連載コラム『TOYOTAとNISSANの歴史をJコスト論で斬る』目次はこちら
- 2025年 3月31日公開
- 第 3回目 豐田喜一郎が『トヨタ自動車』を創業する
- 2025年 2月24日公開
- 第 2回目 豊田佐吉が『豐田式G型自働織機』を完成させる
- 2025年 1月18日公開
- 第 1回目 はじめに
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16回目まで掲載し中断中、25年3月から再開を予定しています。
お楽しみにお待ちください。
3月になり,日差しが暖かくなってきました.
目をやると,拙宅のさくらんぼが満開になっていました.
春が来た!という感じです.
ふと,高校時代に習った唐の詩人,劉希夷の漢詩を思い起こしました.
『年年歳歳花相似 歳歳年年人不同……』
人間世界はどうなっているか,
目を凝らすと,世の中は新しい方向に動いているようです.
今回はその中から次の2項目を取り上げ,所信を述べたいと思います.
先回予告しました『広域(流域)下水道の問題点』は,紙面の都合で来月お話しします.
テレビでは,春闘は満額回答が多く,『物価を追い越す賃上げ』に沸いています.
大卒初任給は下図のように1990年頃から20万円が通り相場で,30年あまりのあいだ煙が漂うが如く一定でしたが,今年になって30万円台が続々と現れるようになりました.芝居の文句言えば『こいつは春から縁起がええわい』といったところですが,喜んでばかりはいられません.
停滞していた初任給が急に上がると言うことは,Paradigm Changeが起きたとみるべきです.従来の『年功序列型賃金制度』(勤続年数によって,悪く言えば『休まず・遅れず・仕事せず(敵を作らず)』のまま長居すれば,エスカレーター式に賃金が上がっていく方式)から,『職能給制度』または『職務給』(仕事振りによって昇格し,能力に見合ったまたは役職に見合った給与をもらう一方で,じっとしているだけでは昇給のチャンスはない……という方式)に移っていく事を暗示しています.
従来の『年功序列型』では,会社は,『大学卒=潜在能力のある人』と考え,現在の個々の能力と関係無く『人材』として一括して採用し,新入社員研修中に人事部が本人の潜在能力を見極め,会社都合で配属を決め,業務をさせながら,OJT教育をして,当時の第一戦で戦えるまでに育て上げていました.この頃は,大学進学率10〜20%しかなく,潜在能力の高い人が多かったこともあり,このやり方で戦後,1960年代から1980年代にかけて日本は驚異的な発展を遂げてきたのでした.
ご存知のように1990年から今日まで30余年間日本は長期低迷に瀕しております.この理由は,会社が闘う相手のレベルが格段に上がった事があり,従来の方式が通用し無くなったことにあります.
1990年代,ある著名な経済学者が,『1980年代までの企業間競争は,スポーツ競技で言ってみれば県大会のレベルであったが,グローバル化された1990年代以降のビジネスの世界はTOP数社のみが覇権を握って商売できると言う,オリンピック大会のような厳しい競争の世界になってしまっていて,メダルを取れなかった企業は退場するしかない厳しい競争になった……』まさにその通りです.
今年は,メジャーリーグの開幕戦が日本で行われることで盛り上がっていますが,その『野球』を例にとれば,どの球団も『年功序列型』のように,『野球の履歴』を問わず新入社員として広く公募して採用しておいて,その中から選手を育てることはしていません.
選手になりたい子供は,小学時代から野球に勤しみ,全身全霊で野球に打ち込み,高校もしくは大学で優秀な成績を修めます.その実力を評価してPro野球球団に採用しています.
ここ10年ほど筆者は中国でコンサル業をしてきましたが,改善の窓口になってくれた部長の経歴を訊くと,大学では名のある先生に師事して学び,学位論文を持って狙いをつけた会社に入社,そこで実績を積むと,次の会社に転職,これを数回繰り返して今の会社の部長職をやっているとか…,複数の会社で様々な体験をしているので,彼等はまさにプロでした.英語はペラペラで,英語を使って世界情勢を把握していますし,ネット上で大変な数の私的な知人を持っていて,そのネットから市場の裏事情を知り,転職の機会を得ている様子でした.
その会社の事務所の壁には個人名が張り出され,週単位の成果が記入されていました.まさに『常在戦場』の厳しい毎日と理解できます.
彼等の通勤に使っているのは,アウディのSUVでサンルーフ付きでした.日本ではおよそ一千万円余します.どれ位の給料をもらっているか想像がつくと思います.
その一方で,その意欲のない人たちは,一生平社員として雑務をこなしています.
そして,毎年,AIを搭載した事務機器が次々と発表されており,凡庸なサラリーマンの居場所は,事務所の中には年々なくなる…というのが,筆者が中国で改革の指導をしていた一流企業の『職能給』の姿でした.
初任給30万円突破という事は,この職能給の世界が日本にも押し寄せてきている…という事です.
『職能給』の世界では,『昔一流大学を出た』は意味が無く『何の資格を持ち,今どんな仕事ができるのか』が問われる時代になったと言う事です.
言い換えれば,お金がありガツガツ稼ぐ必要のない人は,教養を深め,心豊かに生きるために,卒業しても何の資格も得られない『文学部』や『経済学部』に行くのも良いでしょう.ガツガツ稼ぐ必要があれば,専門学校に行き,資格を取って海外で稼ぐのも良いでしょう.因みに,筆者が入試に失敗したらなろうとした『寿司職人』は,今,海外では即月収70万円は固いそうです.
