株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。

現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

過去の所信表明





2019年1月

代表新年の御挨拶

明けまして御目出度うございます。

弊社の本年度の目標は

(1)『本流トヨタ方式』『Jコスト論』の普及に努めます

(2)新進の会計学者と共に『Jコスト論』の進化させます

(3)情報はこのホームページに掲載し報告します

としました。

本年もお引き回しの程をお願い致します。

新年に当たっての所感を申し上げます。

元旦からのテレビ放送でも,頂いた年賀状にも『平成最後の・・・・』という言葉が入っていました。

又あるテレビでは秋篠宮の

『毎年やっている定例の行事だからと言って,何も考えずに先例に盲従するのは誤りである。何の為の行事か?このやり方でよいのか?毎回吟味して取り組むべきではないか?』

という主旨の御発言の放送がありました。


この秋篠宮の御言葉が,私の胸に響きました。

と言うのは,私には平成の30年間はものづくりのやり方がバブル時代の盲従で来てしまった部分が多く,改善を生業としている弊社から見ると失われた時間であったと感じているからです。

追い打ちを掛けるように,日経新聞に『カイゼンお役所仕事』と言う記事が載り
『(1)そのハンコ,必要ですか』『(2)子育て申請にため息』とありました。

役所も又,『働き方改革』と言う一方で『業務改革遅々として進まず』が続いています。


日本は農業国で,『明けない夜はない』『台風一過の晴天』という言葉があるように,どんな困難な状況があっても必ず元に戻る・・・と信じる心があります。

この心が強すぎて,1980年代のバブルの時代を原点と考えてしまい,1990年代の不況,2000年代のリーマンショック,等々は一時的なもので,じっと我慢すれば又あの繁栄したバブル時代に戻れる・・・・妄想に駆られてきた30年が平成であった言わざるを得ません。


その結果,国際的機関から以下の残念な評価を得ています。

  • 労働生産性 先進7カ国では最下位 OECD36カ国中21位(2017年)
  • 男女平等度ランキング,144カ国中114位(2017年)
  • 報道の自由度ランキングでは 180カ国中72位(2017年台湾韓国に抜かれる)

弊社の本業である『現場の維持・改善』でお話しすれば,労働生産性が低いことが気になります。詳しくは後半でお話ししますが,先ずは組織の一員として活躍している皆さまは,先に紹介した秋篠宮の御言葉を我が事として汲み取り,他社は?他国は?御自分のお仕事を客観的に見直すところからはじめ,年号が変わることを機に,働き方改革ではなく,業務そのものの改革に取り組むことをお薦めします。


【日本がじり貧になって言った理由・・・弊社の考え方】

1989年から2019年の30年間に世界のものづくりはどう変わったか,弊社の捉え方は,下記の【A】【B】を全世界で展開していったが,日本だけは不完全燃焼だったというものです。以下掻い摘まんで申し述べます。あくまでも私見であり,仮説に過ぎませんが・・・・


世界的な変革の一つは1980年の日米自動車戦争にあります。当時のレーガン大統領にとっては,1945年に徹底的に焼け野原にし,その後10年間進駐軍(英語ではOccupation Army)によって,徹底的な洗脳教育し,2度と米英に盾突かないようにした上で自治権を回復させてやった日本に,米国の基幹産業である自動車が責め立てられるのは何故か!? 徹底的に調査させ以下の二種類の経営手法が脚光を浴びたのでした。

【A】FORDが築いたコンベア化を更に発展させたトヨタ生産方式(TPS)

【B】米国のデミング博士が提唱したTQC


此処の手法のその後の展開を詳しく御説明します。


【A】トヨタ生産方式(TPS)から欧米人用の『Lean Production System』が生まれ全世界に伝播しました。GE社等が先頭を切って導入,中国では『精益改善』と呼ばれています。又,イスラエルのGoldratt博士がTPSからTOC(Theory Of Constraints)を考案し(1984年),更にこれを評価するThroughput会計を編み出しました。

世界の学者に取ってトヨタ生産方式は絶好の研究対象で,構成する要素がひとつ一つの手法として理論付けられ,ルーチン化され,世に広められました。

たとえば 「現場と一緒になって新車を開発していく活動」は『Concurrent Engineering 』として紹介され,「かんばん方式のEssence」は『SCM』となり,職場内のSystemを解析する「モノと情報に流れ図」が『Value Stream Map』となりました。「新車開発時事前検討を重視して,後から問題が出ないようにする手法」は『Front Loading』と紹介されています。トヨタ生産方式の2本の柱の一つ「自働化」はそのまま『JIDOUKA』そのうちの「改善は無限である」と言う部分が『6σ活動』とされ,「異常を顕在化(見える化)させる事」は『Visual Control』等々数多くあります。

