2021年1月
2021年 年頭のご挨拶
遅ればせながら,年頭の御挨拶を申し上げます.
御社のますますのご発展をお祈りいたしますとともに,本年も相変わらずのお引き回しの程をお願いいたします.
ところで,正月の伝統の七草粥を心静かに味わっていたとき,ものづくりに携わる我々にとって大きな影響を受ける次の事件が起きました.
- 【A】米国現職のトランプ大統領がけしかけた議会乱入事件……
- 【B】東京で1日に2447人のコロナ感染者……
昨年末を約束したお話しに入り前に,まずこれに触れてみたいと思います.
【A】について
- 自由陣営のリーダーで,巨大国家アメリカの正体を世界に露呈してしまい,これが今後の世界情勢にどのような影響を及ぼすのか……心配されます.自浄作用が働き始めたので,救いがあります.
- アカウント永久停止等は,国民に選ばれた大統領より強い力を持っている事になり,全世界はGAFAに屈したということなのか……心配です.
- ヒトラーは,ナチスを結成し,草の根から14年掛けて天下を取ったのに,トランプ氏Twitterで,司会業から7年で大統領になりました.信者は全盛期7千万人とか……,彼は天性だけでここまできたが,ナチスの技法があれば,核のボタンを片手に世界制覇も可能だったという話があります.この事実を知ってしまったので,世界のあちこちで,第2,第3のトランプ氏が生まれてきそうで,怖さを感じてしまいます.コロナ以上の恐怖です.
【B】のニュースを聞いて,先ず頭に下記都々逸と,ミッドウェイ海戦でした.
♪『ああ』して『こう』すりゃ『こう』なるモノと,知りつつ『ああ』して『こう』なった ♪
- ミッドウェイ海戦とは
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1941年12月の真珠湾攻撃時,米軍空母の姿がなかったので,洋上の味方艦隊が米軍機に攻撃される事をおそれ,第1波攻撃だけで引きあげたといわれて居ます.
一方,1942年6月のミッドウェイ島攻撃時も,米国空母の姿は無かったのに,『洋上の味方艦隊が米軍機に攻撃される事』は考えず,『絶好のチャンス』として,第2波の攻撃を決定,その準備中の最悪のTimingに米軍機の攻撃を受け,空母の甲板上の爆弾が誘爆し,全空母と全艦載機,何よりも優秀なパイロットを失ってしまったといいます.軍の極秘事項とされ,処罰どころか責任追及も無かった……とされています.この話は以下の『言霊信仰』や『空気の話』が関係していそうです.
- 『言霊信仰』
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ある言葉を発すると,その言霊が万物の霊魂に働きかけ,その言葉を実現してしまうという信仰が,社会の隅々まで広まっています.親が病気になったとき,遺産相続の話は,『縁起でも無い』と咎められます.
逆に『コロナなんか直ぐ消える』とみんなが考えると言霊が消してくれる,と無意識のうちに考えている……最悪の事態を考えず,上手くいった時だけを考えてものを実行する.
- 『空気の話』
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昔,山本七平(イザヤ・ベンダサン)が,会議の席では上司に忖度し,同僚に気を遣い,理路整然とした論理では無く会議室に漂う『空気』で物事を決めてしまうと嘆いていました.
1月は多くの会社にとって,年度替わりの月で,おそらく会社の年度方針が出されたり,御自身が自部署の方針をお作りになったりしていると思います.
今一度 ここに書いた 日本人の性でともいえる『言霊信仰』や『空気の話』の観点で論理は『理路整然』か,実行計画は5W1Hの観点から見て,細部に展開されて居るかをご確認下さい.
さて本題に戻って,年末の続きのお話をいたします.続きですので,第7章から始めます.
最近,DX(デジタル・トランスフォーメーション)が脚光を浴びています.
デジタル技術を駆使して,戦略的な経営をやってこうということだと理解していますが,その前提としては各社の工場がよく訓練された軍隊のように『俊敏に対応できる』ことが大前提と思います.
この『俊敏に対応できる』工場こそが弊社が永年推進してきた『本流トヨタ方式』が目指す工場の姿そのものなのです.『御社にDXを導入するには如何にすべきか・・・』と考えながら第7章をお読み下さい.
[7] 2021年 日本のものづくりは何を目指すべきか
7-1. 今までの改革は,的外れではありませんか?
