株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center 代表:田中正知 元東京大学大学院経済学研究科MMRC 特任研究員 ものつくり大学 名誉教授 元トヨタ自動車物流管理部長

連載コラム 『Jコスト改革の考え方』目次はこちら

2017年1月より、『Jコスト改革の考え方』というコラムを月に一度の頻度で更新していきます。

第9回目の公開は12月初旬を予定しています。

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季節のご挨拶2017年11月1日更新

御社の『管理規定』や『業務分掌』はご健在でしょうか

<個人の持つ技能の伝承の危機を2007年問題として取り組んだが、会社組織の管理規定の伝承が手薄だったのではないか?>

このところ立て続けに、日本を代表する製造業で不祥事が報道されています。その主なモノは以下のようになります。

2017年
① 富士重工・日産自動車の検査員問題
② 神戸製鋼の品質データー改ざん
2016年
③ 三菱自動車Catalog燃費詐称事件
2015年
④ 東芝-長期に亘る不適切会計
⑤ 東洋ゴム試験データー詐称
⑥ タカタ-エアバック不具合

多くの製造業関係者は、この報道を聞いて眉をひそめますが,内心では「我が社は大丈夫」とお思いのことでしょう。

ところが、トヨタでの現場歴30年その後コンサルタント歴20年の私には、俗に言う「50歩・100歩」で、上記企業は病状が急変し救急車の御世話になっただけで、日本国中が同じ病気に罹って居るように思えてなりません。そうでないことを祈りつつ、私の抱いている懸念を以下お話しします。

それは、2007年問題は、実は会社組織の規定類の伝承に影響しているのではと言う懸念です。

私の会社組織の規定類に関する原体験は約50年前のトヨタのデミング賞の審査時にありました。

当時、審査の先生方から上司が厳しい指導があり、それを受けて、上司は思い悩みながら、その指摘の意味することを理解し、具体的に何をどう直すべきか判断し、現場の管理体制をテキパキと再構築して行きました。

上司のお手伝いをしながら私が学んだのは、『根拠を明らかにせよ』ということでした。

国家には、その国家の目指す方向を明確にした憲法があり、その下に民法、刑法、等々の法律があります。国家のあらゆるコトは、その法律に従って成されているわけです。そしてこれらの法律には必ず『改正の手続き』が明記されているのです。

これを会社に置き換えれば、憲法に相当する『創業の精神』とか『社是』と言った経営哲学があり、従業員には『就業規則』があります。会社を具体的に運営する為の『組織図』があり、各組織の活動内容を規定した『管理規定』と、組織でどのような分担で遂行するかを記した『業務分掌』が整備されていなくてはならない事になります。

もう一つの側面は、今は何処の会社でもやられていると思いますが、『方針管理』があります。これは、

会社方針 ⇒ 部門方針 ⇒ 工場方針 ⇒ 部方針 ⇒課方針 ⇒ 係方針

と、Topから末端まで同時展開されて、時々刻々と変化していく市場や社会情勢に的確に会社が自らを変えて適応していく活動を指します。前者が『維持活動規定』で、後者は『改革活動』に当たります。両者が混在することで、毎日の業務をこなしながら、会社は自己改革を進め、変化に対応していけるのです。

デミング賞審査の先生方が指摘したのは、現状を維持するための『管理規定』・『業務分掌』と、自らを変えていく『方針管理』に不備が多いと言うことだったのでした。

審査期間は僅か1年程度でしたが、工場挙げて抜けだらけであった工場の『管理規定類』『業務分掌』を整備し、帳票類も定め徹底しました。当時は紙媒体であったので1年間で、日本工業規格(JIS)や労基法の等関連資料も含めると、事務所の壁一面が、それを保管する書棚になって行った記憶があります。

その活動の中で今でも鮮明に記憶している事を2例紹介しましょう。

品質管理台帳

組み立ての様子

毎日毎日、現場で生産している製品の品質特性の母集団が変化していないかを、ランダムに抽出したSample(通常4個)の測定値(計量値)のを基にして『Xbar-R管理図』を作り、これで変化を監視しています。