トヨタ自体がトヨタ生産方式という暗黙知の塊を形式知に十分出来ないで居る内に,米国からこのような形式知化されて出版され,それが全世界に発信され,日本に逆輸入されているのです。

2000年代に入ると,上記手法を織り込んだERPが普及し更に最近では月額数万円でクラウド型のERPが普及しその中には,上記から派生した最新の改善手法が織り込まれ,全世界のものづくり関係者が使い始めていると言います。

一方日本では,生産管理を例に取れば,大学で一般教養を身につけただけの新人を工場の生産管理の現場に配属し,彼より4〜5年前に先輩に教わり,現在生産管理の実務をやっている人を職場先輩にして,その新人を教育して行く・・・・・・というプロセスを多くの企業では続けてきました。『何時までにどれだけの生産を現場にやらせるか』と言う工場の生産性を決めてしまう機能を,同業他社や世界の趨勢とはまったく無関係に,先輩から後輩への教育だけで済ませている会社が実に多いのです。

多くの企業のトップがこう言った内在する問題に気がつかず,我が社の方式が世界1であり,このまま進めるのが勝利の道と思い込んでいたのではないでしょうか?

何より残念なのは,トヨタが1937年創業で若い会社なので,明治時代に創業した大手から見ると『新参者』として扱われ,そこで生まれた上記の数々の手法を軽蔑し顧みられなかったことです。

トラブルを起こしている三菱,東芝,シャープ,神戸製鋼などはその典型だと思います。


【B】TQCについては,1980年米国が調査に来たときの日本の製造現場では,1960年後半から採用開始した普通高校卒の作業員が,持てる知的好奇心を発揮し『QCサークル活動』で現場改善に当たっていました。その結果,工場現場から自律的に安くて高品質の製品が出来てくるので,会社組織の運営主体である経営陣や管理者層は,経営戦略云々の難しいことを考え無くても,取引先との人間関係さえ良くすれば売れる状態にあり,交際費を使って接待に明け暮れていました。

この状態を確認した米国の調査団は,会社経営の専門技術は無く,もっぱら上司への気遣いと他社との人間関係づくりだけの管理者層こそが日本の弱点であるとして,米国企業の管理者教育に力を入れ,TQMと言う手法を確立し,更に米国としての褒賞として『マルコム-ボルドリッチ賞(The Malcolm Baldrige National Quality Award)』を制定したのでした。モトローラ社,ゼロックス社等がこれに呼応して業績を伸ばしたと言われて,これに刺激され米国の製造業は息を吹き返したとされています。

1999年欧米を視察したとき,TQMと言う管理手法で,TPSを進めている・・・という企業が多かったのが印象的でした。

間もなく日本にも紹介され,1995年トヨタにも導入され,物流管理部長としてTQMの洗礼を受けました。以下,体験をもとに展開法を説明します。


先ず期首に会社方針,部門方針を受けて以下の手順で実施項目を決めます。

  1. Mission-Statement (物流管理部長として今年のMissionは何かを具体的に表明)
  2. Performance-Measure(その成果の評価は何で,どのように測定するのか)
  3. Commitment (必達目標としての数値)
  4. Target    (出来ればここまで達成したいという目標値)

上司の物流担当役員との間で,上司の目指す方針展開との整合性を確認後,副社長出席の下で,報告会を行い最終承認となります。この時トヨタは,A3用紙1枚にまとめて10分以内で報告する事が求められていました。

期末になると,実施結果がCommitmentの数値の何処まで行ったかと,残されている課題等をA3一枚にまとめて上司に報告し,最後に期首と同じ副社長出席の会議で報告します。その成果が賞与に反映されます。

日産には1999年ゴーン改革の柱として導入され,先ずゴーン社長自らが上記(1)(2)(3)を掲げ,それを達成させる為の行動目標を各役員に割り付け・・・管理職全員に展開したことで,見事にV字改革を成し遂げられたとされています。ただCommitmentのフォローがきつく,管理職が疲弊していると言う噂がありました。

今日,企業に勤めている皆さまにお伺いすると,上記のようなTQMの説明は無く,昔はTQCと呼んでいたが,最近はTQMという呼び名に変わったのです・・・という御返事を頂くようになりました。

