株式会社 Jコスト研究所

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J-Cost Research Center

連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。

現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。

JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』

過去の所信表明





2022年1月

2022年 年頭のご挨拶

遅ればせながら,明けましておめでとうございます.

本年もよろしくお願いいたします.

このホームページも, コロナ禍の影響で 丸一年お休みを頂いてしまいました.

誠に申し訳ありませんでした.

2022年度は,『Jコスト論』 普及のために頑張っていきたいと思っております.


TQCの基本原理は通常PDCAと覚えます.更地に計画を立てる場合はこれでよいのですが,前年に引き継いだ業務を今年どのように展開させるかという場合は,まず今までの反省があって,その上に立って次の展開をする必要があります.

つまりこの場合はCAPDつまり,前年度の反省が1番にあり,それを分析した結果,今年度の実施計画ができるわけです.


この文脈に従って,まずこのコラム2019年12月号の記事の続きからお話ししたいと思います.(さかのぼって,その記事をお読みください…)


2019年6月,中国河南省にある国営企業『新航グループ』と改善支援の契約を結び,9月に幹部に『本流トヨタ方式』と『Jコスト論』の研修会を実施し,10月から翌年4月まで第一次展開として4工場の改善を現地指導することになりました.

ところが突然のコロナ騒動で2020年から渡航禁止になり,以後2022年の今日まで中国には渡れない状況が続いております.

田中が行けなくなった状況下でも,彼らは自分達だけで改善を進め成果を上げ,コロナの影響で悩む全中国の企業にこの成果を伝えるべきだという董事長の判断で,2019年〜2020年の活動内容は10月21日に中国全土に向けてネット配信されました.この件はこのHP内でもご案内いたしましたが,ご覧になられた方もいると思います.

今はもう配信されていませんが,下記に写真で記録してあります.

この改善成果に関する弊社のコメントは12月号に詳しく記載しましたが,中国における精益活動の元締めである趙克強博士は,この成果発表を高く評価し機関誌『PlanetLEAN』に投稿しました.是非ご覧ください.

The J-Cost theory - Planet Lean on boosting financial results

『Jコスト論』が第三者によって英文で紹介された最初の事例となりました.


2020年秋からは,この活動を残りの工場全部にも展開していきました.時々リモート会議を持ち,質問に答え,改善の急所の講義もしました.


2021年秋,『新航グループ』から大きな成果を上げたので,その報告と,感謝の意の表したい,同時に田中の80歳の誕生祝いをしたいと連絡がありました.

10月10日10時(日本時間),『新航グループ』『佐吉諮問(提携コンサル)』『趙克強博士』『Jコスト研』4者が国際リモート会議を行いました.

最初に『新航グループ』のプロモーション動画がありました.

その後,副総経理から改革の総括説明があり,

『会社としては,点から線へ,線から面へと物の見方を広げてきたが,Jコスト論を学んで新たに時間軸を加えることによって,会社の中の事象が平面から立体に変わった心境である…

経営目標は売上高利益率(PL)から資産利益率(BS)に変更し,現場では生産の流れを速くし,全社的には資金の流れを速くする活動に転じ,全社一体となった活動が開始され,着々と成果を上げつつある…』

旨の報告がありました.

その後現場の推進者の声を集めた動画の上映があり,各工場の改善リーダーたちが,

『こんな転換ができた…』

『このようにして現場を指導した…』

『工場で働く全員が滞留させてはいけないと思っている…』

等々自信を持って発言していました.下記がその動画です.

それから,リモート会議は誕生祝賀会になりました.

その時,趙克強博士から中国語で祝辞があり,日本語の手紙を渡されました.

『仁者寿賀田中正知』

その後副総経理からは,田中の傘寿の誕生日を祝う綺麗な『寄せ書風小冊子』を頂きました.そのPDF版が後日届きました.

小冊子の表紙には『水を飲む者はその源を思い,成果を出したときに師を思う.』その後に『田中先生80歳の誕生日おめでとうございます』と続いていました.

小冊子の中味は,指導したときのスナップ写真と,会社幹部のこれからの取り組みに対する決意表明でした.

下記がそのPDFです

『飲其流者懐其源,学其成時念吾師』

田中にとっては,80年の人生で初めての出来事で,感慨深いものがありました.

中国のこの会社の裏話として,経理部長がそれまでの改善活動に疑問を持ち,拙著『トヨタ式カイゼンの会計学』中国語訳を読み,『これだ!』と総経理を説得し上海の講演会場まで連れてきたとか…

改善契約が成立すると彼女は事務局を買って出て,今まで金額でしか把握していなかった工場各部署の原材料や中間製品の在庫量を,毎日の平均使用量で割って,在庫滞留日数何日分と言う指標を併記し,全工場に提示しました.

この経理部長は自らも在庫金額と滞留日数の表を片手に,時には総経理のお供をしながら工場長とともに現場で実態を確認し,対策の推進を促して廻ったといいます.

添付写真をご覧ください.2020年成果をNet背信したときの1コマですが,この女性が件の経理部長で後ろに写っている工場長に対して,在庫データを押し付け改善を進めさせたのでした.

因みに,製造現場にとっては原価低減は人員削減であり,厳しい負荷ですが,在庫低減はいかようにでも対応できます.しかし,在庫を減らしても欠品にならないようにするためには,品質不良や設備故障の低減,出勤率の安定化等,職場体質の強化が必須になります.

実際,職場内の滞留を無くすことで,人員,設備に余力があることが分かり,工場スペースはガラ空きになります.何より,職場内の在庫が現金になり浮いてくるのです.

粗利2割,月商10億円の会社が,滞留3ヶ月を2ヶ月(回転数を4回⇒6回)に改善すればPL上の毎月の粗利2億円の他にキャッシュフローとして約8億円の現金が手元に入ります.

この余ってきた経営資源を,新製品開発に廻すなどして会社は更なる飛躍を遂げる事ができるのです.

中国のこの新航グループはそれを理解でき,その方向への改革に乗り出したのでした.そして,この『Jコスト論』に基づいた在庫低減活動こそは,2021年1月のこのコラムで,皆さまにお伝えし,お薦めした2021年度アフターコロナに向けてやるべき社内改革でした.

恐れ入りますが,もう一度2021年1月の所信表明の記事を熟読した上で,今回掲載した『新航グループ』の発表を見直してください.


2019年に田中が彼等に教えたことは

  1. 「トヨタ生産方式の二本柱は,『自働化(品質を絶対確保)』して『JustInTime(滞留をなくしできたての商品をおとどけする)』ようになれば,利益は付いてくると言うことを意味している.

  2. この世にあるあらゆるものは時間とともに動いている.

    たとえばこの瞬間倉庫にあるAと言う100万元の在庫は,何日間で使い切ってしまうのか,Bと言う10トンのインゴットは何日でなくなるのか,無くなるまでの時間を把握すれば,今の仕組みから見て適正か?多すぎるか?が分かる.

    減っていく速さを正確に把握するためには,先ず市場で毎日平均何個売れているかを把握する必要がある.次にその売れる速さに合わせて生産するには,できるだけ小ロットで多回生産する必要がある….

  3. 『JustInTime』生産の模範は中国料理のレストランである.

    迷ったら中国料理を食べに行けば答えが出る.

等の基本的なことだけで,後は自分達で考える様に誘導したのでした.


その彼等が『自ら考えて,自ら成す』的に,自分達でやってきた事を発表しているのですが,その内容は,2021年度のアフターコロナに向けて日本企業がやるべきこととして纏めた内容を辿っていることを気づいて頂きたく思います.

このことを違う形で表現すれば,2019年10・11・12月の3ヶ月間しか現場改善指導できなかった『新航グループ』は,総経理以下全社一丸となって2021年まで『Jコスト論に基づく改革』を進める中で,

  1. 部署毎の在庫品名と在庫量から在庫期間を計算し,改革開始時からどれだけ削減したか計算でき,更に会社全体では基礎収益力(≡粗利÷棚卸資産)がどれだけ向上したか測定するプログラムを作成したこと

  2. 各工場単位で改革推進チームを編成し,工場の実態を反映させた業務分掌を作製し,更に社員に対する教育資料を編纂,教育実施してきたこと

  3. 改革を進めていくと,従来の調達・製造・営業・納品物流等の工程別管理では限界があることに気付いたこと

等の改革が進められたことが窺えます.


今回,このコラムでは敢えて『新航グループ』から頂いた資料をそのまま掲載しました.その意図は,読者の皆さまご自身で

  • 【A】2021年末における皆さまの工場の実態
  • 【B】2021年1月弊社がアフターコロナに向けてお薦めした取り組み
  • 【C】2021年10月に『新航グループ』から頂いた資料
を比較すれば,『Jコスト論』から見た御社の位置付けが明らかになります.

位置付けが明らかになれば,御社の2022年度方針で重点を置くべき事柄が明確になります.万一欠けていることがあれば,追加すれば良いのです.

『過ちては改むるに憚ること勿れ』です.

岸田新内閣は,その範を垂れています.国民もそれに従いましょう.

コロナ禍はオミクロン株による第6波が迫ってきていますが,感染力は強いモノの幸い軽症の様子です.桜が咲く頃になれば,暖かさで流行が収まると思われます.この時からいわゆる『アフターコロナ』の経済活動が先進国から始まるとでしょう.

このうねりに乗り遅れることなく御社が飛躍することを願ってやみません.


2022年1月吉日
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2021年1月

2021年 年頭のご挨拶

遅ればせながら,年頭の御挨拶を申し上げます.

御社のますますのご発展をお祈りいたしますとともに,本年も相変わらずのお引き回しの程をお願いいたします.

ところで,正月の伝統の七草粥を心静かに味わっていたとき,ものづくりに携わる我々にとって大きな影響を受ける次の事件が起きました.

  • 【A】米国現職のトランプ大統領がけしかけた議会乱入事件……
  • 【B】東京で1日に2447人のコロナ感染者……

昨年末を約束したお話しに入り前に,まずこれに触れてみたいと思います.


【A】について

  1. 自由陣営のリーダーで,巨大国家アメリカの正体を世界に露呈してしまい,これが今後の世界情勢にどのような影響を及ぼすのか……心配されます.自浄作用が働き始めたので,救いがあります.
  2. アカウント永久停止等は,国民に選ばれた大統領より強い力を持っている事になり,全世界はGAFAに屈したということなのか……心配です.
  3. ヒトラーは,ナチスを結成し,草の根から14年掛けて天下を取ったのに,トランプ氏Twitterで,司会業から7年で大統領になりました.信者は全盛期7千万人とか……,彼は天性だけでここまできたが,ナチスの技法があれば,核のボタンを片手に世界制覇も可能だったという話があります.この事実を知ってしまったので,世界のあちこちで,第2,第3のトランプ氏が生まれてきそうで,怖さを感じてしまいます.コロナ以上の恐怖です.

【B】のニュースを聞いて,先ず頭に下記都々逸と,ミッドウェイ海戦でした.

♪『ああ』して『こう』すりゃ『こう』なるモノと,知りつつ『ああ』して『こう』なった ♪

ミッドウェイ海戦とは

1941年12月の真珠湾攻撃時,米軍空母の姿がなかったので,洋上の味方艦隊が米軍機に攻撃される事をおそれ,第1波攻撃だけで引きあげたといわれて居ます.

一方,1942年6月のミッドウェイ島攻撃時も,米国空母の姿は無かったのに,『洋上の味方艦隊が米軍機に攻撃される事』は考えず,『絶好のチャンス』として,第2波の攻撃を決定,その準備中の最悪のTimingに米軍機の攻撃を受け,空母の甲板上の爆弾が誘爆し,全空母と全艦載機,何よりも優秀なパイロットを失ってしまったといいます.軍の極秘事項とされ,処罰どころか責任追及も無かった……とされています.この話は以下の『言霊信仰』や『空気の話』が関係していそうです.

