株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。

現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

過去の所信表明





2019年2月

季節の御挨拶

昨年は,モリカケ問題として,財務省や文科省の役人の忖度や,絶大な権力を持つ各省庁の役人を管理出来ていない大臣が話題になっていました。今年になって,新たに厚労省の勤労統計の不正調査が明らかになり,更に多くの統計調査で不正が行われていた様子で,この記事が読まれている頃の国会では論戦の真最中と思います。

民主主義の根幹にある司法・立法・行政の三権分立が,現在の日本の議院内閣制では,最大会派の党首が内閣総理大臣になり,与党議員にとって行政を質すということは,党首や仲間を攻撃すること同意義になってしまいます。その結果,巨大権力を持った行政府の舵取りが心許なくなり,『役人の,役人による,役人のための行政』と言う陰口がきかれるような状態になって居るのです。

行政の根幹に関わる今回の問題は,与党も看過できない問題ですので,行政を牽制する国会本来の役目を果たしてくれることを期待したいものです。そして,今回の不正調査問題も,それが発生した原因は何か,10余年間も質されずに今日まで来てしまったのは,官僚機構の何処にどのような欠陥があったからなのか,真因を追求し,再発防止の為の新しい法律を制定しての幕引きにしてほしいものです。

更に,テレビ画面で見る限り,今回の調査は,『用紙』があり『手書き』になって居ました。ICTとかIOTが改革の目玉とされている今日,『手書き』で集めたDETAにどれだけの情報量と正確さがあるというのでしょうか?今日どの企業でも給与計算はERPで行われている実態を考えると,コンピューター内の『生DETA』を取り出すのが最適の調査法であると思います。方法が不正であったと言う論点と同時に,調査用紙に手書き情報を提出させ,それを手入力でコンピューターに入れ給料相場を推定するという方法そのものが,『昭和時代の遺物』であり,先進世界から周回遅れになってしる事もマスコミで取り上げられ,行政手法の遅れそのものも議論されることを期待しています。

行政のことばかりを書きましたが,『上の好むところ 下自ずから風をなす』と言う言葉のように民間でも,日本を代表するような大会社でも不正問題が続発しています。日本的風土の大組織という点では行政も民間の大会社も,同じ誤りを犯しやすい環境が醸し出されるのでは…という仮説が考えられます。

弊社は,得意とするのは製造現場ですが,事務や販売も含め,実務を遂行しているあらゆる職場の『業務改革』のお手伝いを生業としています。

その立場から見た場合,今日の行政と民間大企業が不正を行った要因の当社としての仮説を今から御説明いたします。この仮説を基に皆さまの会社の現状をご確認して頂き,お役に立てれば幸いです。

どうしても抽象的な話になってしまいますので,1995年私が全くの畑違いの製造部門から物流管理部長として赴任したときの経験を基にして,上記の不正防止に効く取り組み方(弊社の仮説)を御説明しましょう。


【仮説-1】社内に現業職場があり、実態を把握できていること

赴任した時、完成車を全世界の販売店に届ける『車両物流部』,世界中に点在いている自動車生産工場に部品を届ける『生産部品物流部』,世界中の津々浦々にある修理工場へ,修理用の補給部品を届ける『補給部品物流部』がありました。現業分の2割は社内に残し,管理のノウハウを継承させ,協力会社を指導する力を維持させよ…と言う大野耐一氏の遺訓が活かされており,上記物流三部には程度の差はありましたが,『現業部署』があり,そこの監督者の一部が,夫々の協力会社の現場作業を監督して廻っていました。結果として,トヨタ社内の現業職場がモデルになり,日本国内のみならず,全世界の現業職場の実態を把握していました。


【仮説-2】統括部署があること

上記物流三部を統括する形で『物流管理部』がありました。理屈の上では物流三部で実務はこなしていけますが,このコラムの2016年1月に『鼎は三本足で安定しているが,鹿は何故四本の足があるのか・・・・』のところで御説明しましたように,トヨタには管理に関する独自の考え方があります。物流三部の要員をギリギリまで削減させ,改善しないと旨く廻らない(改善のNeedsを生じる)状態にし,更に物流三部内で重複すると思われる業務は1カ所で行うように,物流三部から優秀な人材と業務を『物流管理部』に集めて置き,下記のような機能を持たせてありました。