真面目に米国発のTQMを展開したのはトヨタと日産だったのでは・・・と心配になってきています。


結論として弊社は,平成の30年間で日本がじり貧になって行ったのは,上記【A】と【B】の展開が不十分であった為と考えて居ります。【A】の展開は弊社の生業とするところですので,少しでもお役に立ちたいと願っております。


2019年元旦
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年7月

『隠れキリシタン』的現場管理になって居ませんか

6月30日『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』が世界文化遺産への登録が決まったとのこと,イスラム教に押され気味のキリスト教圏からの裏工作の匂いはあるモノの,日本にとって喜ばしいことであります。

今回の登録に当たって,幕府の弾圧があった期間だけ地下に潜伏し,弾圧が解かれる元のカソリック教会の信者として生活に戻った人達を『潜伏キリシタン』と定義づけられ,世界遺産の対象とされたのに対して,弾圧がなくなった後も頑なに本来のローマカソリック教会との接触を拒み続けている集団を『隠れキリシタン』として,対象から外しているのだそうです。

日本人から見てれば割り切れないものがありますが,キリスト教団から見れば『隠れキリシタン』として差別し,除外するのは当然のことでしょう。

宗教活動を『現場管理活動』に置き換えてみたとき,現場管理をコンサルする立場の弊社から見ると,外部に学ぶべき文献や,競うべき会社,教えを請えるコンサルなど数多く居る中で,あたかも『隠れキリシタン』のように外部との接触を断ち,先輩から教えられて事を後輩に教えていという仕組みで,伝言ゲームよろしく,途中で中味が変わって伝えられた現場管理が,『我が社の伝統』の名の下に珍重され,その結果社会から置き去りにされていき,ついには法律違反や偽検査データで納品するなど,一部では社会問題化している会社が,現に存在しています。

一つの実例として,『統計的品質管理(SQC)』のお話しをしましょう。1970年代,各企業は自社の経営基盤を固めるべく,競って『TQC(全社的品質管理)』の導入を図り,その習得の証として『デミング賞受賞』に挑戦しました。

現場ベースでいえば,職長以下作業員までのいわゆる技能系には,『QCサークル活動』と『品質改善七つ道具』が必須として教え込まれ,改善活動が展開されました。監督者には,部下を扱うためのノウハウとして『TWI』受講が義務づけられていました。

その一方で,製造部長以下一般技術員までのいわゆる技術系は,『SQC(統計的品質管理)』,『田口メソッド』等の修得が求められていました。それらを修得した上で,技能系が簡易な手法で改善した内容の技術的に裏付け,全体のシステム構築に貢献する事を担っていたのでした。

このような現場環境の中で,様々な問題解決や,品質向上が図られ,職場ルールや手順が決められたのでした。トヨタ流にいえば『作業の勘・コツ・急所』に当たります。

ところが,2000年になり,筆者が『ものつくり大学』で『品質管理』等を担当することになり,教科書お選びをしていて,ろくな教材が無いことを発見して,愕然となった記憶があります。『SQC』については自分が30年前に使ったいわゆる『青本』と言われるものを教科書として使う羽目になりました。

この事態を現場から見ると,1980年代から,『SQC』をはじめ現場管理系の理論を学んで入社した人は少なくなってしまい,21世紀の今日では,皆無と言って良いような事態になってはしないかと懸念されます。再度デミング賞を受け直すという話も聞きません。

と言うことは,少なくとも品質管理に関しては各社『隠れキリシタン的』な,外界とは遮断された,口伝として伝承された現場管理になって居ると疑って掛かった方が良いのでは…と思います。

検査データ捏造と言われた件も,『SQC』が説いている『不作為抽出』の意味を理解して居ない為,4個測定しなさいと指示されていたが,倍の8個のデータを測定し,最大値と最小値は誤差として捨て残り6個の測定値から気に入った4個の数値を記入していたかも知れません。もしそうだとすれば,『SQC』ではやってはいけないミスですが, 作業者にしてみれば,全て自ら測定したDETAですからウソの付いたという自覚は全くないのです。

此処で皆さまに御提案があります。それは現在現場にある全てのルールの根拠の再点検をやって頂きたいということです。ルールには次の四種類があります。

  • (A) 神様が決めたこと……材質,強度,自然界の法則等
  • (B) 政府が決めたこと……法律等々
  • (C) 会社が決めたこと……就業時間,業務分掌等々
  • (D) 職場で決めたこと・・・・勘・コツ作業順番