身内に受験生をお持ちの皆さま,先月『豊田佐吉』のお話しの中で,『目的は何か』についてお話ししましたが,『大学進学の目的は何か』に受験生とともにお話しする事をお薦め致します.
先月このコラムで,『心配していました『トランプU』は,大統領選で称えた公約の手前,関税を発表しましたが,具体的には実害を最小限に留める内容のようです.『石破vsトランプ会談』も実現しました.少し安堵しています.』と書きましたが,これは筆者の早とちりでした.
なんと3月になると,カナダ,メキシコ,EUに対し25%の輸入関税を課したのでした.『メキシコの反応は・・・』Copilot(AI)に尋ねると以下の回答がありました.
メキシコの対応は,冷静さと戦略性を兼ね備えたものとなっており,国際的な協力と自国の利益を両立させることを目指しています.どの側面についてさらに詳しく知りたいですか? それとも別の話題に移りますか?
Copilotはまだまだ使い物にはなりそうもありません.
肝心な報復処置の一部が抜けていました.それは,メキシコが逆に『自動車部品の輸出を停止する』という事です.米国内の工場で生産している自動車は,売値3万ドルの自動車であれば,Supplierからの購入部品は2万ドル近いと言いますが,全世界の自動車産業は今や『Just In Time』調達になって居てSupply・Chain上に余分な在庫は持っていません.米国の自動車工場も例外ではないのです.
最近日本で自動車用ばねメーカーの『中央発條』で爆発事故が起きたため,トヨタとスズキの組立ラインがある期間停まったニュースがありました.このように,Keyとなる部品が1点でも欠品になれば自動車の組立ラインは停めざるを得ないのです.
メキシコ政府は悪知恵を働かせ,国内法に基づいて,自国の保安部品の工程監査を名目でSupplier工場の生産を止めて監査していけば,その部品が例え1ドルでも代替え部品が無ければ,その部品を使うアメリカの組立ラインが停まり,1台3万ドルの自動車が生産できなくなるのです.どうやらメキシコ政府はこの事をワシントンにちらつかせている様子です.これは,自動車会社には堪えます.
カナダは,もっと激しい反応を起こしています.『カナダは米国の51番目の州になるべき』と言う発言がカナダ国民を『反米』に駆り立て,米国製品のボイコットを始め,米国観光まで減少させました.米国で使う石油・ウラン・肥料に輸出関税を掛け,場合によっては供給停止もちらつかせています.決め手は,
トランプ大統領は,ウクライナのゼレンスキー大統領を和平交渉の席に着かせるために,Dealとして『軍事情報の遮断』と『武器援助を即刻』停止しました.
トランプがカナダのTopであればDealとして『電力遮断』や『道路封鎖』もあり得ます.と言う事は,追い詰められればカナダの新首相もやりかねず,一触即発の緊張状態が今現在カナダ政府VSワシントンの両国の関税問題の状況になっています.
そして,テスラ株は暴落し,米国株は下落しつつあります.
EUとの駆け引きは省略しますが,トランプが仕掛けた関税戦争を白紙撤回しない限り,全世界はリーマンShock以上の大不況がくると専門家は警鐘を鳴らしています.
筆者が言いたいことは,以下の二件です.
1971年に『ニクソンショック』として有名ですが,米ドルが兌換機能を停止し,以来1ドル=360円の固定相場制が崩れ,変動相場制になりました.
今回の『トランプショック』は輸入関税を25%上げると言う暴力?で,相手を脅し,譲歩を引き出そうというモノです.
今回トランプ大統領が仕掛けた関税戦争は,リーマンショック級の悪影響を全世界に及ぼすと言われています.御社はその準備があるでしょうか.日本への自動車の輸入関税は……?その他の産品に関する関税は……
それに対する御社の備えはいかがでしょうか?
3月1日の米国トランプ大統領の突然の25%の輸入関税宣言に対して,メキシコでは2024年10月初の女性大統領として当選したシェインバウム氏が早急に国内世論をまとめ,対抗策を決定し,毅然とした態度でトランプ大統領に対峙したことです.この行いに対して,国民の86%の圧倒的支持を得たと言います.
一方のカナダは,当選したばかりのカーニー新首相が国内世論をまとめ上げ,毅然とした対応策を数日でまとめ上げ,トランプに迫った.同時に,EUと連携を取り,互いの交易により対米依存度を減らす協議を開始したという.
一国のTopとしてLeader-Shipに感服する次第である.
そこで我が国のLeaderに目をやると,関税戦争はどこへやら,10万円の商品券で大もめに揉めている次第.我が国を支えている乗用車の対米輸出に25%の関税を言い出されたらどうするのか,どんな影響があるのか……??
国会もマスコミもただ見守って居るだけに見えます.
万一に備えて事前に国内法を整備する必要があるのに……
静かな事が返って恐ろしいと思って居ます.
どうか日本政府も,密かに準備室を設けて水面下で策を練り,交渉を重ねていて,万一,米国トランプUから関税の宣言が出たら直ちに,カナダやメキシコに劣らぬ,毅然とした回答をし,行動を起こして頂きたいと念じています.
日本国の存亡が掛かっていますから…….
〜以上〜
2025年3月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知