株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。

現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

過去の所信表明





2020年4月

季節のご挨拶

〜提言〜

常に『目的は何か?』を問い直そう


4月が来ました.年度初めの月,人事異動の月,新学期の月でもあります.新しい職場,新しい仕事,新しい環境で心新たに取り組まれる皆様にエールをお送りいたします.

通例はこのようなご挨拶で済ませるのですが,2020年の今年は様子が違います.

毎日,新型コロナウイルスによるパンデミックにより,ご自身の健康はもちろん,ご家族の安全と,ご自身の職場大変動,市場の大混乱でご心痛のこととお察しいたします.一番のお困りごとは,今のパンデミックが今後どうなり,いつまで続くのか?ということではないかとお察しいたします.

今回は,喜寿を越えた,さまざまな実務を経験したOBの,岡目八目的な異見をお伝えしたいと思い,この文章を書いています.少々長文ですが,社会に,家庭に,重責を負われている皆様の参考になればと,老体に鞭打ってこれを書いています.


今日現在,諸外国は日本のパンデミックに対する対応が違うことを不審に思っています.政府でも企業体でも『高学歴者』がトップに立ち,指揮命令しているのは,その人たちが単なる体験ではなく学問として,『理路整然と整理した人間の行動学としての歴史』を学んだか,『自然現象の観察を通して身に着けた論理的な思考法で先を読む洞察力』を身に着けている…こういった能力を期待しているからでしょう.日本と諸外国との差が,歴史を軽視した教育体系のせいでないことを願うばかりです.

私自身もネットで壮絶な疫病の歴史を改めて知りました.戦争や交易,気象変動により人々が移動すると,土着の風土病だった感染症が免疫のない地域に感染爆発を引き起こし,人口が激減するほどの被害を与えていた,という事件が繰り返されていたことがわかります.

中世ヨーロッパにおける黒死病はあまりにも有名ですが,今の新型コロナについては,100年前の『スペイン風邪』が参考になります.

この例を下敷きにし,『改善マン』として今をどう捉え,何をすべきかの私見を申し述べます.

参考資料【スペイン風邪とは…】

Wikipediaによれば,第一次世界大戦中,アメリカから始まったとされています.

北米で発生したインフルエンザで,米軍とともに欧州に入り,戦場である欧州全域に,やがては全世界に蔓延しました.1918年1月から1920年12月まで3波に分かれて流行し,当時の世界人口の1/4に相当する5億人が感染したといわれています.戦時で士気に影響するとして伏されていましたが,推計で死者は1,700万〜5,000万人とされ,戦場では戦死した兵士より病死した兵士の方が多かったと伝えられています.また,この時は他のインフルエンザと比べて,若年成人の死亡率が高かったとも記されています.

スペイン風邪から約100年,中国から始まったCOVID-19というパンデミックが,感染の炎を燃え上がらせつつあります.スペイン風邪の例に倣えば,1波,2波,3波と再発して襲いかかり,ワクチンが普及するか,地域の人口の70%あまりが抗体を持つまで終息はせず,2〜3年は異常事態が続くことを……例えて言えば,人類とウイルスの第三次世界大戦が勃発した……という規模の大事件が起きた,と思うべきです.


こんな,それこそ『未曾有』の時,会社の命運を懸けて頑張る皆様に,贈る言葉があります.それは,

常に『目的は何か?』を問い直そう

という言葉です.これは,私がトヨタで先輩に叩き込まれた言葉でもあります.

この言葉の意味は,ある『目的』を達成させようと,ある『手段』を用います.その『手段』がうまく行く様に何か『手段』を講じます.其れを円滑に進めようとある『手段』を……というように,手段が手段を呼び迷路に入り込み身動きできなくなってしまいがちです.この時に「『目的は何か?』を問い直せ!」ということで,これによって全体像が見え,Break Throughが出来るというコトなのです.

この言葉の原点は,20世紀初頭,豊田佐吉翁が織機(機織り機)の改良に取り組んでいたときにあり,この発想で『自働化』という新しい理念を発明し,それは織機に留まらず,現在もビジネス上の重要理念として世界中で役に立っています.


以下,その経緯を具体的に説明しましょう.

当時は,織機に使える動力と言えば 水車か蒸気機関しかありませんでした.当然,今のような電子制御はなく,カラクリで制御する時代でした.そんな環境下で世界中の発明家が,手間暇の掛かる「はたおり作業」を何とか機械化できないかと日夜改良に取り組んでいたのでした.

機織り機 (http://www.norikaiya.net/koutei.html より)

そもそも機織りとは,上図のように交互に上下する経糸の間を,横糸を入れたシャトルを通し,櫛状の「おさ」で押さえ込み,次に経糸を逆に上下させ横糸を通す……これを繰り返して,横糸を一本ずつ織り込んでいく動作を連続させていく作業です.簡単そうに見えますが,『力』の加減で出来上がった布の風合いを決めてしまうというデリケートな作業で,これを延々と続けることでやっと布が織れていくのです.又,横糸を巻いた糸巻きは上図のシャトル(杼)の中に納められていますが,布の途中で横糸が無くなるのは,布としての致命的な不良なので,早め早めに横糸が残っている状態で織機を停めて,シャトルを交換し,又起動させる必要があり,女工さんは機械に張り付いている必要がありました.世界中で,これを前提に,より高速化の改良を進めていたのでした.

つまり『織機一台あたりの生産性向上』に向かって挑戦していたのでした.

豊田佐吉翁も当初はこのトレンドで改良を進めていましたが,織機を停めてシャトルを交換するコトがNeckで機械の生産性は壁にぶつかっていたと言います.

ある時,佐吉翁は,そもそも女工さんに機械を操作させるということが間違いで,女工さんが就ききりでなくても,布を織ることが出来る『織機』を創ることが,目的であると気がついたのでした.

言い換えると,佐吉翁が織機を改善する目的は,世間でやっている『織機の生産性向上』ではなく,『女工さん一人が1日で生産する布の量を多くすること(労働生産性)』にある事に気がついたのでした.ということは,女工さんの監視を必要とせず,

  1. 機械が自ら横糸が減ってきたことを感知して,無停止でシャトルを交換すること.
  2. 経糸が切れたらそれを感知して,自ら瞬時に織機を停め,赤ランプで知らせる.
この2つなどが改善の具体的展開になったのでした.

佐吉翁は,このように女工さん達の監視から外れても生産し続けられる機械を,『自働機(自ら働く機械)』と名付け,このような機能を持たせることを『自働化』と名付けました.会社名も一時『豊田自働織機製作所』と名乗っていました.

1924年『自働化』を完全に織り込んだ『G型自働織機』を完成させ,その特許を,織機発祥の英国企業に譲渡し,その資金で自動車の研究を始め,やがて今のトヨタ自動車に発展していったとされています.

佐吉翁の考え出した『自働化』という概念は21世紀の今日,

  • 異常があったら直ちに生産を止めて直す
  • 社内の異常を顕在化し全員で共有し,直していく
  • 機械だけでやっていく仕事と,機械群を維持管理する人の仕事を分離する
  • …………
等々の経営的深い意味が理解され,『JIDOKA』という言葉で世界中で使われるようになっています.

この『自動化』のEpisodeと共に,トヨタでは「壁にぶつかったら『目的は何か?』と見直せ!」と叩き込まれるのです.

参考までに『目的は何か?』の活用例を紹介しましょう.


【例1】五輪選手は再考すべきか否か

新型コロナCOVID-19の影響で,TOKYO2020という名称はそのままに,オリンピック競技大会は2021年7月開催となった模様ですが,各競技団体が出場選手を再選考すべきか否かで揉めています.