  • 機能-1 物流各部の独走にならないように業務をCheckする
  • 機能-2 全世界の物流網をCheckし,改善班を組織し補強して廻る
  • 機能-3 新規進出地域での戦略的物流網の構築
  • 機能-4 経営本部への物流戦略の提案と組織的展開

【仮説-3】暗黙知を形式知にして蓄積しているか

着任して,幹部からレクチャーを受けて驚いたのは,『貿易』という業務の複雑さでした。

お金に関することは財務省,工業製品は経産省,梱包材料に木材を使うと農水省,業者との関係は厚労省,等々多岐に亘り,しかも,法律だけでなく省令や通達等,様々な形で守るべきルールが多々あり,各省庁間で細かく調整されたものではなく,現場で施行する中で自ずと線引きされていて,法文を読んでも実務は理解できるものではなく,現場の慣例としてどの場面ではどうする…と言ったモノになって居ると言う説明を受けました。そのために法律や用語の説明だけで無く,トヨタとしての取り組み方まで書き込んだ『貿易用語集』を自分達で編纂し,座右の書として活用しているので,部長も勉強するようにと分厚い1冊を渡されました。

一方で,改善の進め方には,改善マンの狙いがまちまちでした。そこで上司である物流担当役員の了解を経て『トヨタ生産・物流方式(TOYOTA Logistics System )』と言う名称で教科書をまとめ,英文に翻訳して全世界の物流拠点に配布し,トヨタの全世界規模の物流ネットワークが同じ目標に向かってKAIZENを進める体制を作りました。


【仮説-4】取り巻く環境の変化を感知する情報網を持っているか

中国ほどでは無いものの,日本の官僚機構は個人としての裁量が認められていて,定期異動毎に取り締まりの重点とそのレベルが違ってきます。これらの情報は官報を読むだけでは収集できません。官庁からのきめ細かな情報をタイムリーに入手するために,その時の物流管理部には,役所を定年退官された方が参与として勤務して頂いて居て,私も色々教えて頂きました。

最新技術情報の取り組みでは,物流管理部が窓口になって,国交省が進めるETCの実用化,ETCの多面的活用の実証実験に参加するなど,常にトップランナーでありつつけることを目標にしていました。


【仮説-5】常に自職場の業務改革に取り組んでいるか

1995〜1999年頃はトヨタの成長期であったため,以下のような新規Projectが目白押しでした。

@ ベトナム工場
A 中国天津工場
B 米インディアナ工場
C 米ウエスト・バージニア工場
D 中国長春工場
E インド工場
F フランス工場
G 中国四川工場
H ポーランド工場
  等々

業務改善では

  1. 英国内のOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮活動
  2. 国内カロ−ラのOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮
  3. 輸出荷姿の木箱から海上コンテナ化

等を同時に展開していました。

さらに、協力会社の改善活動を展開していて、トップからの依頼の業務改革は無償で行い、『物流自主研』と称する改善マンの研修会では、当年の改善成果は協力会社のものとなり、次年度は協力会社とトヨタが折半するという取り決めになっていました。改善することで人が育ち、利益が上がるので、活気あふれる職場運用になっていたのでした。


まとめると下記のようになります。

  • 【仮説-1】社内に現業職場があり、実態を把握できていること
  • 【仮説-2】統括部署があること
  • 【仮説-3】暗黙知を形式知にして蓄積していること
  • 【仮説-4】取り巻く環境の変化を感知する情報網を持っていること
  • 【仮説-5】常に自職場の業務改革に取り組んでいること

これらの要件はあくまでも弊社の仮説ですが、御社は自社の各現場のノウハウの維持管理のためにどのような方策を講じているのか?それがキチンと機能しているのか? 点検してみてはいかがでしょうか。