『言霊信仰』

ある言葉を発すると,その言霊が万物の霊魂に働きかけ,その言葉を実現してしまうという信仰が,社会の隅々まで広まっています.親が病気になったとき,遺産相続の話は,『縁起でも無い』と咎められます.

逆に『コロナなんか直ぐ消える』とみんなが考えると言霊が消してくれる,と無意識のうちに考えている……最悪の事態を考えず,上手くいった時だけを考えてものを実行する.

『空気の話』

昔,山本七平(イザヤ・ベンダサン)が,会議の席では上司に忖度し,同僚に気を遣い,理路整然とした論理では無く会議室に漂う『空気』で物事を決めてしまうと嘆いていました.

1月は多くの会社にとって,年度替わりの月で,おそらく会社の年度方針が出されたり,御自身が自部署の方針をお作りになったりしていると思います.

今一度 ここに書いた 日本人のさがでともいえる『言霊信仰』や『空気の話』の観点で論理は『理路整然』か,実行計画は5W1Hの観点から見て,細部に展開されて居るかをご確認下さい.


さて本題に戻って,年末の続きのお話をいたします.続きですので,第7章から始めます.

最近,DX(デジタル・トランスフォーメーション)が脚光を浴びています.

デジタル技術を駆使して,戦略的な経営をやってこうということだと理解していますが,その前提としては各社の工場がよく訓練された軍隊のように『俊敏に対応できる』ことが大前提と思います.

この『俊敏に対応できる』工場こそが弊社が永年推進してきた『本流トヨタ方式』が目指す工場の姿そのものなのです.『御社にDXを導入するには如何にすべきか・・・』と考えながら第7章をお読み下さい.

[7] 2021年 日本のものづくりは何を目指すべきか

7-1. 今までの改革は,的外れではありませんか?

カルロス・ゴーン氏が,非合法な手段で日本から逃亡して1年になりますが,1999年に彼が日産の倒産の危機を救い,V字回復させた事は事実です.

当時の日本の産業界は 『労働生産性という落とし穴』に嵌まっていて,重症患者が日産自動車だったのでした.この辺のことは,このホームページの連載コラム『Jコスト改革の考え方』第15回に詳しく書いてあります.先ずそのコラムを熟読して頂きたく思います .

ゴーン氏は1999年の『日産リバイバルプラン』の中で,日産の間違いを以下の様に指摘しています.

購入費用60%@
一般管理費23%A
製造原価17%B研究開発6%C
内製加工費11%減価償却費など6%D
労務費など5%E
DE:筆者推定

当時の日産がやっていた活動で低減しうるのは,E労務費(原価の5%)に過ぎないことが分かっていなかった……

ゴーン氏は役員会の言語を英語にして(『言霊』を排除)TQMの手法で成果をコミットさせ,全方面で改革を断行し,2003年までの4年間で2.1兆円の借金を返済したといいます.

筆者は,自社内のみならずSupply-Chainの隅々まで点検し,あるべき姿に向かって改革を押し進めていく……会計的に見れば,PLだけでなくBSもCFも原因に遡って見直していく……という部分は賛成します.

20年あまり経ちましたが,大変残念なことに,大学の先生たちはゴーン氏の指摘を理解できず,かつて恩師から教わった通りの百年前のGMのスローン氏の経営技法や,テイラーシステム旧態然と学生に教え続けています.

経営者も,『労働生産性の落とし穴』に嵌まり『生産性本部』とか『ものづくり革新本部』といった組織を作り,優秀な人材を投入し作業改善に力を入れています.

彼らスタッフに掛かる費用は丼勘定で一般管理費に計上され,現場改善効果は支払い労務費に計上されますから……費目が違うので『費用対効果』の測定はやっていないと思いますが,費用の10%でも回収できていれば御の字と思います.

7-2. 自社を,より繁栄させる為にはどうするか?

各企業で設置されている『生産性本部』の本来の役目は『自社をより繁栄させるため』だと思います.では具体的に何をどうすればよいのかの問いに,以下の3つの【答】が考えられます.

  • 【答-1】売上は現状維持とし,原価低減して利益額を上げる!
  • 【答-2】設備投資等をして増産を図り,売上を増やし利益を上げる!
  • 【答-3】投資せずLead-Time短縮という切り口で業務改革を推進する!

以下順を追って吟味していきましょう.

【答-1】売上は現状維持とし,原価低減して利益額を上げる!

これは もっとも多くの 企業で取り組んでいる方法です.現状の売上高に対して生産能力に余剰があるので,その分の人員を減らし,設備を減らす,と言う活動になります.

このテーマを追求すると『新聞売り子の問題』という古典的なOR(オペレーションリサーチ)の問題に辿り着きます.講習では『統計的に計算した数量を余分に仕入れて置く』と言う解と共に,実行すると客はドンドン減っていき,潰れるという『オチ』も教わります.買えなかった客の心理は数式では解けないというORの限界も教わります.

新聞と違い一般の製品は在庫を持って,生産・販売していきますが,長期的に見れば売れなくなっていき,最後は生産打ち切りになります.原価低減を狙って売れに合わせた生産規模を縮小して行くことは『店じまいへの道』でしかありません

植物達が 毎年花を咲かせ実を成らせ子孫を増やすように,会社も寸暇を惜しんで子孫(新製品・新製法)を産み育て,更なる成長をねらっていくべきでしょう.

【答-2】設備投資等をして増産を図り,売上を増やし利益を上げる

積極的な意欲的な話で大変結構なことですが,資金回収に時間がかかるという欠点があります. 例えば新工場を建設して機械を設置し,人を集めて訓練し生産に移るとなると2〜3年掛かります.製品は市場に出荷され,代金を回収されるまでにはさらにまた時間がかかります.

残念な例としては,シャープの危機が有名で,亀山工場で作った液晶パネル『亀山モデル』は有名となったので堺に巨大な工場を建設し増産に打って出ましたが,市場が伸びず,赤字が積み上がっていき,最終的には台湾企業に下りました.

急速に成長して行った『いきなりステーキ』も 流石に店舗数が増えすぎて,共食い現象になり, 最近はまた 急速に閉店が続いている様子です.

国産初のジェット旅客機は,開発が長引いたところにこのコロナで,1兆円余の損失を抱え,先が見えなくなっています.

このように,業績を伸ばせれば大変に結構この上ないのですが,失敗のリスクが高いのも確かです.


こうして見てきますと,次の二つは,どなたにもお勧めできる方法ではないことがわかります.

  • 【答-1】売上は現状維持とし,原価低減して利益額を上げる!
  • 【答-2】設備投資等をして増産を図り,売上を増やし利益を上げる!

残ったのは【答-3】投資せずLead-Time短縮という切り口で業務改革を推進する!となります.これはまさに『本流トヨタ方式』で,弊社のお勧めの道筋です.もしDXを導入して,戦力的に市場で闘うのであれば,必須条件になります.長文になりますので,章を改めてご説明いたします.

7-3. Lead-Time短縮という切り口で業務改革を推進する!
<設備投資はせず,仕事のやり方を変える>

下記の順にご説明いたします.

  • [Step-1] 受注⇔納品のLead-Time短縮で市場競争力確保
  • [Step-2] 検収⇒納品のLead-Time短縮(在庫低減)で体質強化
  • [Step-3] 浮いた経営資源を活用し,更なる成長
[Step-1] 受注⇔納品のLead-Time短縮で市場競争力確保

受注⇔納品のLead-TimeのことをOrder-to-Delivery-Lead-Time(略してODLT)と言います.

  1. 飲食業界は昔から客を待たせない事を競ってきた
    1. 中国の例

      店に入ると客はテーブルの上のQRコードをスマホに読み,出てきたメニュー(写真と説明)から料理を選び,店員に転送すると,砂時計を置きます.時間内に全品届かないと上海では1皿サービスされます.

    2. 日本の例

      『飲み物』と『お通し』で時間稼ぎ

  2. どこの顧客もOrder-to-Delivery-Lead-Time短縮を望んでいる
    1. 見本市では
      • 中国企業

        『電子データを送ってくれれば1週間後に現物を日本に届けます』といった売り込みをかけてきています.

      • 日本企業

        高品質と安さのみを強調……日本のものづくりが心配

    2. ODLTをダントツ短縮したら断り切れないほどの仕事が来た

      筆者の仲間が,Order-to-Delivery-Lead-Timeが3週間と言われる業界で,5稼働日(正味4日間)にまで短縮したところ,客が殺到するようになり,プレミア付けると言う客まで現れ,今では客を断るのに困っている……収益も上々と言う自慢話を聞かされました.

      Order-to-Delivery-Lead-Time短縮が,いかに市場における優位性を発揮するかを改めて知らされた次第です.

    3. 因みにトヨタのSupplierは

      Order-to-Delivery-Lead-Timeが原則0.5日です.

      トヨタの組立工場⇔サプライヤーは『かんばん』でやり取りしており,通称1-4-2 (1日4回納入の2回遅れつまり半日遅れ)という関係で繋がっています.

[Step-2] 短縮したOrder-to-Delivery-Lead-Time維持した上で, 検収⇒納品のLead-Time短縮(在庫低減)で体質強化

ここでは,社内の業務推進体制を『Lead-Time』という概念で捉え,そのタイミングを調整(JIT化)することTotal Lead-Timeを短縮し,(在庫低減)俊敏に動く社内体制に再構築して行く活動になります.

[2-1] Lead-Timeという概念の行う在庫低減例の説明
病院 待合室 診察室 H G F E D C B A

上の図は病院の待合室で,A〜Gの人が診察を待っている状態を表しているとします.また,診察には1人あたり5分かかるものとします.

  1. この状態を『人数で表現』しますと,
    • 待合室にはAからGまで7人が待っている
    • 今来たHは8人目なので,7人が診察を終わるまで待たなければいけない
    となります.
  2. この状態を『所要時間(Lead-Time)で表現』しますと,診察には1人あたり5分かかるので,
    • 待合室にはAからGまで診察時間35分相当の人が居る.
    • 今来たHは30分間待たないと診察を受けられない.
    • Bは5分,Cは10分,Dは15分……待たなければいけない
    と表現できます.

このように,

  1. 『人数で表現』すると,人数を減らす手段が見つかりませんが
  2. 『Lead-Timeで表現』すると,人数を減らすには病院に来る タイミングを工夫すれば良いとわかります.

これを受けて最近の病院では,事前予約が取れるようにしており,患者は病院に来てから帰るまでの時間(Total Lead-Time)は短くて済みますし,病院の駐車場や待合室はガラガラになります.

待合室(a) 原材料倉庫 患者数原材料在庫量
診察室(b) 製造工程 患者数仕掛在庫量
会計待ち(c) 完成品倉庫 患者数完成品在庫量

上のように読み替えれば,[Step2]の改善のヒントになります.

[2-2] 財務諸表から自社の棚卸資産の実態を知る

会社棚卸資産は『貸借対照表(バランスシート)』に記載されています.