このうち自分達で変えられるのは(D)だけなのです。(A)〜(C)は根拠を調べ,その根拠に沿うように見直していかなければなりません。

今西日本では大雨の為に甚大な被害が出ていると報道されています。被害に遭われた方には心からお見舞い申し上げます。そして一刻も早い復旧を願っております。

同時に再発防止に関しても上記(A)〜(D)の趣旨に則って,他社や他地域の情報を仕入れて,比較検討し,新柄緻密な防災体制の確立を願うものです。

2018年7月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年4月

トヨタ式の『石の上にも3年』という考え方

毎年4月になると、希望に胸膨らませた新入社員が入社しますし、ベテラン社員も異動があります。この時上司や先輩から 『石の上にも3年』という言葉が掛けられます。多くの場合は『石の上のような堅くて冷たい場所でも、3年も辛抱すれば暖まり、居心地が良くなると言うから、ここの職場で多少気に入らないことがあっても、逆らわず、先輩のいう事を聞いて職場に溶け込みなさい・・・・』と言う意味に使われています。

50年前、トヨタに入社したときの先輩から指導は、真逆の意味でした。

「個人の基本的人権は侵すことお出来ない永久の権利として憲法で保障されているが、 民間会社は社会に貢献し続けなければ存在意味を持たない。組織はとかく易きに流れる。それ故、公正なルールのもと、ライバルと切磋琢磨することで、共に社会に貢献する存在であり続けられるのだ・・・・」

だから「進歩し続ける社会の中で、 半歩でも先を行かねば組織の存在価値はない・・・」と教えられ、現場実習ではトヨタ生産方式の『自働化』とは、「異常があったらラインを停めて直すこと・・・」更に進んで「異常を発見しやすくすること・・見える化」の実態を叩き込まれました。

この文脈で 「石の上にも3年」を解釈すると、「新しい職場に来れば、新しい発見がある。良いことだったらそれを受入、おかしいと思ったら納得できるまで何故?ナゼ?を追求せよ!」「朱に交われば赤くなる、の言葉のように、 時間とともにおかしいと感じなくなってしまう。」 というモノになります。

実際に入社教育で、「今のやり方のままで行くのであれば、高校卒を採用し、4年間会社の実務をしっかり教え込んだ方がスキルの高い人材に育つし、そう言う人財も採用している。会社の外で4年間過ごした大卒生を採用したのは、この会社を客観的に見て、より良い方向に軌道修正していく人財として採用したのだ・・・・」と言われました。

これと対になる言葉で 「3年したらサボれ」と先輩から指導を受けました。

その真意は、「赴任して、その職場の抱えている問題、成すべき課題がハッキリ見えるのは精々2年間だ! 見える2年間でその仕事を片付けよ!3年目からはその仕事は部下に任せて(部下に育成に重きを置く)、自分はもう一つ上の仕事(上司の補佐)に取りかかれ!」というモノでした。

1980年代豊田章一郎社長は 「勇気(College)!創造(Creation)!挑戦(Challenge)!」を掲げ、

1990年代奥田碩社長は 「トヨタの敵は(昨日の)トヨタ」「変わらない奴が一番悪い!」を掲げていました。

トヨタ在籍中は歴代の社長は社員一人一人が、自分の感性で自分のまわりを見直しておかしいと思ったら行動を起こせと呼びかけているのです。

この「変える」とか「挑戦」と言うことをトヨタ生産方式の中の『改善』と言う手法で説明しましょう。

先ず今やりかたはどうなって居るのか、しっかりと見直しことから始めます。調べてみると、現場だけでなく事務所の作業でも、人によってやり方はまちまちですし、同じ人をとっても、その時の気分で変わってきます。こんな状態ではその「出来映え」も、「所要時間」も出たとこ勝負で、とてもお金を貰ってやっているプロの仕事とは言え無いような現場にも出くわすことがあります。その中で一番良いと思われる作業方法を選び出し、それを『今のやり方』として固定します。

現状のやり方の中で、一番マシなものを選び、これをありのままを表したものとして『表準(おもて標準)作業』と言います。このやり方がベースになります。

この『表標準』をやり続けながら、更にやり易く、確実に仕上がるように新しい作業方法に挑戦して行くことを『改善』とか『変える』と言っているのです。

さて、新しい会社、新しい職場に来られて皆さま、 『石の上にも3年』と言う言葉をどう受け止めますか?

