株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム 『Jコスト改革の考え方』目次はこちら

2017年1月より、『Jコスト改革の考え方』というコラムをおよそ月に一度の頻度で更新していきます。

第14回目の公開は3月を予定しています。

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2019年2月

季節の御挨拶

昨年は,モリカケ問題として,財務省や文科省の役人の忖度や,絶大な権力を持つ各省庁の役人を管理出来ていない大臣が話題になっていました。今年になって,新たに厚労省の勤労統計の不正調査が明らかになり,更に多くの統計調査で不正が行われていた様子で,この記事が読まれている頃の国会では論戦の真最中と思います。

民主主義の根幹にある司法・立法・行政の三権分立が,現在の日本の議院内閣制では,最大会派の党首が内閣総理大臣になり,与党議員にとって行政を質すということは,党首や仲間を攻撃すること同意義になってしまいます。その結果,巨大権力を持った行政府の舵取りが心許なくなり,『役人の,役人による,役人のための行政』と言う陰口がきかれるような状態になって居るのです。

行政の根幹に関わる今回の問題は,与党も看過できない問題ですので,行政を牽制する国会本来の役目を果たしてくれることを期待したいものです。そして,今回の不正調査問題も,それが発生した原因は何か,10余年間も質されずに今日まで来てしまったのは,官僚機構の何処にどのような欠陥があったからなのか,真因を追求し,再発防止の為の新しい法律を制定しての幕引きにしてほしいものです。

更に,テレビ画面で見る限り,今回の調査は,『用紙』があり『手書き』になって居ました。ICTとかIOTが改革の目玉とされている今日,『手書き』で集めたDETAにどれだけの情報量と正確さがあるというのでしょうか?今日どの企業でも給与計算はERPで行われている実態を考えると,コンピューター内の『生DETA』を取り出すのが最適の調査法であると思います。方法が不正であったと言う論点と同時に,調査用紙に手書き情報を提出させ,それを手入力でコンピューターに入れ給料相場を推定するという方法そのものが,『昭和時代の遺物』であり,先進世界から周回遅れになってしる事もマスコミで取り上げられ,行政手法の遅れそのものも議論されることを期待しています。

行政のことばかりを書きましたが,『上の好むところ 下自ずから風をなす』と言う言葉のように民間でも,日本を代表するような大会社でも不正問題が続発しています。日本的風土の大組織という点では行政も民間の大会社も,同じ誤りを犯しやすい環境が醸し出されるのでは…という仮説が考えられます。

弊社は,得意とするのは製造現場ですが,事務や販売も含め,実務を遂行しているあらゆる職場の『業務改革』のお手伝いを生業としています。

その立場から見た場合,今日の行政と民間大企業が不正を行った要因の当社としての仮説を今から御説明いたします。この仮説を基に皆さまの会社の現状をご確認して頂き,お役に立てれば幸いです。

どうしても抽象的な話になってしまいますので,1995年私が全くの畑違いの製造部門から物流管理部長として赴任したときの経験を基にして,上記の不正防止に効く取り組み方(弊社の仮説)を御説明しましょう。


【仮説-1】社内に現業職場があり、実態を把握できていること

赴任した時、完成車を全世界の販売店に届ける『車両物流部』,世界中に点在いている自動車生産工場に部品を届ける『生産部品物流部』,世界中の津々浦々にある修理工場へ,修理用の補給部品を届ける『補給部品物流部』がありました。現業分の2割は社内に残し,管理のノウハウを継承させ,協力会社を指導する力を維持させよ…と言う大野耐一氏の遺訓が活かされており,上記物流三部には程度の差はありましたが,『現業部署』があり,そこの監督者の一部が,夫々の協力会社の現場作業を監督して廻っていました。結果として,トヨタ社内の現業職場がモデルになり,日本国内のみならず,全世界の現業職場の実態を把握していました。


