連載コラム『Jコスト改革の考え方』目次
JBpress連載コラム『本流トヨタ方式』
ビジネス情報サイトJBpressにおいて、2008年から2013年までの間に合計104回のコラム 『本流トヨタ方式』 を連載していました。
現在連載中のコラム 『Jコスト改革の考え方』と併せて読んで頂くと、より深くJコストの考え方がご理解頂けるかと思います。是非、下記のリンクにアクセスしてみて下さい。
過去の所信表明
2017年6月
先月のある夕方,新幹線で名古屋に帰ろうと京都駅に着いたとき,駅の中に大勢の高校生と思われる生徒達が床に座っていました。床に直に尻を付けて座るという経験を持たない私には,その姿に強烈な印象を受けて,本職である「生産」「物流」に関しての思いがこみ上げてきました。
[1]団体客を運ぶ事の難しさ
数百人単位の生徒達を引率することは大変なことですから,分単位で運行する新幹線にJust In Timeで対応することは大変なので,早めに来て待たせるしかないことは理解出来ました。引率する先生方のご苦労が偲ばれます。
受け入れる新幹線側も大変で,ほぼ満席に近い状態で,厳しい定時運行している新幹線に,いきなり1列車に数百人の団体客を乗せたらダイヤも乱れ苦情が殺到するでしょう。常連の客には迷惑を掛けないように時刻表には書いていない団体専用列車を仕立て,定期列車の合間を縫って運行している様子に,流石と思いました。
トヨタ生産方式の立場で説明しますと,新幹線の通常運行は,老若男女分け隔て無く席を準備し,乗車券は1人単位で販売しています。これはトヨタ生産方式が目指す究極の姿,即ち平準化しての『1個流し』に他なりません。その結果顧客は待たずに乗りたい列車の席を確保出来るのです。工場でも,市場の要求し即時に対応出来るのです。
逆に 『平準化』し 『1個流し』が出来ている工場では,大ロットの注文は折角の 『平準化』を 崩してしまうので困るのです。
現に私が現役でトヨタのSupplier改善をしていたとき,アンチトヨタ式の自動車工場から突発的に大ロットの注文が飛び込み,その自動車会社の分は在庫を抱えて対応せざるを得なかった苦い思い出があります。
そのことがあったので,修学旅行客の扱いに感心したのでした。
そして営業関係の方に申し上げたいのは,大量に受注するのは結構なのですが,納品は是非 『平準化』して自社の生産を乱さないようにしてほしいものです。
[2]昔の渡し舟は・・・・
現在の列車は「定時不定量」輸送で,客を待たせない運航ですが,昔の渡し舟では,専用の舟があり,専任の船頭さんが居たのに平気で客を待たせ運行回数を任意に減らして,あたかも「定量不定期」的運用していたようです。
因みにトヨタ生産方式では,運搬の改善とは,1番は橋を架けて運搬を無くすことであり,2番は最大限多頻度で運ぶ事を教えています。この渡し舟で言えば,船頭さんが居て,日当を支払っているのであれば,その船頭さんに目一杯働いていただき,客が一人でも居たならその客を向こう岸に運べ・・・
つまり,客の待ち時間を最小にする事を考えよと教えています。
実際は「舟宿」という言葉が残っているように,渡し場には宿屋や茶屋があり,旅人はしばし休憩を取った後で舟に乗り川を渡った・・・とされています。
その実態は上方落語に,客が舟宿に入って飲食を注文し代金を払い終わった頃を見計らって「舟が出るぞ〜」という呼び声を出させ,飲食を出さずに客を舟に送り,儲けている悪徳舟宿の話がありますが,顧客第1に考えLead-Time短縮居に努力したとは言いがたい時代だったのでしょう。
舟宿を倉庫,渡し舟をトラック業界に置き換えれば現代でも思い当たることがあるような気もします。
[3]生産計画に新幹線方式を採ったら・・・・
毎年,盆・暮れ・5月連休には新幹線の混み具合がニュースになります。時刻表を調べるとそれ以外の季節でもこまめに臨時列車を走らせているのが分かります。多分前年度までの実績をもとに運行ダイヤ(生産計画に相当?)を決め,「切符と言う商品」を売り出して居て,各所にある自動販売機で購入できるような短いOrder-to-Delivery-Lead-Timeで売っている事が理解出来ます。
一般企業で,この新幹線の切符と同じ方式で生産したらどうなるでしょうか?