前期末の棚卸し時の状況になりますが,

\begin{equation} \text{棚卸資産;} I_{t} [\text{円}] \\ \text{内訳} \\ \text{原材料;} I_{m} [\text{円}] , ~~ \text{仕掛かり;} I_{s} [\text{円}] , ~~ \text{製品;} I_{k} [\text{円}] \\ \text{即ち,} I_{t} = I_{m} + I_{s} + I_{k} [\text{円}] \end{equation}

金額のままでは,どのように減らせば良いか分かりませんので,『損益計算書(PL)』から売上原価$U [\text{円}]$を持ってきて,

\begin{equation} \text{棚卸資産回転数}^{*} = \frac{\text{売上原価}^{*}}{\text{棚卸資産}} = \frac{U}{I_{t}} [\text{回/年}] \end{equation}
\begin{align} \text{Total Lead-Time} &= 12 \text{ヶ月} \times \frac{\text{棚卸資産}}{\text{売上原価}^{*}} \\ &= 12 \text{ヶ月} \times \frac{I_{t}}{U} \\ &= 12 \text{ヶ月} \times (\frac{I_{m}}{U} + \frac{I_{s}}{U} + \frac{I_{k}}{U}) \tag{7-3} \end{align}

[Step2]の課題は,財務諸表上の棚卸資産(単位は[円])を減らす事ですが,先の[2-1]と同じように,時間(ヶ月)で表現すると対策が打てるようになります.

(7-3)式にあるように時間で表現すれば,次のように表現できます.

棚卸資産金額Total Lead-Time
原材料在庫金額原材料 Lead-Time
仕掛かり在庫金額仕掛かり Lead-Time
製品在庫金額製品 Lead-Time

ということは『棚卸金額を半減させる』ことと『在庫リードタイムを半減させる』とが等価であるという意味になります.具体的に言えば,外注先からの納品を10日前に入れさせていたものを,5日前に変更すれば,原材料在庫金額は半減するという事です.

現場では,良かれと思って『早め,早め』に手配し・着工して居ますが,会社のためにも『ギリギリまで遅らせて,速く間に合わせる』が一番の理想と教えるべきです.

[2-3] 同業他社,業界等と比較して,自社の課題を明確にする

このHP のコラム『Jコスト改革の考え方』第6回目より

\begin{align} \text{基礎収益力} & \equiv \frac{\text{売上総利益}}{\text{棚卸資産}} \\ & = \frac{\text{売上総利益}}{\text{売上原価}} \times \frac{\text{売上原価}}{\text{棚卸資産}} \\ & = \text{売上原価粗利率} \times \text{棚卸資産回転数} \\ & = \text{主として本社機能責任} \times \text{主として現場責任} \tag{7-4} \end{align}

この式の 縦軸に売上原価粗利率をとり横軸に棚卸資産回転数を取ったグラフ(下図)を収益性分析図と名付けました.図は業界の違いを表したものです.各社の財務諸表は法律によって公開されていますので,ネットで調べて同業他社の収支分析することが容易です.

さらに同業他社と比べて,原材料在庫が多いのか, 仕掛在庫が多いのか,完成品在庫もいいのか,どこに問題があるのかも調べることができます.他社よりも悪いところを,他社並みに改善するということには現場も燃えますし,比較的容易だと思います.

このように 闇雲に改善するのでは無く, 他社の動向と比べて進める事も有益だと思います.

[2-4] Lead-Time短縮には『小ロット・多回』が特効薬

上図は,ロットサイズと在庫の関係をモデルにした図です.手桶で10個ずつ運ぶためには,Timingのズレも配慮しますと,上流に手桶でとりに行った時に15個くらいにと心配です.届けた先も5個くらいの残っていないと心配です.経験上,ロットサイズがn個であれば,上流・下流・運搬中の合計在庫は最低で3n個必要で,実態は4〜5n個で運用しています.

東西の道路と南北の道路が交差する交差点の信号を考えてみましょう.赤信号がもし1時間続いたとすればどうなるか考えてみて下さい.大渋滞になることでしょう.実際の交差点の信号は最大で2分間とされているそうです.そのお陰で東西も南北も,さしたる渋滞無く流れているのです.これぞ『小ロット・多回の極み』と言って良いでしょう.

[2-5] Lead-Time短縮を阻む組織の壁

日本の会社組織は機能別に縦割り組織になっており,そのトップは,社長の座を窺う専務クラスになって居ます.

(a) 原材料・外注品在庫……購買部門
(b) 仕掛かり在庫……製造部門
(c) 完成品在庫……営業部門

それゆえ[Step-2]の改革にあたってプロジェクト・チームを立ち上げる時,その推進責任者には,(a),(b),(c)の上位にある『会社Top』か『経理』が就任しないと改革が進みません.これが改革推進の『胆』になります.

[2-6] トヨタ系サプライヤーの工夫例

[Step-1]で紹介したOrder-to-Delivery-Lead-Time 0.5日の中でのTotal Lead-Time削減の工夫の幾つかを紹介します.

(6-1) 原則,『在庫後補充生産』

使用量の多い品番は1日4回 生産,極少量品番は月1生産.

(6-2)上記を可能にするのは,トヨタの『平準化生産』があるから!

その裏にはトヨタの『共存共栄』思想.

(7)トヨタはSupplier棚卸資産回転数は……30〜50回.

(在庫を押しつけてはいない)

国際競争力は強く,デンソーの30%余を先頭に,アイシン,自働織機,紡織等はトヨタの約10%を遙かに凌ぐシェアを獲得しています.

[Step-3] Total Lead-Time短縮するとは……

どのようになってるかを実体験を基にした一般論でお話します.

[3-1] モデルの設定

自動車用板金製のホイールキャップをイメージして,@板状ステンレス材料を,Aプレスして,Bバリ取り仕上げをし,C塗装し,D1台分ずつ梱包して,E出荷する……工程を想定

当日も出荷量は,前日に確定.平均A40台,B30台,C20台,D10台バラツキは±10%である……

従来から在庫後補充定方式,1週間単位で生産をした.毎日後補充生産に変更し,在庫を減らした.

以上を前提に,現場がどう変わっていくかのお話をします.

[3-2] 『仕掛かり在庫』減による製造現場変化
『1週間分ずつ生産』

A200台,B150台,……,D50台の連続生産では,完成品在庫は通常必要量の1.5倍〜0.5倍の間で管理していた.

完成品在庫

A300〜100台,……,D75〜25台あるのが普通.

『毎日生産』

朝からA40台,B……,D10台をその日に生産する.完成品在庫は;A60〜20台……,D15〜5台で管理

  1. 小ロット多回生産の効果(課題の顕在化)

    『1週間分ずつ生産』Aは平均200台の完製品在庫持っての2日間 連続生産,設備故障・不良に容易に対応でき,ダラダラとした生産だった.

    『毎日生産』A40台,……,D10台を,時間通り生産が必要!設備故障・品質不良等はすぐ顕在化します.速く直し,再発防止を図る必要に晒される.⇒ 現場には緊張感が走り,キチンと仕事し,再発防止の徹底を図る,理想の職場になって行きます.

  2. 作業完了の在庫が少ない効果(背水の陣効果)
    AプレスBバリ取りC塗装D梱包

    A〜Dまでの工程間にある仕掛り在庫は,仕事を中断されることを嫌がるため,1日分または1ロット分以上の在庫を置いて生産をする という風習があって,この場合 どこにNeckがあって生産の速さが決められているのか分からないまま,ダラダラと生産していました.

    『毎日生産』になりますと,@〜Dまでのどの工程も,A,B,C,Dを1日分ずつでも合計100台分作らなければならなくなります.準備・後始末等の時間を除いた,正味稼働時間を400分とすれば10台を40分間で作っていけば良いことになります.

    トヨタ生産方式には『チョロ引き』と言う改善手法があります.チョロとは下図にある利便性の良い猪牙舟のことです.

    この例では,各工程間を10台分ずつ40分間隔で移動(運搬)させます.

    チョロ引きの導入で運搬工数が増えると思いがちですが,今までは前工程の溜まってきた中間製品を,頃合いを見計らって,一時置き場へ運んでいき,収納します.

    次工程の材料置き場が空くのを見計らって,先に置いた一時置き場からからピッキングして次工程の材料置き場に補充していきます.

    この時の運搬作業を,仕事を探して走り回って居る様を揶揄して『流しのタクシー』と呼びます.

    一方『チョロ引き』は,前工程の完成品置き場から後工程の材料置き場へと一定時間間隔で一筆書きのように廻るので,通称『定期バス』と呼びます.改善マンの間では,『流しのタクシー』から『定期バス』に代えると運搬工数は経験的に1/3に減るとされています.

    各作業工程では,チョロ引きした直後の在庫量で『生産の遅れ進み』が一目でわかるようになります.遅れている工程はみんなで改善したり,進んでいる工程から時々応援したりして,安定した生産ができるようになっていきます.安定したら更に工程間の在庫を減らしていきます.

    このようにして,日々の生産能力向上活動が活発になり,日々が勝った・負けたのゲーム感覚で仕事ができ,長期的には成長が実感できるようになり,会社に行くのが楽しみになります.

    10台分を40分というTACTを発生させる事で,作業にリズム感が出て来て,増えた段取り作業時間を差し引いても,経験的には10〜20%生産性が向上します

  3. 生産の柔軟性向上

    10台当たりの生産時間を把握できていますので,在庫後補充生産により納入量日々の変化や,自工程の設備故障などにも,生産時間の増減で,柔軟に対応することができます.

  4. 工程間在庫スペースが不要に

    普通,この改善をすると,工場がガラガラになり,設備を間締めすると通常半分のスペースが有効活用できる空き地に変わります.

[3-3] 『毎日生産』による外注品倉庫の変化

1週間分ずつのまとめ生産であった為,外注品(原材料)は1週間分の一括注文になり,物流費もまとめた方が安くなるので前の週の内に一括納入となっていて,検収作業や検品作業,それを倉庫に収納作業で,納入日は丸1日てんてこ舞いだったが,残りの4日間は,倉庫から製造現場への供給のみの仕事になり,暇だったのでした.

『毎日生産』では,A,B,C,Dほぼ毎日,在庫後補充という形でほぼ一定量が納入されます.品質の抜取検査だけで, その日のうちに使い,過不足が判明しますから 受入時の員数検査の必要はありません.

  1. 受入即・製造工程へ供給

    受け入れた外注品は,約100台分なので,トラックから荷卸しするついでに指定の場所に平置きするだけでOK.後からチョロ引きが,そこからラインに供給します.

  2. 受入時刻管理

    等間隔で 納入することで,安全在庫を縮小できます.仕入れ先毎に毎日指定時刻に受け入れることで,トラックの混雑緩和のみならず,自社の社員は,他の仕事と掛け持ちが可能になります.

  3. 保管倉庫廃止

    以上のような変化により,外注品用のラックビル,収納・Picking作業倉庫そのものが不要になります.

[3-4] 『毎日生産』による出荷準備場の変化

従来は,製造工程で完成した大ロットの製品を 1旦 完成品ラックビルに収納し,その後 出荷指示に合わせてピッキングし,出荷準備場に並べておくと言う手順でした.

『毎日生産』になると,『出荷荷揃え場』『当日用』『翌日用』『翌々日用』と3カ所決めて置いて,次々とでき上がってくる,A,B,C,Dの完成品を,出荷指示に従って荷揃え場に置いていく作業になります.

  1. 完成品ラックビルは全く不要になります.その空間も不要になります.
  2. 当然ラックビルへの出し入れが無くなるので運搬作業量は1/3以下になります.
  3. 出荷時刻を決め,厳密に守らせる事で,全体の進捗管理が可能になります.ここを押さえれば,工程内の仕掛かり在庫を更に削減していけます.
[3-5] 『週次ロット』から『毎日生産』に改善した効果総括
  • 【在庫低減】 21.5日分⇒6.0日分 15.5日分減
    原材料在庫10〜5日分2〜1日分……△6.0日分
    仕掛り在庫工程上;0.5日分×4変わらず
    工程間;1.5日分×340分×3×3カ所……△3.5日分
    完成品在庫*10〜5日分2〜1日分……△6.0日分
  • 【工数低減】
    運搬作業受入・出庫,工場内,出荷場で各1/3に低減
    製造工程顕在化されたNeck工程の改善で2割向上
    段替え増の工数は不明
  • 【工場スペース】

    原材料在庫(6.0日分),仕掛在庫(3.5日分),完成品在庫(6.0日分)が,ラックビルとともに不要になる

上記のように浮いてきた『経営資源』をOrder-to-Delivery-Lead-Time削減で新規獲得したら,顧客に向けての増産に使うも良いでしょう!製品寿命を考えている 次のモデルの生産準備をするのも良いでしょう.