2019年2月 吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2019年1月

代表新年の御挨拶

明けまして御目出度うございます。

弊社の本年度の目標は

(1)『本流トヨタ方式』『Jコスト論』の普及に努めます

(2)新進の会計学者と共に『Jコスト論』の進化させます

(3)情報はこのホームページに掲載し報告します

としました。

本年もお引き回しの程をお願い致します。

新年に当たっての所感を申し上げます。

元旦からのテレビ放送でも,頂いた年賀状にも『平成最後の・・・・』という言葉が入っていました。

又あるテレビでは秋篠宮の

『毎年やっている定例の行事だからと言って,何も考えずに先例に盲従するのは誤りである。何の為の行事か?このやり方でよいのか?毎回吟味して取り組むべきではないか?』

という主旨の御発言の放送がありました。


この秋篠宮の御言葉が,私の胸に響きました。

と言うのは,私には平成の30年間はものづくりのやり方がバブル時代の盲従で来てしまった部分が多く,改善を生業としている弊社から見ると失われた時間であったと感じているからです。

追い打ちを掛けるように,日経新聞に『カイゼンお役所仕事』と言う記事が載り
『(1)そのハンコ,必要ですか』『(2)子育て申請にため息』とありました。

役所も又,『働き方改革』と言う一方で『業務改革遅々として進まず』が続いています。


日本は農業国で,『明けない夜はない』『台風一過の晴天』という言葉があるように,どんな困難な状況があっても必ず元に戻る・・・と信じる心があります。

この心が強すぎて,1980年代のバブルの時代を原点と考えてしまい,1990年代の不況,2000年代のリーマンショック,等々は一時的なもので,じっと我慢すれば又あの繁栄したバブル時代に戻れる・・・・妄想に駆られてきた30年が平成であった言わざるを得ません。


その結果,国際的機関から以下の残念な評価を得ています。

  • 労働生産性 先進7カ国では最下位 OECD36カ国中21位(2017年)
  • 男女平等度ランキング,144カ国中114位(2017年)
  • 報道の自由度ランキングでは 180カ国中72位(2017年台湾韓国に抜かれる)

弊社の本業である『現場の維持・改善』でお話しすれば,労働生産性が低いことが気になります。詳しくは後半でお話ししますが,先ずは組織の一員として活躍している皆さまは,先に紹介した秋篠宮の御言葉を我が事として汲み取り,他社は?他国は?御自分のお仕事を客観的に見直すところからはじめ,年号が変わることを機に,働き方改革ではなく,業務そのものの改革に取り組むことをお薦めします。


【日本がじり貧になって言った理由・・・弊社の考え方】

1989年から2019年の30年間に世界のものづくりはどう変わったか,弊社の捉え方は,下記の【A】【B】を全世界で展開していったが,日本だけは不完全燃焼だったというものです。以下掻い摘まんで申し述べます。あくまでも私見であり,仮説に過ぎませんが・・・・


世界的な変革の一つは1980年の日米自動車戦争にあります。当時のレーガン大統領にとっては,1945年に徹底的に焼け野原にし,その後10年間進駐軍(英語ではOccupation Army)によって,徹底的な洗脳教育し,2度と米英に盾突かないようにした上で自治権を回復させてやった日本に,米国の基幹産業である自動車が責め立てられるのは何故か!? 徹底的に調査させ以下の二種類の経営手法が脚光を浴びたのでした。

【A】FORDが築いたコンベア化を更に発展させたトヨタ生産方式(TPS)

【B】米国のデミング博士が提唱したTQC


此処の手法のその後の展開を詳しく御説明します。


【A】トヨタ生産方式(TPS)から欧米人用の『Lean Production System』が生まれ全世界に伝播しました。GE社等が先頭を切って導入,中国では『精益改善』と呼ばれています。又,イスラエルのGoldratt博士がTPSからTOC(Theory Of Constraints)を考案し(1984年),更にこれを評価するThroughput会計を編み出しました。

世界の学者に取ってトヨタ生産方式は絶好の研究対象で,構成する要素がひとつ一つの手法として理論付けられ,ルーチン化され,世に広められました。

たとえば 「現場と一緒になって新車を開発していく活動」は『Concurrent Engineering 』として紹介され,「かんばん方式のEssence」は『SCM』となり,職場内のSystemを解析する「モノと情報に流れ図」が『Value Stream Map』となりました。「新車開発時事前検討を重視して,後から問題が出ないようにする手法」は『Front Loading』と紹介されています。トヨタ生産方式の2本の柱の一つ「自働化」はそのまま『JIDOUKA』そのうちの「改善は無限である」と言う部分が『6σ活動』とされ,「異常を顕在化(見える化)させる事」は『Visual Control』等々数多くあります。