例えば,1日千台という需要予測に基づいて月間の生産計画を立て,生産の構え(列車のダイヤに相当)を行います。顧客からのオーダーは,何日の何時の列車の指定席といった具合に生産計画を決め,かち会ったら次の列車をお薦めして決めていきます。
これによって顧客に画期的に短いOrder-to-Delivery-Lead-Timeを提供でき,更にこれによって顧客に到着時刻を告げるように,完成時刻をお知らせできます。
一般に予算原価法を採用している会社では,空席があるとその分が赤字になる設定をしますから,顧客のLead-Time要求よりも自社の見かけの利益を追求し,常に満席になるようにダイヤを組もうとします。これが多在庫を抱え資金繰りに苦しむ経営を迫っている元凶です。
新幹線の席のように,工場のコンベア上に例え空席があっても,常にLead-Time最短を目指し顧客の満足を得て市場を掴み高収益で成長する企業を目指すべきだ・・・・イレギュラーな大口商談には,それなりの事前交渉を持ち,修学旅行のように特別列車を仕立てるとか,乗客の絶対量が違うJR東海とJR西日本との間では乗客の利便性(Lead-Time)確保する為に,乗り継ぎ地点では頻度は確保した上で,16両連結を8両連結や4両連結など車両数を減らし収益性を確保している等々,学ぶべき点が多い。
これから「ものづくり経営」は顧客への利便性の向上が必須と思われるが,新幹線が色々示唆を与えてくれる。もっとしっかり勉強しようと車中で考えながら帰途に就きました。
2017年4月
季節のご挨拶
2017年も桜咲く4月となりました。念願の会社に入社された方,職場を異動された方,昇格された方,それらの方々を迎え入れる職場の皆様,新規蒔き直しで,意を新たにして仕事に取り組まれていると思います。心からエールをお送りします。
某国の議会では宰相が本人及びその夫人に対し『 忖度がなかった』と大見得を切り,マスコミを賑わしていますが,この事は『他山の石』として学ぶことが多くあります。
例えば,普段何気なく「名古屋の『ういろう』は美味しいね」と口にしていれば,名古屋に出張した部下は,報告時に「ういろう」の土産を差し出すでしょう。これは,部下が上司にする 忖度です。突っ返せば部下が傷つきます。「気を遣わせて悪かったね」といって受け取ることでしょう。これは上司が部下にする 忖度です。
この事を,業務の標準化という観点から見れば,「出張に土産は不要」というルールがない故に起きた事態と考えるべき事柄なのです。
次に,昇格した方が心すべき「上に立つ者の言動」という観点からは「帝王学」というテーマがあります。帝王学といえば,昭和天皇は大相撲が大好きでしたが贔屓力士は口外しませんでした。園遊会等では労をねぎらったお言葉に御返事差し上げた内容に対して『あっそう』としかお答えにならなかったことも有名です。並んでいる参加者1人ひとりに平等に接するには『あっそう』と答えるしかなかっただという解説を聞いた事があります。
上司は仕事では部下に厳しく接する一方で,個人としては平等に接することが大切で,お追従が通用するような職場関係を作ってはならないという事でしょう。トヨタでは 『やらねばならない事とやってはいけない事の二つしか無い』と教えられ,それを明示したモノが 『表準作業』であると教えられてきました。現場でも事務所でも,状況に応じてやったりやらなかったりすることに根源的な問題があるのです。
最後に,異動で新職場に行くと『あれっ!?』と思う業務や慣習にぶつかることがあるでしょう。その時,『郷に入れば 郷に従え』と疑問点をぶっつけず黙って従うのも『 忖度』のうちと思います。『おかしい』と思ったことは言葉に出し,納得いくまで議論し,職場を変えるというのも,定期異動の効用なのです。『石の上にも3年』という言葉は冷たくて座り心地の悪い石の上でも年月が経てば居心地が良くなってしまい,課題が見えなくなってしまうという警鐘を意味しているのです。
先日,小泉農政部会長が,東京オリンピックの選手食堂に提供できる日本産食材はGAPの認可を受けていないため1%にも満たない・・・・という発言をしました。日本の農政関係者がロンドン大会から実施されていた規約の国内展開を怠った為に起きた事態でした。このように部下が上司の顔色を窺い『 忖度』すれば組織はガラパゴス化してしまうのです。
新規蒔き直しのこの時期に『 忖度』を我が事として職場の点検をお勧めします。
2017年2月
2017年度の取り組みについて
いよいよ米国ではトランプ政権がスタートし,TPP離脱,NAFTA再交渉,国境に壁を作る等の大統領令に署名したとの報道がありました。欧州では英国がECからの離脱作業に入り,EC内各国でも離脱活動が活発化しつつあるとか・・・