この問題を『目的は何か?』を使って考えてみましょう.その前に,そもそもオリンピックの目的は何かを知る必要があります.

オリンピック憲章1996年版より抜粋
  1. オリンピック・ムーブメントの目的は,いかなる差別をも伴うことなく,友情,連帯,フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより,平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある.
  2. オリンピック・ムーブメントの活動は,結び合う5つの輪に象徴されるとおり普遍且つ恒久であり,五大陸にまたがるものである.その頂点に立つのが世界中の競技者を一堂にあつめて開催される偉大なスポーツの祭典,オリンピック競技大会である.
スローガン 『より速く,より高く,より強く』

上記オリンピック憲章を要約すると「スポーツを通じて青少年を教育して平和でより良い世界を作る事」が目的で,それを推進するための手段としてオリンピック競技大会がある事が分かります.その根底には如何なる差別も排除するとしています.

もし,テレビの視聴率を上げたい,会場の観客数を増やしたいということを目的にするならば,今年の予選会代表として選ばれた人をそのままにして,練習風景などを中継し続ければ,Totalの出演料も増えるし受けもよい.費用も掛からない.

一方で憲章にあるように,20年開催として決められた選手を既得権益とみれば,その後伸びてきて21年にピークを迎える選手に対して差別することになる.21年度に向けて再度選考会を開けば,より多くの選手が刻苦勉励して,裾野が広がり,本来のオリンピックの目的に合うことになります.

『目的は何か?』で考えれば,何も迷うことなく1年ずらして再選考という結論になります.読者の皆さまはどうお考えでしょうか?


【例2】各社に存在する改革組織の『目的は何か?』

〜ここからが今回お伝えしたいことの本番です〜

マスコミの報道を見ていますと,報道の中味もコメンテーターの突っ込みも,『事の本質を理解せず,字面の質問』が多いのに深く失望しています.

もっと残念なのは,『今日,○○名の感染者が見つかりました』という発表を,そのまま視聴者に伝え,記者としての深掘りのない事でした.

全員を漏れなくて調査出来ない場合の調査方法は,『統計学』として確立されており,『どのような基準で検査対象者を選び出し,その中からn名調べたらp名の感染者がいた,だからSampleとしての感染率は(p/n)である.対象者はN名いるから,全体でP名が感染していると思われる……』という方法です.ニュースでお馴染みの『世論調査』は,結果と同時に調査条件も報道しています.

世界中が注視している中で,調査の条件をあきらかにせず,『今日の感染者○名』と発表する当局には『絶句!』ですが,この不当性を糾弾しない『学会』『野党』や『マスコミ』の姿勢にも『絶望感』を禁じ得ません.この国は『新型コロナ』の前に国家の中枢が『忖度病』に罹患しているようです.

今日現在,世界中のインテリ(医者だけではない)が各国の感染状況を見守っていますから,この稚拙な報道にあきれ返っていて,先進国の関係者は皆,2週間以内に日本で感染爆発が起きると,固唾を人で見守っていると報道されています.現に,英文で日本からの帰国勧告を出している国があるとか…….日本が科学立国とされていましたが,コロナの報道に度に,自ら今は科学後進国であるとアナウンスしているに等しい状態です.残念です.

政府やマスコミはこんなレベルでも,現在全世界を相手に厳しいビジネスを展開している 日本の実業界は,しっかりと科学的に判断して 取り組んでいて,大丈夫だと思います.その中に在って,このコラムの読者の皆さまは,様々な企業に中で『ものづくり』や『Supply-Chain』に関する『改革を推進する組織』に関係する皆さまだと思っております.

その皆さまと,今回の新型コロナのパンデミックが,ものづくり産業にどんな影響を与え,それ故どんな改革をすべきかについて,一緒に考えたいと思います.


【2-1】人類とウイルスの歴史を調べてみる

今回のパンデミック騒動の全体像と役所から次々と出て来る規制・要望の本当の目的を理解する為には,我々は,人類とウイルスの歴史にまで踏み込んで学び,自分で判断出来るレベルの知識と知恵を確保する必要があります.

先ず,ウイルスによる病気の歴史を調べてみましょう.皆さまも文献やネットでお調べ下さい.

戦前生まれに私は,子供の頃ウイルス性疾患の中で育ちました.天然痘は小学校で種痘を受け,麻疹にかかり,百日咳,風疹に掛かりました.この頃言われたことは,これらの病気は一度罹れば二度とかからない事と,更に幼い内は掛かっても軽いが,年を取るほど重くなり,大人になってからは重症になると言われていて,これらウイルスによる疾患は大人になるための『通過儀礼』であるとされていたのでした.実際,長男が幼稚園で『おたふく風邪』に感染した時,私にうつり,長男は寝込みませんでしたが,親である私は1週間寝込みました.

これらのウイルス性の病気は,当時の日本社会とともにあったので,殆どの人が抗体を持っていて,一時的に抗体を持っていない人の間を伝染していっても,間もなく自然に終息するのでした.

ところが,その社会にとって初めての(誰も抗体を持っていない)ウイルス性の病気が流行ると,状況は全く変わります.抗体を持っていないので,1人が2人に感染させるとすれば,2⇒4⇒8⇒16⇒32⇒64⇒…といった形に,指数関数的に増えていきます.急速に感染拡大した場合(感染爆発)は全員が感染します.ゆっくり感染が進む場合は,一旦終息したかに見えますが,2波,3波と続流行し,その地域の約70%の人達が感染し,抗体を持つようになります.こうなると先に述べた麻疹や風疹のようになるのです.

感染爆発の例で言えば,文献によると,15世紀から18世紀にかけてヨーロッパ人の侵攻とともに持ち込まれた麻疹や天然痘等によって,抗体のなかった当時のアメリカ先住民の人口は80%も減少したという研究もあると言います.また,冒頭に述べた,100年前のスペイン風邪は,『1918年のパンデミック』とも呼ばれ,世界中で5億人(当時の世界人口の1/4)が感染し,死者は推計1,700万人(1億人という説もある)とされています.

今流行って居る新型コロナCOVID-19も,誰も抗体を持って居ないので,放置すればスペイン風邪並みに全世界に広がる可能性があります.欧州や米国の当局の対応が早いのは,このスペイン風邪が人々の記憶にあるからでしょう.


【2-2】新型コロナは何時まで続くのか……

『お江戸名物火事・喧嘩』という言葉が残っているように,江戸初期の民家は藁葺きのうえ密集していましたから,一旦出火すれば瞬く間に燃え広がりました.直接火災を消す方法が無いに等しかった当時は,風下の家を強制的に倒壊させて燃えにくくして(火元から隔離して)類焼を防ぐというのが,当時の火消しの方法でした.3『密』の禁止,不要不急の外出自粛要請などは,人と人との間隔を開けて感染防止を図るだけであり,江戸の火消しと同じで,隔離して類焼を防いだに過ぎず,火の粉が飛んでくれば直ぐ火がつきます.

中国は回復しつつあるとか,韓国は山を越えた……等々に話がありますが,取り敢えず火事の火勢が衰えたというだけであり,いつか再び出火し,大火事になるかも知れないのです.現にその中国も,国内では小火が治まっていませんし,外国からの入国制限を厳しく行っています.

パンデミックの専門家である感染学者の見解は,2019年以前の自由な貿易・自由な人の出入りが復活するには,

  1. (医療崩壊を起こさないことが望まれるが)感染が広がり70%余が抗体を持つ.
  2. ワクチンが開発され,それを接種して1と併せて70%余が抗体を持つ.
  3. ウイルスを直接やっつける治療薬が開発され,病院に配られ治療が始まる.
  4. 上記1または2+3が出来て初めてインフルエンザ並みになる.
ということのようです.言い換えれば全世界の77億人の70%が感染して抗体を持てば終息するということです.