ミイラ取りがミイラになら無いように、御活躍を期待します。

2018年4月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年3月

所長 季節のご挨拶

先月の平昌冬季オリンピックは、日本として始めて14個のメダルを取り、沸きました。唯々感激してテレビの前にクギ付けになって、見入っていました。TVでの解説などを見ているうち、『ものづくり現場』として学ばなければならない幾つかの事柄が見えてきました。その中で

『個々人の実力とチームとしての総力を如何に両立させるかの課題』

について皆さまと考えてみたいと思います。

オリンピックから離れて、読者の皆さまが日々気に掛けている作業現場の話に移りますが、私がこのテーマに最初に直面したのは、1980年、トヨタの製造課長に就任し、600人余の部下を束ねて成果を上げて行く重責を負ったときでした。と言うのは、『個人の能力向上』と、『チームとしての総力』とが、高いレベルを狙うほど融合が難しくなっていくという現象があるからなのです。

ここで、トヨタ自動車では、会社としてこれに関してどのような取り組みをしてきたのか紹介しましょう。『個々人の実力向上』(以下記号【P】)と、『チームとしての総力』(以下記号【T】)で表しますと、以下のような施策が打たれてきました。

【P】1950年代;『創意工夫提案制度』を現場に導入しました。

当時は現場には徒弟制度が残っていて、上司が部下の指導をして居て技能は伝わっていましたが、個人としての Identity を発揮してもらうために導入

【T】1960年代;乗用車の生産が本格化し、従業員数が急増し始めました。

上司に対して部下が急増したことになり、個々の問題に上司が関われ無くなる。この事から現場の部下同士がチームを作って、問題解決に当たると共に、部下同士のの連携すなわちチームワークが重要視視され現場での小集団活動として『QCサークル活動』を会社を挙げて活発化させたのでした。

【T】1970年代;大衆車ブームで、更なる急拡大が起きました。

新入社員や異動者が孤立しないように、話し合いの場を少しでももたせようと、『PT(Personal Touch)活動』を展開。会社の仲間と話し合うと申請すれば、チケットで構内の売店で菓子やパンが購入できるようになる。

このような状況下で、1980年、新天地に新工場を建設し、新型車を生産する製造課の課長として赴任し、既存の工場からの人材集めから始めたのでした。関係者の好意で人材は集まりましたが、どうやってチームワークを醸し出すのかが課長としての一番重要な仕事でした。

そしてこれは、オリンピック選手団の編成に重なるところがあります。

トヨタでの『個々人の実力とチームワーク』の話を続けます。

【P】1991年、海外進出が急増し、技能の教育訓練が手薄になって来ていることが顕在化、そこで『専門技能習得制度』が導入されました。

そこでは、初歩的なC級から超ベテランのS級まで、習得すべき技能と知識が整備されていて、現場で日常業務をこなしながら習得した技能と知識が、会社の期待値に到達しているか、各工場にある『訓練道場』で実技試験をし、不足分はその場で習得させる。知識は筆記試験をし、不足分は教育する・・・・これを全員に徹底することで、職場での技能レベルを維持しようとするモノでした。

当然のことながらこの仕組みは全世界に点在する工場に展開されますが、トヨタとしてのレベル合わせが必要となります。

【P】2003年海外事業体の監督者研修、技能訓練のための機関として、『グローバル生産推進センター(GPL)』を設置しました。

このようにして『個々人の能力向上』と『チームワークの醸成』の双方に施策が打たれてきたのでした。

会社方針としても、1992年に制定された『トヨタ基本理念』の第5章で

『労使相互信頼・責任を基本に個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる』

と謳っています。

その後、2001年に制定された『TOYOTAWAY 2001』では

『トヨタウェイの2つの柱は、「知恵と改善」と「人間性尊重」である。「知恵と改善」は、常に現状に満足することなく、より高い付加価値を求めて知恵を絞り続けること。そして「人間性尊重」は、あらゆるステークホルダーを尊重し、従業員の成長を会社の成果に結びつけることを意味している。』とあります。(トヨタHPより)

これを、職場内に展開すれば、 『従業員1人ひとりに対するRespect』と『Team-Workへの評価』になります。

ここまではトヨタのことを書きましたが、皆さまの会社でもほぼ同じ事をされていることと思います。そしてどの職場でも、部下を預かって実務を担当する管理者・監督者にとっては、日々の活動の中で、

