですので,根こそぎ食べてしまい,豊かな草原は不毛の砂漠と化してしまいます.砂漠が拡大すると天候そのものがわってしまい,雨が降らなくなり,ますます砂漠化がんでいきます.これが今アフリカ大陸で起きている砂漠化の現象です.人口増が原因です.


次に,宗教と人口増の関係を調べてみましょう.以下の文章は旧約聖書の創世記の一部をネットから引用したものです.

神はノアとその息子たちを祝福して言われた.

「産めよ,増えよ,地に満ちよ.あらゆる地の獣,あらゆる空の鳥,あらゆる地を這うもの,あらゆる海の魚はあなたがたを恐れ,おののき,あなたがたの手に委ねられる.命のある動き回るものはすべて,あなたがたの食物となる.あなたがたに与えた青草と同じように,私はこれらすべてをあなたがたに与えた.ただ,肉はその命である血と一緒に食べてはならない.また,私はあなたがたの命である血が流された場合,その血の償いを求める.あらゆる獣に償いを求める.人に,その兄弟に,命の償いを求める.人の血を流す者は人によってその血を流される.神は人を神のかたちに造られたからである.あなたがたは,産めよ,増えよ.地に群がり,地に増えよ.」

神はノアと,彼と共にいる息子たちに言われた.

「私は今,あなたがたと,その後に続く子孫と契約を立てる.また,あなたがたと共にいるすべての生き物,すなわち,あなたがたと共にいる鳥,家畜,地のすべての獣と契約を立てる.箱舟を出たすべてのもの,地のすべての獣とである.私はあなたがたと契約を立てる.すべての肉なるものが大洪水によって滅ぼされることはもはやない.洪水が地を滅ぼすことはもはやない.」

さらに神は言われた.「あなたがた,および,あなたがたと共にいるすべての生き物と,代々とこしえに私が立てる契約のしるしはこれである.私は雲の中に私の虹を置いた.これが私と地との契約のしるしとなる.私が地の上に雲を起こすとき,雲に虹が現れる.その時,私は,あなたがたと,またすべての肉なる生き物と立てた契約を思い起こす.大洪水がすべての肉なるものを滅ぼすことはもはやない.雲に虹が現れるとき,私はそれを見て,神と地上のすべての肉なるあらゆる生き物との永遠の契約を思い起こす.」神はノアに言われた.「これが,私と地上のすべての肉なるものとの間に立てた契約のしるしである.」


(創世記 9:1-17)『聖書 聖書協会共同訳』より引用

この言葉にあるように,一神教では神はヒトを創り,ヒトのために大自然を創ったとなります.だからヒトは大自然を思う存分活用してよい,生き物は殺して喰ってよい,という解釈になります.

『産めよ 増やせよ 地に満ちよ』というのは,神の命で夫婦は子づくりに努めなければならない.妊娠するか否かは神の意志であり,人間が介在してはいけない……とう事を意味し,ユダヤ教,キリスト教,イスラム教共に避妊は禁じられています.米国の人工妊娠中絶反対運動はここから来ています.ちなみにイスラエルの女性の出生率は2.90人/人で,先進国ではTOP(カナダ1.4,米1.64)になっています.

『私はあなたがたの命である血が流された場合,その血の償いを求める.あらゆる獣に償いを求める.人に,その兄弟に,命の償いを求める.人の血を流す者は,によってその血を流される.神は人を神のかたちに造られたからである.』というのは,『神は自分の姿に似せてヒトを創った,そのヒトの血を流させた相手は,獣だろうが,人だろうがその兄弟を含め命の償いを求める』と理解出来,ハマスの攻撃を受けたイスラエルが,パレスチナ人の子どもや市民を2万人余殺害しても平然と攻撃をやめずに居る,その根拠はこの聖書の言葉に従っているからだ,と理解出来ます.


【A】,【B】,【C】,【D】,裏側に【E】で述べた一神教があり,その一神教の信者は地球人口80億人の55%にも達しています.肝心の『国際連合』は何の力を持たない事が分かった現在,我々民間企業は,これから益々激しくなる『異常気象』と,『人口増』による『飢餓,国境紛争,大量の難民』という嵐をどう生き延びるか……がこれからの課題になります.

旧約聖書によれば,神の啓示によってノアは巨大な方舟を造り,その中に残すべき大切なモノを積み込んで洪水を乗り切り,子孫を増やしたとありますが,我々世俗人ができるのは,自社のみを洪水から守る,『小舟』しかできません.


次回は来る混迷を乗り切る為の方策『ノアの小舟』について考えましょう.


2024年1月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知