(1) 歴史を振り返ると

Wikipediaによれば,スペイン風邪は下記のように流行したとあります.

第1波
1918年3月,アメリカで発生,米軍参戦で欧州で5〜6月に流行.
第2波
1918年秋,世界中で同時流行,重篤な合併症を起こし死者急増.
第3波
1919年春〜秋,世界中で流行,最初に医療関係者が感染⇒医療体制崩壊⇒感染被害拡大

当時と今の交通量を比べますと,感染伝播の環境が格段に違います.

1920年(大正9年)現在
世界人口約18億人約77億人
大陸間交通客船のみ航空機(13億人・2014年)
大陸内交通列車,馬車マイカー,バス,列車,航空機
(2) 今の世界の感染状況は猛烈な速さで進行中

4月1日現在の状況を見れば,

  1. 米国で死者4,000人突破.トランプ大統領は死者最大24万人予想.
  2. WHO事務局長予想:数日内に世界の感染者100万人.
……等々の惨状が伝えられています.

日本では忖度が働いて,科学的Dataで理路整然と言えば『煽るな!』と批判される為,「大変だ」「可哀想」と感情に訴える報道されていますが…….海外では,放置すればこんなに悪くなると科学的に数値で表明します.各国の首脳は『スペイン風邪』を念頭に置いて,国民に訴えているのが分かります.

それゆえ我々は,日本国内の政府やマスコミに惑わされず,ネットや海外放送で世界の客観的なデータを把握し,文献を漁り,自分の頭で理解する必要があります.

一番大事なことは,今報道されていることは,火事で言えば消火作業の実況中継に過ぎず,各都市の火?を鎮めるのにあと何ヶ月かかり,各国として鎮火するのに何ヶ月かかるか,各国の焼失面積はどれ位かを,皆さまは自社の取扱商品の目で,今後の予想を今のうちに見極めることが肝要です.

(3) 自社の業務から見た,新型コロナの流行の期間と規模の予測

繰り返しになりますが,マスコミ報道は,我々自身が感染するか否かに重点を置いて報道して居ますが,我々は製造・物流・販売会社に勤めていますから,自社の業務への影響という観点から,日本各地,世界各国に於ける新型コロナの及ぼす影響の大きさ,期間の長さを,購買・営業・経営企画が中心になって,早期に把握する必要があります.自社のSupply-Chainのダメージ,納入先の動向,政府の方針等々を,拙速でも構いませんから,御社が自ら現地現物で調べることを強くおすすめいたします.

【2-3】新型コロナ流行中の自社改革の実行

〜各社の『生産革新を担う部署の目的は何か?』〜

(1)スポーツ選手は今何をやっている?

新型コロナの影響で,野球やサッカーのリーグ戦開幕が延長になっています.試合がない間,プロの選手は何をやっているのでしょうか?絶対に,部屋に籠もってカウチポテト……というにはあり得ません.グランドは使えない場合でも,体力の維持と,延長が2ヶ月なら,フォームの改造とかその間で出来る強化策を実行していることでしょう.

オリンピックの選手は,丸1年競技スケジュールが延びました.彼等にとっては,世界の強豪だけで無く,1年若い選手もライバルになります.彼等に勝てるように,1年間掛けて身体を作り変える練習に入っていることでしょう.

(2)新型コロナの流行期間をどう見るか?

以下の文章は,私が手の届く範囲の情報から得た結論です.皆さまも,ただ単に他人の情報を鵜呑みにするとか,上司の指示を待つとかせず,ご自身で納得いくまで調べ,ご自身の見解をお持ち下さい.

『疾風に勁草を知る』という言葉があります.日頃は目立たなくとも,異常時に頭角を現し,貢献する人のことを言います.今回の新型コロナでは,北海道の鈴木知事や,大阪の吉村知事などは,政府の指示を待たず,市民のために先頭に立って活躍します.御社に関わる情報は,社員の皆さま以外では収集することは出来ません.

『先ず隗よりはじめよ』という言葉があります.稚拙を承知で,私はこの文章を書いています.これを叩き台にして,皆さまの考えをまとめて,御社の危機突破を立案下さい.

  1. 日本の主要都市での流行
    1. 東京(首都圏)

      一番の問題は,ギュウギュウ詰めの電車で通勤する首都圏に感染の火が付いたら,大変に厄介なことになります.緯度こそ違え,規模や地形が似ている ニューヨークが大変な基地になって居るので,今回のパンデミックは,東京が,感染爆発するか否かで大きく変わります.

      1. 韓国モデルを採用し,検査拡大で発見した軽症者を オリンピック村へ入れ,今は暇な客室乗務員や,オリンピックのボランティアなどを動員すれば,5ヶ月間で一応の終息を迎えることでしょう.(遅ればせながら,4月8日政府は『非常事態宣言』を出しましたが,二次災害を恐れるがあまり,出動した消防士に「ここは立ち入るな!」「ここは濡らすな!」などと活動を縛っているがごときの中身です.出動の効果は期待できず,こここそ『目的は何か』と問いたいところです.)

      2. 今のままの単なる自粛で,感染爆発が起きずに維持出来たとすれば,治まるのに10ヶ月程掛かる事でしょう.

      3. 不幸にして感染爆発が起きると,否応なしに首都圏が完全封鎖され,感染爆発はおよそ4ヶ月で終息することでしょうが,ニューヨーク並みに多数の死者が出ますし,経済損失は莫大になるでしょう.

      関西圏,中部圏は東京圏に準じます.

    2. その他の地方都市

      規模が小さく,人口が少なく,密集していませんから,a,b,cとも東京より1ヶ月は短いと予想出来ます.日本全体で考えますと,速くて9月末,遅くて来年2月末で国内のみは,一応終息するでしょう.しかし中東・アフリカでは感染は治まらず,海外との出入国は閉ざされたままで居る可能性が極めて大きいと思います.

  2. 世界各国での流行の予測
    1. 感染は箸で食事をする国から始まった:中国・韓国・日本

      これらは感染を遅らせる民俗的要因と思われます.

    2. ナイフとフォークで食事する国に移った:西欧系

      ナイフ・フォークはテーブルに直置き,固いパン,生ハム・チーズ等は店頭に晒す,土足で出入り等々,感染しやすい要素が在ります.

    3. 手掴みで食事する国に移りつつある;インド・中東・アフリカ

      主食のチャバティ等は露店で手掴み販売,土足で出入り,等々感染しやすい要素あり.一番感染しやすい民俗的要因あり.

    このように考えると,現状の国境封鎖状態で,北米・欧州が自国内で感染が鎮火するのに,ほぼ日本と同じで,後5〜10ヶ月間を要すると思います.

    今から感染が始まる,インド・中東・アフリカ地域は,感染拡大は速いが,鎮火には内戦の難民等行政の統率が効かない人々が多数存在することを勘案すれば,速くても丸2年,長引けば3年余掛かりそうです.感染者がいなくなったという保証が無い限り,人の自由な出入りが出来ません.その結果,貿易は不活発になります.

    私見ですが,このように考えると来年の7月のオリンピックに,インド・中東・アフリカは間に合わず, 2022年に再延期ということも在りうると案じております.

(3) 今後の国内の経済を予測する

このように理詰めで考えていきますと,国内での消費市場は,秋まで現在のような低迷が続くことが予測出来ます.そして年末から来年年初に掛けて徐々に回復すると考えられます.