トヨタ自体がトヨタ生産方式という暗黙知の塊を形式知に十分出来ないで居る内に,米国からこのような形式知化されて出版され,それが全世界に発信され,日本に逆輸入されているのです。

2000年代に入ると,上記手法を織り込んだERPが普及し更に最近では月額数万円でクラウド型のERPが普及しその中には,上記から派生した最新の改善手法が織り込まれ,全世界のものづくり関係者が使い始めていると言います。

一方日本では,生産管理を例に取れば,大学で一般教養を身につけただけの新人を工場の生産管理の現場に配属し,彼より4〜5年前に先輩に教わり,現在生産管理の実務をやっている人を職場先輩にして,その新人を教育して行く・・・・・・というプロセスを多くの企業では続けてきました。『何時までにどれだけの生産を現場にやらせるか』と言う工場の生産性を決めてしまう機能を,同業他社や世界の趨勢とはまったく無関係に,先輩から後輩への教育だけで済ませている会社が実に多いのです。

多くの企業のトップがこう言った内在する問題に気がつかず,我が社の方式が世界1であり,このまま進めるのが勝利の道と思い込んでいたのではないでしょうか?

何より残念なのは,トヨタが1937年創業で若い会社なので,明治時代に創業した大手から見ると『新参者』として扱われ,そこで生まれた上記の数々の手法を軽蔑し顧みられなかったことです。

トラブルを起こしている三菱,東芝,シャープ,神戸製鋼などはその典型だと思います。


【B】TQCについては,1980年米国が調査に来たときの日本の製造現場では,1960年後半から採用開始した普通高校卒の作業員が,持てる知的好奇心を発揮し『QCサークル活動』で現場改善に当たっていました。その結果,工場現場から自律的に安くて高品質の製品が出来てくるので,会社組織の運営主体である経営陣や管理者層は,経営戦略云々の難しいことを考え無くても,取引先との人間関係さえ良くすれば売れる状態にあり,交際費を使って接待に明け暮れていました。

この状態を確認した米国の調査団は,会社経営の専門技術は無く,もっぱら上司への気遣いと他社との人間関係づくりだけの管理者層こそが日本の弱点であるとして,米国企業の管理者教育に力を入れ,TQMと言う手法を確立し,更に米国としての褒賞として『マルコム-ボルドリッチ賞(The Malcolm Baldrige National Quality Award)』を制定したのでした。モトローラ社,ゼロックス社等がこれに呼応して業績を伸ばしたと言われて,これに刺激され米国の製造業は息を吹き返したとされています。

1999年欧米を視察したとき,TQMと言う管理手法で,TPSを進めている・・・という企業が多かったのが印象的でした。

間もなく日本にも紹介され,1995年トヨタにも導入され,物流管理部長としてTQMの洗礼を受けました。以下,体験をもとに展開法を説明します。


先ず期首に会社方針,部門方針を受けて以下の手順で実施項目を決めます。

  1. Mission-Statement (物流管理部長として今年のMissionは何かを具体的に表明)
  2. Performance-Measure(その成果の評価は何で,どのように測定するのか)
  3. Commitment (必達目標としての数値)
  4. Target    (出来ればここまで達成したいという目標値)

上司の物流担当役員との間で,上司の目指す方針展開との整合性を確認後,副社長出席の下で,報告会を行い最終承認となります。この時トヨタは,A3用紙1枚にまとめて10分以内で報告する事が求められていました。

期末になると,実施結果がCommitmentの数値の何処まで行ったかと,残されている課題等をA3一枚にまとめて上司に報告し,最後に期首と同じ副社長出席の会議で報告します。その成果が賞与に反映されます。

日産には1999年ゴーン改革の柱として導入され,先ずゴーン社長自らが上記(1)(2)(3)を掲げ,それを達成させる為の行動目標を各役員に割り付け・・・管理職全員に展開したことで,見事にV字改革を成し遂げられたとされています。ただCommitmentのフォローがきつく,管理職が疲弊していると言う噂がありました。

今日,企業に勤めている皆さまにお伺いすると,上記のようなTQMの説明は無く,昔はTQCと呼んでいたが,最近はTQMという呼び名に変わったのです・・・という御返事を頂くようになりました。