ここでご説明した改革は,設備投資は一切行わず,知恵とやる気で,達成可能です.

Withコロナの時代にやるべきAfterコロナに向けての改革の1例としてご紹介しました.この改革はまた政府が推し進めようとしているデジタル改革の対応でもあります.ご参考になれば幸いです.


次回は,改革を押し進めるための『経営者と管理者と監督者の役割分担』について考えてみたいと思います.


2021年1月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2020年12月

2020年末のご挨拶

1年間のご愛顧ありがとうございました.

『東京オリンピックの年!』と一杯の希望と期待と持って迎えた2020年でしたが,新年早々から全世界が COVID-19パンデミックの襲撃に遭い,大変な年でした.その2020年も早いものでもう冬至となってしまいました.

1年間を振り返ってみると『疾風に勁草を知る』という言葉がありますが,全世界が同時に同じ困難に遭遇した事によって,強い風に押し倒される草と,凜として耐え抜く草(勁草)の存在が顕在化しました.

国のTopの指導力の差が顕在化し,台湾,ニュージーランド,ドイツのTopは女性で,指導力に長けていました.不幸にも日本の行政は勁草ではなかったこと.民間各社の業務推進体制,特にデジタル化も勁草ではなかった事が『リモートワーク化』で明らかになってしまいました.

個人としても,この事態に遭遇し『自分は会社で回覧書類を読んで昼飯食って帰るだけ』だった事を思い知らされ,ショックを受けている方も多いのではないでしょうか.ショックなのは,75年前までは日本だった『韓国』や『台湾』に対しても,大きく出遅れているということでした.今後の世界の中での日本の立場が心配になります.それを受けて菅内閣は,ハンコゼロ運動から始めて,行政のデジタル化を推進し始めました.皆様に会社は如何でしょうか?行政に遅れないように改革がすすむことを祈ります.

先回このコラムで,10月以降感染が伸び最大級の第3波が来ると書きましたが,残念にも,その悪夢の方向に進んでいます.ワクチンが実用化されたという朗報がありますが,これが行き渡り,鎮火させるまでに約1年かかるでしょう.ということはまさに来年1年は,コロナ開けに備えて,力を蓄える年と位置づけられそうです.

総括すれば,東京オリンピック2020は蓋を開けたら.『国対抗のパンデミック退治』のオリンピックでした.後半戦の来年は日本が追い上げて,上位入賞することを願わずには居られません.日本が上位入賞を果たすための皆様方の『アフター・コロナへ向けての改革』参考になれば……と思いを込めて,弊社の特記事項をご案内致します.以下長文になってしまいましたが,最後までお読み頂き,少しでもお役に立てれば幸いです.


それは,昨年末3か月間だけ指導した中国国営企業が,新型コロナの中で,独自の改革推進体制をとり,自力で『Jコスト改革』を成し遂げたというものです.そのやり方は,各組織が本来業務を真面目に遂行したというものであり,何処の会社でも成し遂げることができるやり方なので,ここで紹介し,弊社のお歳暮としたいと思います.以下順を追ってお伝えしましょう.


[1] 弊社のそれまでの中国企業への関わり状況

拙著『考えるトヨタの現場』『トヨタ式現場の人材教育』『トヨタ式カイゼンの会計学』の中国語版がご縁となり,ここ10年ほどは,年に20〜30日間ほど中国に出張し,『講演会』や,現場改善の指導をしてきました.

日系企業からスピンアウトした若手コンサルの会社『佐吉諮問』が,弊社の中国代理店的な役割を担って頂き,南京の国営企業『SUMEC社』や,杭州市にある大手監視カメラメーカー『Dahua社』などの現場改革のお手伝いをやってきました.

当時各社は事業拡大に勢力を入れていて,PL(利益計算)重視の弊害を是正には本腰を入れていず,日本の大企業と同じように業務が『購買』,『営業』と副社長クラスから縦割り組織になっていて,その組織のKPIは『支払い費用の低減』になっていた為に,各組織の人達は,少しでも費用を安くすることで組織間の覇権争いをしていました.

原材料の仕入れを例にとれば,1トン単位の購入よりも,100トン単位の購入の方が値下げの要求が容易です.購入した原材料を消費するのに半年かかろうが1年かかろうが,仕入れ単価が安ければ,購買部門としてのKPIは向上し,会社への貢献と評価されるわけです.

高度成長していた当時の中国では,問題が顕在化しませんが,日本のように成長が落ちてくるとそれぞれが安く……安く……とする結果として在庫量が増え資金繰りが悪くなり倒産の危機を招くのです.資金繰り(全体)は社長の責任で支払費用(個別)は各担当の責任という,部分最適と全体最適の分離が始まります.大企業の業績が悪化するのはここにあるわけです.

そして2018年頃から米中貿易摩擦が始まりました.その結果,中国の対米輸出は減り,在庫が問題になるようになってきたのでした.


[2] 出会いは『Lean-Summit In Shanghai 2019』

中国での精益活動を主導している趙克強博士のお招きで,毎年6月に行われる恒例の『Lean-Summit』の前座として『Jコスト論』の講習会を丸1日掛けて実施しました.たまたま出席していた河南省にある中国国営企業『K社』様の董事長と総経理が,自社の改革に使えると判断され,話はとんとん拍子に進み,先ず半年間で5工場の改革を手掛け,その進捗を見て全工場に展開するという合意を得ました.9月に2日間掛け『トヨタ生産方式』と『Jコスト論』幹部研修会を行い,第一期として10〜3月,毎月5日間で5工場を現地指導する形で『棚卸資産回転数(基礎収益力)』向上改革活動に着手しました.

[3] 全く新しい改革の取り組み方

国営企業『K社』様の改革への取り組みは,従来と全く異なったものでした.以下順を追ってご説明します.

3-1. 明確な改革目標

取引価格は現状のままで,仕入れから販売までのLead-Time短縮(棚卸資産圧縮)を追求し,下記の基礎収益力向上をはかる.

\begin{equation} \text{基礎収益力} = \text{粗利} \div \text{棚卸資産} \end{equation}
サブテーマ
\begin{equation} \text{棚卸資産回転数} = \text{売上原価} \div \text{棚卸資産} \end{equation}
参考
一般には改革目標は『生産性向上』という曖昧なものに成り,中身は原価低減・工数低減・可動率向上・正味作業時間等々,活動の的が絞れず,以前やった改善を並べお茶を濁す事が多かった.

3-2. 推進体制 経営会議場を使ってTop自らが陣頭指揮する

議長董事長,総経理
事務局経理部長(女性)
参考
一般には,議長は生産性本部長(平取),議事進行は課長クラス.工場長は会場にいるのみで,実施事項の説明は工場改善Teamの係長クラスが行い,その内容はミクロ的に見た,ある工程の工数低減だったり,ある設備の故障率の低減などが主体で,工場長が管理すべき財務会計的な改革の評価は無いのが普通.(経理部はモノづくり改革運動に関与しない)

3-3. 具体的な進め方(会議室編)

  1. 経理部が財務会計計算から,先月の会社全体の進捗状況と,各工場の棚卸資産額・回転数の実績を総経理に報告する.
  2. 各工場長は自ら先月の取り組み状況を説明した上で,今月の取り組みと,目標に対する達成見込み状況を自ら総経理に説明する.
  3. 弊社が出席している場合は,改革の進展に合わせた注意事項や他社の参考事例の紹介等をする
  4. 総経理が各工場の進捗を評価し,董事長の訓話で締める
参考
一般には,各事業部を横並びに見る生産本部長には,工場長を査定する権限が無く,課長層や職長層にADVICEするだけである.工場長の直属の上司はボードメンバーの事業本部長で,各事業本部長は社長の前で,PL(売上や収益)で競って居て,BS(在庫量や資金繰り)は通常話題にしていない…….工場長の中には,会計オンチな人も居る.それ故,Lead-Time短縮や在庫低減と言った,企業体質(BS)向上への取り組みは,遅々として進まないのが各社の実情(これは日本も同じ).それ故,K社様の取り組みは画期的と言える.

3-4. 現場指導編

  1. 工場長(or責任者)が,現場の現状と改革の取り組みを現地で説明
  2. 弊社の指導は,以下の考え方で行った

    中国には,飢えている人に

    @ 釣った魚を与える:依存心が生まれてしまう
    A 魚は与えず吊り具を与える:壊れたらお仕舞い
    B 吊り具の作り方も教える:自立できる

    という諺があります.

    弊社はBの方式を採用し,漁場(現場)で魚(解決すべき課題)を見つける訓練をし,吊り具(解決する方策)を工夫させ,釣り上げて(問題解決)させて自信を付ける……という指導をしました.

    具体的には現場での説明に対して『何故』『なぜ』『ナゼ』『Why』……と徹底的に質問して行き,『現地』『現物』を見,その背景にある『実情』を聞きだし,それによって歪められている『実態』を確認します.その『実態』『是』としてしまえば,『ミイラ取りがミイラになった』事になります.『上に政策あれば下に対策あり』の言葉通り,あるべき姿に向けての道を探っていくと同時に,粘り強く『実情』を変えていく努力も続ける……事を教え込みます.

  3. これにより,『自ら考え,自ら成す』人材を育成もして行きます.
  4. *『K社』様では,Topである董事長か総経理のどちらかが同行し,現場の実情・実態を把握した上でTopとして社内の制約条件の見直しを進めて居ました.

上記で,*印が『K社』様で初めて実現したものです.


[4] 新型コロナ発生!連絡途絶えるも,自力で目標達成!

10・11・12月と指導会実施し,順調なスタートを切りましたが,2020年1月から,新型コロナの発生で中国への渡航ができなくなりました.2〜3月は非常事態で,中国国内でも『K社』様と『佐吉諮問』の間の連絡もままならない状態になりました.4月以降は,危機は収まったものの人的移動は憚られたので,リモートワークを使って 河南省の『K社』様が上海の『佐吉諮問』と連絡を取り,時には日本の弊社にまで質問が届きながらも,ほぼ自力で成果を上げて行き,着手1年で所定の成果を上げました.


[5] 中国全土に向けて改革成果発表

董事長が中央政府と関係が深いこともあって,中国全土の『ものづくり改革』の参考になるとして,ネットを使って今回の活動の自動車事業部編を公開しました.

図1 発表内容(リンク有効期限不明)

中身は中国語ですが,先ず女性の経理部長が登場し,2000年から自動車部品生産に参入し急成長を遂げてきたが,ここ数年は成長が鈍化し,在庫が気になる状況になってきた.新しい管理方法を探していたところ『Jコスト論』に巡り会った.昨年6月,上海でその研修会に参加し,導入を決めた.社内の推進体制を構築,9月から導入し改善活動に入った事を説明しています.

後半になって,自動車部門の事業部長(男性)が登場し,推進組織と具体的活動を説明,ある製品はTotal Lead-Timeが改善前285Hだったものを129Hに短縮した.その結果,基礎収益力が6.9から14.7まで向上させることができた……と発表しています.