  • 『部下1人ひとりの能力を如何にして向上させていくか』
  • 『組織としての成果を如何にして向上させるか』

の相性の良くない二つのテーマを追い求めていくことが課せられているのです。

管理者の皆さまは、そんな立場でスポーツ観戦をする事をお勧めします。そうすると監督や、選手の動きから、得点のありなしとは違った監督者のManagementのドラマを垣間見る事が出来ます。

さて、話を冬季オリンピックに戻して、一緒に考えてみましょう。

オリンピック選手団の団体競技の各競技の監督は、選手個人能力向上と、チームチームとしての成果が与えられたテーマとなります。

個人個人の実力を付けさえるには、個人の力を顕在化させ、 『徹底的に競わせれば良い…』と言うのは、誰でも考えつく方策です。そうするとどうなるか・・・・の典型例を見せてくれたのが『韓国女子』のパシュートでした。

実力のある選手は先頭を走り、力の弱い選手を置いてきぼりにする…。そして勝てないのは弱い選手がメンバーにいるからであると発言をする・・・・と言う絵に描いたような恥ずかしい結果がTVに映し出されてしまったのでした。

次のレースでは案の定、全員が遅い選手の速さで滑る・・・・これも、 『チームワークを大切にせよと』上司が怒鳴った時の典型例を『韓国チーム』が見せてくれたのでした。

チームワークとして完璧な試合展開したのは『日本団体女子パシュート』でした。世界のTopアスリートを並べ、 「1週間練習すれば日本に勝てる」と豪語していたオランダを、抜きつ抜かれつの接戦の末、オリンピックレコードを出して勝ったのでした。

TVのインタビューでは、日本の女子選手がレース中に何が起き、どう対処したのかを、自分の言葉で明確に話しています。準決勝のみを走った選手が「私が壁となって決勝戦の体力の温存してもらいたかった」等はその典型でした。それらの言葉の裏にあるのは、選手同士が互いの特性を理解し合っていて、自分が何をすればチームの勝利に結びつくか真剣に考え、そのためには他のメンバーをRespectしながら何をして欲しいか、トコトン話し尽くしてきて得られたという一体感が滲み出ていました。

監督のなすべきことは、客観的な事実(DATA)を与え、明確な目標を与え、どうしたらその目標を達成できるか、選手達に考えさせ、話し合わせて、皆で合意した結論に自信を持たせることだったようです。選手の個性も違うし状態は刻一刻と変化します。そこには一般解は存在しません。その場に合った特別解しかないのです。

チームワークの話ばかりしてきましたが、忘れてはならないのは、中心となった高木姉妹間の互いをライバルと見ての8年余に亘る切磋琢磨でした。その結果種目は違えど、それぞれ、金・銀メダルを授与される実力を身に付けてきたと言うことです。この個人の力あっててこそのチームワークの優勝だったのです。

私が恐れるのは、 『日本にはチームワークがあるから勝てるのだ』と言う早合点が広まらないかということです。全世界が日本のチームワークを研究してきますから、個人としてメダルを取れるレベルの選手を揃えないかぎり、連覇は難しくなることでしょう。

話を再び製造現場に戻しますと、皆さまの工場から生産される部品(商品)は、世界各国の市場で他社製品と競い合っています。言ってみれば、オリンピック競技場と同様に、多国の代表選手と金メダルを懸けて競争しているわけです。

今まで勝ち続けてきた御社の強みは何処にあるのでしょうか?その製品は御社の製造現場から生みだされています。その現場の強みは何処にあるのでしょうか?ズ〜ッと勝ち続けるには、どうすべきでしょうか?

3月9日からパラリンピックが始まります。此処では手の代わりや足の代わりをする機器が登場します。道具や設備を使って物を作る現場により近い競技になります。

『個々人の実力とチームとしての総力』をサブテーマにして観戦することをお薦めします。

2018年3月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2018年2月

代表の御挨拶

テレビ番組のNHKスペシャル『人体〜神秘の巨大ネットワーク〜』の既放送分が正月特番として再放送されました。

  • 2017年09月30日(再)『プロローグ;神秘の巨大ネットワーク』
  • 2017年10月01日(再)『“腎臓”が寿命を決める』
  • 2017年11月05日(再)『驚きのパワー!“脂肪と筋肉”が命を守る』
  • 2018年01月07日(新)『“骨”が出す!最高の若返り物質』
  • 2018年01月14日(新)『万病撃退“腸”が免疫の鍵だった』
  • 2018年02月04日(新)『“脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体』