真面目に米国発のTQMを展開したのはトヨタと日産だったのでは・・・と心配になってきています。


結論として弊社は,平成の30年間で日本がじり貧になって行ったのは,上記【A】と【B】の展開が不十分であった為と考えて居ります。【A】の展開は弊社の生業とするところですので,少しでもお役に立ちたいと願っております。


2019年元旦
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年7月

『隠れキリシタン』的現場管理になって居ませんか

6月30日『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』が世界文化遺産への登録が決まったとのこと,イスラム教に押され気味のキリスト教圏からの裏工作の匂いはあるモノの,日本にとって喜ばしいことであります。

今回の登録に当たって,幕府の弾圧があった期間だけ地下に潜伏し,弾圧が解かれる元のカソリック教会の信者として生活に戻った人達を『潜伏キリシタン』と定義づけられ,世界遺産の対象とされたのに対して,弾圧がなくなった後も頑なに本来のローマカソリック教会との接触を拒み続けている集団を『隠れキリシタン』として,対象から外しているのだそうです。

日本人から見てれば割り切れないものがありますが,キリスト教団から見れば『隠れキリシタン』として差別し,除外するのは当然のことでしょう。

宗教活動を『現場管理活動』に置き換えてみたとき,現場管理をコンサルする立場の弊社から見ると,外部に学ぶべき文献や,競うべき会社,教えを請えるコンサルなど数多く居る中で,あたかも『隠れキリシタン』のように外部との接触を断ち,先輩から教えられて事を後輩に教えていという仕組みで,伝言ゲームよろしく,途中で中味が変わって伝えられた現場管理が,『我が社の伝統』の名の下に珍重され,その結果社会から置き去りにされていき,ついには法律違反や偽検査データで納品するなど,一部では社会問題化している会社が,現に存在しています。

一つの実例として,『統計的品質管理(SQC)』のお話しをしましょう。1970年代,各企業は自社の経営基盤を固めるべく,競って『TQC(全社的品質管理)』の導入を図り,その習得の証として『デミング賞受賞』に挑戦しました。

現場ベースでいえば,職長以下作業員までのいわゆる技能系には,『QCサークル活動』と『品質改善七つ道具』が必須として教え込まれ,改善活動が展開されました。監督者には,部下を扱うためのノウハウとして『TWI』受講が義務づけられていました。

その一方で,製造部長以下一般技術員までのいわゆる技術系は,『SQC(統計的品質管理)』,『田口メソッド』等の修得が求められていました。それらを修得した上で,技能系が簡易な手法で改善した内容の技術的に裏付け,全体のシステム構築に貢献する事を担っていたのでした。

このような現場環境の中で,様々な問題解決や,品質向上が図られ,職場ルールや手順が決められたのでした。トヨタ流にいえば『作業の勘・コツ・急所』に当たります。

ところが,2000年になり,筆者が『ものつくり大学』で『品質管理』等を担当することになり,教科書お選びをしていて,ろくな教材が無いことを発見して,愕然となった記憶があります。『SQC』については自分が30年前に使ったいわゆる『青本』と言われるものを教科書として使う羽目になりました。

この事態を現場から見ると,1980年代から,『SQC』をはじめ現場管理系の理論を学んで入社した人は少なくなってしまい,21世紀の今日では,皆無と言って良いような事態になってはしないかと懸念されます。再度デミング賞を受け直すという話も聞きません。

と言うことは,少なくとも品質管理に関しては各社『隠れキリシタン的』な,外界とは遮断された,口伝として伝承された現場管理になって居ると疑って掛かった方が良いのでは…と思います。

検査データ捏造と言われた件も,『SQC』が説いている『不作為抽出』の意味を理解して居ない為,4個測定しなさいと指示されていたが,倍の8個のデータを測定し,最大値と最小値は誤差として捨て残り6個の測定値から気に入った4個の数値を記入していたかも知れません。もしそうだとすれば,『SQC』ではやってはいけないミスですが, 作業者にしてみれば,全て自ら測定したDETAですからウソの付いたという自覚は全くないのです。

此処で皆さまに御提案があります。それは現在現場にある全てのルールの根拠の再点検をやって頂きたいということです。ルールには次の四種類があります。

  • (A) 神様が決めたこと……材質,強度,自然界の法則等
  • (B) 政府が決めたこと……法律等々
  • (C) 会社が決めたこと……就業時間,業務分掌等々
  • (D) 職場で決めたこと・・・・勘・コツ作業順番