カルロス・ゴーン氏が,非合法な手段で日本から逃亡して1年になりますが,1999年に彼が日産の倒産の危機を救い,V字回復させた事は事実です.
当時の日本の産業界は 『労働生産性という落とし穴』に嵌まっていて,重症患者が日産自動車だったのでした.この辺のことは,このホームページの連載コラム『Jコスト改革の考え方』第15回に詳しく書いてあります.先ずそのコラムを熟読して頂きたく思います .
ゴーン氏は1999年の『日産リバイバルプラン』の中で,日産の間違いを以下の様に指摘しています.
購入費用 | 60% | @ |
一般管理費 | 23% | A |
製造原価 | 17% | B | … | 研究開発 | 6% | C |
| | | | 内製加工費 | 11% | … | 減価償却費など | 6% | D |
| | | | | | | 労務費など | 5% | E |
| | | | | | | DE:筆者推定 |
当時の日産がやっていた活動で低減しうるのは,E労務費(原価の5%)に過ぎないことが分かっていなかった……
ゴーン氏は役員会の言語を英語にして(『言霊』を排除),TQMの手法で成果をコミットさせ,全方面で改革を断行し,2003年までの4年間で2.1兆円の借金を返済したといいます.
筆者は,自社内のみならずSupply-Chainの隅々まで点検し,あるべき姿に向かって改革を押し進めていく……会計的に見れば,PLだけでなくBSもCFも原因に遡って見直していく……という部分は賛成します.
20年あまり経ちましたが,大変残念なことに,大学の先生たちはゴーン氏の指摘を理解できず,かつて恩師から教わった通りの百年前のGMのスローン氏の経営技法や,テイラーシステムを旧態然と学生に教え続けています.
経営者も,『労働生産性の落とし穴』に嵌まり『生産性本部』とか『ものづくり革新本部』といった組織を作り,優秀な人材を投入し作業改善に力を入れています.
彼らスタッフに掛かる費用は丼勘定で一般管理費に計上され,現場改善効果は支払い労務費に計上されますから……費目が違うので『費用対効果』の測定はやっていないと思いますが,費用の10%でも回収できていれば御の字と思います.
7-2. 自社を,より繁栄させる為にはどうするか?
各企業で設置されている『生産性本部』の本来の役目は『自社をより繁栄させるため』だと思います.では具体的に何をどうすればよいのかの問いに,以下の3つの【答】が考えられます.
- 【答-1】売上は現状維持とし,原価低減して利益額を上げる!
- 【答-2】設備投資等をして増産を図り,売上を増やし利益を上げる!
- 【答-3】投資せずLead-Time短縮という切り口で業務改革を推進する!
以下順を追って吟味していきましょう.
【答-1】売上は現状維持とし,原価低減して利益額を上げる!
これは もっとも多くの 企業で取り組んでいる方法です.現状の売上高に対して生産能力に余剰があるので,その分の人員を減らし,設備を減らす,と言う活動になります.
このテーマを追求すると『新聞売り子の問題』という古典的なOR(オペレーションリサーチ)の問題に辿り着きます.講習では『統計的に計算した数量を余分に仕入れて置く』と言う解と共に,実行すると客はドンドン減っていき,潰れるという『オチ』も教わります.買えなかった客の心理は数式では解けないというORの限界も教わります.
新聞と違い一般の製品は在庫を持って,生産・販売していきますが,長期的に見れば売れなくなっていき,最後は生産打ち切りになります.原価低減を狙って売れに合わせた生産規模を縮小して行くことは『店じまいへの道』でしかありません.
植物達が 毎年花を咲かせ実を成らせ子孫を増やすように,会社も寸暇を惜しんで子孫(新製品・新製法)を産み育て,更なる成長をねらっていくべきでしょう.
【答-2】設備投資等をして増産を図り,売上を増やし利益を上げる
積極的な意欲的な話で大変結構なことですが,資金回収に時間がかかるという欠点があります. 例えば新工場を建設して機械を設置し,人を集めて訓練し生産に移るとなると2〜3年掛かります.製品は市場に出荷され,代金を回収されるまでにはさらにまた時間がかかります.
残念な例としては,シャープの危機が有名で,亀山工場で作った液晶パネル『亀山モデル』は有名となったので堺に巨大な工場を建設し増産に打って出ましたが,市場が伸びず,赤字が積み上がっていき,最終的には台湾企業に下りました.
急速に成長して行った『いきなりステーキ』も 流石に店舗数が増えすぎて,共食い現象になり, 最近はまた 急速に閉店が続いている様子です.