しかし,今まで再三述べてきたように,ワクチンが開発され普及するか,世界の人口77億人の70%が感染して抗体を持つまでは,一旦治まっても,日本国内でも,世界各国でも,散発的に流行する状態が続くので,経済は完全に元には戻りません.

従って速くて丸2年,最悪3〜4年掛からないと,2019年並みの自由な貿易環境は望めないと思います.3〜4年という期間は過去2回あった世界大戦と同じ規模です.とすれば,

  • 第一次世界大戦の前後で,世界はどう変わり,日本はどう変わったか.
  • 第二次世界大戦の前後で,世界はどう変わり,日本はどう変わったか.
  • ならば,このCOVID-19パンデミックの前後で,世界はどう変わり,日本はどう変わるのか.
を考察し,その中で,我が社はどう変わり,我が家はどうするのかを しっかり考える必要があります.

しかし,一番大事なのは,その戦争中をいかに生き残るかです.生き残りの手段を考え,実行しながらも,終わった後,変わってしまっている世界で優位に立っている必要があります.

具体的には,皆さまが独自に考え 結論を出す問題ですが,幾つか『Jコスト論』から見た『考慮事項』を申し上げます.

『考慮事項』の一つは,オリンピック時の混雑緩和策として準備した『テレワーク』です.今,感染防止の『3蜜防止』活動で 世界中で実践しています.学校教育でも,韓国や米国でネットを使った在宅教育を始めています.このパンデミックが終わった頃は,格段に進歩し,VRやAIと結合して,情報だけを扱う本社機能は,仕事のやり方が激変するでしょう.

東京で言えば,丸の内や大手町の高層ビルに本社の情報処理機能を置く意味は全くなくなります.その上東京には『富士山の噴火』『台風による広大な水害危機』『首都直下型地震』等により,首都機能崩壊のリスクがあるので,先の見通せる企業は,ビルを高値で売り払い,地方に分散されるでしょう.

もう一つはSupply-Chain網です.今回のマスクがよい例で,世界中のマスクが中国で作っていたため,今回の新型コロナで中国政府が差し押さえ命令を出し,一時期,政府の緊急措置で中国の国内消費にまわされたと言います.国家体制を維持するための必須物資は,自国生産する必要性が顕在化しました.御社の扱っている製品も,『地産地消型』にして,ある地方の封鎖でも,ある程度の生産は維持出来るように改革をするべきでしょう.

ちなみにトヨタは,本社は豊田市,工場は,東日本・中部・九州の3ブロックに分割していて,何処で災害が起きても生産は維持出来るようになって居ます.また,今回のコロナウイルスで中国が封鎖された時,何かあると直ぐ停まるとされたトヨタは停まらず,停まらないハズの日産が停まりました.

(4) 自社改革として,どう考え,何をすべきか?!

さて,自社の改革を託された『ものづくり改革』Teamの皆さま,この新型コロナにまつわる操業低下……業種によっては20〜40%の減産で,しかも国内回復まで5〜10ヶ月,と言う事態をどう捉えますか?

『ものづくり改革』関係者は,絶好のチャンスと受け止めて欲しいのです.と言うのは,日頃改革案を提出しても『今は忙しいから・・・』とオクラになっていたと思うからです.

絶好のチャンスを活かすべき具体的な改革案立案と推進体制構築は,御社の改革のプロである皆さまのお仕事ですが,『Jコスト論』としては『こんな点を押さえて欲しい』と言う思いから,以下の文章を書きました.参考になれば幸いです.

  1. 改革のグランドデザインを先ず構築して下さい

    グランドデザインは,

    1. 改革の目的,KPI
    2. 具体的な展開法 期間,組織を明確に期す.
    3. 計画は,
      極短期即時実施するもの
      短期計画1ヶ月間の直近計画
      中期計画国内が鎮火するまでに完了させる計画
      長期計画世界中で終息するまでの計画
    というように立てるとよいでしょう.

  2. 短期計画までに取りこむべき事柄

    以下,『Jコスト論』から導き出される実施事項を列記します.皆さまの改革計画の参考にして下さい.

    1. 改革推進体制づくり

      各部署から一番優秀な人材,幹部候補生などを集めて『改革Team』を編成し,改革の全権を与えグランドデザインを作り,細部計画に展開し全社に指示し実務展開する.同時に,この活動を通じて人材育成を図る.その組織体は,下記のように階層別にし,全体最適に向けた迅速・強力な体制がよいでしょう.

      会社全体社長直属の改革Team
      部門単位役員直属の改革Team
      部単位部長直属の改革Team
      課単位課長直属の改革Team
    2. 最優先は,在庫金額の削減⇒資金繰り対策
      1. 減産して完成品在庫を極小化する(運転資金確保)
      2. 減産を活用し,少ない仕掛かりで生産できる体制を構築する
      3. 仕入れSupply-Chainを総点検し,購入品在庫を低減する
    3. 事務処理まで含めたOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮

中長期の改善計画は,次回にお話しします.

皆さまのご健闘を期待しています.

最後に参考資料として『地球大進化』NHKDVDをお薦めします.姉妹編の『地球大紀行』『人類誕生』も参考になります.内容は,生命体は平穏無事なときには進化せず,存続が危ぶまれるような危機に襲われたとき,大きな変化をし,生き延び,変化した種のみが危機が去った後繁栄してきた……と言う歴史を映像化したモノです.


2020年4月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2020年1月

代表新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。

皆さまの益々のご活躍とご発展をお祈り致します。


お陰様で弊社も昨年は大きな成果を上げることができました。

国内では、足かけ4年ほどの間、一部上場企業様の上級管理者の研修を兼ねた、『Jコスト論』に基づいたOrder-to-Derivery-Lead-time短縮活動の展開のお手伝いをして参りましたが、鋳造管については従来の1/3まで短縮することが出来,又,自ら先頭に立って押し進め大きな成果を上げたことが管理者の皆さまの自信に繋がり,当初の研修目的を果たすことが出来ました。Client様だけで無く,弊社としましてもこの事を誇りに思っております。

中国では、6月に恒例の『Lean Summit in Shanghai 2019』の一環として、丸一日の『Jコスト論』の講習会を実施いたしました。それがご縁となり、河南省にある国営企業様の『Jコスト改革』のお手伝いを9月から開始しました。総経理も董事長も現場をまわり,自分の口から具体的指示を出しています。

着手した時点では,日本との差は大きいのですが,彼等の吸収力,実行力は素晴らしく,2020年度中に成果をあげ,2021年の『Lean Summit』で発表しよう大変意気込んでいて,今年の弊社の主要な業務になります。

さて2020年の重点目標は、

  1. 『Jコスト論』を英語圏へも広めていきたい
  2. 次世代を担う若い人たちと更なる『Jコスト論』の研究をしたい
と考えております。

本年もどうかよろしくお引き回しのほどをお願いいたします。



今月は正月に相応しく、中国で感じた軽い話題をお届けします。

【中国に抜き去られた話……】パスポートが切符代わりになった!