このうち自分達で変えられるのは(D)だけなのです。(A)〜(C)は根拠を調べ,その根拠に沿うように見直していかなければなりません。

今西日本では大雨の為に甚大な被害が出ていると報道されています。被害に遭われた方には心からお見舞い申し上げます。そして一刻も早い復旧を願っております。

同時に再発防止に関しても上記(A)〜(D)の趣旨に則って,他社や他地域の情報を仕入れて,比較検討し,新柄緻密な防災体制の確立を願うものです。

2018年7月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年4月

トヨタ式の『石の上にも3年』という考え方

毎年4月になると、希望に胸膨らませた新入社員が入社しますし、ベテラン社員も異動があります。この時上司や先輩から 『石の上にも3年』という言葉が掛けられます。多くの場合は『石の上のような堅くて冷たい場所でも、3年も辛抱すれば暖まり、居心地が良くなると言うから、ここの職場で多少気に入らないことがあっても、逆らわず、先輩のいう事を聞いて職場に溶け込みなさい・・・・』と言う意味に使われています。

50年前、トヨタに入社したときの先輩から指導は、真逆の意味でした。

「個人の基本的人権は侵すことお出来ない永久の権利として憲法で保障されているが、 民間会社は社会に貢献し続けなければ存在意味を持たない。組織はとかく易きに流れる。それ故、公正なルールのもと、ライバルと切磋琢磨することで、共に社会に貢献する存在であり続けられるのだ・・・・」

だから「進歩し続ける社会の中で、 半歩でも先を行かねば組織の存在価値はない・・・」と教えられ、現場実習ではトヨタ生産方式の『自働化』とは、「異常があったらラインを停めて直すこと・・・」更に進んで「異常を発見しやすくすること・・見える化」の実態を叩き込まれました。

この文脈で 「石の上にも3年」を解釈すると、「新しい職場に来れば、新しい発見がある。良いことだったらそれを受入、おかしいと思ったら納得できるまで何故?ナゼ?を追求せよ!」「朱に交われば赤くなる、の言葉のように、 時間とともにおかしいと感じなくなってしまう。」 というモノになります。

実際に入社教育で、「今のやり方のままで行くのであれば、高校卒を採用し、4年間会社の実務をしっかり教え込んだ方がスキルの高い人材に育つし、そう言う人財も採用している。会社の外で4年間過ごした大卒生を採用したのは、この会社を客観的に見て、より良い方向に軌道修正していく人財として採用したのだ・・・・」と言われました。

これと対になる言葉で 「3年したらサボれ」と先輩から指導を受けました。

その真意は、「赴任して、その職場の抱えている問題、成すべき課題がハッキリ見えるのは精々2年間だ! 見える2年間でその仕事を片付けよ!3年目からはその仕事は部下に任せて(部下に育成に重きを置く)、自分はもう一つ上の仕事(上司の補佐)に取りかかれ!」というモノでした。

1980年代豊田章一郎社長は 「勇気(College)!創造(Creation)!挑戦(Challenge)!」を掲げ、

1990年代奥田碩社長は 「トヨタの敵は(昨日の)トヨタ」「変わらない奴が一番悪い!」を掲げていました。

トヨタ在籍中は歴代の社長は社員一人一人が、自分の感性で自分のまわりを見直しておかしいと思ったら行動を起こせと呼びかけているのです。

この「変える」とか「挑戦」と言うことをトヨタ生産方式の中の『改善』と言う手法で説明しましょう。

先ず今やりかたはどうなって居るのか、しっかりと見直しことから始めます。調べてみると、現場だけでなく事務所の作業でも、人によってやり方はまちまちですし、同じ人をとっても、その時の気分で変わってきます。こんな状態ではその「出来映え」も、「所要時間」も出たとこ勝負で、とてもお金を貰ってやっているプロの仕事とは言え無いような現場にも出くわすことがあります。その中で一番良いと思われる作業方法を選び出し、それを『今のやり方』として固定します。

現状のやり方の中で、一番マシなものを選び、これをありのままを表したものとして『表準(おもて標準)作業』と言います。このやり方がベースになります。

この『表標準』をやり続けながら、更にやり易く、確実に仕上がるように新しい作業方法に挑戦して行くことを『改善』とか『変える』と言っているのです。

さて、新しい会社、新しい職場に来られて皆さま、 『石の上にも3年』と言う言葉をどう受け止めますか?