国産初のジェット旅客機は,開発が長引いたところにこのコロナで,1兆円余の損失を抱え,先が見えなくなっています.
このように,業績を伸ばせれば大変に結構この上ないのですが,失敗のリスクが高いのも確かです.
こうして見てきますと,次の二つは,どなたにもお勧めできる方法ではないことがわかります.
- 【答-1】売上は現状維持とし,原価低減して利益額を上げる!
- 【答-2】設備投資等をして増産を図り,売上を増やし利益を上げる!
残ったのは【答-3】投資せずLead-Time短縮という切り口で業務改革を推進する!となります.これはまさに『本流トヨタ方式』で,弊社のお勧めの道筋です.もしDXを導入して,戦力的に市場で闘うのであれば,必須条件になります.長文になりますので,章を改めてご説明いたします.
7-3. Lead-Time短縮という切り口で業務改革を推進する!
<設備投資はせず,仕事のやり方を変える>
下記の順にご説明いたします.
- [Step-1] 受注⇔納品のLead-Time短縮で市場競争力確保
- [Step-2] 検収⇒納品のLead-Time短縮(在庫低減)で体質強化
- [Step-3] 浮いた経営資源を活用し,更なる成長
[Step-1] 受注⇔納品のLead-Time短縮で市場競争力確保
受注⇔納品のLead-TimeのことをOrder-to-Delivery-Lead-Time(略してODLT)と言います.
-
飲食業界は昔から客を待たせない事を競ってきた
-
中国の例
店に入ると客はテーブルの上のQRコードをスマホに読み,出てきたメニュー(写真と説明)から料理を選び,店員に転送すると,砂時計を置きます.時間内に全品届かないと上海では1皿サービスされます.
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日本の例
『飲み物』と『お通し』で時間稼ぎ
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どこの顧客もOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮を望んでいる
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見本市では
-
ODLTをダントツ短縮したら断り切れないほどの仕事が来た
筆者の仲間が,Order-to-Delivery-Lead-Timeが3週間と言われる業界で,5稼働日(正味4日間)にまで短縮したところ,客が殺到するようになり,プレミア付けると言う客まで現れ,今では客を断るのに困っている……収益も上々と言う自慢話を聞かされました.
Order-to-Delivery-Lead-Time短縮が,いかに市場における優位性を発揮するかを改めて知らされた次第です.
-
因みにトヨタのSupplierは
Order-to-Delivery-Lead-Timeが原則0.5日です.
トヨタの組立工場⇔サプライヤーは『かんばん』でやり取りしており,通称1-4-2 (1日4回納入の2回遅れつまり半日遅れ)という関係で繋がっています.
[Step-2] 短縮したOrder-to-Delivery-Lead-Time維持した上で,
検収⇒納品のLead-Time短縮(在庫低減)で体質強化
ここでは,社内の業務推進体制を『Lead-Time』という概念で捉え,そのタイミングを調整(JIT化)することTotal Lead-Timeを短縮し,(在庫低減)俊敏に動く社内体制に再構築して行く活動になります.
[2-1] Lead-Timeという概念の行う在庫低減例の説明
上の図は病院の待合室で,A〜Gの人が診察を待っている状態を表しているとします.また,診察には1人あたり5分かかるものとします.
-
この状態を『人数で表現』しますと,
- 待合室にはAからGまで7人が待っている
- 今来たHは8人目なので,7人が診察を終わるまで待たなければいけない
となります.
- この状態を『所要時間(Lead-Time)で表現』しますと,診察には1人あたり5分かかるので,
- 待合室にはAからGまで診察時間35分相当の人が居る.
- 今来たHは30分間待たないと診察を受けられない.
- Bは5分,Cは10分,Dは15分……待たなければいけない
と表現できます.
このように,
- 『人数で表現』すると,人数を減らす手段が見つかりませんが
- 『Lead-Timeで表現』すると,人数を減らすには病院に来る
タイミングを工夫すれば良いとわかります.
これを受けて最近の病院では,事前予約が取れるようにしており,患者は病院に来てから帰るまでの時間(Total Lead-Time)は短くて済みますし,病院の駐車場や待合室はガラガラになります.