中国では高速鉄道の切符を買うのに身分証明書が必要で、外国人はパスポートが必要ですので、昨年末、中国で高速鉄道に乗ることになり、いつものようにパスポートを渡して切符の購入を中国の友人に頼みました。

「買ってきました。」と言ってその友人は私にパスポートだけを返してくれました。「切符は?」という問いかけに、「切符はパスポート内に入っている」という返事でした。

考えてみれば、航空券も、ホテルの予約もパスポートで行われており、もっと言えば入国審査もパスポートが言わば入場券の役割をしているとも言える……ので当たり前とも言えます。

日本では1960年、国鉄の座席予約Systemマルスとして発足し、新幹線網の発達とともに世界に誇れるSystemでありました。それ以降進化は続いていますが、令和の今日では、『裏が磁気テープの紙製の切符』と『手書き帳票』がまだ残っている分だけ、世界のTopランナーから見れば、周回遅れになっていると思えました。

【中国が日本に追いついてきた……】中国でシャワートイレ発見

2015年から習近平国家主席の号令で『トイレ革命』は始まったとされています。大都会のホテルでは、どこでも水洗トイレになってきていましたが、まだまだ日本のシャワートイレには巡り合っていませんでした。

12月末、中国からの帰途の上海⇒名古屋便は、建国70年記念年に建てたという上海浦東机場の新ターミナルからでした。中国の威信を懸けただけあって、大きく豪華な空間で、ビジネスクラス用ラウンジは最上階にあり、設備は完備していました。

トイレに入ると……そこにはなんとシャワートイレがありました!中国で初めての出会いでした!コントロールパネルには『ビデ』の表示はなく、『下身 FRONT』とありました。これが中国の新しい基準となるのでしょう。日本の最後の牙城、シャワートイレ文化が中国の中に溶け込み始めたと思うと、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになりました。

中国で発見したシャワートイレ
中国で発見したシャワートイレ

2020年元旦
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2019年8月

残暑お見舞い申し上げます

令和の御代を迎え100余日が経ちました.今,新入社員の諸君は,入社後の所定の教育訓練を経て職場に配属され,本格的な仕事に取り組み始めた頃と思います.

職場の先輩から様々な職場のルールを教えられ,其れを身につけることで精一杯…という状況と思いますが,今こそ入社式での社長の訓示を思い出してください.出来れば,大学の同期生が就職した先(他社)の入社式での社長訓示をも,ネットで調べてみてください.


もしも御社の社長訓示が,『職場のルールを一刻も早く身につけ,社風に馴染んで即戦力になれ!』のような……,昔の結婚式で花嫁が白い打ち掛けを着て『私は白無垢です嫁ぎ先の家風に存分に染めてください……』と言うように,新入社員の個性・特技を無視したような内容だったら,その会社に未来がない……とお考えください.


一つの例をお話しします.

少し前,ある地方都市で癌検診を受けて間もなく死亡した患者の家族が不審に思い,問い合わせたところ,『要再検査』を間違えて『再検査不要』と転記ミスがあり,その結果手遅れになっていたことが判明しました.

マスコミは転記作業をダブルチェックするルールがあったのに実施してなかったという作業管理上の問題として取り上げて報道していました.


皆さまもこの事件は耳にしていると思いますが,どういう把握をしていますか?


ダブルチェックするというルールを守らせなかったことは役所として大失態ですが,それだけで良いのでしょうか?

もう一つの大きな問題は,本人⇔役所⇔検査機関の情報のやり取りを手書き文書で行うという旧態依然のまま放置してあった事にあると思いますが如何でしょうか?


因みに,先日中国成都にある陳麻婆豆腐の本店で食事したとき,店長が挨拶に来ました.その時,店長は通訳機を片手に私と会話し,『名刺交換』しました.

一方,同行した通訳役の中国人とは互いのスマホ間でQRコードの交換をし,即チャットし,スマホ同士の通信を確認して居ました.

先進国と思い込んでいる日本に比べ,つい数年前まで日本からODAを受けていた中国のEDI (電子情報交換)の普及が如何に進んでいるにか,その現実を目の当たりにしたのでした.


今,『働き方改革』と言う言葉が流行って居ますが,これは日本国中を被っている旧態依然とした業務の仕組みを変えなければいけないという『業務改革』から目をそらし,個人のせいにしてしまう恐ろしい副作用を持っています.


話は飛びますが,農業用語に『客土』という言葉があります.豊かな実りをもたらす土壌を維持するために肥料が毎年投入されますが,人体に於けるビタミンのように,作物が必要とする微量のミネラルは肥料としては与え難く,しかし作物に吸い取られ土壌からは年々減っていってしまいます.そのために山土など,ミネラルを豊富に含んだ別の場所の土を投入することを意味しています.


お話しを元に戻して,日本を代表するような企業の社長は,新入社員に向けての訓示では,先に述べた『客土』の如く,『和して同ぜず』,組織風土にミネラルを補充するが如く,新鮮な感覚で会社の業務を見つめ,問題点を発見し,失敗をおそれず改革に向けてドンドン挑戦して欲しい・・・・旨の内容になっています.


言い換えますと,先に述べた癌検診でのミスのように,『手入力による情報のやり取り』例えば『Fax』などがあれば,『何故EDI化が出来て居ないのか』を問題として取り上げ,その問題解決を自ら買って出て関係部署を説得し,改革を推進する・・・・.そんな姿を御社のTop は期待しているのです.


そのTopの期待に応えるにはどうしたらよいか…というと,新入社員は徹底して周囲に人に,今現在の仕事に進め方について『何故?なぜ?ナゼ?Why?…』と,納得できるまで徹底的に質問してください.2年間からは出来ない,1年目だけの特権だからです.


『何故?なぜ?ナゼ?Why?…』の質問で納得できれば,会社の仕事の仕組みが分かり,バリバリ効率よく仕事が出来る基礎知識が身についたことになります.


『何故?なぜ?ナゼ?Why?…』の質問で納得できなければ,其れを解決するのが『あなたの仕事』になります.自ら上司に具申して,その問題を解決する仕事に取り組んでください.


上司が得意とする分野の仕事を担当することは,部下にとっては『地獄』です.上司の『きめ細かなFollow』がついて回り,上司に褒められるには大変な苦労があります.


自ら具申して取り組んだ仕事の中身は,上司は不得手ですから地獄のFollowはありません.自ら計画し,自ら推進するわけですから,達成感が強く,仕事が楽しくなります.


何より,その範囲では,社内ではトップのスキルを身につけた,プロになれる道です.


トヨタに於ける私の経験では,何か新しいことを始めようとすると,必ず『2-6-2の法則』にぶつかります.つまり関係者の意見が概ね『積極派20%,消極派20%,浮動票60%』と言う構成になるのです.その積極派20%があなたの挑戦を助けてくれます.


そのようにして改革的な仕事を進めると,会社中の20%の積極派(将来幹部に昇格する可能性大)との人脈が出来ます.

会社組織の中での昇進・昇格は,実力だけで決まることではないので努力すれば Top までいけるとは保証しませんが,改革活動を進めて成果を上げてきたという実績は,会社を去った後でも世間から重要視され,その専門性を活かした有意義な仕事に就き,やり甲斐と高収入が生涯ついて回ります.


会社の Top の期待に応えるためにも,会社を成長させ社員を守る為にも,そして何より自分自身がその専門性を身につけ有意義な人生を全うするためにも.新入社員の諸君は『何故?なぜ?ナゼ?Why?…』の質問をぶっつけて,会社の抱える問題点をあぶり出し,顕在化させるところから始めてください.

諸君の御健闘を祈ります.


2019年8月 吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2019年5月

『令和』よ こんにちは

風薫る皐月,私達は目出度く新元号『令和』の御代を迎える事が出来ました.

誠にお目出度いことではあります.これを機会に様々な特別番組が放送されましたが,中には,客観的に日本の現状を考えると幾つかの致命的な問題を抱えており,早急に解決しないと,『ギリシャ』『ローマ』のように『日本』にも栄えた時代があった……と語られる始末になりかね無い…と言う趣旨の報道がありました.


私も,(株)Jコスト研究所の代表として,早急に解決すべき課題として提言したいことが多々ありますので,今回から数回に亘って此処でお話しさせて頂くつもりでいます.