これは,広大な自由貿易圏を前提にし,量産効果を狙って数カ所の巨大工場から全世界に向けて商品を届けると言う戦略の見直しを迫る動きであります。
弊社の表看板 『Jコスト論』に従えば,大量生産工場内では原価は安くなる場合もあるが,お客様との距離が遠くなるために,運賃等の諸経費が嵩むだけでなく,商品のLead-Time,言い換えれば資金の回転が遅くなってしまいかえって不利であることが導かれます。
又,弊社のもう一つの表看板の 『本流トヨタ方式』にある 『共存共栄』の哲学からは,地域の人を雇い,地域のSupplierから部品を買い,地域に納税する事や,問題が生じたとき当意即妙で対応する等々,自律分散型の工場となり,その地域に無くてはならない存在として認められる事こそが,企業の継続の鍵であると示唆しています。
つまり,米英の昨今の動きは弊社の目指す方向に対してはむしろ 順風と言えます。
此の肝となるのが 『第一線の管理者の養成』にあります。
弊社は昨年に続き今年も,中国では監視カメラの大手Dahua社,国内では最大手K社の 『管理者による工場改革』のお手伝いを中心において取り組んで参ります。新規のご要望があれば改革のお手伝いに参じたいと思いますが,余力は限りがあり,全ての皆様のご要望にはお応えできませんますので,本年はこのWebサイトに
というコラムを設け毎月当社の改革のノウハウの一端を御説明することにしました。
その中では,良い例も悪い例も主として中国企業の実例を引用してお話しして行きますが,何よりの目玉は,
日本企業の中で現在進行中の『Jコスト改革』の実例として伊牟田社長,鈴木工場長を中心として全社一丸となって今日も進めているナブテスコ社鉄道カンパニーの活動事例を同社の協力を得て紹介できることにあります。
毎月楽しみにして頂くとともに,是非,友人にもご紹介下さい。
註:伊牟田・鈴木の両氏には弊社より『Jコスト改善士』の称号を贈呈しています。
業務内容ページの
8.『Jコスト改善士』の資格審査・登録・管理業務欄の「Jコスト改善士」の称号贈呈をご参照下さい。
2017年1月
年頭に当たり当社の本年度の取り組みに付いて御説明致します。
昨年後半からは,米国,英国,比国等々で『国家や地域の壁』を温存させて,雇用を守ろうという大きなうねりがわき起こって来ました。
これをモノづくりの世界に置き換えると,物価の安い途上国に大規模な工場を建設し,そこから全世界に向けて販売してそのコスト差で儲けるという構造から『各地域に,販売量に似合った規模の工場を建設し,その地域の人を雇用し,その地域のSupplierを活用し,得た利益は地域に還元する・・・』という 『共存共栄』型の・・・言ってみれば 『トヨタ自動車設立時のConcept』と同じ, 『地産地消型』でなければ,地元から歓迎されないし,売れない・・・こんな時代が到来したと見るべきと思います。

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正に,1978年大野耐一氏の著書の副題 〜脱・規模の経営を目指して〜の時代が来たと言うべきで,弊社から見れば 『本流トヨタ方式』と 『Jコスト論』の活躍の場の到来に他なりません。
本年はこんな思いで,継続案件につきましては意を新たにして取り組んで参ります。新規のご要望があれば改革のお手伝いに参じたいと思いますが,余力は限りがあり,全ての皆様のご要望にはお応えできませんますので,本年はこのHPに
『Jコスト改革の考え方』
というコラムを設け月1回の割合で,当社の改革のノウハウの一端を御説明致します。
その中では,良い例も悪い例も主として中国企業の実例を引用してお話ししますが,何よりの目玉は,
日本企業の中で現在進行中の『Jコスト改革』の実例として伊牟田社長,鈴木工場長を中心として全社一丸となって今日も進めているナブテスコ社鉄道カンパニーの活動事例を同社の協力を得て紹介できることにあります。
是非,お読み頂くと共に,友人にもご紹介下さい。
註:伊牟田・鈴木の両氏には弊社より『Jコスト改善士』の称号を贈呈しています。
<業務内容ページの
8.『Jコスト改善士』の資格審査・登録・管理業務欄の「Jコスト改善士」の称号贈呈をご参照下さい。>
2016年4月
多品種少量生産は大先輩の中国料理に学ぼう