・・・と続きます。

博学のタモリとノーベル賞医学者山中伸弥教授との軽妙な司会で語られる内容は、従来信じられていた、脳が全身のControlをするという定説を根底から覆すものでした。

要点を言えば、従来の常識は、外界の変化は、視覚、嗅覚、聴覚など、いわゆる五感として捉えられ電気信号に変換され、神経細胞群構成されたネットワークを経由されて『脳』に届きます。届いた数多くの情報を『脳』は総合判断して行動を決め、神経細胞のネットワークを通じて各臓器に指令を出します。その結果、外敵から身を守る行動が出来る・・・・というモノでした。

神経細胞のネットワーク以外にも、血液の循環を使った情報システムがあることは従来から知られていました。その一例が、血液中の炭酸ガス濃度を『情報伝達物質』にしたSystemです。走ったり、重いものを持ち上げたりすると、筋肉がより多くの有酸素運動し、血液中の酸素をより多く消費し、代わりにより多くの炭酸ガスを出します。

その結果として血液中の炭酸ガス濃度が増します。するとこの炭酸ガスが『情報伝達物質』の役割を担い、心臓に働き掛けて脈拍を早くし、血管に働き掛けて内径を太くして血液が通り易くします。そして炭酸ガス濃度が正常に戻ると心拍数も血管の太さも正常に戻ります。この事はよく知られて居て、風呂の湯に炭酸ガスを溶かし込んでおけば、皮膚から体内に炭酸ガスが吸収され、それが情報伝達物質として働き、血行が良くなり、身体が温まり、疲れが取れる事が期待されます。それが温泉の効能であり、その応用が入浴剤となっているのでした。

ここで、人体に於ける血液の働きを考えてみましょう。血液量は体重の1/13と言われていますから、5〜6gとなります。心臓の一拍あたりの吐出量は50〜60ミリg、脈拍数は70〜80回/分と言われていますから、1分余で全血液が一巡りする計算になります。

今回、この番組で紹介されていることは、この1分余で一巡りする血液に各臓器が様々な『情報伝達物質』を放出する事で、臓器同士が連絡を取り合っていると言う新事実でした。

例えば、水分を取り過ぎたときは、血液量が増えていきますが、脈拍を速くさせるための炭酸ガス濃度は増えていませんから、心臓に負荷が掛かります。心臓が「しんどい」と言えば(『情報伝達物質』を放出すれば)、腎臓がその情報を受けて血液中の余分な水分を「尿」として取り除く・・・という具合です。

番組ではタイトルにあるように、脂肪、筋肉、骨、腸等を取り上げ、それぞれが何を検知してどんな情報伝達物質を出し、それをどの臓器が受け止め、どんな処置を始めるのか・・・それを極最近の医学では何処まで解明できているのかを説明しています。

其処で展開されている言わば組織論は、

【A】
外敵から身を守る行動や、獲物を捕まえる行動、国家で言えば外交問題、軍事問題については、『脳』が最上位に立ち、各臓器に神経細胞系の情報網で電気信号で命令を下し、各臓器はその命令に絶対服従する、従来考えられてきた仕組みはある・・・。

その一方で、

【B】
人体内で起きる問題、国家で言えば財務、厚生労働、等々の内政問題については、各臓器は平等の立場で役割分担をしており、血液中にある様々な『情報伝達物質』の濃度を変える事で情報を公開し共有化(見える化)し、その機能を担う臓器が乗り出して問題解決を図ると言う仕組みがある・・・・。

と言う事が分かり始めたと言うことでした。

更に、地球上に生命体が誕生したのは約40億年前で、その後進化を続け、多細胞生命が生まれたのは約14億年前と言われています。それ故生命の基本は個々の細胞に在るのだという事。そして生命進化の頂点にあるとされる人間も、1つの卵細胞が受精し、それが分化し成長して数百億個から数千億個からなる細胞で行き脳や骨などの臓器が作られるので、臓器同志は平等な立場で、役割分担していると見るべき、【B】は当然の姿と考えるべきだとの説明もありました。