これは、先月の実績から導かれた95%信頼の管理限界のUCL(上限)LCL(下限)を記した記録紙に今日の平均値を打点して異常の有無を確認していく・・・という管理なのです。

これは前月の品質レベルに対して今月も同じ品質レベルを維持しているか否かの統計的判定していることを意味していて、この管理方法では、先月の実績に対して『日単位』『週単位』の比較的小さな周期の変化は掴めますが、設備の劣化などのように『月単位』から『年単位』に亘るジワジワと変わって行く変化は掴めません。それを掴むために、月々の管理のために算出された月々のUCL、LCLの推移をグラフにして、長周期変化を捉えることが必要・・・・これが『品質管理台帳』なのでした。

私はこのデミング賞受賞準備の中で、品質管理とは何かを知ることが出来ました。

体温を例にとって御説明しましょう。一概に人の基礎体温は36℃~37℃と言われていますが、実際は日々の変動より個人差の方が大きく、個人の日々のバラツキは0.2℃以内だと聞きます。

個人差が大きいので、たまたま36.5℃であったとしても、在る人にとっては微熱状態であるし、在る人にとっては低体温状態かも知れないのです。厳密な判定は、毎日測定し、昨日までの体温との差が統計的に有意で有るか否かの検定をしないと、異常か正常かが分からないのです。

因みに女性は、排卵後妊娠の準備のため基礎体温が0.3℃ほど上がることが知られています。それ故毎日基礎体温を測定し続ければ排卵日を知ることが出来るとされています。

会社の現場の状況も同じで、毎日ランダムにSamplingしていれば変化を掴むことが出来ますが、長周期に亘る変化は、月々のデーターを見比べて見るしかないのです。

話を神戸製鋼に戻せば、出荷鋼材の強度の『品質管理台帳』を作成するという『管理規定』が伝承されていれば、鋼材の強度の母集団を推定出来ますから、強度不足で不合格になる比率が月々計算できます。そうすれば、出荷品質としての『合否』より前に、製造品質の変化で捉えることが出来るハズで、『製造異常』として事業所内での大問題になっているはずです。

つまり特定の個人が悪かったことは当然ですが、会社組織としての『品質管理規定』が社内で伝承されていれば、このような事態はあり得ないのです。

このように、ルールを決めそれを書類に残して置き、人が替わっても同じルールを適応する事を『法治主義』と言います。

この対極にあるのが『人治主義』です。

『法治主義』と『人治主義』

高層ビル

ここ5年ほど、毎月のように中国企業の改善手伝いをしていますが、訪れた中国資本の工場は、才覚のある人物が作った私企業で、本人が董事長という職に就き、全てが彼の一言で決まっていきます。ここまで急成長する過程では必要であったことと思いますし、これから新市場に進出するときには、その意志決定の速さは強力な武器となります。

しかし、その一人さえ説得すれば道が開けるとなると、忖度して気を引くなど『頭を使わず気を遣う』部下が増えてきます。諫言が横行し、部下同士が裏に回って足の引っ張り合いをして、統治そのものが崩壊していく・・・これが中国5千年の歴史ですが、皇帝から董事長まで同じ現象が見受けられます。

中国のことだと安心は出来ません。

日本でも、間もなく開かれる臨時国会のメインテーマの一つが『モリカケ忖度問題』でしょうし、法案を理路整然と説明出来ない大臣の問題になりそうです。

如何に『法治主義』を目指し、『法体系を』を整備しても、伝承がうまく行かなければたちまち、国家でも忖度が横行する『人治主義』に替わってしまうのです。

われわれ私企業は特に、1990年代のバブルの崩壊(中国の竹のカーテンが開いたことによる・・・)で採算が悪化し採用を控えた為の世代断絶、急激な業務のITC化、急速な海外展開などの劇変の中主要業務がDisplayとKeyboardになってしまい、規定類に目もくれなくなり、社内でも対面し口頭で意思疎通する場面が激減してきていることも無関係ではないと思います。

コンピューター

11月には来年度の会社方針として新たなるテーマを探す時期と思います。それに向けて、自社の業務は『人治主義』『法治主義』かを見極め、『規定類の再整備』を来年度方針に散り組むか否かの御検討の時期と思います。

2017年11月1日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知