【仮説-2】統括部署があること

上記物流三部を統括する形で『物流管理部』がありました。理屈の上では物流三部で実務はこなしていけますが,このコラムの2016年1月に『鼎は三本足で安定しているが,鹿は何故四本の足があるのか・・・・』のところで御説明しましたように,トヨタには管理に関する独自の考え方があります。物流三部の要員をギリギリまで削減させ,改善しないと旨く廻らない(改善のNeedsを生じる)状態にし,更に物流三部内で重複すると思われる業務は1カ所で行うように,物流三部から優秀な人材と業務を『物流管理部』に集めて置き,下記のような機能を持たせてありました。

  • 機能-1 物流各部の独走にならないように業務をCheckする
  • 機能-2 全世界の物流網をCheckし,改善班を組織し補強して廻る
  • 機能-3 新規進出地域での戦略的物流網の構築
  • 機能-4 経営本部への物流戦略の提案と組織的展開

【仮説-3】暗黙知を形式知にして蓄積しているか

着任して,幹部からレクチャーを受けて驚いたのは,『貿易』という業務の複雑さでした。

お金に関することは財務省,工業製品は経産省,梱包材料に木材を使うと農水省,業者との関係は厚労省,等々多岐に亘り,しかも,法律だけでなく省令や通達等,様々な形で守るべきルールが多々あり,各省庁間で細かく調整されたものではなく,現場で施行する中で自ずと線引きされていて,法文を読んでも実務は理解できるものではなく,現場の慣例としてどの場面ではどうする…と言ったモノになって居ると言う説明を受けました。そのために法律や用語の説明だけで無く,トヨタとしての取り組み方まで書き込んだ『貿易用語集』を自分達で編纂し,座右の書として活用しているので,部長も勉強するようにと分厚い1冊を渡されました。

一方で,改善の進め方には,改善マンの狙いがまちまちでした。そこで上司である物流担当役員の了解を経て『トヨタ生産・物流方式(TOYOTA Logistics System )』と言う名称で教科書をまとめ,英文に翻訳して全世界の物流拠点に配布し,トヨタの全世界規模の物流ネットワークが同じ目標に向かってKAIZENを進める体制を作りました。


【仮説-4】取り巻く環境の変化を感知する情報網を持っているか

中国ほどでは無いものの,日本の官僚機構は個人としての裁量が認められていて,定期異動毎に取り締まりの重点とそのレベルが違ってきます。これらの情報は官報を読むだけでは収集できません。官庁からのきめ細かな情報をタイムリーに入手するために,その時の物流管理部には,役所を定年退官された方が参与として勤務して頂いて居て,私も色々教えて頂きました。

最新技術情報の取り組みでは,物流管理部が窓口になって,国交省が進めるETCの実用化,ETCの多面的活用の実証実験に参加するなど,常にトップランナーでありつつけることを目標にしていました。


【仮説-5】常に自職場の業務改革に取り組んでいるか

1995〜1999年頃はトヨタの成長期であったため,以下のような新規Projectが目白押しでした。

@ ベトナム工場
A 中国天津工場
B 米インディアナ工場
C 米ウエスト・バージニア工場
D 中国長春工場
E インド工場
F フランス工場
G 中国四川工場
H ポーランド工場
  等々

業務改善では

  1. 英国内のOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮活動
  2. 国内カロ−ラのOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮
  3. 輸出荷姿の木箱から海上コンテナ化

等を同時に展開していました。

さらに、協力会社の改善活動を展開していて、トップからの依頼の業務改革は無償で行い、『物流自主研』と称する改善マンの研修会では、当年の改善成果は協力会社のものとなり、次年度は協力会社とトヨタが折半するという取り決めになっていました。改善することで人が育ち、利益が上がるので、活気あふれる職場運用になっていたのでした。


まとめると下記のようになります。

  • 【仮説-1】社内に現業職場があり、実態を把握できていること
  • 【仮説-2】統括部署があること
  • 【仮説-3】暗黙知を形式知にして蓄積していること
  • 【仮説-4】取り巻く環境の変化を感知する情報網を持っていること
  • 【仮説-5】常に自職場の業務改革に取り組んでいること

これらの要件はあくまでも弊社の仮説ですが、御社は自社の各現場のノウハウの維持管理のためにどのような方策を講じているのか?それがキチンと機能しているのか? 点検してみてはいかがでしょうか。


2019年2月 吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知