図2 改善前後のJコストモデル図

ここで言うTotal Lead-Timeとは,原材料検収から完成品納入までの所要時間で下記式から計算できます.

\begin{align} \text{Total Lead-Time} &= \text{棚卸資産} \div (\text{売上原価} /\text{日}) \cdots\cdots \text{日単位} \\ &= \text{棚卸資産} \div (\text{売上原価} /\text{稼働時間}) \cdots\cdots H\text{単位} \end{align}
\begin{equation} \text{棚卸資産回転数} = \text{年間稼働時間} \div \text{Total Lead-Time} \end{equation}

日本企業の年間実働250日で1日16時間稼働とすれば,4,000時間/年です.発表にあったTotal Lead-Time 129時間は棚卸資産回転数31回/年に相当します.


一方,『佐吉諮問』からは,各事業所の棚卸資産回転数の月々の推移グラフが送られてきました.自動車部品事業では下図のようになって居ます.

図3 事業所全体の棚卸資産回転数の月々の推移

図から,事業所全体の棚卸資産回転数は,1年間で5.5回/年から7.2回/年へと,新型コロナによる大減産を経ても,目標通り30%向上していることが分かります.

皆さまの会社の現状は如何ですか……自社の財務諸表を出して計算してみて下さい.計算した上で,以下の文章をお読み頂くと,弊社がお伝えしたいことの真意をご理解頂けると思います.


[6] 弊社のコメント

6-1. とてつもない大改革です!!

ここまでにご覧頂いた資料は,現地に行けない状態なので,あくまでも伝聞情報です.図3にある棚卸資産回転数の推移を見てください.年間6回転から8回転というのは,日本で言えば中位の改善進んだ企業という位置付けになります.皆様の会社の今年に推移と比べてどうでしょうか?

1番凄いと思われるのは,新型コロナの中で,2〜4月は出荷量が大幅に減ったと思います.日本の自動車は40%減でした.中国でもほぼ同じ減産であったと聞き及んでいますが,その中にあって,改善着手時の『5.5回転』に踏み留まり,今年後半にはどんどんと在庫を減らして行き,5月から10月までの半年間で着手前よりも30%も回転数を上げたということです.中国に於いては自動車の売れ行きは好調だとされていますので,おそらく来年末には事業部として年間12回転まで持って行くでしょう.

貴貴社と『K社』様の,2020年度の棚卸資産回転数の推移を是非比べてみて下さい.

日本の企業では,回転数の絶対値が『K社』様よりもっと多いとしても,殆どは春からドンドン悪化していって居ると推察されます.今年末に年初の回転数まで戻っていれば,優良企業として『◎;二重丸』どころか『花丸』で評価されることと思います.

多くの日本企業は,コロナの影響で減産になった時にはかなり在庫を増やしていると思います.そして稼働率を上げるために,つまり会社としての利益を確保するために,その在庫をなかなか減らせないでいるというのが実情ではないでしょうか?

第2図の重点推進モデルとした製品の『Jコストモデル図』を見ますと,余りにも早く納入されていた原材料を,生産日に近づける改善をした事が分かります.ICTを駆使すれば,納品先(自動車会社)の生産計画で自社の原材料の枠取りをしておき,本番では得意先での自社製品の減り具合に合わせた『後補充生産(電子かんばん方式)』に近いSystemができるのですが……,現在日本でトヨタに納入している優良メーカーが,30〜40回転ですから,この部品生産で,そのやり方のひな形ができた(急所が分かった)という理解もできます.

弊社としては,早く現地を見て確かめたく思っております.


6-2. 中国の一般市民の活力を知るべし

幕末,ペリー艦隊に招待された江戸市民が,翌日模型を作ってきて現物と見比べていた.将来日本はアメリカにとって代わるのではないかと,ペリー提督の日記に書いてあったと聞いたことがあります.太平洋戦争後,支給された小麦粉でパンができると,伯父が両側に銅板を張った箱に重曹を入れてこねた生地を入れ,電灯の電源で焼き上げたものをご馳走になった記憶があります.今の日本にはそのような知的好奇心やバイタリティが欠けている気がします.

中国行って珍しいものを見ました.写真1は二輪車に取り付けた雨傘です.写真2は寒い中国の通勤に使う手作りの風防用半纏です.

図4 二輪車に取り付けた雨傘
図5 二輪車に取り付けた風防用半纏

中国の街を歩くと,このような自分たちで工夫した様々な道具や料理に出会います.彼らは困ると何でも自分で作って問題解決します.『上に政策あれば下に対策あり』という諺は,実態をよく表現しています.

今の中国の活気はこの市民の『知的好奇心』や『バイタリティ』から来ていると思います.我々も何とかして,この市民の『力』を取り戻したいものです.


6-3. 中国人は東に住んでいるユーラシア大陸人……日本人は島人

中国に出入りし接した『中国系企業』も,『外資系企業』も,1人ひとりの仕事と責任は明確になって居て,成果は週単位で明確に評価されて居て,差は感じませんでした.

中国人の生活は,北部では主食は小麦粉で,肉を食べ,家の中では土足で椅子に座りベッドで寝て居て西欧と同じです.国境で他民族と接し,いざ戦争となれば,歩兵軍団と,騎馬軍団と戦車軍団が,将の命令で統率の取れた動きで闘います.この点はヨーロッパの民俗と同じです.

ただ東洋の文化として,身分の差が激しくかんがんなどという身分さえありました.女は男の所有物で,てんそくなどという風習もあり足が小さいほど美人とされていました.1949年の共産党革命によって,身分の差,男女の差を取り除かれた後,学校教育で徹底して男女平等を教え込んできました.もともと中国語には,男女の差や敬語はないので,男も女も上司も部下も納得するまで議論し,この点も西欧と同じです.

工場では女性は化粧していないので,丁度中学校の教室の雰囲気です.中国語の分からない者から見ると,言語能力に優れた女性陣が優勢に見えます.

因みに日本の工場での会議に,女性の姿は在りませんから,日中のものづくり産業の活力に差の一因は,『女性活用の差』にあると確信しています.

更に加えると,大学入試は1年に1回しかないそうで猛勉強しています.大学で勉強しようとしたとき中国語の文献が少ないので勢い英語文献に頼っていきます.スマホへの入力はアルファベットでしかできません.国内に外資系企業がいっぱいある等々,英語が浸透しています.現に通訳が席を外すと中国人は英語で話しかけてきます.要するに大卒の中国人は英語がペラペラなのです.それで,ネットを使って瞬時にして世界の最新情報を手に入れています.そのことを我々は考えておかねばなりません.

それ故,中国人を日本人と似ていると考えるのは間違いで,競い合う多民族が入り組んで住むユーラシア大陸人で,たまたま西に住んでいるのがヨーロッパ人で,東に住んでいるのが中国人と考えるべきです.

日本企業と中国企業の違いを感じた1つの例を説明しましょう.

Lead-Timeを減らすために,個々のSupplierからの直納をやめ,ミルクラン集荷を提案し時のこと,女性を含む数名の部長が,机を叩いて大議論を始めました.通訳は,「怒鳴り合い」に聞こえるかも知れないが,熱心に議論しているだけだと教えてくれました.程なく総経理を呼んできて,そこで又大声での激論が始まりました.最後に総経理から『斯く斯く条件でミルクランをやれ』と言う,具体的な業務命令が出されました.この間約2時間.翌週から実施されました.

その道のプロとしてヘッドハントされてきた人材が各機能の部長職に居るので彼等の合意が自社のその時の最善策であり,やるか否かは総経理が決める.そして,即決即断こそが企業経営の要という明快なLogicで運営されていました.


6-4. ここまでのまとめ

長い文章になってしまいましたが,中国企業が最近まで,安い人件費を武器に放漫な管理でも世界市場で有利な戦いをして勝ち進んできました.相手の米国は,多額の貿易赤字を抱え,失業者が出たとして悲鳴を上げ,2018年から米中経済戦争が始まり,中国からの輸出が滞り始めました.

共産党政権ですからウルトラCの手法を繰り出して国内経済は維持すると思いますが,個々の企業にとってみれば資金繰りが問題になり,今までのような放漫な経営では成り立たなくなります.

今回紹介しました『K社』様は,これを先読みし,在庫を絞った筋肉質の体勢に変えるにはどうすれば良いかと探し,弊社の『Jコスト論』に辿り着いたのでした.

『K社』様の強みは,董事長・総経理・経理部長が同じ問題意識を持ち,真剣に『Jコスト論』を学び,自ら先頭に立って会社組織を挙げ,一丸となっての改革を指揮したことです.その結果,従来の悪癖であった各工場(各事業部)をPL競わせる事をやめ,『棚卸資産の削減』という1点で競わせる事になりました.


⇒【購買】⇒<原材料在庫>⇒【製造<仕掛在庫>】⇒<完成品在庫>【営業】⇒客

上のフローで,【購買】や【営業】の事務処理は確かにまとめて行えば効率的に見えますが,今はERP(業務用Computerソフト)が処理します.全体を見れば,【購買】,【製造】,【営業】の3者が同じ速さであれば,在庫減ることは誰でも分かることです.それ故,最後のお客様が買って頂く速さに合わせて【購買】,【製造】,【営業】の業務を行えば棚卸資産は最小になります.

会社経営の現場では,様々な事情が入り組んでいて図のような単純なものではありませんが,『K社』様のTopはこれを経営の場での舵取りのノウハウとして掴んだということです.2021年度は,各業界のプロとしてヘッドハンティングされてきている【購買】,【製造】,【営業】の長が,これを競って具体的な実務体系へ展開していく事でしょう.

中国人はユーラシア大陸人だと言いましたが,その意味は,日本人なら生涯会社の為に滅私奉公するのですが,『大陸人』は『K社』様での業績を売りにして,更なる高みを目指して転職して活躍し,業界として幾何級数的高度化していく事が予想されると言うことです.まもなく迎える2021年では,中国はafterコロナ時代に入ったとして,飛躍的な発展を留めていくことと思います.一方我々はそれを,指をくわえて見ているわけにもいきません.我々日本人はどうするかについて,新年のご挨拶でお話しすることにします.今日ここに書いたことをお読みいただき,年末しっかりと来年度の貴社の取り組み方をお考えください.


最後に1年間のご愛顧ありがとうございました.皆様良いお年をお迎えください.そして,新しい日本を構築しましょう.

皆様良いお年をお迎えください.


2020年12月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2020年10月

季節のご挨拶

10月1日は中秋の名月です.煌々と照らす名月のもとで『お月見団子』を頂きました.

お月見というと 縁側にすだれを敷き,ススキの穂を立て,三方の上に団子を積み上げ,名月にお供えする風景を思い描きますが,最近の住宅では縁側がないため,このようなお供えがなくなってしまいました.

昔から,子供はお月様の使いであるとされ,この日だけは,名月へのお供えモノを盗んでよいとされていました.これを『お月見泥棒』と言い,子供会の行事になっていました.お供えのない家でも,この日のために菓子などを準備していて,口々に『お月見泥棒』と唱えてやってくる子供に与えます.子供達とご近所が奏でる微笑ましい行事です.

最近は,不気味な魔女や,カボチャのお化けを飾る得体の知れない『ハロウィン』が商業主義から打ち出され,グッズが店頭に並んでいます.聞けば古代ケルト族の悪魔崇拝に起源があるとか…….毎年この季節になると,外来の得体の知れない『ハロウィン』をやめて,日本民俗に基づいた『お月見泥棒』を復活して欲しい……と願っています.


8月になって梅雨が明けたと思ったら,今度は猛烈の暑さ!自宅 庭の温度計が40℃を越え,テレビでは,コロナだけでなく熱中症の注意が叫ばれていました.流石に私もバテ気味で,原稿書く元気がなくなり,つい8・9月はお休みとしてしまいました.申し訳ありませんでしたが,元気を出して又筆を進めます.