ミイラ取りがミイラになら無いように、御活躍を期待します。

2018年4月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年3月

所長 季節のご挨拶

先月の平昌冬季オリンピックは、日本として始めて14個のメダルを取り、沸きました。唯々感激してテレビの前にクギ付けになって、見入っていました。TVでの解説などを見ているうち、『ものづくり現場』として学ばなければならない幾つかの事柄が見えてきました。その中で

『個々人の実力とチームとしての総力を如何に両立させるかの課題』

について皆さまと考えてみたいと思います。

オリンピックから離れて、読者の皆さまが日々気に掛けている作業現場の話に移りますが、私がこのテーマに最初に直面したのは、1980年、トヨタの製造課長に就任し、600人余の部下を束ねて成果を上げて行く重責を負ったときでした。と言うのは、『個人の能力向上』と、『チームとしての総力』とが、高いレベルを狙うほど融合が難しくなっていくという現象があるからなのです。

ここで、トヨタ自動車では、会社としてこれに関してどのような取り組みをしてきたのか紹介しましょう。『個々人の実力向上』(以下記号【P】)と、『チームとしての総力』(以下記号【T】)で表しますと、以下のような施策が打たれてきました。

【P】1950年代;『創意工夫提案制度』を現場に導入しました。

当時は現場には徒弟制度が残っていて、上司が部下の指導をして居て技能は伝わっていましたが、個人としての Identity を発揮してもらうために導入

【T】1960年代;乗用車の生産が本格化し、従業員数が急増し始めました。

上司に対して部下が急増したことになり、個々の問題に上司が関われ無くなる。この事から現場の部下同士がチームを作って、問題解決に当たると共に、部下同士のの連携すなわちチームワークが重要視視され現場での小集団活動として『QCサークル活動』を会社を挙げて活発化させたのでした。

【T】1970年代;大衆車ブームで、更なる急拡大が起きました。

新入社員や異動者が孤立しないように、話し合いの場を少しでももたせようと、『PT(Personal Touch)活動』を展開。会社の仲間と話し合うと申請すれば、チケットで構内の売店で菓子やパンが購入できるようになる。

このような状況下で、1980年、新天地に新工場を建設し、新型車を生産する製造課の課長として赴任し、既存の工場からの人材集めから始めたのでした。関係者の好意で人材は集まりましたが、どうやってチームワークを醸し出すのかが課長としての一番重要な仕事でした。

そしてこれは、オリンピック選手団の編成に重なるところがあります。

トヨタでの『個々人の実力とチームワーク』の話を続けます。

【P】1991年、海外進出が急増し、技能の教育訓練が手薄になって来ていることが顕在化、そこで『専門技能習得制度』が導入されました。

そこでは、初歩的なC級から超ベテランのS級まで、習得すべき技能と知識が整備されていて、現場で日常業務をこなしながら習得した技能と知識が、会社の期待値に到達しているか、各工場にある『訓練道場』で実技試験をし、不足分はその場で習得させる。知識は筆記試験をし、不足分は教育する・・・・これを全員に徹底することで、職場での技能レベルを維持しようとするモノでした。

当然のことながらこの仕組みは全世界に点在する工場に展開されますが、トヨタとしてのレベル合わせが必要となります。

【P】2003年海外事業体の監督者研修、技能訓練のための機関として、『グローバル生産推進センター(GPL)』を設置しました。

このようにして『個々人の能力向上』と『チームワークの醸成』の双方に施策が打たれてきたのでした。

会社方針としても、1992年に制定された『トヨタ基本理念』の第5章で

『労使相互信頼・責任を基本に個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる』

と謳っています。

その後、2001年に制定された『TOYOTAWAY 2001』では

『トヨタウェイの2つの柱は、「知恵と改善」と「人間性尊重」である。「知恵と改善」は、常に現状に満足することなく、より高い付加価値を求めて知恵を絞り続けること。そして「人間性尊重」は、あらゆるステークホルダーを尊重し、従業員の成長を会社の成果に結びつけることを意味している。』とあります。(トヨタHPより)