待合室 | ⇒ | (a) 原材料倉庫 | | 患者数 | ⇒ | 原材料在庫量 |
診察室 | ⇒ | (b) 製造工程 | | 患者数 | ⇒ | 仕掛在庫量 |
会計待ち | ⇒ | (c) 完成品倉庫 | | 患者数 | ⇒ | 完成品在庫量 |
上のように読み替えれば,[Step2]の改善のヒントになります.
[2-2] 財務諸表から自社の棚卸資産の実態を知る
会社棚卸資産は『貸借対照表(バランスシート)』に記載されています.
前期末の棚卸し時の状況になりますが,
\begin{equation}
\text{棚卸資産;} I_{t} [\text{円}] \\
\text{内訳} \\
\text{原材料;} I_{m} [\text{円}] , ~~ \text{仕掛かり;} I_{s} [\text{円}] , ~~ \text{製品;} I_{k} [\text{円}] \\
\text{即ち,} I_{t} = I_{m} + I_{s} + I_{k} [\text{円}]
\end{equation}
金額のままでは,どのように減らせば良いか分かりませんので,『損益計算書(PL)』から売上原価$U [\text{円}]$を持ってきて,
\begin{equation}
\text{棚卸資産回転数}^{*} = \frac{\text{売上原価}^{*}}{\text{棚卸資産}} = \frac{U}{I_{t}} [\text{回/年}]
\end{equation}
\begin{align}
\text{Total Lead-Time} &= 12 \text{ヶ月} \times \frac{\text{棚卸資産}}{\text{売上原価}^{*}} \\
&= 12 \text{ヶ月} \times \frac{I_{t}}{U} \\
&= 12 \text{ヶ月} \times (\frac{I_{m}}{U} + \frac{I_{s}}{U} + \frac{I_{k}}{U}) \tag{7-3}
\end{align}
[Step2]の課題は,財務諸表上の棚卸資産(単位は[円])を減らす事ですが,先の[2-1]と同じように,時間(ヶ月)で表現すると対策が打てるようになります.
(7-3)式にあるように時間で表現すれば,次のように表現できます.
棚卸資産金額 | ⇒ | Total Lead-Time |
原材料在庫金額 | ⇒ | 原材料 Lead-Time |
仕掛かり在庫金額 | ⇒ | 仕掛かり Lead-Time |
製品在庫金額 | ⇒ | 製品 Lead-Time |
ということは『棚卸金額を半減させる』ことと『在庫リードタイムを半減させる』とが等価であるという意味になります.具体的に言えば,外注先からの納品を10日前に入れさせていたものを,5日前に変更すれば,原材料在庫金額は半減するという事です.
現場では,良かれと思って『早め,早め』に手配し・着工して居ますが,会社のためにも『ギリギリまで遅らせて,速く間に合わせる』が一番の理想と教えるべきです.
[2-3] 同業他社,業界等と比較して,自社の課題を明確にする
このHP のコラム『Jコスト改革の考え方』第6回目より
\begin{align}
\text{基礎収益力} & \equiv \frac{\text{売上総利益}}{\text{棚卸資産}} \\
& = \frac{\text{売上総利益}}{\text{売上原価}} \times \frac{\text{売上原価}}{\text{棚卸資産}} \\
& = \text{売上原価粗利率} \times \text{棚卸資産回転数} \\
& = \text{主として本社機能責任} \times \text{主として現場責任} \tag{7-4}
\end{align}
この式の 縦軸に売上原価粗利率をとり横軸に棚卸資産回転数を取ったグラフ(下図)を収益性分析図と名付けました.図は業界の違いを表したものです.各社の財務諸表は法律によって公開されていますので,ネットで調べて同業他社の収支分析することが容易です.
さらに同業他社と比べて,原材料在庫が多いのか, 仕掛在庫が多いのか,完成品在庫もいいのか,どこに問題があるのかも調べることができます.他社よりも悪いところを,他社並みに改善するということには現場も燃えますし,比較的容易だと思います.
このように 闇雲に改善するのでは無く, 他社の動向と比べて進める事も有益だと思います.
[2-4] Lead-Time短縮には『小ロット・多回』が特効薬
上図は,ロットサイズと在庫の関係をモデルにした図です.手桶で10個ずつ運ぶためには,Timingのズレも配慮しますと,上流に手桶でとりに行った時に15個くらいにと心配です.届けた先も5個くらいの残っていないと心配です.経験上,ロットサイズがn個であれば,上流・下流・運搬中の合計在庫は最低で3n個必要で,実態は4〜5n個で運用しています.