提言するに当たって,然るべき機関に居る研究者であれば,学者として権威がありますが,私企業の実務で成果を上げてきた私の提言は,自らの体験や,事実から洞察した形を取らないと説得力がありません.その論法で,令和の御代に解決すべき課題を提言していきたいと思います.


提言:『令和』はプロフェッショナルの時代である

5月3日,94歳で逝った父の13回忌の法要を,2人の息子,5人の孫,13人の曽孫を含む家族26名が集まって執り行いました.帰り道,家具職人だった父は,口ではなく後ろ姿で少年時代の私に様々なコトを教えてくれたことや,それが土台となって77歳の今日も,自信を持って現場改善や職場管理改革のお手伝いが出来ていることを感謝したのでした.詳細は【エビデンス−1】参照


『親に教えられて育つ…』という言葉から歌舞伎界が連想されます.彼等は2歳頃から父親から芸を仕込まれ,3歳頃には初舞台を踏み,歌舞伎という芸の伝承者であると同時に名優として育てられていきます.【エビデンス−2】参照

ファンとして見ると,彼等は永い伝統を背負っていて,親・子・孫と家族総出で芝居を作っていますから,つねに長期的な視野でモノを見ています.歌舞伎界に閉じこもっていただけでは歌舞伎の『発展』どころか『伝承』も出来ないと考え,映画やテレビ,ミュージカルにも出演し,其れを歌舞伎に取り組むことで繁栄を維持している事が分かります.


歌舞伎以外でも,芸能界では歌手や俳優の子供達が,親の後ろ姿を見て育ち,時には親の指導を受けて同じ業界に参入し,大成している人が多く居ます.


スポーツに目をやれば,親が手を取って教えると言うより,幼児期から厳しい訓練で才能を伸ばし,世界を舞台に活躍する選手が出てきました.

卓球では福原愛選手が…,フィギヤースケートでは,浅田真央選手が頑張り,彼女達に刺激され若い選手が続々と育ってきています.

他競技でも,2020年の東京オリンピックに向けて選手の育成強化に乗り出し,その成果が実りつつあり,本大会が楽しみだという報道もあります.誠に結構なことです.


その一方で実業界に目をやると,これと違って『平成』の御代にズルズルと後れていっている『不都合な現実』があります.


時代を少し遡り,この件を詳しくお話ししましょう.


昭和の御代に戦争に敗れ(1945年)焦土と化した日本が,先人の努力で復興していき,先ず『繊維業界』が,継いでテレビなどの『家電業界』が,そして1980年には『自動車業界』までもが,戦勝国で世界一の工業大国であると自認する米国に輸出攻勢を掛け,『日米貿易戦争』とまで言われるようになりました.当時は『Japan as No.1』と言われバブルに酔い有頂天になっていた時代でもありました.


平成の御代(1989年1月8日〜)になって間もなく歴史的大変革が起きます.其れは,ソ連が崩壊し(1991年12月25日),米国の単独覇権体制(1992年元日〜)になった事でした.この時点から,グローバル化とは『文化や思想にとらわれない自由貿易』だけでなく『経済・政治・社会など,あらゆる体制を米国型に変えること』という意味も合わせ持つようになってしまいました.


この事を,私と同年代の経済学者・中谷巌博士が『グローバル化とは,例えて言えば,村の運動会に他所の国からオリンピック級の選手が参加するようになることだ・・・・』という説明をされていた記憶があります.閉鎖された地域経済であれば,どんな商売でも常識的な活動でそこそこ儲かるのですが,グローバル企業によって,世界規模のマーケッティングから開発された『魅力的な商品』を,大量生産によって『安価に無尽蔵に』供給されれば,地域企業はひとたまりも無いであろう・・・・と言う意味と理解しました.


案の定,オリンピック金メダル級の経営者のグローバル企業の攻勢に,ドメスチック経営者の日本企業は市場を奪われ,倒産が相次ぎました.日本を代表する日産自動車さえもが資金繰りが厳しくなりルノーに降る(1999年)羽目になってしまったのでした.


ルノーから助人として派遣された金メダリスト級の経営者ゴーン氏により,日産は数年で累積赤字を解消させ,見事なV字回復を成し遂げた…と絶賛される事態になりました.

言い換えれば,日本人経営者の『能力』に疑問符が打たれるような事態になったのでした.


この頃,『ものつくり大学』の教授仲間だった上田敦生教授は,経営者や管理者層に対して有名なドラッカー教授の著作を訳し,『プロフェッショナルの条件』『チェンジリーダーの条件』『イノベーターの条件』『マネジメント』『実践する経営者』『企業とは何か』『テクノロジストの条件』等を2000年から2005年の間に矢継ぎ早に出版し,改革を促していました.


このような,経営陣だけが注目されている事態に違和感を持った酒井崇男氏は『技術者』の重要性を訴え,著書『「タレント」の時代』(2015年講談社)の中で,『グローバルな市場で勝ち進むためには,商品設計が肝心であること.商品設計はタレント(異能の人)にしかできないので,スポーツ界が選手を漁るように,商品開発できる技術者を集め,育成し,然るべき処遇を与える事で企業を強化すべき…』と主張しています.まったく同感です.


最近,日本電産の永守会長が『大学卒と言いながら財務諸表も読めない経済学部卒や,モーターの模型も作れない工学部卒が居る・・・・,』と嘆いて,大学改革に乗り出すと言う記事を見たことがあります.


これに呼応してか,企業側も改革に取り組む気配を見せ,その第一歩として,経団連の中西会長が『新卒生の採用のやり方を変える・・…』という発言がありました.          これは,従来のように素材として4月に安い初任給で一括採用し,社内教育で『自社専用のベテラン』に育てて活躍させると言う『日本型採用制度』から,随時,即戦力となる人材を,能力に見合った給与で採用するという欧米型採用制度に移行するという意味を持ちます.これが発端になって,大学も即戦力になる教育体系に変わっていくと思います.


この『企業と大学の人材育成に関する課題』については,提言したい事柄が数多くありますが,其れは次回以降に譲って,今回は土台となる幼児期から少年期における人材育成についてのお話しをします.


今月は以下のような提言を致します.


  1. 実業界でも,スポーツ界や伝統芸能の世界のように,幼児期からプロフェッショナルとして育てた『人財』と,一般教養だけを身につけた『人材』とが『峻別される時代』になる・・・・.
    それ故,親は我が子を有名校(一般教養)に入れると言う選択を脱し,『何のプロフェッショナルに成りたいか本人の意思』を尊重し,支援することに切り替えるべきである.【エビデンス-1】参照
  2. 少年期までに出来得る限りの,五感で学ぶ実体験をさせ,『事象の“真因”を理解する基礎体験』を身に着けることが肝要.
    これがあって初めて実社会での『言葉による情報』からでも『事象の真の理解』ができるようになる.【エビデンス-1-3】参照
  3. 少年期に何より大事なのは,暖かい人間関係である.特に『両親』と 『兄貴(姉)的存在』が大きな影響を及ぼす.【エビデンス-1-2-3】参照

【育成提言の解説】

このように文章に纏めますと,『当たり前のこと』を書いてある事にお気づきでしょう.実は,『平成の御代』ではこの『当たり前』が消えていったことが問題なのです.

先ず『当たり前』の必要性を『進化の歴史』と言う側面から説明します.誕生して46億年経った地球上に,『脊椎動物』が誕生してから約5億年,『哺乳類』が誕生して約2億年,ホモ・サピエンス(ヒトの祖先)誕生して約20万年経っているといわれています.