これを、職場内に展開すれば、 『従業員1人ひとりに対するRespect』と『Team-Workへの評価』になります。

ここまではトヨタのことを書きましたが、皆さまの会社でもほぼ同じ事をされていることと思います。そしてどの職場でも、部下を預かって実務を担当する管理者・監督者にとっては、日々の活動の中で、

  • 『部下1人ひとりの能力を如何にして向上させていくか』
  • 『組織としての成果を如何にして向上させるか』

の相性の良くない二つのテーマを追い求めていくことが課せられているのです。

管理者の皆さまは、そんな立場でスポーツ観戦をする事をお勧めします。そうすると監督や、選手の動きから、得点のありなしとは違った監督者のManagementのドラマを垣間見る事が出来ます。

さて、話を冬季オリンピックに戻して、一緒に考えてみましょう。

オリンピック選手団の団体競技の各競技の監督は、選手個人能力向上と、チームチームとしての成果が与えられたテーマとなります。

個人個人の実力を付けさえるには、個人の力を顕在化させ、 『徹底的に競わせれば良い…』と言うのは、誰でも考えつく方策です。そうするとどうなるか・・・・の典型例を見せてくれたのが『韓国女子』のパシュートでした。

実力のある選手は先頭を走り、力の弱い選手を置いてきぼりにする…。そして勝てないのは弱い選手がメンバーにいるからであると発言をする・・・・と言う絵に描いたような恥ずかしい結果がTVに映し出されてしまったのでした。

次のレースでは案の定、全員が遅い選手の速さで滑る・・・・これも、 『チームワークを大切にせよと』上司が怒鳴った時の典型例を『韓国チーム』が見せてくれたのでした。

チームワークとして完璧な試合展開したのは『日本団体女子パシュート』でした。世界のTopアスリートを並べ、 「1週間練習すれば日本に勝てる」と豪語していたオランダを、抜きつ抜かれつの接戦の末、オリンピックレコードを出して勝ったのでした。

TVのインタビューでは、日本の女子選手がレース中に何が起き、どう対処したのかを、自分の言葉で明確に話しています。準決勝のみを走った選手が「私が壁となって決勝戦の体力の温存してもらいたかった」等はその典型でした。それらの言葉の裏にあるのは、選手同士が互いの特性を理解し合っていて、自分が何をすればチームの勝利に結びつくか真剣に考え、そのためには他のメンバーをRespectしながら何をして欲しいか、トコトン話し尽くしてきて得られたという一体感が滲み出ていました。

監督のなすべきことは、客観的な事実(DATA)を与え、明確な目標を与え、どうしたらその目標を達成できるか、選手達に考えさせ、話し合わせて、皆で合意した結論に自信を持たせることだったようです。選手の個性も違うし状態は刻一刻と変化します。そこには一般解は存在しません。その場に合った特別解しかないのです。

チームワークの話ばかりしてきましたが、忘れてはならないのは、中心となった高木姉妹間の互いをライバルと見ての8年余に亘る切磋琢磨でした。その結果種目は違えど、それぞれ、金・銀メダルを授与される実力を身に付けてきたと言うことです。この個人の力あっててこそのチームワークの優勝だったのです。

私が恐れるのは、 『日本にはチームワークがあるから勝てるのだ』と言う早合点が広まらないかということです。全世界が日本のチームワークを研究してきますから、個人としてメダルを取れるレベルの選手を揃えないかぎり、連覇は難しくなることでしょう。

話を再び製造現場に戻しますと、皆さまの工場から生産される部品(商品)は、世界各国の市場で他社製品と競い合っています。言ってみれば、オリンピック競技場と同様に、多国の代表選手と金メダルを懸けて競争しているわけです。

今まで勝ち続けてきた御社の強みは何処にあるのでしょうか?その製品は御社の製造現場から生みだされています。その現場の強みは何処にあるのでしょうか?ズ〜ッと勝ち続けるには、どうすべきでしょうか?

3月9日からパラリンピックが始まります。此処では手の代わりや足の代わりをする機器が登場します。道具や設備を使って物を作る現場により近い競技になります。

『個々人の実力とチームとしての総力』をサブテーマにして観戦することをお薦めします。

2018年3月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知