東西の道路と南北の道路が交差する交差点の信号を考えてみましょう.赤信号がもし1時間続いたとすればどうなるか考えてみて下さい.大渋滞になることでしょう.実際の交差点の信号は最大で2分間とされているそうです.そのお陰で東西も南北も,さしたる渋滞無く流れているのです.これぞ『小ロット・多回の極み』と言って良いでしょう.
[2-5] Lead-Time短縮を阻む組織の壁
日本の会社組織は機能別に縦割り組織になっており,そのトップは,社長の座を窺う専務クラスになって居ます.
(a) 原材料・外注品在庫 | …… | 購買部門 |
(b) 仕掛かり在庫 | …… | 製造部門 |
(c) 完成品在庫 | …… | 営業部門 |
それゆえ[Step-2]の改革にあたってプロジェクト・チームを立ち上げる時,その推進責任者には,(a),(b),(c)の上位にある『会社Top』か『経理』が就任しないと改革が進みません.これが改革推進の『胆』になります.
[2-6] トヨタ系サプライヤーの工夫例
[Step-1]で紹介したOrder-to-Delivery-Lead-Time 0.5日の中でのTotal Lead-Time削減の工夫の幾つかを紹介します.
- (6-1) 原則,『在庫後補充生産』
使用量の多い品番は1日4回 生産,極少量品番は月1生産.
- (6-2)上記を可能にするのは,トヨタの『平準化生産』があるから!
その裏にはトヨタの『共存共栄』思想.
- (7)トヨタはSupplier棚卸資産回転数は……30〜50回.
(在庫を押しつけてはいない)
国際競争力は強く,デンソーの30%余を先頭に,アイシン,自働織機,紡織等はトヨタの約10%を遙かに凌ぐシェアを獲得しています.
[Step-3] Total Lead-Time短縮するとは……
どのようになってるかを実体験を基にした一般論でお話します.
[3-1] モデルの設定
自動車用板金製のホイールキャップをイメージして,@板状ステンレス材料を,Aプレスして,Bバリ取り仕上げをし,C塗装し,D1台分ずつ梱包して,E出荷する……工程を想定
当日も出荷量は,前日に確定.平均A40台,B30台,C20台,D10台バラツキは±10%である……
従来から在庫後補充定方式,1週間単位で生産をした.毎日後補充生産に変更し,在庫を減らした.
以上を前提に,現場がどう変わっていくかのお話をします.
[3-2] 『仕掛かり在庫』減による製造現場変化
- 『1週間分ずつ生産』
A200台,B150台,……,D50台の連続生産では,完成品在庫は通常必要量の1.5倍〜0.5倍の間で管理していた.
- 完成品在庫
A300〜100台,……,D75〜25台あるのが普通.
- 『毎日生産』
朝からA40台,B……,D10台をその日に生産する.完成品在庫は;A60〜20台……,D15〜5台で管理
-
小ロット多回生産の効果(課題の顕在化)
『1週間分ずつ生産』Aは平均200台の完製品在庫持っての2日間 連続生産,設備故障・不良に容易に対応でき,ダラダラとした生産だった.
『毎日生産』A40台,……,D10台を,時間通り生産が必要!設備故障・品質不良等はすぐ顕在化します.速く直し,再発防止を図る必要に晒される.⇒ 現場には緊張感が走り,キチンと仕事し,再発防止の徹底を図る,理想の職場になって行きます.
-
作業完了の在庫が少ない効果(背水の陣効果)
A〜Dまでの工程間⇔にある仕掛り在庫は,仕事を中断されることを嫌がるため,1日分または1ロット分以上の在庫を置いて生産をする という風習があって,この場合 どこにNeckがあって生産の速さが決められているのか分からないまま,ダラダラと生産していました.
『毎日生産』になりますと,@〜Dまでのどの工程も,A,B,C,Dを1日分ずつでも合計100台分作らなければならなくなります.準備・後始末等の時間を除いた,正味稼働時間を400分とすれば10台を40分間で作っていけば良いことになります.
トヨタ生産方式には『チョロ引き』と言う改善手法があります.チョロとは下図にある利便性の良い猪牙舟のことです.
この例では,各工程間を10台分ずつ40分間隔で移動(運搬)させます.
チョロ引きの導入で運搬工数が増えると思いがちですが,今までは前工程の溜まってきた中間製品を,頃合いを見計らって,一時置き場へ運んでいき,収納します.