赤ちゃんが生まれるとき,母親の子宮の中で,『1個の受精卵』が細胞分裂を繰り返し,最終的には『37兆個の細胞』から構成される人体にまで成長していきますが,子宮の中では受精卵⇒多細胞⇒脊椎動物⇒両棲類⇒哺乳類⇒人類と,生命の歴史を少なく見ても約5億年分の進化をトレースして人間の赤ちゃんにまで成長して出産を迎えるといいます.

生まれた直後の赤ちゃんは棒にぶら下がることが出来るほどの握力がありますが,空腹とか,痛みを泣き分ける程度しか言語能力はありません.『進化の尺度』で見れば,20万年前の『ホモ・サピエンスの状態』とも言えます.この状態から組織的・効率的に現代に通用するレベルまで引き上げるのが,『少年期までの育成』の目的なのです.


『パソコン』であれば,買ってきた時はマッサラな状態ですが,『プログラム(デジタル)』をインストールし,必要なデーターを読み込ませれば数時間で機能するようになります.


しかし,赤ちゃんは,触って,なめて,音を聞いて,見て…つまり五感を使ってのアナログデータのみで外界を感知し,脳に取りこみ,自らアナログ・コンピュータープログラムを脳内に作りながら,親から口移しで『言葉』を覚えていきます.

言葉を聞き分け,発音できるようになると,教育に『誤解』が生まれてきます.


『米は田圃から獲れる』『生糸は蚕の繭から紡ぐ』と言うように『文章』を覚えさせ,別室で答案用紙に書ければ,『米』と『生糸』の『学習』が出来た…と誤解し,其れを強行するのが『受験勉強』の正体です.この『文章で書かれた情報(既知の事実)』を数多く記憶した人(スマホで何でも検索出来る現代では価値がありませんが…)が,受験戦争を勝ち抜いた『エリート』として要職に就き,『未開の分野を切り開く…』という受験とは真逆の役割を担っていった事が,日本の影が薄くなっていった要因の一つと私は考えています.


一方『皇室』では,毎年公務として天皇自ら田植えをし,稲刈りをします.皇后は自ら蚕を育て,出来た繭を紡いで生糸を作ると言います.その意味の解釈は皆さまにお任せします.


私自身の少年時代の体験は【エビデンス-3】を参照してください.


トヨタ自動車には『現地現物』という『哲学』があります.創業者喜一郎氏の『1日に3回以上石鹸で手を洗わない技術者は要らない』という言葉が,『現地現物』の端的な表現として全新入社員が教わります.その後で『いざという時には五感から得た情報のみが頼りになるからだ・・・』と説明されます.

豊田家の伝記を読むと,佐吉翁⇒喜一郎氏⇒章一郎氏⇒章男氏(現社長)と代々,少年時代に父親後ろ姿を見て『企業家魂』や『帝王学』等が受け継がれていく様が描かれています.受け継がれる『哲学』の一つが『現地現物』と御理解ください.この伝承がトヨタ飛躍の一つの要素であると言えます.


今回の私の提言[1],[2],[3]の真意をご理解頂けたでしょうか?


お子様やお孫さんの教育の参考になれば幸です.


以下,参考にした『エビデンス』を列記します.



【エビデンス−1】父の背中から教わったこと

1913年信州に生まれた父は丁稚奉公して得た家具職人としての腕を頼りに上京し,自力で動坂に店を構え,1940年故郷から嫁を迎え,私が生まれ,これから…と言うときに召集され,母は私を連れて信州の実家(山村の大百姓)に疎開しました.

  1. 終戦翌年復員した父は,父方の倉庫の一部を借り,財産は大工道具だけという状態から事業を再開させます.田舎では家具だけでは飯が食えないので,父は木製の手提げ行灯を独自に考案し製造販売しました.

    間もなく玄関の木戸をガラス戸に変える等,建具製造も手掛け始め,やがて生活改善の時流に乗り,台所や風呂場の改築を始めます.更に自力で左官や塗師の技術をマスターし,村の『何でも屋』に成っていき,10年後には,職人2名,住み込みの弟子1名を抱えるまで商売を広げていきました.(起業家としての側面)

  2. 父は厳しく仕込まれた職人で,1日の終わりには,仕事場は掃き清められ,道具類はその日の内に整備して定位置に片付けて翌日即使える状態にして居ました.職人たる者,道具は自分で作るべしとし,約30種類の鉋を自慢にしていました.(職人としての基本姿勢)

  3. 黙々と働く父の背中を仕事場の鉋屑の中で木切れで遊びながら見て育った私は,木工に関する基礎知識を,『門前の小僧習わぬ経を読み・・・・』的に身に着き,音を聞いただけで鋸や鉋掛けの上手下手が分かるようになりました.(感性の伝承)

  4. 中学生の頃は,出来上がった机や洋服ダンスをリヤカーに載せて届け,請求書を渡してくるのが役目で,商品物流の原点を体験しました.その入金があると,おかずが一品増え,父は材料の仕入れに行ったりし,経営に於ける資金繰りの何たるかの原体験をしていました.(企業経営の原体験)



【エビデンス-2】歌舞伎界最近の襲名

2019年 1月14日
市川海老蔵が13代目市川團十郎白猿を襲名
長男・勧玄(2013年3月生)が8代目市川新之助を襲名
2歳で初舞台,6歳で新之助
2019年 1月
松本幸四郎が2代目松本白鸚を襲名
長男;市川染五郎が10代目松本幸四郎を襲名(43)
孫 ;松本金太郎が8代目市川染五郎(11)を襲名
2017年 2月
中村勘九郎
長男 七緒八 が3代目中村勘太郎(5)を襲名
次男 哲之 が2代目中村長三郎(3)を襲名


【エビデンス-3】私の少年時代の体験

  1. 小学校にあがるまで,山村の大百姓だった母の実家に疎開していたので,稲作,畑作は勿論のこと,馬から鶏までの家畜の世話,炭焼き・柴刈り・茸や山菜採りなどの山仕事,養蚕・製糸,味噌・醤油・どぶろく造りまでの農山村の仕事を体験することが出来ました.教えてくれたのは母の弟妹でした.特に6歳年上の叔父は,兄のような存在でよく面倒を見てくれ,母の実家の大家族の末っ子のように育てられました.

  2. 小学校時代は,父母と6歳下の弟と,見習い職人Aさんの5人暮らしでした.母は衣食住全ての面倒を見る『女将さん』としてAさんに接して居ましたが,食事時の『おかず』の大きさは@父,AAさん,B家族の順でした.家族より従業員を大切にするという日本的経営の原点を肌で学びました.

  3. 弟が幼児期に入ると,農繁期には母は近所の農家の手伝いに行くようになり,この時の午後の休憩時間のお茶出しと,母が準備して置いた材料を使っての夕食の支度は,私の仕事になりました.この時から始まった『男子厨房に入る』習慣はその後,子,孫まで続いています.裏を返せば『男女共同参画』であり,私達夫婦と息子夫婦に伝わって居ます.

  4. 小学生の時代,5匹ほど飼っていた兎の世話は私の日課でした.毎日,土手から草を刈ってきて,水分をやり過ぎないように注意し,餌として与えていました.弟が小学校にあがるとその仕事は弟に移りました.この時,キチンと日課をこなす躾けが目的だったのだと分かりました.