この番組で語られた【B】の話に私は膝を打って合点しました。そしてこの仕組みこそが、『トヨタ生産方式』の基本的な考え方であるからです。

個人ベースで見れば、会社に中では役割分担として上司と部下の関係があります。しかし一歩会社から出れば、お互い平等な人間同士としてお付き合いします。この事を従業員に植え付けるためにも、トヨタでは様々なインフォーマルな集まりを奨励しました。その結果、会社では厳しい上司が、趣味の囲碁では、部下が師匠で上司が弟子という立場で厳しく指導されると言った場面はざらにありました。

組織的に見れば、技術部が設計した製品を、製造部門が製作しますが、上位にある技術部の命令を、下位にある製造部門が従うのではありません。各部署は対等で、組織としての役割分担にすぎないという考え方をしており、設計に問題があって歩留まりが悪かったり、不良が多かった場合は、会社を良くするために製造部門はビシビシと設計に情報を上げ、設計変更をさせる事は日常的に行われています。

これを生産管理と言う切り口で見れば、【A】は 中央集中管理型と言うべき方式で、【B】は 自律分散型と言うべき方式です。以下、自動車を例にとって説明します。

【A】では、

  1. 最終組立工場で生産する車両の生産計画
  2. その車両に取り付ける生産に使う部品の調達計画
  3. その車両に搭載する自社製のエンジン、ミッション等の生産計画
  4. そのエンジン、ミッション用の部品調達計画

これら全てを本社で計画し、社内及びサプライヤーに指示します。

しかし上記の(1)〜(4)はそれぞれ数日間の時間差があり、しかも、不良率や設備稼働率は予測しずらいこともあり、欠品にならないように余分に生産したり、時間的に余裕を持たせた計画にせざるを得ません。

何よりの害毒は、各工場の管理者は、本社から命じられる生産計画を何も考えずに実行する事に専念せざるを得ないことです。もし担当する工場の計画に異存があったとしても、その工場の計画を変更する事は、全部の計画に影響する恐れがあるため、言い出す勇気が萎えてしまうからです。その結果、製造課長は会社に来ても、Displayを覗き、本社から来た生産計画を確認して、職長に手渡すだけが自分の仕事と勘違いし、現場の実態に何ら関心を示さず数年間の任期を過ごす・・・・という人が多くなるのです。当然現場の活力は失せ、無為に時間が過ぎ、後継者の育成も覚束なくなっていく・・・・こんな現場になり易いのです。

【B】の場合は、トヨタを例に取れば、生産計画は、前記の(2)(3)(4)にはその月に生産する車種とその1日当たりの生産量が提示されます。日々生産は平準化して行われますが、日毎の変動は±10%の変動はあることを前提にして、1回分の納入数量の在庫を確保しておきます。(図1参照)

図1
図1

具体的な生産計画は(1)のみ立案され、ラインサイドにあるプレス品を使って指示された型式の車体を作ります。塗装工場では指示された色で仕上げ、組立工場ではラインサイドにある部品の中から指示された部品を選んで組み付けていきます。部品を使うとそれに対応した 『引き取りかんばん』が発行され、その分を次回の納入便でサプライヤーの完成品在庫の中からPickingして納入されます。サプライヤー在庫の減った分は 『仕掛かりかんばん』という形で次回納入便が来るまでに後補充生産する種類と量を指示します。

この様子は、先の人体の例で、『各工場』を『各臓器』に、『かんばん』を『情報伝達物質』に置き換え、『納入便』を『血流』に置き換えると、同じ仕組みであるとお分かり頂けると思います。

この仕組みでは、事前の生産計画はなく、使ったものを 『かんばん』と言う 『情報伝達物質』で量とTimingをControlしていますので、ある工場だけ独自の動きをしたいと考えた時は、 『かんばん』を増やし、自由度を増して置けば各工場は独自の動きが出来ます。

この特性を使えば、製造課長は随時自分の意志でラインの生産量を一時的に変更するような改善も出来ます。文字通り『自律分散』で、各課が自分の意志で思い切った改善をに取り組めるの仕組みになって居るのです。ここから自ずと各課の改善競争が始まり、それが原動力になって、職長間の知恵比べが始まり職場が活性化しますし、それらが集大成して工場全体が活気づいてくる事が期待できるのです。

『かんばん』は『情報伝達物質』の一形態に過ぎません。真の目的は『在庫後補充方式』にして、そこで使う『情報伝達物質』は各社の業態似合うものを考え出せば良いのです。

これを機会に、皆さまの会社の生産管理体制は、【A】型か【B】型か見直しして見て下さい。もし【A】型であれば、此処に書いた悪い部分がないかどうかご確認下さい。

2018年2月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知