10月になって涼しくなり,元気を取り戻した皆さまには水を差すようですが,100年前のスペイン風邪では秋から第2波が更に強い勢力となって襲いかかり,10月がそのピークで特に若い人が重症となり大きなダメージを与えたとされています.特に欧米諸国は海流の関係で気候は比較的温暖ですが,緯度が非常に高く,冬は白夜と言われるほど日照時間は非常に短くなります.人の口から飛び散った唾液は空中に微細なミストとして漂い,紫外線弱い中では殺菌されず,空中に浮遊し続ける……と専門家は警鐘を鳴らしております.どうか,スペイン風邪の轍を踏まないように祈るしかありません…….


では,7月にお約束したように,以下の項の御説明を致します.


[4] 第1使命 管理体制確立させた上で徹底した在庫削減

ウィズ・コロナの期間は,感染が大波・小波と繰り返し約2年に亘ると言われ,業種によっては売上が平時の7〜8割まで落ち込むとされています.その間にも,御客様の好みが変わり,扱う商品が新しいトレンドに変わっていきます.極端な言い方をすれば,今ある在庫の銘柄が全部入れ替わる可能性があるということになり,現状在庫を最小限に抑える必要があります.

4-1. 原価管理体制を全部原価方式から直接原価方式に転向する

在庫削減をしようとする時,一番の障害は現場の『原価管理体制』です.今までの平常時は,限られた経営資源の中で,いかにたくさん作るか!ということを狙って構築した原価管理体制になっていますので,予定よりも余分に作ればその分が黒字になり,予定数量に達しなければ,赤字になるという仕組みになっています.

この仕組みのままでは, 在庫削減は不可能だと思うべきです.

それゆえ在庫削減をしようと思えば,まずは在庫削減すれば評価される方式の『原価管理体制』に変更する必要があります.これは工場だけではなく経理部門も含め全社で一緒になって取り組むべき課題です.


会計学が苦手という方のために 手短に御説明いたしましょう.


数ヶ月前,マスコミで『大手の企業が銀行から融資枠を取り付けた……』と言う趣旨の報道がなされました.如何に大手企業といえども,売り上げが減れば,資金繰りが悪くなり倒産の危機が有り,その先手を打って企業から銀行に融資の予約を取り付けておき,『支払いができなくなる事態を避けた』という報道だったのです.

つまりこの時期,全企業に降りかかる課題は,売上減の中如何にして『資金繰り』を確保するか,ということです.


企業が運転資金を確保する……というのは,人間の身体で例えれば,循環する血液量を確保するという事です.例えば,消化器系の大手術をする為に1週間余絶食することがありますが,点滴や輸血によって血液の量を保ち,循環を確保しておけば命に別状はありません.

一方,軽い傷でも血液の流出を止めなければどんどん血液が減っていき,死に至るのです.一番肝心なのは血液(企業を廻す資金)の量を確保するということなのです.


売上減という異常事態に対応出来る会計管理方法としては,減価償却費や間接費用を配賦と言う形で個々の製品の製造原価に上乗せして考えるフルコスティング(全部原価法)ではなく,現場で直接管理できる費用だけを現場で管理させる直接原価法(ダイレクトコスティング)が良いとされております.

直接原価法の一例として,2003年までトヨタでやっていた直接原価管理法の紹介をしましょう.


トヨタ式原価管理法(大野耐一氏主導の方式 2003年まで実施)
(1) その特徴

トヨタ方式の根本原則は,売れた分だけ作る……にあります.

売れる量は極めて不安定ですから,

  • @ 製造するときは全直投球させ,1個当たりの製造原価の推移を見ることで,現場の努力と実力を掴みます.
  • A 注文が来なくて生産が止まった時間を顕在化することで,販売能力と 自社の工場における製造能力とのギャップを把握します.
  • B 製造能力が高ければその能力を生かして拡販に持って行くのか,新製品の開発に持っているのか,経営者の責任と捉えます.

因みに上記@ABを体系づけて論じたLean-Accountingが研究され,書籍(英文)になっています.

(2) 絶対評価ではなく相対評価(日々の成長を評価)

A,B,Cの3工場で甲,乙という製品を作っていたとします.

普通の会社では,製品甲,乙の 標準作業時間,標準材料使用量は本社で決め,実績でA,B,Cの工場を評価します.

トヨタでは,A,B,Cを3軒の家の一子,二子というように捉えます.身長,体重は違って当然.成長する力も違って当然.

大事なのは日々どのように成長しているのか,です.改善への取り組みとその成果を……つまり,月々の変化率を評価します.この評価方法が,職場の元気・活気を醸し出すのです.

(3) より具体的 に言えば
\begin{equation} 労務費 = 実績直接作業時間 [\mathrm{s}] \times 標準レイト [\mathrm{s}] (製品1個あたり) \end{equation}

ここで,

\begin{equation} 総時間 [\mathrm{s}] = 出勤人員 \times (定時 [\mathrm{s}] + 残業時間 [\mathrm{s}]) \end{equation}
\begin{equation} 生産時間 [\mathrm{s}] = 総時間 [\mathrm{s}] \times 0.92 - 他責時間 [\mathrm{s}] \end{equation}

8%は教育など生産以外に使う時間です.また,他責時間は他工程の責任で停止した時間で,減産分も含まれます.

\begin{equation} 実績直接作業時間 [\mathrm{s}] = 生産時間 [\mathrm{s}] \div 検査合格数 \end{equation}

\begin{equation} 材料費など = \sum (標準材料原価[\mathrm{kg} ^{-1}] \times 実績使用量[\mathrm{kg}]) \end{equation}

一旦,細部の使用実績を明確化して評価する.


但し,当時のトヨタはかんばん方式により,徹底して在庫低減をはかる仕組みになっておりました.

このトヨタの例は,コロナ禍による減産になかでは何処の会社でも参考になると思います.


4-2. 在庫量の尺度を『滞留日数』で統一する

従来の生産計画においては生産の単位を 『○○万個』だとか,『▽千個』とか丸い数字を使っていると思います.しかし 在庫を本当に減らそう考えるならば,今ある在庫は何日分あるのかと言う捉え方が1番大事になります.例えば在庫後補充生産方式で,毎日すべての製品を後補充生産するのであれば,バラツキを考えて完成品在庫が1.5日分あれば,欠品せずに廻すことが出来るでしょう.

このように在庫を,「金額や個数」ではなく『滞留日数』で把握することにより,誰にでも次にどのような行動をとるべきか,自ずとわかるようになるのです.


4-3. 小ロット多回生産に挑戦する

具体的にはどうすればよいのか,考えてみましょう.

例えば今までは何も考えずに1万個単位で生産したとします.ここに先の『在庫滞留日数』という尺度を導入します様子が一変します.

1万個とは,製品Aとってみればそれは滞留日数3日分であるかも知れませんが,製品Bにとっては10日分だったりします.製品Cでは何と50日分にもなっていたりします.

当然,先に紹介したように,前日に売れた分だけ後補充する場合という考えが出てきます.これが1つの模範解答であるのは間違いありません.

しかし,多くの場合,生産する時に製品Aから製品Bに生産を切り替えるとき,段取り替え(準備)時間が掛かります.

一般公式として,1ロット($m [\mathrm{個}]$)を生産するのに要する時間を$T [\mathrm{s}]$とすれば

\begin{equation} T [\mathrm{s}] = ( m + n ) \times \mathrm{CycleTime} [\mathrm{s}] + 段替え時間 [\mathrm{s}] \tag{4-1} \end{equation} \begin{equation} n = 生産ラインの工程数 \end{equation}

という式が成り立っていて,多くの場合 全商品を生産すると,段替え時間がNeckとなり 後補充しようとする数量が生産出来ません.

その場合,各製品に対して,それぞれ 最大在庫量・最小在庫量を決めておき,最少在庫量にまで減った順に,最大在庫まで生産するというやり方をします.

当然,売れ筋の製品は毎日生産し売れないものは数日分まとめて作るということになります.通称ロングテールと言われる,売れ筋でない製品の在庫量は出来るだけ絞り,在庫量を多く抱えても直ぐに売れていく『売れ筋の製品』の在庫を多めにすることで,Totalの在庫量を縮小していけることが分かって来ます.さらに限界に挑戦し続けることから『段取り替え時間』は現場の工夫と訓練によって,段々と 短縮できるようになって行きます.

常に限界に挑戦するという姿勢でこの取り組みを行うことに依って最終的には驚異的なほど在庫を減らす事が出すことができるのです.同時に,現場の規律とやり甲斐,達成感も醸し出されるのです.


在庫管理の詳細は,本HPの連載コラム『Jコスト改革の考え方』 第9回目を参考にしてください.


4-4. 在庫管理の見える化と日々の管理

中国の古典に『入る』を量り『出る』を制すべしと言う言葉があります.本来は,『国を治めるに当たっては,歳入をしっかり把握して,それで賄えるように,歳出を抑えろ!』という意味で,国家予算の10年分の赤字国債を抱えている日本政府のようになるな!と言う警告なのですが,此処では,会社の実態に合わせて 週次の生産計画であるとすれば『今週の売上金額の枠内で』『来週を予測して』原材料を調達せよと捉えて頂きたく思います.

今週に比べて来週は売り上げが1割減ると予測された場合,MRPを使っての資材調達では,1割減で発注してしまうと思います.しかし,完成品在庫もあるわけですから,その在庫も又1割が削減しなければいけませんので,一口で言えば2割削減する事が必要となります.

見える化の方法は多岐に亘り,此処では言い尽くせませんので,このHPにある『Jコスト改革の考え方』を参考にして,御社に見合った方法を工夫して下さい.

最近では50インチの4Kテレビが10万円台で売っています.中古のスマホが極めて安価に入手出来ます.社内にNetを張れば,極めて安価に,生産管理,入出庫管理をリアルタイムで把握し,全員で共有する仕組みが構築できます.

こう言った自前のツールを使って,市場の変化に最小の在庫で,素速く対応する仕組みの構築が,御社のコロナ禍に中での生き延びる術なのです.


4-5. 在庫管理(生産管理)Systemの再構築

2020年全世界を襲ったCOVID-19パンデミックは,各国の行政の抱えている問題点を白日の下に曝け出しました.

職を失った人々への補助金を支給するのに,申請したら3日以内に届いたという在外邦人のインタビューがある一方,3ヶ月しても届かないという東京都民の訴えが報道されたり,総理大臣が,感染か否かを判断するためのPCR検査が,直ちに受けられるようにすると国会で答弁したのに,4ヶ月経っても,主治医が申請しても後回しにされ,症状が悪化してから検査が受けられる良いになった……等々.日本の行政システムが, いかに時代遅れであるかということが露呈されました.

マスコミは,日本と欧米諸国と比較して議論していますが,私は75年前までは日本領として同じ行政組織であったハズの『韓国』と『台湾』との差を問題にしたいと思います.

試金石として,『トップの座に女性が就任したか否か』を採用すれば,韓国は先代の朴大統領は女性でしし,台湾の蔡総統は2期目の女性総統です.『コロナの新規感染者数』を採用すれば,台湾はゼロを続けており,韓国は64人,日本は571人(2020年9月30日)となっています.このように,国の行政組織の遅れは明らかで,新たに発足した菅内閣が『デジタル庁設置』や『押印制度の見直し』を前面に出して取り組み始めた事に期待したいところです.


『生産(在庫)管理体制』に話を戻しましょう.

私は『上の好むところ,下自ずと風をなす』という言葉が好きでよく引用しますが,その意味するとことは,何事も上位組織のレベルの影響を受けに下位組織も同じレベルになりやすい……という意味です.

国の行政組織が遅れていれば,民間企業の事務処理も同じレベルに留まっている……だから1980年代世界で冠たる活躍をした日本企業も,今は時代遅れで,韓国や台湾に後れをとっている……と,全世界のビジネスマンが疑念を抱いていると考えるべきです.