〜以上〜


2019年5月 吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2019年2月

季節の御挨拶

昨年は,モリカケ問題として,財務省や文科省の役人の忖度や,絶大な権力を持つ各省庁の役人を管理出来ていない大臣が話題になっていました。今年になって,新たに厚労省の勤労統計の不正調査が明らかになり,更に多くの統計調査で不正が行われていた様子で,この記事が読まれている頃の国会では論戦の真最中と思います。

民主主義の根幹にある司法・立法・行政の三権分立が,現在の日本の議院内閣制では,最大会派の党首が内閣総理大臣になり,与党議員にとって行政を質すということは,党首や仲間を攻撃すること同意義になってしまいます。その結果,巨大権力を持った行政府の舵取りが心許なくなり,『役人の,役人による,役人のための行政』と言う陰口がきかれるような状態になって居るのです。

行政の根幹に関わる今回の問題は,与党も看過できない問題ですので,行政を牽制する国会本来の役目を果たしてくれることを期待したいものです。そして,今回の不正調査問題も,それが発生した原因は何か,10余年間も質されずに今日まで来てしまったのは,官僚機構の何処にどのような欠陥があったからなのか,真因を追求し,再発防止の為の新しい法律を制定しての幕引きにしてほしいものです。

更に,テレビ画面で見る限り,今回の調査は,『用紙』があり『手書き』になって居ました。ICTとかIOTが改革の目玉とされている今日,『手書き』で集めたDETAにどれだけの情報量と正確さがあるというのでしょうか?今日どの企業でも給与計算はERPで行われている実態を考えると,コンピューター内の『生DETA』を取り出すのが最適の調査法であると思います。方法が不正であったと言う論点と同時に,調査用紙に手書き情報を提出させ,それを手入力でコンピューターに入れ給料相場を推定するという方法そのものが,『昭和時代の遺物』であり,先進世界から周回遅れになってしる事もマスコミで取り上げられ,行政手法の遅れそのものも議論されることを期待しています。

行政のことばかりを書きましたが,『上の好むところ 下自ずから風をなす』と言う言葉のように民間でも,日本を代表するような大会社でも不正問題が続発しています。日本的風土の大組織という点では行政も民間の大会社も,同じ誤りを犯しやすい環境が醸し出されるのでは…という仮説が考えられます。

弊社は,得意とするのは製造現場ですが,事務や販売も含め,実務を遂行しているあらゆる職場の『業務改革』のお手伝いを生業としています。

その立場から見た場合,今日の行政と民間大企業が不正を行った要因の当社としての仮説を今から御説明いたします。この仮説を基に皆さまの会社の現状をご確認して頂き,お役に立てれば幸いです。

どうしても抽象的な話になってしまいますので,1995年私が全くの畑違いの製造部門から物流管理部長として赴任したときの経験を基にして,上記の不正防止に効く取り組み方(弊社の仮説)を御説明しましょう。


【仮説-1】社内に現業職場があり、実態を把握できていること

赴任した時、完成車を全世界の販売店に届ける『車両物流部』,世界中に点在いている自動車生産工場に部品を届ける『生産部品物流部』,世界中の津々浦々にある修理工場へ,修理用の補給部品を届ける『補給部品物流部』がありました。現業分の2割は社内に残し,管理のノウハウを継承させ,協力会社を指導する力を維持させよ…と言う大野耐一氏の遺訓が活かされており,上記物流三部には程度の差はありましたが,『現業部署』があり,そこの監督者の一部が,夫々の協力会社の現場作業を監督して廻っていました。結果として,トヨタ社内の現業職場がモデルになり,日本国内のみならず,全世界の現業職場の実態を把握していました。


【仮説-2】統括部署があること

上記物流三部を統括する形で『物流管理部』がありました。理屈の上では物流三部で実務はこなしていけますが,このコラムの2016年1月に『鼎は三本足で安定しているが,鹿は何故四本の足があるのか・・・・』のところで御説明しましたように,トヨタには管理に関する独自の考え方があります。物流三部の要員をギリギリまで削減させ,改善しないと旨く廻らない(改善のNeedsを生じる)状態にし,更に物流三部内で重複すると思われる業務は1カ所で行うように,物流三部から優秀な人材と業務を『物流管理部』に集めて置き,下記のような機能を持たせてありました。

  • 機能-1 物流各部の独走にならないように業務をCheckする
  • 機能-2 全世界の物流網をCheckし,改善班を組織し補強して廻る
  • 機能-3 新規進出地域での戦略的物流網の構築
  • 機能-4 経営本部への物流戦略の提案と組織的展開

【仮説-3】暗黙知を形式知にして蓄積しているか

着任して,幹部からレクチャーを受けて驚いたのは,『貿易』という業務の複雑さでした。

お金に関することは財務省,工業製品は経産省,梱包材料に木材を使うと農水省,業者との関係は厚労省,等々多岐に亘り,しかも,法律だけでなく省令や通達等,様々な形で守るべきルールが多々あり,各省庁間で細かく調整されたものではなく,現場で施行する中で自ずと線引きされていて,法文を読んでも実務は理解できるものではなく,現場の慣例としてどの場面ではどうする…と言ったモノになって居ると言う説明を受けました。そのために法律や用語の説明だけで無く,トヨタとしての取り組み方まで書き込んだ『貿易用語集』を自分達で編纂し,座右の書として活用しているので,部長も勉強するようにと分厚い1冊を渡されました。

一方で,改善の進め方には,改善マンの狙いがまちまちでした。そこで上司である物流担当役員の了解を経て『トヨタ生産・物流方式(TOYOTA Logistics System )』と言う名称で教科書をまとめ,英文に翻訳して全世界の物流拠点に配布し,トヨタの全世界規模の物流ネットワークが同じ目標に向かってKAIZENを進める体制を作りました。


【仮説-4】取り巻く環境の変化を感知する情報網を持っているか

中国ほどでは無いものの,日本の官僚機構は個人としての裁量が認められていて,定期異動毎に取り締まりの重点とそのレベルが違ってきます。これらの情報は官報を読むだけでは収集できません。官庁からのきめ細かな情報をタイムリーに入手するために,その時の物流管理部には,役所を定年退官された方が参与として勤務して頂いて居て,私も色々教えて頂きました。

最新技術情報の取り組みでは,物流管理部が窓口になって,国交省が進めるETCの実用化,ETCの多面的活用の実証実験に参加するなど,常にトップランナーでありつつけることを目標にしていました。


【仮説-5】常に自職場の業務改革に取り組んでいるか

1995〜1999年頃はトヨタの成長期であったため,以下のような新規Projectが目白押しでした。

@ ベトナム工場
A 中国天津工場
B 米インディアナ工場
C 米ウエスト・バージニア工場
D 中国長春工場
E インド工場
F フランス工場
G 中国四川工場
H ポーランド工場
  等々

業務改善では

  1. 英国内のOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮活動
  2. 国内カロ−ラのOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮
  3. 輸出荷姿の木箱から海上コンテナ化

等を同時に展開していました。

さらに、協力会社の改善活動を展開していて、トップからの依頼の業務改革は無償で行い、『物流自主研』と称する改善マンの研修会では、当年の改善成果は協力会社のものとなり、次年度は協力会社とトヨタが折半するという取り決めになっていました。改善することで人が育ち、利益が上がるので、活気あふれる職場運用になっていたのでした。


まとめると下記のようになります。

  • 【仮説-1】社内に現業職場があり、実態を把握できていること
  • 【仮説-2】統括部署があること
  • 【仮説-3】暗黙知を形式知にして蓄積していること
  • 【仮説-4】取り巻く環境の変化を感知する情報網を持っていること
  • 【仮説-5】常に自職場の業務改革に取り組んでいること

これらの要件はあくまでも弊社の仮説ですが、御社は自社の各現場のノウハウの維持管理のためにどのような方策を講じているのか?それがキチンと機能しているのか? 点検してみてはいかがでしょうか。


2019年2月 吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知