次工程の材料置き場が空くのを見計らって,先に置いた一時置き場からからピッキングして次工程の材料置き場に補充していきます.
この時の運搬作業を,仕事を探して走り回って居る様を揶揄して『流しのタクシー』と呼びます.
一方『チョロ引き』は,前工程の完成品置き場から後工程の材料置き場へと一定時間間隔で一筆書きのように廻るので,通称『定期バス』と呼びます.改善マンの間では,『流しのタクシー』から『定期バス』に代えると運搬工数は経験的に1/3に減るとされています.
各作業工程では,チョロ引きした直後の在庫量で『生産の遅れ進み』が一目でわかるようになります.遅れている工程はみんなで改善したり,進んでいる工程から時々応援したりして,安定した生産ができるようになっていきます.安定したら更に工程間の在庫を減らしていきます.
このようにして,日々の生産能力向上活動が活発になり,日々が勝った・負けたのゲーム感覚で仕事ができ,長期的には成長が実感できるようになり,会社に行くのが楽しみになります.
10台分を40分というTACTを発生させる事で,作業にリズム感が出て来て,増えた段取り作業時間を差し引いても,経験的には10〜20%生産性が向上します.
-
生産の柔軟性向上
10台当たりの生産時間を把握できていますので,在庫後補充生産により納入量日々の変化や,自工程の設備故障などにも,生産時間の増減で,柔軟に対応することができます.
-
工程間在庫スペースが不要に
普通,この改善をすると,工場がガラガラになり,設備を間締めすると通常半分のスペースが有効活用できる空き地に変わります.
[3-3] 『毎日生産』による外注品倉庫の変化
1週間分ずつのまとめ生産であった為,外注品(原材料)は1週間分の一括注文になり,物流費もまとめた方が安くなるので前の週の内に一括納入となっていて,検収作業や検品作業,それを倉庫に収納作業で,納入日は丸1日てんてこ舞いだったが,残りの4日間は,倉庫から製造現場への供給のみの仕事になり,暇だったのでした.
『毎日生産』では,A,B,C,Dほぼ毎日,在庫後補充という形でほぼ一定量が納入されます.品質の抜取検査だけで, その日のうちに使い,過不足が判明しますから 受入時の員数検査の必要はありません.
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受入即・製造工程へ供給
受け入れた外注品は,約100台分なので,トラックから荷卸しするついでに指定の場所に平置きするだけでOK.後からチョロ引きが,そこからラインに供給します.
-
受入時刻管理
等間隔で 納入することで,安全在庫を縮小できます.仕入れ先毎に毎日指定時刻に受け入れることで,トラックの混雑緩和のみならず,自社の社員は,他の仕事と掛け持ちが可能になります.
-
保管倉庫廃止
以上のような変化により,外注品用のラックビル,収納・Picking作業倉庫そのものが不要になります.
[3-4] 『毎日生産』による出荷準備場の変化
従来は,製造工程で完成した大ロットの製品を 1旦 完成品ラックビルに収納し,その後 出荷指示に合わせてピッキングし,出荷準備場に並べておくと言う手順でした.
『毎日生産』になると,『出荷荷揃え場』を『当日用』『翌日用』『翌々日用』と3カ所決めて置いて,次々とでき上がってくる,A,B,C,Dの完成品を,出荷指示に従って荷揃え場に置いていく作業になります.
- 完成品ラックビルは全く不要になります.その空間も不要になります.
- 当然ラックビルへの出し入れが無くなるので運搬作業量は1/3以下になります.
- 出荷時刻を決め,厳密に守らせる事で,全体の進捗管理が可能になります.ここを押さえれば,工程内の仕掛かり在庫を更に削減していけます.
[3-5] 『週次ロット』から『毎日生産』に改善した効果総括
上記のように浮いてきた『経営資源』をOrder-to-Delivery-Lead-Time削減で新規獲得したら,顧客に向けての増産に使うも良いでしょう!製品寿命を考えている 次のモデルの生産準備をするのも良いでしょう.
ここでご説明した改革は,設備投資は一切行わず,知恵とやる気で,達成可能です.
Withコロナの時代にやるべきAfterコロナに向けての改革の1例としてご紹介しました.この改革はまた政府が推し進めようとしているデジタル改革の対応でもあります.ご参考になれば幸いです.
次回は,改革を押し進めるための『経営者と管理者と監督者の役割分担』について考えてみたいと思います.
2021年1月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知