コロナ前は,『日本企業だから安心だ』と思われていたのが,コロナ後は『日本企業だから心配だ……』と思われて始めた と考えるべきです.一刻の猶予もありません.コロナ前に思われたと同じレベルの日本企業としての,在庫管理をはじめとする会社の事務処理能力を,世界の最先端レベルまで持って行くことが,アフターコロナに向けての最大の改革目標になります.


改革向けての参考になるように こうなってしまった原因について考えてみましょう.その1つの原因は入社(採用)制度にあると思います.


『野球』を例にとって考えてみましょう.プロ野球はもちろんのこと,実業団野球においても,新人を採用するに当たっては,出身校名ではなく,実際に甲子園でどの程度活躍したか?6大学でどんな実績があるのか,個人の能力を見定めて採用を決めております.その結果入社して即戦力になるし,他の球団に移籍しても,即戦力という選手たちが活躍しているわけです.

一方,全世界の強豪企業と競い合っている企業の,競争力の一つの鍵でもある事務業務,例えば『生産管理』について考えてみましょう.高校でも大学でも『生産管理』について専門知識は一切教育されていません.全くの素人の学生を,学校名だけを頼りに採用し,即戦力に使っているのが日本企業の実態です.その結果,職場の先輩から教えられたことをいかに『忠実に実施するか 』ということだけ汲々としており,世界の競合他社と比較して自社がどうか,あるべき姿とどんな乖離があるか,ということを考える暇ありません.言い換えれば日本の各社の『生産管理』は,先輩から代々の言い伝えて頼っていて,『伝言ゲーム』で実証されているように,伝える毎に劣化しています.私はこれを『隠れキリシタン現象』と呼んでいます.

因みに,正規に再教育された人々は『潜伏キリシタン』として苦難に耐え信仰を守り向いたとしてカソリック教徒から賞賛されていますが,再教育を拒んだ集団は『隠れキリシタン』として異端扱いになっていると聞いています.


このように,表に出にくい事務部門の業務は,競業他社と定期的に比較検討しないかぎり,すべて『隠れキリシタン現象』にある……と思っています.もし,御社の自己資本費利率が高く,銀行の監査が入らない状況であれば,『隠れキリシタン現象』は重症である……と思って間違いありません.


改革志す皆様にオススメしたいことがあります.それは皆様自身がクラウド型ERPをサブスクで入手し,自社の業務処理方法と比較することです.

日本でERP(事務部門の業務全般を電算化したもの)を導入した1990年代は,「世界に冠たる自社の業務処理方法は,市販のソフトでは動かない」として,代々受け継いだ各社の業務処理に会わせた専用ソフトを数十億円掛けて開発し,導入していました.

20余年経った今日,経営環境は様変わりし,ICT(情報通信技術)が格段の進歩を遂げています.それに伴って,世界各社の業務処理が激変してきています.


消費者レベルでの一例として,中国での経験を紹介しましょう.飲食店では,店に入り,テーブル上のQRコードを読むとスマホ上にメニューが写真と詳しい説明が掲示され,それで注文します.食べ終わった後レジで,スマホで口座情報を掲示することで勘定を済ませます.タクシーを呼ぶには ,ネット上の「自動車の型式」と「運転手の評価」の一覧表から乗りたい車を選ぶと,運転手につながり, 何分後に到着するかの確認が出来ます.目的地に着いたら,代金決済も スマホで行い評価も追記します.これらスマホを通じた商取引はNet上に保管されているので,不正も防ぎます.

このように21世紀になると日本にいては想像できないほど,世界の商取引は日々劇的な進化を続けているのです.


2020年全世界を襲ったCOVID-19パンデミックは,感染防止のために全世界でテレワークを余儀なくされました.ICTを使いこなして業務改革を進めてきた企業にとってはテレワークは,さらなる改革のきっかけとなり,ますます生産性を上げて行くと思います.

一方,今までの事務処理方法に固執している企業にとっては,テレワークは晴天の霹靂だと思います.例えばA氏は出社して事務机に向かい,回覧書類を読み,喫煙室で仲間とだべり,未決箱の書類に目を通して押印する……仕事をしていたとします.A氏は,テレワークは無理……と主張するでしょう.しかし,高度100bから自社の業務を鳥瞰すれば,A氏は業務の流れを滞留させるだけで,何の付加価値もない事が明らかになることでしょう.

私がこう主張するには背景があります.1988年からトヨタではTop主導で『ハンコ三つ』運動が展開されました.平社員が起案するような案件ならば「係長⇒課長」で発効,部長が起案するような重要案件ならば「担当役員⇒常務」で発効,といった具合でした.2000年から勤務した半官半民の組織では,何と『ハンコ16個』でした.誰がどの部分を確認するのか不明のまま,押印欄に16個の印章が並ばないと発効しません.最低で一週間掛かった覚えがあります.


世界の最先端の生産管理Systemが,自社のそれとどんな差があるかを見るためには,一つの手段として,21世紀になって急成長した中国をはじめ東南アジア諸国が活用しているというクラウド型ERPの研究をお勧めします.サブスクリプションとして数万円/月で誰でも使える状態です.あるソフトウェアの専門家の話では,日本では数十億円かけて自社独自のERPを作ると言う風潮があるため,安くて済むクラウド型のERPは日本では一切,宣伝しないことになっているそうです.

『敵を知り,おのれを知れば百戦危うからず』敵が使っているというクラウド型ERPと自社の現在のやり方を調べ上げ,自社との業務展開の違いを確認するところから,御社の改革はスタートすべしと考えます.その上に立って,最小の在庫で回す仕組みを構築して下さい.


次回は,以下のことをお話しします.


  • [5] 管理者としての第2使命 人財の育成
    • 5-1. 自社のKeyとなるノウハウの伝承
    • 5-2. 一般技能の伝承
    • 5-3. 資格者の確保
    • 5-4. 企業人教育
    • 5-5. 後継者の育成(5年後の姿)
  • [6] 管理者としての第3使命 職場管理体制の再構築,Value Stream Map(モノと情報の流れ図)
    • 6-1. 現状確認
    • 6-2. 『安全』『品質』『生産』の自律管理体制として再整備
    • 6-3. 通信Net再点検

2020年10月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知



2020年7月

季節のご挨拶

2020年,オリンピックの年として新年を迎えた直後から始まった,新型コロナ騒動,マスク不足を始め,医療機材不足,医療崩壊の懸念,一斉休校,緊急事態宣言,移動自粛とテレワーク,営業自粛等々を経て,日本の感染者は幸い少なくて済み,下火に向かい,お陰様で6月19日から,様々なコロナ対策の自主規制が解除されました.最近感染者がジワジワと増えているのが気がかりですが….

この約半年間,管理者の皆さまは,ご家族の安全と,預かっている職場の異常事態への対応で大変なご苦労をなさったモノと拝察致します.お疲れ様でした.

しかし,水を差すようですが,ここまでの皆さまの対応は,緊急避難として外部から強制され否応なしにやってきた部分が多く,各社・各職場でその対応にはそれほど差があるとは思いません.


今からの対応で,大きな格差がつくと覚悟を決めてください.

7月に入り,東京ディヅニーランド(TDL)が再開したというニュースが賑わしていますが,待ちわびていた来場者は,充分にコロナ対策した上での新しいおもてなしに驚きと新たな感動を味わっていると報道されています.

TDLは閉ざされた空間での数時間の世界ですが,の皆さまの会社では,自由市場に向けた開放空間で,時間制限無しでサービス競争を続行する業態にあると拝察します.その難しい中で,どうアフターコロナの体制を構築するかが,管理者である皆さまのお仕事になります.今回は此のテーマに具体的にどう対処すべきかを考えたいと思います.


今一度スペイン風邪から学びましょう

以前にも言いましたが,今回のCOVID-19パンデミックは,100年前の『スペイン風邪』が免役もない疫病として参考になります.

(Wikipedia より)
第1波1918年3月〜6月北米・欧州
第2波1918年秋全世界重篤な合併症を起こし死者が急増
第3波1919年春〜秋全世界最初に医師・看護師が感染⇒医療崩壊
世界日本
推定感染者数人口の25〜30%人口5.5千万人中2.4千万人
推定死者数0.17〜1.0億人39万人(1.63%)

更に,別の資料では,第1次世界大戦(1914年6月〜1919年11月)の中で,主戦場であった欧州大陸に参戦した米軍兵士から全戦線の敵味方全軍に感染が広がり,敵と戦いながら,スペイン風邪と闘う事態となり,終戦を早めたと言います.又,戦死か病死の区別は,参戦国同士の機密とされ,スペイン風邪そのものの詳細な実態は不明とされています.

一方,米国は,主戦場の欧州に武器,弾薬,食料を売り付けることで巨万の富を手にし,戦後は世界経済の中心に躍り出て,大繁栄したのでした.世界史的にはPax BritannicaからPax Americanaへの変換点でもありました.行き過ぎた好景気が1929年の『世界大恐慌』を巻き起こし,それが起点で世界各国の経済が破綻の危機を迎え,自国さえ良ければ…と過度な保護貿易に走りました.経済的に困った国ではファシズムが台頭して来ます.1930年代後半になるとあちこちで紛争が起き,ついには1939年第2次世界大戦に突入するのでした.1930年から米国ではニューディール政策が打ち出され,多額の公共投資が行われましたが,効果が検証されないまま大戦に突入し,戦争が一番の不況対策だったとも言われています.この伏線として,スペイン風邪の第2波は若年・壮年(65歳以下99%)にサイトカインを起こし死亡者が多かったことで,人口構成に大きな歪みを与えたこともその原因の一つに挙げられ,影響は20年余続いたという説もあります.


現実を直視し覚悟を決めましょう

このスペイン風邪の例から推定されるのは,北半球⇒南半球⇒北半球⇒南半球と,冬季に流行,夏季に収まるを繰り返し,2年間は全世界で第2波,第3波が来ると覚悟しなければなりません.無観客ではオリンピックになりませんから,中止となるでしょう.

自社で出来ることは万全を期しても,このように2年間はパンデミックの中に居るとすると,皆さまの市場は激変すると思います.単に需要の変化を考えても,日々の生活に必要なモノは直ぐに回復しますが,必需品で無いモノは,先行き不安な世相から,客足は遠退きがちになります.

一例を挙げますと,結婚式と卒業式の記念撮影は,人生の区切りとして大切に考える様ですが,貸衣装で済ますことが出来るようになって居ることまでは承知していましたが,最近では『メルカリ』を使って,一寸したお出かけの服装一式を,プロのデザイナーがコーディネイトしたモノを送ってもらい,使い終わったら又ネットで売るのだとか….市場は日々劇的に変わりつつあると痛感した次第です.

従来から,一つの事件によって消費市場が急変することが知られています.日本では1932年冬に起きた日本橋白木屋百貨店火災が有名です.初めての8階建ての高層ビル火災の経験から,消防関係に大きな影響を与えたと言われますが,もっと有名なのは,救出されるとき,乱れた裾を直そうとして片手を離した多くの女性が落下して命を失った…という噂が広がり,瞬く間に女性の下着が腰巻からズロースに変わったと伝えられています.都市伝説だという説がありますが,あるトレンドであったものが,一つの切掛けて一気に広がったと理解すべきで,下着業界にとっては天から降ってきたビジネスチャンスであった事は間違いありません.波に乗れた店と,外した店では大きな差が出たことでしょう.