中国ではその気候風土から1日3食とも調理したての温かいもの食べます。又,『医食同源』と言われますが,食材にはそれぞれ薬効があり,バランス良く組み合わせて食事にすることが長寿の秘訣であり,もてなしと信じています。それ故,商談の後の宴席では,主人は客人の健康のために自ら料理を薬効一品一品吟味しながら注文し,料理か来ればその薬効を説明し薦めます。
写真の料理もそうでした。そのような場で出される料理は味も見た目も,そのタイミングも大切になります。
一般に巷間の中国料理店では Order-to-Delivery-Lead-Timeの短さを競っています。中には砂時計で計り,間に合わなかったら一皿余分にサービスする店もあります。これぞ数千年間続いた中国料理店間の『多品種少量生産』競争の成果で,その仕組みは次の3種類に集約でき,他産業でも参考にすべきことと思います。
【A】『飲茶方式』
餃子や焼売,饅頭などの点心は時間を要し客が待てないので,出来上がりを店頭に置き,客はそれを自分の皿に移して食する方式で商われています。言わば在庫販売に相当する方式です。それ故 Order-to-Delivery-Lead-Time最短です。客が好きな点心を取っていけば,その空蒸籠が信号になって,直ちに食べた分が後補充されるのです。
一般工業製品を扱っている人が見落としがちなのは,料理の特異性です。何時でも食べられるように保温していると味が落ちて売り物にならなくなります。飲茶はそのリスクを負いながら在庫後補充生産しているのです。
【B】『一般受注料理』
店に来てメニューを見ての注文し,注文通りに出来た料理を味わう場合を言います。受注生産となりますが,驚くほど短い Order-to-Delivery-Lead-Timeで料理が揃います。ある会合で店主にその秘密を聞くと,その答は以下のようなモノでした。
- 料理が素速く出来るように,キチンと下準備してあること
- 注文を受けた順番に一皿ずつ仕上げること
- 減ってきた下準備材料は常に後補充すること
これはトヨタ生産方式と全く同じで,店主達と意気投合した経験があります。

【C】熊の掌料理のような『特別注文料理』
月に1回あるか無いかの特別注文の料理は,材料を仕入れて置くわけには行かないので,御客から事前に予約注文を頂き,材料仕入れてから料理する方式です。従って Order-to-Delivery-Lead-Timeの中に仕入れのLead-Timeが入っているので大変長く,中には数ヶ月かかる場合もあり得るのです。
上記の【A】【B】【C】の3方式が数千年に渡る中国料理店の厳しい『多品種少量生産』競争を経て確立された生産方式なのです。これを基にして自社のものづくり能力の診断をすることが出来ます。
現状は日本の殆どの会社が『熊の掌料理』タイプ
日本では1990年頃から各社競って生産管理のコンピューター化を進めはじめ,今日まで四半世紀経ち,今ではBOM(部品表)でしか調達が出来ない体質になってしまい,具体的な生産品目と数量が決まらないと何一つ調達できないのが普通です。
その生産計画も,依然として月に一度の役員出席の『生産会議』の承認を必要としているため,注文すれば10分ぐらいで出来る中国料理とは程遠く,量産品でも顧客から注文を受けてから必要部品の手配に入るのが普通で,お届けするまでに数ヶ月かかる事になっている企業が多いのです。御社はどうでしょうか?
中国の主流は週次計画日次生産『一般中国料理』タイプ
弊社がお手伝いしている中国の会社は,N−4月から需要予測をはじめN-1月から週次予測で生産枠を構え,日々の受注で生産を行う形を完成させようとしています。
最新の生産機器を備え,生産管理は米国製のシステムを導入していますが,システムと作業指示,標準作業等への繋がり等の現場管理を弊社がお手伝いしているのです。
実際の運用の中では,受注が大きく変動します。谷の時には『飲茶タイプ』も取り入れ稼働を確保し,山の時はその在庫を転用して繋ぐなど正に実践的『一般中国料理』タイプで,それを更に磨きを掛けようとしているのでした。
東芝,SHARPが相次いで中国の軍門に降るのは何故か・・
日本を支えてきた大手電機メーカーが,相次いで中国の軍門に降って話題となって居ます。そうなってしまった要因は諸説ありますが,硬直化した月次生産体制がその大きな要因で在ると考えて居ります。
一方,社内改革で週次化を成し遂げていたというPanasonic社は,一時期赤字を出しましたが見事復活しています。
如何にHit商品を持っていたとしてもいずれ売れなくなります。市場の振れに即応した生産が出来る仕組みを持った会社,即 Order-to-Delivery-Lead-Timeの短さが今求められていると考えて居ります。
その点,御社は如何でしょうか。中国料理を味わいながらお考え下さい。