自社のことは,自社社員の力でしか対処出来ない

少々前置きが長くなりましたが,今直面しているCOVID-19パンデミックは,先ず1〜2年続くという事を覚悟してください.そして通り抜けたトンネルの先は,今までと違った景色になって居るということです.従って扱う商品は様変わりし,何をどう扱うか…は各社違いますから,皆さま御自身の才覚で道を開いていかなければなりません.

これとは別に,職場をどう運営するか,部下をどう育てるのか等は現場を預かる管理者として,一般論として,管理職の皆さまどちら様にも当てはまるお話しですので,今回はこれについてお話ししたいと思います.

それは,今まで2回に分けて説明してきた,改善に向けてのキャッチコピー

  • 【A】「常に『目的は何か?』を問い直そう」
  • 【B】「ぶつかった壁は『人が作った壁か?神様が作った壁か?』を考えよ!」「人が作ったモノなら変えることが出来るのだ」
  • 【C】「ルールは変えるためにある」

これを皆さまの職場に展開しては如何でしょうか…という提案でもあります.


管理職である皆さまが心すべき事柄

[1] この時,管理職に居ることの意味を知るべし…

管理者である皆さまは,御自分の担当する職場の要所要所に,それ相応の人材を配置して業務を遂行していることと思います.その部下が,上司であるあなたの顔色ばかり窺っていたら,あなたは残念に思い,降格を考えることでしょう.

中国の三国志に『赤兎馬』という名馬(≠焼酎)が登場しますが,元々はパワー溢れる暴れ馬でしたが,呂布という名将が乗りこなして大きな軍功を挙げるのでした.乗りこなすとはControlすることで,制御と書きます.『制』も『御』もブレーキを掛けるということです.戦場で命を託する愛馬も,部下も同じで,自分の信念でバリバリ働く部下が頼もしく,行き過ぎがあったら,そこだけブレーキを掛ければ良いとして,存分に活躍してくれるのを待っていると思います.同様に,あなたの上司は,あなたを得がたい人材として今の職に任じ,存分の活躍を期待していると思わなければいけません.

上司と部下の関係に関連したEpisode

TOC(Theory Of Constraints)の創始者であるイスラエル人の物理学者Goldratt博士は,トヨタ生産方式(TPS)をまとめ上げた大野耐一氏を尊敬して居ました.その彼は『一人の男が,世間の常識に逆らって,己の信じる道を貫き,TPSをまとめ上げた事は,現代の奇跡だ!又,信じる道を突き進む部下を,万難を排して守り抜いた上司も奇跡だ.もっと大きな奇跡は,突き進む男と守り抜く経営者が30年間同じ会社で,上司と部下の関係で居たことだ!』と評したと聞いています.

『英雄は英雄を知る』という事なのでしょう.

今,COVID-19パンデミックの中であなたが管理職で居る意味を自ら見つめ直す時です.今この時,この職に居る自分に,上司は何を期待しているのか…?正に『自分がこの職に居る目的は何か…?!』『今のやり方はその目的に合っているか…?!』を自らに問うて頂きたく思います.


[2] 管理者の犯しやすい「行い(罪?)」

管理者の犯しやすい「行い(罪?)」には以下の2つがあると,先輩に諭された事がありました.具体的な例で説明しましょう.

(A) 不作為の作為

自動車には運転免許証が必要な様に,現場には,法律で定められた資格者が従事する必要があります(例:危険物取扱,高所作業,玉掛け…).前任者から,「全て資格者が作業している」という申し送りを受けて,鵜呑みにして1年過ごした状態が『不作為の作為』という『行い(罪?)』なのです.

本来は就任と同時に,その現場に有資格作業の現状と,有資格者状況を調べ,成り行きで行けば,何年持つのかを確認の上,自分の在任中に何人育て上げるようにするかの意志決定し,計画的に資格を取らせている…のが,正常な管理者の務めなのです.

もう一つの典型例は,場内外注業者管理の問題です.創業時には自社社員が行っていた作業であるパレットや木箱等の修理と補充,型保全,場内清掃から保守点検等々,更には場内運搬や塗装工程までが,社外の人に移されて(場内外注化)行ったのですが,現場に密着して作業の授受が,監督者レベルでおこなわれる為,管理し難く,『癒着』が起きやすいのです.

更に拙いことに,『外注化』すると,費用区分が個々の製品の『製造原価』から工場全般に掛かる『一般管理費』に変わるので,『製造部門が頑張った…』様に見えるので,ついつい泥沼に足を踏み入れてしまいがちです.内・外製…特に場内外注は管理者として厳しく見直すべき項目です.


(B) 未必の故意

先の資格者で言えば,調べたら『半年以内で数名が定年退職する』と知った上で,それを放置したときに,これを『未必の故意』と言います.

『通路に陥没がある・・・』『不良の再発防止をしていない』等々,管理者として当然やるべきことを,やらずに過ごしている状態を言うのです.管理者として絶対あってはいけないことなので,この行いは『罪』です.管理者は刑事罰,民時罰も覚悟しなければなりません.


(C) お役所仕事

約50年前,係長に昇格したとき,社内教育で叩き込まれたのは『役所と民間企業との違い』でした.『役所では,決められて仕事を決められたようにやっていれば,何が起きようと法律が役人を守ってくれる』<註:決められたこととは,法律と先輩に教わった事柄を指します.>『民間企業では,法律より上位に「御客様」が居る.御客様のご機嫌を損じたら,会社ごと潰れる場合もある.「速さ」と「品質」と「価格」で御客様の『満足』を得るように全力で取り組まなければなら無い…』ということでした.

今回のコロナ対応で,『お役所仕事』オンパレードを見せつけられて唖然とし,アベノマスクに至っては,怒りを通りこし嘲笑になってしまいました.『納期遅れ』『毛髪等の混入』『不明朗な入札』民間企業なら倒産するほどの不祥事が起きましたが,担当部署の責任者処分は一切無く,国会答弁では『スピード感を持って適切に対処する・・・』といういつもの呪文を唱えるのみでした.

民間会社の管理者は人事権もあるので,異常を兆しの段階から捉えて現場を観察し,絡み合っている業務を解きほぐし,円滑に機能する様に組織を再構築する責任を負います.持てる職権を最大限発揮して早期解決が職務で,言い訳は出来ないと覚悟しなければなりません.あなたがモタついていれば,上司がメンバーチェンジすることでしょう.


(D) 『自分の城は自分で守れ』が民間会社の生きる道

『自分の城は自分で守れ』とは,1950年資金繰りが悪化し潰れかかったトヨタの社長に就任し,徹底した経費節減で資金を貯め,無借金経営の基礎を作り,銀行に左右されず,自らの判断で思い切った投資をして,今日の基礎を作ったと言われる,石田退三氏の著書名でもあり(1968年講談社),座右の名でもありました.

1970年代係長教育で,叩き込まれたのは,以下のようなモノでした.

日本国憲法では,いわゆる『生存権』等々様々な基本的人権が謳われていて,個人が困難に陥った場合生活保護,医療保護等,手厚く保護されるが,民間会社が投資に失敗しても,火事で燃えても,助けてはもらえない.

これは,【B】の『神様が作ったのか?人間が作ったのか?』の文脈からも.『人の命は神が創った…』『会社は金儲けを狙って一部の人が作…』とすれば困ったからと言って関係ない国民が払った税金を使って助ける理由にはならないのです.正に『自分の城は自分で守れ』なのです.それ故,民間会社の管理職は,経営者を助け,従業員の生活を守るという重責を担っていて,留まれば窒息死,慌てれば転落死という状況の中,足許を見定め,一歩一歩確実な歩みを続けるしかないのです.


以上,管理者としてあなたは(A)不作為の作為,(B)未必の故意,(C)お役所仕事に陥らず,(D)自分の城は自分で守る道を歩んでいるか,自らの仕事を常にチェックし,自らを律して行かねばならないのです.


[3] コロナによる需要減を,管理者はどう捉えるべきか

3-1. 職場改革のチャンス到来と喜ぶべき

管理者の皆さまは,今まで『品質』『納期』を守りながらいかに『原価』を下げ会社に利益をもたらすかに日夜心を砕いて来られたと思います.更に良い状態にするためにやるべきこと,やりたいことがあったとしても,管理者として自由に使える工数がなく,悔しい思いをして来たと拝察します.

サッカーやバスケ等のプロスポーツは,シーズン中には出来ない大改革をシーズンオフの間に,選手個人も,又チ−ムとしても行い,これが翌シーズンの成績に直結するとして頑張ってやっていると聞いています.今回のコロナによる需要減は,その後の急成長を見越しての減産になりますから,ある意味,このプロチームのオフシーズンに 似ています.この機に,かねてやりたかった組織としての改革を成さないと,アフターコロナの市場で敗退を余儀なくされると思わなければいけません.


3-2.減産規模と期間を読む

新聞に拠れば,株主総会でトヨタ自動車が2021年3月期の予測として,最悪60%台まで落ち込むが,年平均では80%台に踏みとどまる予測で,固定費削減の努力が実を結び,5千億程度の営業利益を出せると豊田か社長が公言しました.敢えて公言した真意は,全世界で直接取引のある数千社,間接的には数万社に及ぶ関連会社に,狼狽えることなく各社が2021年度の行動計画立案し,アフターコロナに向け着実に改革してもらう為だとのことでした.

では,皆さまの会社では,今年1年間の需要をどのように予測しているのでしょうか?代理店や販売店へのアンケート調査では,大失敗します.御社自らが他社製品も含め市場の様子探求し,購買層の経済状態までも勘案の末,製造会社としてのマインドで需要予測をする必要があります.


3-3.品名が同じでも仕様が変わる

特に注意すべきは,約2年は掛かると言われているコロナの流行中に,市場のトレンドがガラリと変わってしまう可能性があるという事です.

例えば,大型乗用車のミニバンは,従来は家族揃っての長距離ドライブが使用目的でしたが,リモートワークが本格的になると,家が手狭で落ち着いた仕事場が欲しくなります.そうすると2列目に通信機器を備え,デスクとして使える機能を持ったミニバンが,サラリーマンの間では流行る事でしょう….等々,従来にない新機種が持て囃されるようになる事でしょう.ということは,コロナの減産は新製品への切り替えの減産と考えてとり組むべきだと理解出来ると思います.


ここまで管理者としての心構えを中心に長々と説教めいたことを述べてきました.少しでもお役に立てば幸いです.

次回は管理者としてなすべきことを以下のような柱立てでお話ししたいと思っています.皆さまの職場でやらなければいけないことは,管理者としての皆さま御自身が一番分かっていて,既に計画を立て,着着と実施されていることと思います.来月は,以下の項目をお話しさせて頂きますが,それを読んで,皆さまが管理者としての自信を深めて頂ければ幸いです.

  • [4] 管理者としての第1使命 在庫管理体制確立
  • 需要減になると,在庫を抱えてしまい運転資金が枯渇して倒産に至ります.経営者は銀行を駆け回り,現金を準備しますが,現場の管理者の使命は,徹底的な在庫圧縮にあります.

    • 4-1.在庫量の尺度を『滞留日数』で統一する
    • 4-2.小ロット多回生産に挑戦する
    • 4-3.在庫管理の見える化と日々の管理
    • 4-4.在庫管理System構築(クラウド型試行)
  • [5] 管理者としての第2使命 人財の育成
    • 5-1.自社のKeyとなるノウハウの伝承
    • 5-2.一般技能の伝承
    • 5-3.資格者の確保
    • 5-4.企業人教育
    • 5-5. 後継者の育成(5年後の姿)
  • [6] 管理者としての第3使命 職場管理体制の再構築
  • Value Stream Map(モノと情報の流れ図)

    • 6-1.現状確認
    • 6-2.『安全』『品質』『生産』の自律管理体制として再整備
    • 6-3.通信Net再点検

2020年7月
(株)Jコスト研究所 代表 田中正知